【004】オンボロの店
ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ。
砂浜を歩く俺達。
観光客で賑わっているエリアを通り過ぎて、どんどん先へ進んでいく。
「はぁ…。
あ、暑い…。
向こう側は、全然人がいないじゃん…。」
俺はもうバテバテ。
ベンジーは一体どこへ向かっているんだろう…。
彼の後について10分ほど歩くと、海沿いにお店っぽい建物が見えてきた。
もうここまで来ると、観光客はほとんどいない。
犬の散歩をしている地元民とすれ違ったくらいだ。
さっきベンジーはバーテンダーをしていると言っていたから…。
もしかしてあれは酒場か?
建物の雰囲気が、なんとなく。
でもなんというか。
結構ボロそう。
遠目でもそれが分かるくらい、古〜い感じ。
「おっし!
着いたゾォ!
ふふーう。」
太陽がジリジリと照りつける中砂浜を歩いたので、ベンジーもちょっとお疲れ気味。
その建物は、焦茶色の木で出来ていた。
少し横長で、二階建て。
建物自体は古そうだけれど、ズラッと並ぶガラスの窓は綺麗に磨かれている。
…入り口に近づくと、ウェルカム看板が立て掛けられていた。
【ようこそ♩マリオのバーへ】
あっ。
マリオって、さっきのお墓の…。
死んじゃった、マックスの父親の名前だ。
てことはやっぱり、ここはベンジーが働いているバーなんだ。
それにしても、看板の字がなんだかヨロヨロしている。
「なぁにそんなに見つめてんだ。」
ギロッ。
ベンジーが俺を睨む。
「いや、あの、ははは。
この看板、今までちゃんと見たことなかったなーって。
マリオ…じゃない、オヤジが自分で書いたのかな?
これ。」
…
「ったく!
無関心すぎて呆れるぜ。
いつからあると思ってんだ?
えぇ?!
そう、それはオヤジさんが書いたんだ。
愛情込めて作った看板だぞ。
ちょっと字はヨロヨロしているが…。
良い味、出てるだろう。」
うん。
本当に。
お客さんに、ウェルカムだよ〜って言ってくれてるのが伝わる。
ギィ。
ベンジーは店の扉を開けた。
…
おぉぉ〜!
良いじゃん!
扉のすぐ横には、レジ。
壁には、店内の様子や人の写真が沢山飾られている。
向かって左側はバーカウンターがあって…。
後ろの棚にはお酒がいっぱい。
そして右側はファミレスみたいなソファー席。
窓からは海が見える。
「うわぁ…。」
全体的にブラウン調の落ち着いた雰囲気で、これはなかなか素敵な内装。
…
って、いや待てよ!
よく見たら。
ライトは割れたものをそのまま使っているし(危なすぎる)
カウンターデスクも傷であちこち凹んでる。
そして1番端っこの椅子は、脚が折れているのかな?
ガムテープでぐるぐる巻きになっている。
こ、これは…。
俺のいた地球、日本なら、とっくに営業停止だぞ…。
ドス ドス ドス!
衝撃を受けていると、ベンジーがこっちへ来た。
「おい。
ぼんやりしてねぇで、準備手伝え。
今夜が最後の営業だからな。
最後くらいは、オメエも店の仕事やったって良いだろう。
オヤジさんに対して、悪いって気持ちが少しでもあるならな。
ハンッ。」
そう言いってベンジーは奥の部屋に入っていき…。
箒を手にして出てきた。
ヒョイッ。
それをこっちに向かって投げる。
「うわっ!」
驚きつつも、俺は上手にキャッチ。
…これで店内を掃除しろってことか。
ザッザッザッ。
店の端っこへ移動し、床を丁寧に掃き始める。
その様子を見たベンジーは、満足そうに笑みを浮かべてカウンターの中へ入った。
「うーし。
最後の仕事だ。
やるか。」
キュキュキュキュキュ!
何十個も置いてあったグラスを、力強く磨き始めた。
ここって、オヤジさんとベンジーの2人だけで店を回していたのかなぁ…。
俺は周りを見渡しながら妄想する。
バーカウンターに、ソファー席に。
思った以上に広い店内。
ここを2人で回すって、相当大変だよな。
ギュッ。
俺は箒の柄の部分を握った。
こうして2人が頑張ってやってきた店を、勝手に売り飛ばすなんて。
しかも、手伝いすらしてこなかったみたいだし。
マックスって、ちょっとひどすぎない…?
やっぱり、このままにしておけないよ。
「あのぅ…。
話があるんですけど。」
俺はカウンターに近づくと、ベンジーに話しかけた。
すると。
ドンッ!
磨いていたグラスをカウンターに置いて。
「あのヨォ。
それ、やめてくれないか?」
渋い顔をこちらに向ける。
「えっ?
何がですか?」
「敬語だよ敬語!
ったく!
記憶がなくなって混乱しているのは分かったが。
でもそんな話し方、これまでした事なかったろう?
なんつーか…。
ムズムズするんだよ!
態度が失礼な時は俺も怒るけどよ。
話し方はフツーにしてくれ。
フツーに。」
あ、そういうことか。
「分かりました…。
じゃない、分かった。
俺も窮屈だったんで、それじゃあ遠慮なく。
そしたら俺のことも。
オメエ〜じゃなく、マックスって呼んで欲しいなぁ。
てへ♡」
親しくなりたいので、リクエスト。笑
ボカン⭐︎!
「いたぁっ!」
ゲンコツされた。
「…あのヨォ!
俺がここに勤め始めた時に、オメエが名前を呼ぶなっつったんダロウ!
それが今度は、名前を呼んで〜♡
か。
気まぐれもいい加減にしやがれ!
…
まぁでも。
それも今夜が最後だからな。
この店ともお前さんとも、オサラバだ。」
視線を下にやり、再びグラスを磨き始める。
キュッ キュッ。
お、怒ってる。
でも、この流れで話を切り出せそう。
「あ、あのさ、その件なんだけど。
俺、店を売るの、やめようと思って。」
はぁ?
という表情のベンジー。
「ああん?
今更何言ってんだ?
売るのをやめて、その後はどうするんだよ。」
「…。」
俺は数秒考えて。
「俺達二人で、この店立て直さない?」
そう伝えた。
バリン!
ベンジーは拭いていたグラスを握り潰してしまった。
ワナワナワナワナ…!
怒りで震えている。
「な、な、な!
これまで手伝いもしたことない奴が…。
立て直せる訳、ねぇだろう!!!
なめてんのか!
ワラァ!
それにコロコロコロコロ気が変わりやがって、信用できねぇ!」
鼻息荒く怒鳴るベンジー。
俺は割れた破片をかき集めながら。
「そ、それは。
そうだよね…。
おっしゃる通り!
そしたらさ、こうしない?
今夜の最後の営業。
そこで、俺の本気度を見せるから。
しっかり働いて、ちゃんと稼ぐ。
その姿を見てから判断してもらうっていうのは、どう?」
…
返事をしないベンジーに、もう一声。
「俺、本気だよ!
遅いかもしれないけど、こうしてオヤジが亡くなって、やっと気付いたんだ。
この店を守りたいって。
ベンジーだって、この店、手放したくないでしょ?」
じーーーーー。
俺の目を見つめるベンジー。
「…ケッ。
頭が混乱して言ってるだけだろう。
まーた夜にでもなれば、やっぱり売るって言い出すに決まってらぁ。」
これまでの行い(俺じゃないけど)がひどすぎたせいで、全く信用してもらえないみたい。
どうやって説得しよう…。
と、その時。
「あらぁ!
どうしたの?!
その粉々のグラスは!」
大きな声と共に、中年の女性が店に入ってきた。




