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リーゼントシロクマと作る異世界レストラン 〜魔法の町で楽しい転生ライフ〜  作者: 七星かなみ


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【005】チャンスをください

 その女性は、パーマのかかったダークブラウンの髪を、後ろの低い位置で一つに束ねていた。

そしてちょっと厚みのある、丸いメガネをかけて。

年齢は…50代くらいかな?

まぁどこにでもいるようなオバちゃんって感じだ。

服装は、胸元に魚のプリントが貼り付けられているネイビーのTシャツ。

下は、デニムに腰巻きの白いエプロンを身に付けていた。


「あれっ。

ドリスさん。

もう出勤時間ですか?」


ベンジーが女性に聞いた。



この人、ドリスさんっていうのか…。



「ううん。

まだ早いんだけど。

オヤジさんは亡くなるし、今日で店はおしまいだし…。

だから病院が終わって、すぐにこっちに来たのよ。

一緒にお墓に行けなくて悪かったわねぇ。

あとで、私は私で手を合わせに丘に行ってくるわね。」


ドリスさんはそう言いながら、包帯の巻かれた左手を撫でた。


従業員はシロクマのベンジーだけかと思ったら、この人も?

じゃあ、マリオさん、ベンジー、ドリスさん。

この3人で店を回していたんだな。


てか、さっき【病院】って言った?

包帯も巻いてるし、これで働くなんて無理なんじゃ…?


「あ、あのぉ。

ドリスさん。(呼び方、普通にこれで良いのかな。)

その手じゃ危ないですよ。

今日は俺が店のほうやりますから、休んでて下さい。」


するとドリスさんはギョッとした表情になって。


「ん?!

え?!

ちょっと…!

今話したのは、マックス?

あ、危ないですよって言った?!

休んでて下さいって言った?!

俺が店をやりますって言った?!

…この子がこんな事、言う訳ないわ!

だとしたら、今ここにいるのは一体誰?!

実は双子だった?!

もしくは…。」



グイッ。



ドリスさんはそう言いながら俺の頬をつまむと、縦に横にと思いっきり伸ばした。


「いだいいだいいだい!泣

引っ張り過ぎですよ!」


それを見ていたベンジーが笑う。


「ぬははははは!」


もー!

笑い事じゃないよ!

全力で引っ張るから、顔がパンパンに腫れた。泣


「…いったぁ。

あーもう、せっかくの綺麗な顔が…。」


32才から18才になったんだ。


この張りのある頬を、緩ませないでくれ。



ポフッ。



俺は手で頬を優しく包み込んだ。



ドリスさんはその様子を見て。


「あ、あらぁ…。

仮面をかぶってる訳でもなく…。

マックス、本人なのね。

そしたら…。

どこか、頭でも打った?!」


俺の前髪をグッと上げると、オデコや頭に傷がないか確かめる。


するとベンジーがため息をついた。


「ふぅ〜。

ドリスさん、聞いてくださいよ。

マックスはオヤジさんが死んで、ショックを受けたんだそうです。

それによって色々な記憶が飛んじまったと。

少し前までは、自分の名前も分からなかったんスよ。

あげくこの店を売るのをやめる!

なんて言いだした。」


…


「店を売るのをやめる?!?!」


ドリスさんは再び俺の方を向いた。


また引っ張られたら怖いので、俺は思わず床にしゃがみ込む。


「もう引っ張るのはやめて下さいよぉ!泣

そうです、俺は店を売るって言ったのを撤回したい!

みんなで頑張って、オヤジのこの店を立て直したい!

今はそう思ってるんです!」



じーーーーー。



俺を見つめる2人。


「…それ、本気で言ってる?」



グイッ。



ドリスさんが僕の手を引っ張り、立たせる。


「本気だって言うなら、私の目を見てちゃんと言ってごらん。」


「本気の本気です!

ここは場所も良いし、メンテナンスをすればもっと素敵な店になる。

そしてあなた達2人も、ずっとここで…。

一生懸命、楽しく働いてきたんですよね?

そんな店を売り飛ばそうだなんて…。

って、それ俺のことなんですけど。汗

どうかしてる!

今すぐ自分をぶん殴ってやりたい気持ちです!」



はぁ…。

伝わったかな?

これ、本心だよ。

壊れたランプとか、色々見直す部分はあるけど。

でも、シロクマと人間が仲良く働いている海沿いのバーなんて、すごく良いじゃん。


この人達に失業もして欲しくないし、俺だってどこかでお金を稼がなきゃならない。

だったらこのお店を残して、みんなで営業できたら…。

それが1番良いよなぁ。



「…。

マックス。

これまでそんな真剣な顔になったこと、無かったわよね。

私はここに勤めて数年が経つけど、あなたは生活態度がずーっとひどかった。

不良とつるむわ、暴言は吐くわ、思いやりに欠けるわ…。」



えっ。

相当ひどいな。



「今回だって、オヤジさんが倒れて心を痛めるどころか、勝手に店を売り飛ばそうとして。

もうね、自分の息子だったらとっくにぶん殴ってるわよ。

…

でも。

今は少し、心が変わったのね。

どうする?

ベンジーちゃん。」


話を振られたベンジーは、首をかしげた。


「んんん…。

いんや。

俺は…信用できないッスね。

人がたった1日で変わるなんて、有り得ない。

また心変わりするに決まってますよ。」


「それもそうねぇ…。」



そ、そんなぁ。泣


そこで俺はさっきベンジーに提案したことを、ドリスさんにも伝えてみる。



「ドリスさん!

聞いてください!

今夜の営業なんですが…。

俺もちゃんと働きますから!

本当にやる気があるんだってことを、証明してみせます!

それを見てから判断してもらえませんか?

お願いします!」


ペコッ!


深く頭を下げる。


「…。

うん…。

まぁ、私もこれからまたパートを探すのも、実際大変なのよね。

この店も大好きだし。

それにオヤジさんが願っていたのは、息子が改心してここを継いでくれるってことだった。

で、今やっとその道が見え始めてる。」


!


ドリスさん、提案を受け入れてくれそう。


「…分かったわ。

やってみましょう。

ただし、やる気が見られなかったらそこで終了ね。

予定通り、明日店を売る。

いくらここに思い入れがあろうと、グダグダなまま営業してたら客は来なくなるから。

どのみち閉店することになるからね。」


おぉぉ!


ドリスさんがチャンスをくれた!


「あ、ありがどうございますー!泣」



で、ベンジーは…?



「へっ。」



一言呟くと、再びグラスを拭き始めた。

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