【039】ロビーで見たもの
…ぐったり。
つ、つ、つ、疲れた。
俺はフラフラしながら飛行機を降りる。
疲れすぎて、真っ直ぐに歩けない。
降下の角度、あれ急すぎるだろ…。
おかげで何度ベンジーと頭をぶつけ合ったことか。
あっちは頑丈だからいいけど、俺にとってはかなりのダメージ。泣
……
ゾロゾロ。
俺の横をどんどん人が通り過ぎていく。
みんな、都会に遊びに来たんだっていう感じの、嬉しそうな顔。
「はぁ〜!
ファーストクラスは最高だったわね〜!」
「高級シャンパンも美味しかった〜♩」
あっ…。
ファーストクラスを利用したお客さん達だ。
俺も……選択を、誤って、いなければ。
ガクッ!
立ちくらみがして、壁に手をつく。
すると。
ヒョイッ。
「えっ?」
体が宙に浮いた。
後ろから来たベンジーが、片手で俺を持ち上げたのだった。
毛むくじゃらの腕がお腹に当たってくすぐったい。
「おい。
スーツケース、受け取ってきたぞ。」
ベンジーはそう言いながら、右手で俺を抱え、左手で2人分のスーツケースを引いて歩き始める。
ドス ドス ドス!
ガラガラガラガラ。
「ベ、ベンジー!
俺、大丈夫だから!」
恥ずかしいのと申し訳ないのとで、俺は彼の腕から逃れようと足をバタつかせた。
「んなっ。
大丈夫なワケ、ねぇだろう!!!
フラフラフラフラしてヨォ。
ったく!」
サングラスで顔が見えないけれど、なんやかんや俺のことを心配してくれてるみたい。
ギュウウ。
絶対に降ろさないぞ
とでもいうように、ベンジーは腕に力を込めた。
まぁ、このガタイじゃ、人間1人なんてそんなに重くなさそうだし…。
お言葉に甘えるか。
「あ、ありがとう。
そんじゃあもう少し先まで。」
「おう。」
俺達はロビーへ向かった。
―
トンッ。
ロビーまで来ると、ベンジーは俺を降ろした。
こっちは港町と違って大きな空港だから、通路を抜けるまで結構時間がかかった。
「ありがとね、ベンジー。
おかげで眩暈もおさまったよ。」
素直に抱きかかえてもらって、良かった。
と、その瞬間。
俺は叫んだ。
「えぇぇぇぇぇ?!?!」
なんと、ロビーにはシロクマがウジャウジャと沢山いたのだ。
ベンチ、売店、公衆電話、お手洗い…。
いたるところに、シロクマの姿が。
しかもみんな服を着ていて、バッグを持ったり、アクセサリーを付けたり、メガネをかけたり。
ベンジーと同様、まるで人間みたいに過ごしている。
それがどれくらいいるかっていうと。
人間7割、シロクマ3割といった感じ。
これはかなり多い。
だって、港町ではベンジーしか見たことがなかったんだから。
「しししシロクマが、こんなに?!」
固まる俺。
「…ああん?
あったりめぇだろ。
ここは、隣町なんだぞ。」
普通のこと。
とでもいうように、あっけらかんと話すベンジー。
えーっ。
都会には、こんなにシロクマさんがいるんだ。
て、いうか。
「俺、この世界で人間のように過ごしてるシロクマは、ベンジーだけかと思ってた…。」
「あ?」
ベンジーはサングラスを外して、顔を歪めた。
それに構わず、俺は疑問に思ったことを口に出す。
「あのさ。
ベンジー以外の他のシロクマさん達…。
彼らは、この暑さ大丈夫なの?」
ベンジーは冷却魔法で自分の体を冷やしているけど、他はどうやって……?
「あのなぁ。
忘れてるんだろうが、俺達の種族の約半分は、冷却のシュラッペを持つんだよ。」
えっ?!
そうなの?!
「半分ってすごいね!
けどそしたら、残り半分のシロクマさんは、人間の町には遊びに来れないってこと?」
それってちょっと可哀想じゃないか?
と思いつつ、聞いてみると。
クイクイッ。
ベンジーは、顎で斜め右を示した。
「ん?」
そっちに目を向けると、大きな帽子とリュックサックを背負った年配のシロクマさんの姿が。
ベンチに座って新聞を読んでいる。
「おじいさん、シロクマ……?」
「バカ!
そこじゃねぇ!
帽子とリュックを、よーく見てみろ。」
……
「あれっ!」
気が付いた。
その帽子とリュックからは、白い湯気?が出ていたのだ。
ほわわわ〜ん…
「分かったか。
あれはドライアイス帽子と、ドライアイスリュックだ。
冷却魔法がないクマは、あれを身につけてよそへ遊びに行く。
高性能だからヤケドもねぇし、24時間持つんだ。
で、時間が切れちまったら、中のアイスを取り替える。
それだけだ。
特に都会だと、コンビニやスーパーで必ず売ってるからな。
替えのアイスが。」
ほぉ〜…!
そうだったんだ。
いやいや、マジですごい。
足長ボーイズへの食事提供が目的の旅だけど、これはなんだか町歩きも楽しくなりそう。
俺は鼻息荒くベンジーを見上げた。
「なんだか。
最高の1週間になる予感がする!」
キリッ!
それを見たベンジーはフッと笑って。
「…ったく。
さっきまで真っ青な顔してた奴が、今度はウキウキしてらぁ!」
クシャクシャッ!
俺の髪を乱して遊んだ。
「おーし!
説明も済んだことだし、先へ進むぞ!
きっともう、事務所の迎えが来てるだろうからな。」
そうだった。
出口に迎えをやりますって言われてたんだ。
ここでモタモタしてたら、その人を待たせちゃう。
「うん、そうだよね。
行こう!」
俺達はスーツケースのハンドルを握ると、空港の出口へ向かって歩き出した。




