【038】いざ、隣町へ
出発の日の朝。
部屋で、スーツケースの中をもう1度確認。
「まずお金でしょ、そして下着…。」
ガサゴソ。
服はあっちで買い足す予定だから、最小限に。
あとはこれね。
忘れちゃいけない、ルーカスのコーヒー豆。
これが無いとカレーもアフォガードも作れなくなっちゃう。
…
「よしっ。
準備完了!」
最後の確認が終わり、スーツケースを閉じると。
ドンドンドン!
階段の壁を叩く音が聞こえた。
「おわっ。
めちゃ揺れる。」
…
「おぉい!
マックス!
まだかよ!」
あ、ベンジーが迎えに来たのか。
ドリスさんは家庭があるから、週の半分から合流。
フルーティーもコンサートだけの招待なので、後日合流。
ってことで、今日出発するのは俺とベンジーの2人だけ。
「はぁーい!
今行くー!」
ガコッ
ガコッ
ガコッ
なるべく階段が傷つかないよう、スーツケースをゆっくり引きずって降りていく。
…
「お待たせ、ベンジー。」
ベンジーは、いつものピンクのアロハシャツに、サングラスをかけていた。
「おう。
行こうぜ。」
俺はシンプルに、カーキ色のTシャツと白の半ズボン。
「…。
オメエ。
サングラスは?」
「え?
いるかな。」
「いるに決まってんだろ。
隣町は、日差しが強いんだぞ。」
そう言うとアロハ柄のスーツケースを開け、サングラスを取り出した。
「ほれ。
余分に持ってるから、貸してやる。」
サッ。
「あ、えと。
ありがとう。
2つ持ってたんだ。」
「あったりめぇよ!
旅行には、アロハとサングラスだろ。
それに1週間も行くんだ。
何個か持っていかねぇと、回らなくなる。」
バチン!
スーツケースを閉じる。
「何個かって。
たくさん持ってるんだ?
アロハシャツも?」
「……バッキャロォォォォー!
アロハは特に大事だ!
いくらあっても足りねぇ!
いつも着ているこれなんかは、同じの7着持ってるくれぇだ!」
えっ?!
同じやつが7着も?!
だから喪服以外は、これしか見たことなかったんだ!
相当、気に入ってるんだな…。
「じゃあ行くぞ。」
「あ、えと。
うん。」
俺は借りたサングラスをかけて、店の扉を開けた。
ギィ…。
「あ、そうだ。
これ。」
俺は外に出ると、新聞社から持ってきたコンパクト型カメラを首から下げた。
サッ。
ツアー同行の様子を、あとで記事にする予定。
良い写真、沢山撮ってこなくちゃ。
するとベンジーも、何かを首に下げた。
サッ。
…ん?
「ねぇ。
今の、何?」
…
「ああん?!」
くるっ!
俺の方に体を向けると、ベンジーの胸元には、手作りの社員証(?)が。
「は?
何それ…?」
じっ。
【足長ボーイズ代役候補・ベンジー】
…
ズルッ!
この前の履歴書にも書いてたけど。
ボーイズに何かあったら、マジで代役やるつもりなんかい!
無理だろ!笑
「ふんふんふんふん♩」
呆れる俺を無視して、ベンジーはご機嫌モードで砂浜を歩き始めた。
―
「うわぁ…。」
ここは、港町空港。
海とカモメが描かれた青い壁画に、貝殻のオブジェ、そしてBGMは波の音。
規模はそんなに大きくないけれど、港町感溢れるお洒落な内装がとても良い。
ガラガラガラ…。
スーツケースを引きながら、俺はベンジーに付いていく。
まずは、荷物を預けてチェックイン。
そしてゲートをくぐると、ガラス張りの窓から沢山の飛行機が見えた。
地球のものとあまり変わらない形。
ただ、色がとってもカラフル。
「か、か、可愛いねー!」
ペタッ!
俺は思わず窓にへばりつく。
「…ったく。
空港に来たことねぇのかよ。
オメエは。」
うん、異世界の空港なんて初めて!
と言いたいところを抑えて…。
「初めてだよ〜!
色とりどりで可愛い!
俺達が乗るの、何色だろう?
黄色かな?水色かな?
ワクワクするね!」
はぁ〜。
オデコを押さえるベンジー。
するとその時。
♩ピンポンパンポン
「隣町への便をご利用のお客様。
搭乗のお時間です。
5番ゲートまでお越しください。」
アナウンスがかかった。
…
「おっ。
俺達の便だ!
ほれ、行くぞ。」
隣の町の名前が、隣町。
今更だけど、そのまますぎる。笑
「いよいよだねー。
楽しみ♩」
「だな。
田舎から都会へ、レッツラゴーだ!」
都会って言ってるから…。
日本でいう、東京みたいな場所なのかな?
そんなことを考えながら、5番ゲートへ向かった。
…
「チケット拝見しまーす。」
受付のお姉さんが、お客さんを1人ずつチェックしていく。
…
ベンジーの番が来た。
「どうも。
チケットは、これです。」
サッ。
ベンジーは、足長ボーイズの事務所が送ってくれたチケットを出した。
するとそれを見た受付のお姉さんは顔色を変えた。
「ハッ!!!
あ、あ、あのぅ…!」
肩を丸めて、声を震わせる。
目立つ位置に、【足長ボーイズ招待チケット】と印刷されているからだろうか?
「あのぅ…。
足長ボーイズの……代役をされる方なんですか?!」
ズルッ。
なぜそれを?!
俺は体をズラして前を覗き込む。
すると、お姉さんの目線はチケットではなく、ベンジーの胸元にあった。
ベンジーの(手作り)社員証を指差し、小さな声で囁く。
「足長ボーイズ代役候補…って、書いてありますよねぇ?!」
…
「フハッ!」
ベンジーは鼻を鳴らした。
そして。
「いやぁ…。
内緒なんですけどね。
でもまぁ、バレちまっちゃあ仕方ない。
…でっへへへへ!」
ニヤけながら、頭をポリポリ。
いや内緒って。
自分でその札ぶら下げてるんじゃん!
てかそもそも代役なんか任されてないし!
「あらっ。
内緒だとは、失礼いたしました。
頑張って下さいね。
ふふ。
あー、びっくりした。
では、機内へどうぞ。」
ウィーン。
ゲートが上がって、ベンジーは先に中へ入っていった。
ズンズンズンズン…。
「お次の方〜。」
俺の番が来た。
「あ、はい。」
俺もチケットを見せる。
「えーっと。
さっきのシロクマさんと、ご一緒ね?
席は、どうされますか?」
ん?
どうって?
「あれ?
指定席じゃないんでしたっけ?」
俺が聞くと。
「シロクマさんがご搭乗の際は、体が大きいので、人間とは別シートにご案内しております。
ですので、お客様だけ通常シートに座るか、それともシロクマさんとご一緒されるか。
お選びいただけます。」
え。
て事は…。
人間用よりも広い空間に座れるってことか!
そりゃあ迷わず。
「彼と一緒で♩」
「かしこまりました。」
やったー!
ただでさえファーストクラスのチケットだったのに、さらに上?!
つまり、極上のプレミアム席じゃん!
「るんたった♩」
ゲートが上がると、俺はスキップしながらベンジーの後を追いかけた。
…。
ガタガタガタガタ…
ぼー…。
なんで…こんなことに?
ガタッ!
ガコッ!
ゴツン!
「…痛い!」
「イテエだろコノヤロー!」
もう最悪!
選択を誤った。
ここは…。
貨物室だ。
床にペタンとお尻を付け、足を伸ばしている俺達。
その床から出ている簡易的なベルトで、腹回りをガードしている状態。
「だぁぁあ!!
もう!!」
ここは窓もなく、空間一杯にスーツケースがゴロゴロと転がっている。
「オメエ、なんでわざわざシロクマシートに来たんだ?」
片眉を上げるベンジー。
ほんとだよ。
俺って超バカ!
思えばペットの犬ですら、人間と同じ場所に持ち込みできないもんな。
冷静に考えたら、こうなる。
「…ふっ。
バカだな。
どうせ、
シロクマの体は大きい!
だから、広い席に案内してもらえる♡!
なんて、考えたんだろう。
愚か者が。」
ぎくっ。
く、くそぉ!
でも、図星。泣
ガタガタガタガタ…!
「うわぁ!」
また揺れた。
「この揺れ方は、もうそろそろ着くな。」
ベンジーは胸ポケットから鏡を取り出し、リーゼントをとかし始めた。
サラ〜、サラ〜、サラ〜。
「え?
もう着くの?
まだ20分くらいじゃない?」
「あ?
そりゃそうだろ。
かなり上から飛んでるんだ。
それに、隣町だぞ?」
そうなんだ。
良かったー。
これで1時間とかだったら発狂してたわ。
帰りは絶対【人間シート】に座ろう。涙
ガタガタガタガタ…
降下してきた!
よし、もうすぐ着くぞ!
って。
「……ぐわぁぁぁぁ?!」
飛行機は、ものすごい勢いで角度を変えた。




