【037】隠し味
あれから3週間。
俺達はカレーの試作を繰り返した。
家で食べるには十分だけれど、人に出すには…。
なにか物足りない。
ドリスさんに相談すると、隠し味を入れると変わるはず。
とのこと。
思えば、うちの母ちゃんもやってた。
醤油だかソースだか、このへん入れてた記憶があるぞ。
「…だあぁぁぁぁー!」
グシャグシャ!
これまで、隠し味になりそうなものを30種類は試してみた。
自分のシュラッペは調味料なので、それも思いつく限り、色々と。
でも、100%の味にならない。
はぁ…。
前世で、もう少し自炊しておけば良かった。
そしたらこういう時、ピンときたかもしれないのに。
ちょっと後悔。
バッ。
ルーのパッケージを見ると。
【隠し味は濃厚ブラウンソースがおすすめ】
と記載されている。
でもこれをやったところで、オリジナリティは無くなる訳だから…。
うーん…。
午後、新聞社に行ったらフルーティーにも聞いてみよう。
何かヒントがあるかも。
チクタク チクタク。
時間だけがどんどん過ぎていく。
ベンジーは遊園地のバイトで、ドリスさんはバンドの練習。
こうして1人で考えていると、なんだか追い詰められている気持ちになる。
「とりあえず、お昼ご飯でも食べるか。」
俺は今作ったカレーを皿に盛り、パンを乗せた。
最近はもうずっとカレー。
…
「よしっ。」
お盆を持って客席へ移動しようとした、その時。
トントン。
店の扉がノックされた。
ベンジーがお昼休憩で戻ってきたのかな?
でもベンジーだったら、ノックなんかしないか。
「あ、はーい?
開いてまーす。」
俺はドアに向かって叫んだ。
…
ギィ。
「急に来てごめんね。
今、大丈夫?」
そう言って入ってきたのは。
「ルーカス!」
コーヒー屋のイケメン店長、ルーカスだった。
「これ、出来たからさ。
バニラアイスと相性抜群の、オリジナルブレンドコーヒー。」
ジャラジャラ!
袋に入った豆を揺らす。
「お、お、おー!!!
ありがとう!
こんなに早く…。
大変だったでしょ?」
そう。
2週間ほど前に、アフォガードに合うコーヒー豆を。
と、ルーカスにリクエストしていたのだ。
ガサッ。
ルーカスは俺の方へ来ると、豆をテーブルに置いた。
「ううん。
大変どころか、これを開発するのはとても楽しかったよ。
新しいレシピにうちのコーヒーを選んでもらうなんて、光栄さ。」
サラッ〜。
ハニカミながら水色の髪を掻き上げるルーカスが、超爽やか。
そして彼は、俺が抱えているカレーをじっと見つめた。
「うわ…。
それ。
めちゃくちゃ美味しそうじゃん。」
キュウウウウ…。
?!
パッ。
ルーカスは恥ずかしそうにお腹を触った。
「あれ。
お腹が鳴っちゃった。
恥ずかしい。笑」
!
えー!
何もかも完璧で、隙のないイケメンが、人前でお腹をキュルキュルと…。笑
これは…。
親近感が湧く〜!
「あ、これもね、新メニューの試作品なんだ。
緑の海老の甘口カレー。
まだ全然完璧じゃないんだけど…。
これで良かったら、食べる?
まだ鍋にいっぱいあるよ?」
そう言うと。
「ぜひ!」
即答した。
…
「あー!
美味しかったぁー!」
カレーをあっという間にたいらげたルーカス。
「これが試作品なの?
ものすごく美味しかったけど…。」
不思議そうに俺の顔を見る。
「うん。
ありがとう、そんなふうに言ってくれて。
でも。
なーんかね。
もっと上を目指せる気がするというか。
家庭のカレー感が、消えないんだよねぇ。」
「…?
そうかなぁ…?」
ガタッ。
俺は立ち上がり、食器とコーヒー豆の袋を持った。
「あ、俺も手伝うよ。」
ルーカスも慌てて腰を上げる。
「いい、いい。
2皿しかないから大丈夫。笑
ルーカスはここで待ってて。
俺、持ってきてくれた豆で、今からアフォガード作ってくるから。」
「えっ。
いいの?
じゃあ…。
ありがとう。」
……
ジャー。
さっさと皿を洗って…。
ガサッ。
コーヒー豆をミルに入れる。
グリグリグリグリ…。
手動で回すこの時間。
好きだなぁ。
って。
「うわっ!」
俺は大声を出してしまった。
「どうしたの?!」
タタタタタッ。
ルーカスが驚いてこっちに来る。
「いや、ごめん…。
豆を挽いたら、あまりに良い香りで叫んじゃった。」
「…はぁー。
なんだ、ビックリしたよ。」
俺はミルの蓋を取って、そこに鼻を近づけた。
もう一度、その香りを楽しむために。
ふわぁ〜…
キッチンが、スモーキーで華やかな香りに包まれる。
アイスに合わせるためか、ほんのりキャラメルのような甘さも感じるぞ。
幸せ〜・:*.:
「どれ。」
ルーカスも一緒に目を瞑って、鼻をくんくんとさせた。
そして。
「うん、これだ。
これならバニラアイスとぴったり。
なんかさ、コーヒーって…。
人を幸せな気持ちにしてくれるよね。」
そう呟いた。
俺もミルを抱き抱えて。
「そうそう…。
だけどルーカスのコーヒーは、その中でも特別なんだよ。
だって、アイスにまで合っちゃう。
ていうか、もうなんにでも…。」
!!!
ここまで言いかけると、俺は目を見開いた。
こ、こ、こ!
これだー!!!
なんで今まで気づかなかったんだろう。
カレーの隠し味に、コーヒー。
これ、日本でもよくあるやつじゃん!
しかもウチの場合は、ただのコーヒーじゃなくて、ルーカスのオリジナルコーヒー。
もしかして…。
これ、最強の味になるんじゃないか?!
バッ!
俺はミルを持ったままカレー鍋の方へ移動した。
「え?!
マックス?!」
バラッ!!!
「えぇぇ?!
マックス何して…!」
思いきって、粉になったコーヒーを全て鍋へ放り込む。
そして中火で再び火にかけて…。
トロトロトロ〜。
…
できた!
「おたま、おたま…。」
俺が探していると、ルーカスがシンクを指差した。
「あそこに、置いてあるけど…。」
そっか。
さっきカレーをよそった後、シンクに入れたんだ。
ジャーッ。
洗って、流して…。
おたまを鍋に戻すと、俺は小皿を2つ出し、そこにカレーをよそった。
「…。
よし!
できた!」
1つをルーカスに渡す。
「こ、これ。
今、コーヒーの粉を入れたんだよね…?」
不安そうなルーカス。
「うん。
でも大丈夫。
俺の国…。
あ、いや。
前に雑誌で見たんだ。
コーヒーの粉入れると、美味しいって。」
「うっそ…。
そんなの聞いたことないよ…。」
「いいからいいから!
自分のコーヒーを、ルーカスも信じてよ。
せーので一緒に飲もう?
…
せーのっ!」
ゴクリ。
…
…
…
「う、う、うまーーーーーい!」
「え?美味しい!」
これだこれだこれだこれだこれだーーー!!!
3週間目にしてやっと。
完璧なカレーに辿り着いた!!!
「ルーカス〜〜〜!!!
やっぱりルーカスのコーヒー、すごいよ!
ありがとう!泣」
バッ!
俺は思わずルーカスに抱きつく。
「いや、本当に美味しい!
こんなのを思いつくなんて、マックスがすごいよ!」
わーい!
わーい!
俺達は興奮して、ハグしたままジャンプした。
これで、足長ボーイズに出せる!
そしてレストランが出来たら、ちゃんとメニューとして採用できる!
やっと…!
完成させることができた!
こんな達成感は久しぶり。
…
その後、このカレーをベンジーとドリスさんにも食べてもらったが…。
案の定、2人も絶賛の嵐♩
「フハッ!
うめぇぇぇ!」
「あらぁ!
すっごく美味しいじゃないのぉ!」
カレーとアフォガード。
どちらもルーカスのコーヒーで作る料理となった。
そしてそれが大成功。
これならコンサートが終わってヘトヘトになっている足長ボーイズも、きっと喜んでくれるはず!
「オメエ、よく1人で頑張った。
出発はもう明後日だからな。
礼を言うぜ。」
珍しくベンジーがちゃんと褒めてくれた。
嬉しい。
ギリギリだけど、仕上がって良かった!
「イェーイ!!!」
俺達3人は、ハイタッチをした。




