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リーゼントシロクマと作る異世界レストラン 〜魔法の町で楽しい転生ライフ〜  作者: 七星かなみ


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【006】思わぬ能力

 俺はテキパキと動き回り、隅から隅まで床を掃く。


なんかこれ、中学の時のバレー部を思い出すな〜。

練習後に下級生が体育館を掃除するんだよね。


懐かしい。



ザッザッ。



細かいゴミもかき集めて…。

あとは、割れっぱなしのライトだな。

予備のやつ、置いてないのかな?


「このライト、危ないですね。

それとガムテープで巻いてある椅子も。」


俺が言うと、レジのお金を数えていたドリスさんが。


「だってぇ。

そんな余裕ないもの。

オヤジさんも気にはしてたけど、儲けがギリギリだったから。

それに、変えても変えても、客が喧嘩してすぐに壊すから。

イタチごっこになるだけよ。」


そっかぁ。

って、ダメダメ。

危ないものは危ない。

今後この店をやっていくのに、そのへんも考えないといけないな。


「おい、開店まであと一時間だぞ。

俺とマックスはそろそろ着替えねぇと。」


ベンジーが言う。


「着替え?」


俺はポカンとしながら聞き返した。


「おう。

喪服のままで、接客できねぇだろうが。」


あ、そうか。

そんな事すっかり忘れてた。

でもベンジーのアロハシャツ、これって喪服だったの?

まぁ、色は黒いけどさ。


「えっと、着替えってどこで…。」


「は?!

オメエの部屋に決まってんダロウ!

…って、そういや記憶喪失だったな。

そこの階段上がると、オメエの部屋があるからよ。

右側な。

左側はオヤジさんの部屋だぞ。

ドリスさんと同じ、従業員用のTシャツ。

それを着て戻ってこい。」



ドリスさんと同じ…。


あっ、あの黒地に魚のプリントのやつか。

 


「りょーかいです!」


敬礼のポーズをして、俺は階段を上がった。



トントントントン!



右側の部屋へ…。



ガチャッ。



ドアを開けると、そこには、ザ•10代な空間が広がっていた。

壁にはバンドのポスター。

青い髪をして、鼻や耳にピアスをぶら下げまくっている男達の姿。

ベッドは、起きたままって感じの乱れ具合。

そしてクローゼットは開いたままで、中身ははぐっちゃぐちゃ。


「おう…。

これは…。

典型的な10代の部屋だな。笑」



ギィ。



海が見える窓を閉めながら、俺は呟いた。



このマックスという青年は18才。

てことは、高校生くらいか。

なんだかその頃の自分を思い出し、胸がいっぱいになる。


俺も部屋に、好きな歌手のポスター貼ってたなぁ。

そしてベッドや服もこんな感じに散乱してて、いつも母(かあ)ちゃんに怒られてたっけ。

で、勝手に部屋に入んなーっ!て俺がキレてさ。


ははは…。

懐かし…。



…



じわっ。



なんかここまでハイテンションできたけど、親のことを思い出したら涙が溢れてきた。

父(とう)ちゃんも母(かあ)ちゃんも、俺が喉に焼き鳥詰まらせて死んだなんて知ったら、驚くだろうな。

大丈夫だろうか。

あの天の使いに、俺は転生して楽しく暮らすよって伝えてもらえば良かった。

もう遅いけど…。



その時、いつも両親が言っていたことが浮かんだ。



「バカでもアホでもいいから、ケンジが元気に楽しく過ごしてくれるのが一番。」



そっか。

そうだよな…。

つまり、この新たな世界で楽しく生きること。

それが親を安心させることに繋がるんだ。

よし。

泣くのはやめて、まずは今後の人生楽しむために!

今夜の営業を絶対に成功させよう。



トントントントン!



着替えを済ませて下へ降りる。


「あらぁ!

マックス、似合うじゃないのぉ!

制服姿を見るの、私初めてかもしれないわ。」


ドリスさんは目をパチクリさせる。


あ、確かに。

このTシャツは新品のようにハリがある。

以前のマックスは全く店の手伝いをしていなかったみたいだから、ほとんど着たことがないのだろう。


「あ、ありがとうございます。

…で、ベンジーは?」


アロハシャツも奇妙だったけど、笑

シロクマがTシャツって、一体どんな感じになるんだろう?


「そこの控え室で、まだ着替えてるわよ。

そろそろ出てくるんじゃない?」


さっき箒(ほうき)を取り出した部屋の扉を指差す。

ここ、清掃用具入れじゃなくて控え室だったんだ。



コンコン。



俺はドアの前に行くと、ノックした。


どんな部屋か見てみたい。


「ベンジー。

着替え、終わった?

開けても良い?」


…


「おう。」


許可が出たので、扉を開ける。



ガチャ。



壁沿いに、従業員用のロッカーがズラリ。

そして部屋の真ん中には、四角いテーブルと簡単な椅子が二脚。

横にはゴミ箱。

奥には全身鏡と、横長のソファーも置いてある。

よくあるバイトの休憩室って感じだ。


と、部屋自体はノーマルだったのだが…。


「ベンジー、着替えてないじゃん!」


全身鏡の前で、髪をなでているベンジー。


彼は魚のTシャツを着ていなかった。

なんと、ピンク色のアロハシャツを着用している。


「ああん?

どこ見てんだ?!

着替えただろうが。

ほれ!」


そう言いながら、アロハシャツの胸元をボンボンと叩く。


「えっ。

それ、制服じゃない…。

アロハシャツだよね?」



ドス ドス ドス!



ベンジーは俺の方へ歩いてきた。


「俺はなぁ…。

このシャツが好きなんだよ!

それに仕事の時は、いっつもこの格好だろうが!」



怒鳴りながら、リーゼントを撫でる。



サラ〜 サラ〜。



「見ろ。

ここに流れる、ショッキングピンクの美しいメッシュ。

そして同系色のアロハシャツ。

完璧すぎる組み合わせだ。

オヤジさんだって褒めてたし、認めてくれてた。

だから…。

オメエに文句を言われる筋合いはねぇ!」



あ、髪と服をコーディネイトしてたのね。

なるほど。

じゃあベンジーにとっては、これが仕事用のコーデなんだ。


でも…。


「でもさ、ここってリゾートっていうよりも港町って感じだよね。

カモメやヨットの柄なら分かるけど。

アロハってなんか違くない?」


出会った時から思っていたことが、つい口に出る。



ギロ!



ベンジーが俺を睨んだ。


「もーんーくーあーるーのーかー…!」


「な、ないです!

港町にアロハって、それもありっすよね!

メッシュとお揃いバンザイ(^_-)!」


俺は慌ててフォロー。


「…ったく。

余計なこと言いやがって。

開店までまだ少しあるからよ。

それまで好きに過ごしてろ。」


ほんとだ。

壁にこかっている時計を見ると、30分以上ある。

じゃあそしたら…


「あ、ねえ。

自由にしてて良いなら、ここに画用紙とカラーペンってあるかな?

あとハサミ。」


「文具系は、1番手前のロッカーに全て入ってるぜ。」


「ありがと!

じゃあ俺、時間までここにいるね。」


「おう。」



バタン!



ベンジーは扉を閉めて出て行った。


さて…と。

手前のロッカー…。



ギィ。



開くと、ペンやメモ用紙がたくさん入っていた。

欲しかった大きめの画用紙も見つけたぞ。


「よし、これだけあれば作れそう!」


俺は必要な物をテーブルに移し、作業を始めた。



―

夕方17時。

店の扉にopenの札をかける。


「じゃあ、担当はいつものようにね。

私はオーダーと会計。

ベンジーちゃんはお酒。

で、オヤジさんが亡くなっちゃったから、マックスが軽食係。」


「え?!

軽食って、調理するってことですか?!」


俺、これまで自分の食事だってちゃんと作ったことないのに。

(スーパーの惣菜や、カップラーメンばかりの生活だったから…。)

人様にお金をいただいて提供するなんて、無理無理!


「ドリスさん、俺、いきなり無理ですよ!

担当チェンジしません?」


「なーにビビってんの!

今日は大丈夫よ。

オヤジさんが仕込みしてたもの、まだ残ってるから。

メニューも少ないし。

つまみは皿に移すだけ、サンドイッチは具材をパンに挟むだけだし、ローストビーフはカットして。

ソースを作るのは得意だろうから、簡単でしょ。」


「ロロロロローストビーフのソース?!

そんなの作ったことないです!

ていうか、ローストビーフ自体、前の人生でも数えるほどしか…。」


「前の人生?」


ドリスさんが首をかしげる。


「いえ、あの、間違えました!

気にしないでください!」


しまった。

つい口が滑った。


するとベンジーが俺の腕を引っ張り、カウンターの中へ連れ込んだ。


「ったく!

ほんっとに何もかも記憶が飛んでんだな。

ソースは手から出せるだろう?」


「は?」


手から出せるって何?


突っ立っている俺をよけて、ベンジーは冷蔵庫からローストビーフの塊を出した。

それをまな板の上に乗せ、ナイフで切る。


スー

スー

スー


滑らかに薄くスライスするベンジー。


「ベンジー、切るの上手いね。」


俺はまな板と包丁なんて、一年で数える程度しか使ってない。


「ほれ。」


ベンジーが黒い皿にローストビーフを綺麗に並べた。


「お…。

おぉぉ〜!

お店っぽい!

って、お店か。笑。」


感動していると、ベンジーは俺の右手を掴んで皿の上へと動かした。


「ほれ。」


やれって感じに顎をクイッとさせる。


「ん?」


「ローストビーフのソースって言ってみろ。」


なぜ?

と思いつつ、言われたとおりにやってみる。


「ロ、ローストビーフ…

の、ソース。」


すると、手からキラキラした光が出て…。


「えっ?!」


肉の上にとろみの付いたソースがかかった。



?!?!?!



す、すごー!!!

今のすご!

これ俺がやったの?!


「オメエのシュラッペ(魔法)はこれだろ。

思い出したか?」


ベンジーに聞かれる。


「シュ、シュラッペ?」


「人や動物が、生まれながらに持つ特別な力。

それがシュラッペ(魔法)だ。

みんなそれぞれ、何か1つは持ってる。

マックスの場合は、調味料を出せる力ってことだ。」



あっ…。


俺はここで、天の使いとの会話を思い出した。

転生先の条件を増やせって言われた時、魔法が使いたいって加えたんだよな。

でも、調味料を手から出せる魔法?

これはなんか…思ってたのと違う…。

困惑。



ギイ。



店のドアが開いた。


「おぉーい。

開店してるよなぁ?!」


ゾロゾロとバイク乗りの格好をした男性達が入ってきた。


ドリスさんがレジから出る。


「いらっしゃーい!

もちろん開いてますよ〜。

お好きな席へ、どうぞ!」


ベンジーが膝(ひじ)で俺をトンッと突いた。


「ほれ。

お客さんが来たぞ。

始めるぞ。」


うぅ…。

望んでいたのとは全然違う魔法を手にしたみたいだけど…。

気を取り直して、お店のほう頑張らなきゃ。

今夜にかかってるんだ。



ジャー。



俺はシンクの中で丁寧に手を洗って、オーダーを待った。

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