【007】勝負の夜
「ステーキ。」
空っぽの皿に向かって言ってみる。
…何も起こらない。
「塩。」
シュラララ〜・:*.:
手の周りがキラキラして、皿に塩がふりかかった。
食べ物全般じゃなくて、調味料オンリーなんだ。
すんごい微妙な魔法。笑
「はい、オーダー!
鳥の甘辛レッドソース焼きと、ぷっくりチーズ!」
ドリスさんがオーダー票を俺に渡す。
「おっと。
はい!」
ぷっくりチーズ?
なんだそりゃ?
冷蔵庫を開けると、お餅のように膨らんだチーズを発見。
これか。
で、あとは鳥肉…。
この世界にも鳥肉あるんだな。
色々なものを避けて探していると、店の立て看板と同じ、ヨロヨロした字で
「とりにく」
と書かれたビニール袋があった。
取り出して中を見てみる。
「おっ、ありがたい。」
すでに一口サイズにカットされていたのだ。
色味も綺麗で美味しそう。
「おい、分かるか?
それだそれ。
その鳥肉を油で焼いて、甘辛に味付けすりゃあ良いんだ。」
ベンジーが後ろから覗き込む。
「あ、うん。
ありがとう。
やってみるよ。」
フライパンを取って、油を引いて、火を付ける。
ここのキッチンはIHじゃなくてコンロ型。
最初は弱火にして…。
鳥肉をバラっと入れる。
それをヘラで転がし、全面をゆっくりと炒める。
じんわぁ〜…。
ジュウウウ…!
「そうそう、そうだ。
はねるから、火を止めてからソースを入れた方が良いぜ。」
口は悪いけど、なんやかんや俺を心配して見にきてくれるベンジー。
優しいな。
チャッ!
ベンジーのアドバイスどおり、鳥が焼けたところで火を止める。
で、フライパンの上に手をかざし。
「甘辛レッドソース。」
シュラララ〜・:*.:
真っ赤なソースがフライパンに流れていく。
どれくらい入れれば良いんだろ?
とりあえず、そこそこの量で止めよう。
手をグーの形に握る。
ソースが止まった。
「コツが分かってきたぞ♩」
サッ サッ サッ。
鳥肉とソースを満遍なく絡めて…。
お客さんに出す前に、一応味見してみるか。
ポイッ。
一個つまんで口に放り投げる。
もぐもぐもぐ…。
「あ、うまーい!
美味しい!」
そういや俺、焼き鳥が原因で死んだんだよな。
でも新しい世界でこんなに美味しい鳥肉を食べられて。
幸せ…!
そしてなんというか、鳥に対する恨み?
もこれで浄化できた気がする。笑
するとベンジーもフライパンの中を覗いてきた。
「おぉ。
良い色じゃねぇか。」
褒めてくれたー!
やったー!
嬉しい!
皿に盛って、ドリスさんを手招きする。
「ぷっくりチーズと、鳥肉できました!
お願いします!」
「…。
上手じゃないのぉ!
こういう特技(シュラッペ)持ってるんだから、オヤジさんが生きている時に手伝ってあげたら良かったのに。
そしたらこの店、もっと色々できたはずよー。」
ほんとだよ。
飲食のお店やってて、生まれつきでこんな魔法が使えるなら、手伝ってあげれば良かったのに。
俺は転生前のマックスに怒りを感じた。
「ほい。
ビールと、レモンのピリピリソーダ。」
ベンジーが後ろからジョッキとグラスを差し出す。
そして目を瞑って、
「ふん!」
と手に力を入れる。
ジュッ!
グラスから音がした。
「はーい。
ありがとう。
じゃあ運んでくるわね〜。」
俺が作った鳥と、ベンジーが出した飲み物を、ドリスさんがお盆に乗せて持って行った。
「…ねえ。
今、グラスに何したの?」
俺が不思議そうに聞くと、ベンジーは手前のコップに水道水を入れた。
ジャー。
そして再び目を瞑り。
「ふん!」
と力を入れる。
そしてそれをこっちに向けた。
「ん?」
俺が右手を伸ばして受け取ると…。
「うわっ!
冷た!
なんだこれ?!
冷凍庫に入ってたみたい!」
コップはキンッキンに冷えていた。
これがベンジーの、シュラッペ…?
ゴクッ。
一口飲んでみる。
「うひゃっ!!!
こっちも超〜冷たい!
これ、ビールやソーダは最高だね!」
グー。
ベンジーは親指を立てた。
「俺のシュラッペは、冷気だからな。
何かを冷たくしたい時は、俺に任せろ!
だ。」
「おぉぉ!
すごーい!」
ふふふ。
なんか楽しい。
すると、ニヤける俺を見てベンジーが腕を組んだ。
「…オメエ、ほんとに全部忘れてるんだな。
俺は自分の体にも冷気を巡らせてるから、こうして暖かい港町にも居れるんだぜ。」
はっ。
なるほど。
そういうことか!!
だから港町にシロクマさんが…。
え〜、この世界ほんと面白い。
それにまだ半日くらいだけど、ベンジーもドリスさんも良いクマ&人だし。
この店を今後も続けられたらなぁって本気で思ってきた。
ていうか、絶対やりたい!
でもそれには、マックスはちゃんとやっていけるって信じてもらわなきゃ…。
売り上げだってないと、続けられない。
それも事実。
今夜はそれを証明してみせるぞ。
キョロキョロ。
俺は店内を見渡した。
着席している客はチーズやナッツをつまみつつ、ドリンクを飲んでいる。
とりあえず、全員何かは注文している模様。
ここで一旦オーダーが途切れそうだな。
「ね、ベンジー。
食事の注文はしばらく無さそうだから、俺、少しだけ抜けてもいい?」
「あ?!
抜ける?!
トイレにでも行くんか。」
「まぁ、あの、うん。
あとはちょっと店を盛り上げるプランがあって…。」
「ふぅん…。
なんだかよく分からねぇけど、オーダーが入ったら戻ってこいよ。」
「うん、ありがと!」
ササッ!
俺はカウンターを出ると、ロッカールームに入った。
さっき用意した…。
これこれ。
画用紙で作った、秘密兵器。
それを手に持って、また店内へと戻る。
よぉし。
お客さんを楽しませて、売り上げに貢献するぞ!
俺は気合いを入れた。
お客さん全員から見えるよう、フロアの真ん中に立つ。
「えー。
コホン!
ご来店の皆様!
本日は、マリオのバーへ足を運んでくださり、ありがとうございます!」
ジロッ。
ワイワイしていた店内が一瞬で静まり、お客さん達はマックスを睨みつける。
「なんだぁ?
せっかく楽しく飲んでるのによぉ!」
「ガキは引っ込んでろ!」
客は、コワモテのバイカー軍団や、チャラい系の若者グループ。
こんな呼びかけに耳を傾けるような雰囲気ではない。
ベンジーとドリスさんも怪訝そうな表情。
「なにやってんだぁ?
アイツは。」
店全体が変な空気に包まれるも、俺はくじけなかった。
だって。
勝負の夜だから!
「み、皆さん楽しく過ごされているとのことで、私も嬉しいです!
ですが、今夜はもっともっと、楽しみましょう!」
サッ!
そう叫んだ俺は、手にしていたものを頭に乗せた。
それは、ブロッコリーが描かれた冠だった。
「いいですか?
俺は今から、ブロッコリー王国の王様です!」
…
はぁ?
という声があちこちから聞こえる。
「ブロコリ?ってなんだ?」
「あの緑は植物か?」
えっ。
まさか。
この世界ってブロッコリーが存在してない?!
し、しまった。
それは計算外。汗
でも…。
楽しいこと、笑うことは、世界共通…。
いや、宇宙共通のはず!(多分)
ここまできたらやってみるしかない!
「あ、えと。
これが何かは、気にしなくて大丈夫です!
これから…。
言葉遊びゲームをしましょう!
俺が、ブロッコリーって言います。
で、この絵を皆さんに見せます。
(こちらも、さっき画用紙を切り取って作ったブロッコリー)
そしたら皆さんは、森森って返して下さい。
ちなみにもりもりとは、木がたくさんある森、の森です。
さっきどなたか、植物か?っておっしゃいましたよね?
当たりです!
これは、森の形をした野菜なんです。」
「…。」
意味が分からないっていう空気をビシバシ感じる。
「じゃあ、分かった!
ブロッコリー?
って問いかけて、皆さんが森森って返しますよね。
それを言う時に、お酒でもソーダでもジュースでも。
一口ドリンクを飲んで下さい。
絶対楽しめますから!」
…えぇ〜い!
もう説明ばっかしててもこの空気は変わらない!
やってしまえ!
「いいですか、やりますよー!
ブロッコリ〜?」
お願い、ブロッコリー殿下!
俺に力を…貸してください…!




