【042】誘惑
なんだよこれは!
ホテルの一室というより、王様の部屋みたい。
走れるほどの広いリビングに、金色の大きなテーブル。
床は大理石で、天井からはシャンデリアがぶら下がっている。
部屋の奥にあるベッドはもちろん天蓋付き。
しかも、キングサイズが2つ。
「な、な、な…!」
俺とベンジーは言葉が出ない。
宿泊費も負担してくれるって…こんなにすごい所、大丈夫なの?!
申し訳ないを通り越して、なんだか心配になってしまう。
「…それではどうぞごゆっくり。
わたくしは、これで失礼いたしますね。
何かございましたら、内線3番へご連絡ください。」
サッ。
スーツケースを部屋の端っこに置くと、ボーイさんは出て行った。
…
「お気に召していただけましたか?」
シドさんが俺達に聞いた。
「き、き、き、気に入ったもなにも、すごすぎて…!
こんなに高級な部屋、生まれて初めてです!」
じーっ。
戸惑いながら、俺はテーブルに顔を寄せる。
これ、金色に染めているんじゃなくて、ちゃんと金で作られてるっぽい…?
…
やば!
ベンジーも足をプルつかせて、シャンデリアを見上げた。
「や、やべぇよな…。
驚きすぎて、足長ボーイズの代役を務めること、一瞬忘れかけたぜ…。」
いや、そこは忘れてもらってOK。
カチャ。
シドさんは、部屋のキーを棚の上に置いた。
「それなら、良かったです〜。
1週間、楽しく過ごしてくださいね。
それでですねぇ…。」
ガサゴソ。
持っていたカバンから、なにやら黄色い紙を取り出した。
車のイラストが描かれている。
「こちら、滞在中にお使い下さい。
【タクシー乗り放題チケット】になっておりますので。」
「えっ!
乗り放題?!
滞在中、何回でも?!」
「はぁい、そうです。
こちらも当社からのプレゼントです。
せっかくですから、ぜひあちこち観光してくださいね〜。」
もう、何から何まで…。
「ありがとうございます!
俺達、コンサート後の食事は、美味しいものをたっくさん作りますから!
楽しみにしていてください!」
ベンジーも隣でうんうんと頷く。
「こちらこそ、明日の夜から宜しくお願いいたします〜。
ボーイズ達も期待していますよ!
あ、ちなみに。
ここから車で10分くらいのところに、町で1番大きなデパートがあるのですが…。
そちら、ショッピングにおススメです!」
デパート?
いいね!
都会のデパート、あとで行ってみたい!
「…では。
私はそろそろ帰ろうかと思います。
何か、ご不明な点はございますか?」
…
「すんません。
コンサート会場へは、何時から入れますかね?
仕込みがあるんでね、料理の。」
あ。
ベンジーよく気がついたな。
そうだよ、それ聞いておかなくちゃ。
「おぉ、そうでしたね!
お伝えするのを忘れるところでした。
危ない、危ない。
えーっとですね、基本的には何時からでも入れます。
ですので早めに来ていただいて大丈夫ですよ〜。」
「あ、そうなんスね。
分かりました。
そんじゃあ様子を見て、午前中には伺います。
な、マックス。」
「うん。
あんまりギリギリだと不安だから、午前中には行こう。
シドさん、明日からお世話になります。
そして今日は、ほんっとうに…!
ありがとうございました!」
ペコリ。
そしてベンジーも。
「俺、ホテルの出口まで送りますよ。」
見送りを申し出る。
しかしシドさんは手を振って。
「お気持ちだけで大丈夫ですよ〜。
ありがとうございます。
お疲れでしょうから、ここでゆっくり休んでください。
それではまた明日。
失礼いたします〜。」
ガチャ。
…
シドさんも帰って、部屋には俺とベンジーの2人だけになった。
「…。」
無言のまま顔を見合わせる俺達。
そして。
ダダダダダーーーッ!
部屋の奥へ向かって猛ダッシュ。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
「オラオラオラァァァ!!!」
ピョ〜ン!
…
バサッ!!!
ドォォォォォォォォン!!!
ベッドへダイブした。笑
「ひ、広い〜!」
大の字で手足をバタバタさせる俺。
「こ、壊れない〜!♡」
体をくるくる回転させて遊ぶベンジー。
いやぁ、最高!!!
もうここに住みたいくらい!!!
「おい、マックス。」
突然ベンジーが真剣な声で俺を呼んだ。
「へ?」
ササッ。
振り向くと、ベンジーはベッドの上で横向きになり、腕で頭を支えた。
よく、グラビアアイドルが取るようなポーズだ。
…
「は?」
何がしたいんだ?
「いやちょっと待って。
そんなポーズされても、俺、ベンジーは全然タイプじゃな…。」
ボカン⭐︎!!!
隣町に来て1発目、殴られた。
「バッキャロォォォーーー!
俺がオメエなんかを、誘惑する訳ねぇダロウ!!!
アホンダラ!」
フンッ!フンッ!
鼻息荒くブチギレるベンジー。
「…いたた。
って、んじゃ、なんなんだよ!
その姿勢は!」
もう!
言葉で言ってくれないと伝わらないよ!
「ったく。
撮っていい。
つってんだよ。」
「…撮って、いい?」
…
「写真を?!?!」
ニタァ。
ベンジーは笑みを浮かべると、再びさっきの姿勢になった。
「おう!
オメエ、新聞に載せる写真を沢山撮るって言ってたよな!
俺が王室でくつろぐ様子、タダで撮っていいぜ。」
ズルッ!
いや、そんな写真、いらないし…。
てかそもそも、誰が求めてんだよ!
あとここ、王室じゃなくてホテルだし!
「えと、あのね、ベンジー…。
写真は、足長ボーイズと彼らのコンサートが中心なんだ。
旅行体験記じゃないから、今回はそういうのはちょっと…。」
「ああん?!
そうなのかよ!
…チッ。
しゃあねぇなぁ。
んじゃ、もし俺が代役でステージに立ったら、その時は100枚くらい撮っとけよ。」
「あ、あはは……。」
あー疲れる。泣
ゴロリン。
「はぁ〜。」
俺達は体を仰向けにして、天井を見上げた。
心が浄化されるような天使の絵が、びっしりと描かれている。
羽が1枚、2枚…。
なんだか…
眠くなってきちゃった。
「ねぇ、ベンジー…。
まだ早いから、少しお昼寝しない?」
くるっ。
ベンジーの方を向くと。
「クカー!
フゴッ…。
クカー!」
すでに寝ていた。笑
「はやっ!
って、もうダメ…。
こっちも、眠ぅ…。」
……フッ。
俺もベンジーの隣で、静かに目を閉じた。




