【043】素敵な旅の仕方
ドスン!
「ひゃっ?!」
ベンジーの寝返りで、俺は目が覚めてしまった。
なにしろあのガタイだ。
半回転するだけでもすごい振動。
キョロキョロ。
上半身を起こし、首を左右に振る。
急に起こされたので、頭も回らないし視界もボヤけている。
「えっとぉ…。
そうだった。
昼寝を…してたんだよな。」
金色のシーツを握りしめながら、思い出した。
そして部屋の時計を見ると、まだ13時。
眠りについてから1時間も経っていなかった。
「うーん。
もっと寝ていたかったけど、仕方ない。」
って。
「クカー、クカー。」
俺を起こした張本人は、イビキをかきながらしっかり爆睡中。
まったく!
しかも手はバンザイ、片方の足は胸まで折り曲げるという、自由すぎる寝相で。
もう、苦笑いするしかない。
さて……これからどうしようかな。
2度寝でもするか?
いや、すっかり目が覚めちゃったな。
トンッ。
俺はベッドから降りると、窓の方へ向かって歩いた。
大理石の床が、ひんやりして気持ち良い。
…
カチッ。
バッ!
ストッパーを外し窓を開けると、都会の風が室内に入り込んだ。
サァァァ〜・:*.:
「ふはぁ、いい風ー!」
思わず手を広げる。
そして…。
「おぉぉぉ〜?!」
俺は声を上げた。
窓の向こうには、息を呑む景色が広がっていたのだ。
雲まで届きそうな高層のビルが、遠くまでたっくさん。
そしてその上を往復する、カラフルな複数の飛行機。
そして下を見ると……さっき通ってきた薔薇の庭園が。
白と水色のコントラストが美しい〜。
電飾が付いているから、夜にはライトアップされるのかも。
これは、夜景も綺麗そうだなぁ。
楽しみ♩
…
タタタッ。
俺はベンジーの元へ駆け寄ると、足を叩いた。
トントン!
「ベンジー!
そろそろ起きようよー!」
景色を見ていたら、外へ出かけたくなった。
しかもまだ13時だし。
この時間帯なら、いくつか観光地を回れそう。
…。
「クカー…。
クカー…。」
んっ。
ダメだ。
ベンジー、ヨダレを垂らして爆睡してる。
そしたら…。
ドンドン!
今度はちょっと強めに、胸を叩いてみる。
これなら起きるだろ。
…
「クカー…。
クカー…。」
ガクッ!
これでもダメかー。
どうしよう。
ぶん殴ったら、起きた時キレられそうで怖いし…。
仕方ない、やり方を変えてみるか。
俺はベンジーの耳元に顔を寄せた。
そして。
「…。
リーゼント、切っちゃおうかな。」
ボソッ。
小さな声で囁くと。
…
ガバッ!!!
「リーゼントを、切るだぁぁぁぁぁ?!」
目を血走らせ、ソッコー覚醒。
よし、起きた。笑
―
「マックス、準備できたかー?」
「あ、うん。
ちょっと待って。
寝てたら服にシワが付いちゃったから、Tシャツだけ取り替える。」
ガサゴソ。
スーツケースの中から、着替えを取り出した。
するとベンジーも。
「あ、俺も。」
スーツケースを漁りだす。
え?
「ベンジーのアロハ、全然キレイだよ?
替えなくても大丈夫じゃない?」
改めて見るけど、全くシワになってない。
「ああん?
そうじゃねぇよ!
これだよ、これ!」
そう言って取り出したのは。
「ほれ。
ガイドブックだ。」
ベンジーの手には、【隣町・観光ガイド】という本。
あ、なるほどね。
今の地球だと、ほとんどがスマホで検索しちゃうけど…。
確かに昔は、ガイドブックが必需品だった。
家族旅行をする時なんかは、親が絶対に買ってたもんな〜。
それを車や電車で移動中に、ワクワクしながら読んでいたっけ。
懐かしい。
と、思い出に浸っていると。
「いや、でもなぁ…。
やっぱ、置いてくか。」
ポイッ。
ベンジーは気が変わったのか、ガイドブックをベッドの方へと放り投げた。
「えっ。
せっかく持ってきたのに、使わないの?」
古い年代のやつなのかな?
そうだとしても、あった方が便利そうなのに。
「おう。
いや最近な、思うんだよ。
本に載っている情報も、勿論助かる。
でも現地の人にオススメのスポットを聞いて、そこを巡る。
そんな旅の仕方も、素敵だろ。
さっき、シドさんがデパートのことを教えてくれたようによ。」
「…おぉ〜。
なるほどね!
なんかロマンがあるし、ガイドには載っていない場所に出会えるかも!
いいね、そうしよう!」
パチン!
スーツケースのフタを閉じたベンジー。
「準備オッケーだな。
今度こそ行くぞ。」
「うん。」
俺は新しい服に着替え、ベンジーは手作り社員証を首からぶら下げた。
そうそう。
それから【タクシー乗り放題チケット】も忘れずに。
…ガチャッ。
部屋にしっかりと鍵がかかったのを確認すると、俺達はエレベーターへ向かった。
―
チッチッチッチッチッチ。
ウィンカーを出し、道路の左側に停車するタクシー。
「……なので、ここで降りて、公園を回ってからデパートに行くのが良いですよ。」
運転手のおじさん(シロクマの!)が、デパートへの道順を丁寧に教えてくれた。
とりあえずは、シドさんに教えてもらった町1番のデパート。
そこへ行ってみる予定。
「ありがとうございます。
じゃあ、そのルートで行ってみますね。」
「えぇ、ぜひ。
観光センターなんかに行くと、大通りから行くのを勧められるんですがね。
実はこの公園を抜けるのが、いっちばん良いんですよ。
こうして晴れてる日は散歩になりますし。
それに信号も無いので、意外とこっちの方が早く着くんです。」
トンッ!
それを聞いたベンジーが、俺を肘で突っついた。
「ほーらな!
さっき言ってたことが、早速現実になったろう。
これ、ガイドブックに従ってたら公園になんか来なかったぜ?」
ほんと!
しばらく旅行してなかったせいで思いつかなかったけど、こういう歩き方もいいな。
本でもなく、スマホでもなく。
人に聞いて楽しむ旅。
ベンジーのアドバイス、聞いて良かった〜。
「いやぁ。
よそ者なんで、教えてもらって助かりました。
おじさん、これからもお仕事、頑張ってください。」
ギュッ。
ベンジーは運転手さんの手を握った。
「いえいえ。
こちらこそ、ありがとうね。
観光、楽しんできて!
いってらっしゃい!」
…
バタン!
俺達はタクシーを降り、ドアを閉めた。




