【003】シロクマ
あ〜なんだか頭が痛い。
目を開けたいのに開かない。
体の感覚もあるような無いような…。
ちゃんと転生できたのか?
ガサッ。
足元から、草っ原を踏みつけるような音がした。
俺は…立っているんだ。
そして。
ふんふん。
鼻だけはちょっと効いてるな。
爽やかな香り…。
でも、それは食べ物じゃなくて…。
ビュウ〜
風が吹くと同時に、香りの正体が分かった。
これは…潮風だ!
てことは、海?
俺は海のある場所に転生したってことか。
サイコーじゃん!
心の中でガッツポーズ。
と、その時。
ボカーン⭐︎
誰かに頭を殴られた。
な、なんだ?!
この衝撃で目が開いた。
今度は体の感覚もしっかりと感じる。
「いったー。
誰だよ、殴ったの。」
前を見ると、そこに居たのは…
白熊だった。
「し、し、シロクマ!
ひぃぃぃ!!」
危ない!やられる!どうしよう?!
ていうか、暖かそうなこの場所に、なぜシロクマ?!
やったことは無いけど思わずボクシングのポーズ。
俺がパニックになっていると、シロクマは眉をひそめた。
「オメエ、いつまで目瞑ってんだ?」
?!
えぇぇぇ!
しゃ、喋った!
シロクマが喋った!
そしてよくよく見てみると、そのシロクマは服まで着ていた。
なんと、黒色のアロハシャツ。
(下は何も無し。)
で、頭の部分の毛量がとても多くて、リーゼントヘアーにセットされている。
しかもリーゼントの真ん中には…。
蛍光ピンクのメッシュが、縦にスッと。
なんだよ、これ。
希望した世界と全然違うような…。
アロハシャツを着て、リーゼントにピンクメッシュを入れた、喋るシロクマ。
だぞ?
これがどうやって、
【素敵な仲間と楽しい生活】
に繋がるんだよぉ!
天の使い、戻ってこい!泣
俺は地団駄を踏んだ。
それを見ていたシロクマが
「…。
オメエ。
今日はなんか変だぞ。
親父さんが死んでそんなに悲しいなら、普段からもっとちゃんとしてりゃあ良かったんだ。」
えっ。
オヤジ?
死んだ…?
くるっ。
振り向くと、後ろには墓石があった。
名前が彫ってある。
【マリオ•ストライバー 永遠に眠る】
そしてここは、海が見渡せる丘の上。
この体の持ち主の父親が亡くなって、葬式をしていたってことなのかな。
って、パニクってて忘れてたけど。
俺は今どんな姿なんだろう。
まずはそれを知りたい!
サッ、サッ!
服装は…黒の喪服だ。
で、肝心の顔はどうなってる?
周りをキョロキョロと見回す。
しかしここには、姿を映し出せるものは何も無い。
草っ原と、死んだマリオの墓と、崖。
それだけ。
人間も他にはいない。
俺とこのシロクマのみ。
「あ、あのぅ…。
鏡とか、持ってないよね?」
おそるおそるシロクマに聞く。
すると。
「鏡?!
常に持ってるわ。」
サッ。
そう言うと、アロハシャツの胸ポケットから、小さな折り畳みの鏡を取り出した。
えー!
持ってる!
「あ、ありがとう。
ちょっと、借ります…。」
小さいので見にくかったが、顔を動かしながら少しずつ自分の姿を確認。
どれどれ…。
まず、髪は明るめの茶色。
おー。
社会人になってからは染めてなかったから、久しぶりの茶髪。
しかもサラッサラ。
んで…。
瞳の色は緑。
緑?!
いいね、異世界って感じがする。
しかも鼻筋も通ってて、結構イケメンの部類に入りそうな感じ。
まぁこれは別に求めてなかったけど、正直嬉しい。笑
だけど頬の感じを見ると、年齢がだいぶ若そうな…。
シロクマに聞いてみるか。
「あの、鏡ありがとうございました。」
まだ怖いので、しっかりとお辞儀。
「あ?!
お辞儀してるとこなんて、初めて見たぜ。
まぁ、丁寧なぶんには良いけどよ。」
そう言いながら鏡を受け取りポケットにしまう。
「いや、あの…。
俺ってこれまで、相当失礼な態度だったんですね。
謝ります。
…
それでですね。
俺って、何才でしたっけ?
あと名前も…。」
ピキィッ!
シロクマの額に青筋が浮かぶのが見えた。
そして俺の質問に答えることなく、丘を降りる階段へと向かっていく。
ドス!ドス!ドス!
「え?
あ、あの!
ちょっと、置いてかないで!
シロクマさ〜ん!」
…
ドン!
シロクマが歩みを止めたので、彼の背中にぶつかってしまった。
オデコが腫れる…。
「いてててて。」
「オメエ…。
俺をおちょくってんのか!
いい加減にしろ!
シロクマさんて…!
俺の名前は、ベンジーだろうがぁ!」
ベ、ベンジー?
彼の名前は、ベンジーか。
オデコを押さえながら、忘れないように心で復唱する。
シロクマ リーゼント ベンジー…。
シロクマ リーゼント ベンジー…。
「すみません、変なこと聞いちゃって。
俺、父親を亡くしてから気が動転してるみたいで…。
つまり、一時的な記憶喪失かと。
自分の名前や、これまでの事が、なんだか全然思い出せないんです…。」
よしっ。
我ながら自然な言い訳。
ベンジーは腕を組み、俺をじっと睨むと
「…。
あれだけやらかして、気が動転ってのもオカシな話だがな。
まぁ、記憶が飛んでるんじゃ仕方ねぇ。
教えてやるよ。
お前の名前は、マックス•ストライバー。
年は18。」
「じゅうはち?!」
どうりで肌ツヤが良い訳だ。
そして名前はマックス…。
「オメエの唯一の家族である父親が、3日前に倒れて死んだ。
そして俺はオメエのせいで、転職活動をしなきゃならなくなった。
大事なことはこの2つだ。
以上―。」
それだけ言うと、ベンジーはどんどん階段を降りていく。
「へ?!」
俺は急いで後を追いかけながら聞いた。
「お、俺のせいで転職活動って、どういうことですか?!」
「ケッ。
それも忘れちまったんかい。
3日前にオヤジさんが倒れた時に、店を売り飛ばす手続きを勝手にしてきただろう。
跡を継いでほしいとずっと言われてたのに、オメエはいつまでも遊び歩いて。
それどころか、まともに手伝いすらもしてこなかった。」
くるっ。
ベンジーは振り向き、そして大きなため息を吐いた。
「フゥゥ〜…。
まったくよー!
なんて親不孝なんだ。
ったく。
オヤジさんが可哀想で仕方ないぜ。
俺だってここでバーテンダーをやってたから、店を売るんじゃあ新たな職場を探さないとなんねぇ。
そういうことだ!」
えっ…。
俺が転生してくる前のマックスって、かなりひどいヤツじゃん。
父親が倒れた途端に勝手に店を売り飛ばし、しかもそれによって失業者が?!
いやいや良くない。
ダメだよこれは。
それに…。
俺は、楽しい生活を送りたくて転生してきた。
なのにこれじゃ、楽しいどころかギスギスした人間関係(相手シロクマだけど)の始まりだ。
どうにか修正しないと。
「ほれ。
もう階段が終わるぞ。
前見てねぇと転ぶぞ。」
「わっ。」
話たり考えたりしていたら、いつの間にか下に降りてきていた。
で、そこに広がっていたのは…
ザァン…。
港町。
シースルーの青い海、近くにも遠くにも見える、すごい数のヨットや船。
太陽(俺のいた地球とそんない変わらない感じ)の光が、白っぽい砂を照り付け、それがキラキラと輝いている。
なんだか海外ドラマのワンシーンみたい。
そこに洒落たワンピースを着たご婦人や、ポロシャツにサンダル姿の男性が溢れかえっていた。
見た目は普通の人間だけど、髪の色がすごい。
ピンク色に、緑色に、オレンジ色…。
根本からその色なので、染めているんじゃなくて生まれつきなのだろう。
「わぁ…。」
ここで改めて、新しい世界に来たんだという実感が湧いた。




