【040】この世界、みんなオカシイ
「お〜い!
そこのシロクマさぁ〜ん!」
空港の出口付近まで来ると、大きな声が響き渡った。
白いボードを持った男性が、ピョンピョンと飛び跳ね叫んでいる。
……それにしても。
【シロクマさん】
って、この空間にはいっぱいいるんだけど。
バッ!
案の定、全てのシロクマが立ち止まり、一斉にその男性のほうを振り返った。
「ああっ…。
しまった、えーと。
リーゼントにアロハシャツの、シロクマさぁ〜ん!」
慌てて言い直す男性。
フイッ。
この一声で、99%のシロクマが顔の向きを戻し、再び歩き出した。
そして残りの1%とは、もちろん…。
ズンズンズンズン!
「それはぁ……!
俺のことかぁ?!」
ベンジーはサングラスを頭の上に引っ掛け、歩みを早めた。
俺もその後を急いで追いかける。
タタタタタッ。
…
「あっ!あっ!
そうで〜す!
こっちこっち〜!
お願いしますー!」
近づいていくと、グレーのスーツを着た中年の男性の姿が。
そしてその手には
【歓迎!マックス様・ベンジー様】
と記したボード。
「こんにちは。
もしかして、足長ボーイズの事務所の方ですか?」
乱れた髪を整えながら、俺は男性に話しかけた。
「はい、そうでございます〜。
ワタクシ、シドと申します。
以前、電話でお話しさせていただいた…。」
あっ。
契約の件で電話した時の相手、この人だったんだ。
「覚えてます!
あの時は色々とお世話になりました。
そして今日もお待たせしてしまって…。
すみません。
初めての空港だったので、なんだかモタモタしてしまいました。」
「いえいえ〜。
全然ですよ、お待ちしておりました。
遠いところをありがとうございます。
で、これから宿泊先のホテルへ向かうのですが…。
チェックインの手続きは、ワタクシがお手伝いさせていただきますね〜。
車も当社がご用意しましたので〜。」
えー!
交通費を負担してくれただけでもありがたいのに、そこまで世話してくれるんだ。
さすが、トップアイドルを抱える大手事務所。
サッ。
横にいたベンジーも頭からサングラスを外し、挨拶する。
「どうも。
お世話になります。
ベンジーです。」
ペコリッ。
「あっ、あっ。
こちらこそです〜。」
シドさんも頭を下げる。
「それにしても、さっきは失敗しちゃいましたよ〜。
シロクマさんって呼びかけたら、みんなこっち向いちゃうんですから。笑
個人情報保護のため、お名前を叫ぶ訳にはいきませんのでね。
なかなか呼び方が難しくて…。
でも、リーゼントとアロハシャツ。
このキーワードを入れたら、一発でしたね〜。
ははは。」
そう言って笑うシドさんに、ベンジーが一言。
「もう1つ。」
「え?」
「もう1つ、文字を足してくれたら、もっと分かりやすかったッスね。」
……
ベンジー、何を言うつもりなんだ?
「あっ、あっ?!
それは失礼いたしました!
では、次回からそれでお呼びしたいと思いますので…。
その付け足す言葉を、教えていただけませんか?!」
カチカチッ!
シドさんはズボンのポケットからボールペンを取り出した。
「び…。」
ボソッと言葉を発するベンジー。
「び?」
シドさんと一緒に、俺も耳に手を当てる。
…
「美、リーゼント!」
ズルッ。
自分で特徴に入れるな!
カキカキカキカキ…。
シドさんは真面目にメモしてる。
「……かしこまりましたぁ!
美リーゼント、アロハシャツのシロクマさん。
ですね!」
ニタァ。
ベンジーは満足そうに笑って。
「えぇ!
それなら、この世にたった1人しかいないんで!
確実に!
なので、どんなにシロクマが溢れていても、それなら一発ッスよ!」
グー⭐︎
親指を立てる。
いやいや。
美とか入れなくても、リーゼントアロハって時点でアンタだけだろ!
まったく。
「では、お車にご案内しますね。
こちらへどうぞ〜!」
シドさんは出口の扉へ向かって歩き始めた。
…
ピーピー!
ゴ〜!
ゴ〜!
「うっわ!!!
す、す、すごーーー!!!」
空港を出ると、大きな道がどこまでも広がっていた。
車やタクシー、そしてバス(しかも3階建!)がビュンビュン走ってる。
道路沿いには、巨大なビルが隙間なくズラリと並び…。
歩いている観光客やビジネスマンでいっぱい。
スーツ着てるシロクマまでいるぞ。笑
まさに、大都会って感じだ。
「うひゃあ…。」
俺はもう、口があんぐり。
港町とは全然違う風景。
「…さっきちょっとおっしゃってましたけれど。
マックス様は、初めてなんですか?
隣町。」
こっちこっち、と手招きしながらシドさんが聞いてきた。
「あ、はい。
そうなんです。
ここまで、巨大な町だとは…。
すごいですね。
テンション上がっちゃいます。」
ガラガラガラガラ…。
俺はスーツケースを転がしながら答える。
「ですよねぇ〜。
分かりますよ、その気持ち。
私だって、何回ここに来てもドキドキしちゃいますから。
そして、こんなに大きな町でコンサートをする足長ボーイズ。
彼らにはもう、尊敬しかありません。」
…
そうだよなぁ。
大都会でコンサートを開くなんて、人気があるからできること。
トップアイドルの証だな。
すると。
ポン!
突然ベンジーが、俺の肩を叩いた。
「おい、あれ見ろあれ!」
興奮した様子で、向かいのビルを指差す。
「ポスターがあるぞ!」
ん?
……
あ、ほんとうだ。
足長ボーイズのポスターだ。
「旅行の広告かな?
かっこいいね。」
それは、3人が水着を着て海ではしゃいでいる写真だった。
ヤシの木や水上コテージも写っているから、リゾート地の宣伝?
するとシドさんが笑顔になって振り返った。
「お褒めいただき、ありがとうございます〜。
今月から、彼らがイメージキャラクターになりまして。
なかなか素敵なポスターでしょう?」
「あ、はい!
そうですね。
みんな足が長くてステキ…。」
…
…
ん?!?!
近くまで来ると、ポスターの文字が見えた。
【夏はすぐそこ。
君はついてこれるか。
ひと蹴り、100メートルに。】
ズルッ。
出た。
ひと蹴り100メートル!
なんかいかにもなキャッチフレーズだけど…。
明らかにオカシイ。
ついてこれるかって無理だろ。w
しかもよく見たら、旅行じゃなくて水着の宣伝。
足が長すぎて、参考にならないよ!
ポンポン!
また、ベンジーに肩を叩かれた。
「おぉい!
今度はあっちだ!
ドラマのCMが流れてるぞ!」
「え?」
今度は動画?
さらに嫌な予感…。
【〜♩
もうすぐ放送開始!
足長ボーイズ出演の、燃えるようなラブストーリー!
ある日平凡なOLは、足の長い男性3人と恋に落ちる♡
「俺の長い足で、君を抱きしめたい!」
「君が溺れたら3秒で助けに行くよ!」
「結婚しても、足の手入れは自分でやる!」
彼女は一体、誰を選ぶのか…?
全600話、乞うご期待!⭐︎
シャラララ〜♩】
…
…
…
プルプルプルプル…。
み、港町だけじゃないんだ。
この世界…。
みんなオカシイ!泣
「…いやぁ〜!
さすがッスねぇ!
足で抱きしめるとか…。
足長ボーイズにしかできない役っスよねぇ!」
ベンジーはほっぺをピンク色に染めて大はしゃぎ。
いや、その前に設定がオカシイ!(これは俺の心の声)
「あっ、ありがとうごさいます〜。
もうね、この脚本を読んだ時には、きたー!
って感じでしたよ、はぁい。」
はぁいって。汗
「これね、600話っていうのは、各キャラクターを200話ずつ掘り下げていくんですよ。
例えば。
【結婚しても足の手入れは自分でやる!】
この覚悟。
泣けますよねぇ…。
これを200話かけて語っていくんです。
放送が始まったら、ぜひぜひ!
ご覧になってくださいね〜。」
「フハッ!
そりゃあ、絶対観ますよ!!
いやぁ…。
あらすじを聞いただけで、鳥肌が立っちまったな。
素晴らしい脚本だ。」
ははははは!
ベンジーとシドさんは、しばらくドラマの話で盛り上がっていた。
そんな2人の背中を、ぼんやり見つめる俺。
もう、早くホテルに行きたい…。泣




