【035】助け合い
ウィーン。
スーパーの扉が開いた。
「皆様、お待たせいたしました。
港町No. 1スーパー、只今より開店です。」
…
シーン。
…
放送が流れると、ゆっくり、そして静かに列が動き始めた。
並んでいるお客さん達は、なぜだかみんな暗い顔。
「ねぇ、なんでみんなこんなに暗いの?
ポイント2000倍って、もっとテンション上がりそうだけど…。」
俺が言うと、ベンジーは人差し指を口に当てて。
「しっ!
バカヤロウ!
静かにしろ!」
目を釣り上げた。
…はぁ?
それっきり何も答えてくれなかったので、俺は黙ることにした。
喪服着て暗い顔して。
なんなんだ?
ゾロゾロ……。
列はどんどん動く。
これは思っていたよりも早く入店できそうだ。
すると。
ポクポクポクポク…。
店の扉の向こう側から、何かを叩く音が。
ポクポクポクポク…。
こ、これは!
木魚の音?!
そう。
日本の葬式で、お坊さんが叩いている、アレ。
でもなぜ異世界のスーパーに?
っていうか、やっぱり店内で誰かの葬式を?
クイッ。
オデコからずり落ちて来た懐中電灯を上げて、俺は扉の中へ入った。
ウィーン。
ズーン…。
店内は、真っ暗!!!
なんだこれ?!
通路も食品も従業員も、何も見えない!
カチャッ。
「うわっ!」
ベンジーが俺のオデコを触り、懐中電灯を付けた。
前後のお客さんも、みんなこのタイミングで付ける。
と、その時。
「2000バーイ…。」
?!?!?!?!
足を踏み入れてすぐ、扉の横に、店長さんが立っていたのだ。
そこで1人1人に何か紙を渡し、サインさせている。
ヒョイッ。
ベンジーが店長さんに右手を挙げた。
静かにしないとダメだから、それが挨拶代わり。
店長さんもそれに気付いて、ピースサインを頭に乗せる。
そして…。
俺達の番がやって来た。
「こ、こんにちは。」
俺は、息を吐くくらいの小さな声で挨拶する。
「おや…。」
店長さんは暗い顔でこっちを見た。
「マックス君、ベンちゃん…。
来てくれたんですね。
待っていましたよ。
さぁぁ…。
こちらに、サインを…。」
ぴらっ。
紙とボールペンを渡される。
懐中電灯をうまく照らして…っと。
「なになに…?」
そこには、結構長い文字が書いてある。
【本日ポイント2000倍。
大混乱、パニックを避けるため、お客様には葬式気分で買い物をしていただきます。
落ち着いて、そして暗い気持ちで前へお進み下さい。
なお、当店は本日大赤字になる予定。
少しでも節約するべく、店内のライトは全て切らせていただきます。
また、お怪我、死亡事故など、これらは全てお客様の自己責任となります。】
…
…
…
「は?」
なんだよこれ!
しかもお客様の自己責任って。
オカシイだろ!!!
電気も付いてないのに!!!
…ったく。
喪服は着るし、さらに怪我とか死ぬとか。
縁起も悪すぎる!
…
まぁでも、ここまで来たら買い物していくしかない。
俺とベンジーは、【了承した】欄にチェックを入れ、サインした。
マックス。
ジイ。
―
「いたっ!」
「あ、す、すみません!」
しまった。
前のご婦人の足を踏んでしまった。
もう…超買い物しづらい!
さすがに食品コーナーに冷気は流れているけど、全消灯はひどすぎる。
危ないうえ、鮮度や形も確認できない。
しかし、隣を歩くベンジーは。
バサッ バサッ。
どんどんカゴに品物を入れていく。
「オメエ、ちゃんと買い物しろよ。
これじゃあ日が暮れちまうぞ。」
俺にコソッと耳打ち。
いやいや、それはこの店に言ってくれよ。
こっちだって、普通に買い物がしたい。泣
ポクポクポクポク…。
あ、さっきの木魚の音が近くなってきた。
誰かがこのあたりで…?
チラッ。
頭の懐中電灯でそこを照らすと。
鮮魚コーナーの角に、座布団を敷いて座っている男性が見えた。
青白い顔で木魚を叩いている。
って。
「えっ?!?!」
今、なんか……!
通り過ぎる時に、もう1度彼の姿を照らす。
ピカァ!
ポクポクポクポク…。
木魚を叩く、中年で小太りのおじさん。
緑色の着物を着て…。
って、え?!
「ブロ?!」
俺が大きな声を出すと。
ボカン⭐︎!
ベンジーに殴られた。
「しーっ!
静かにしろっつってんだろ!!!」
いたたた…
でも、今の人、確かに…。
【ブロッコリー殿下】
だった。
俺が前世で大好きだった芸人、ブロッコリー殿下。
あれだけ推し活してきたんだ。
見間違えるはずがない!
だけど…。
ここにいるはず、ないよな?
それに、万が一転生しているとしても、今の俺みたいに違う人の体に入る訳だし。
同じ姿ってことは無さそう。
でも…。
チラッ。
気になって振り返るも、人の波に押されてどんどん前へ進んでしまう。
「いやいや。
違う。
他人の空似だ。」
俺は自分に言い聞かせると、暗闇の中、レジへ向かった。
「ありがとう…。
ございましたぁ…。」
店員さんも徹底して暗い。笑
レジを済ませて、出口の扉へ。
ウィーン。
…
キラキラキラキラ〜… ・:*.:
燦々と輝く太陽。
その光を浴びて、輝く俺のBODY。
あぁぁぁぁぁぁ……
気持ちがいい!
爽やかぁ!
外へ出ると、一気に気分が良くなった。
開放感がハンパない。
「ハハーン…♡」
ベンジーも両手を広げてリフレッシュ。
なんだよ。
やっぱりあの空間、苦しかったんじゃん。笑
で、そんなベンジーに俺は宣言する。
「あのさぁ。
俺、ポイントはいらないから、今後は普通の日に買い物するね。
もう無理。コリゴリ。」
すると。
「…2000バーイ…。」
!
「う、うわっ!!!」
いつの間にか、店長さんが俺の後ろにいたのだ。
「マックス君。
キミ、私が命を削ってやってるポイントデー…。
気に入らなかったの?!
こっちは今日から1か月、魚の骨しか食べられないほど大赤字なのに…。」
ポロ…。
ポロ…。
涙を流す店長。
「あ、いや!
えっと、その…!」
アタフタする俺。
ボカン⭐︎!
本日2回目、ベンジーにぶん殴られた。
「店長ォ!
申し訳ありゃあせん。
コイツは、大馬鹿者ですよ。
2000倍のありがたみが……分かってないんですから!!!」
ギロッ!
すごい目つきで俺を睨む。
「…マックス。
オメエ今、最っ高に、嬉しいよなぁ?!
えぇ?!
今後もわざわざ、2000倍の日に来るよなぁ?!
あぁ?!」
こ、こ、怖い。
でも。
これ、パワハラじゃん!
シロクマのパワハラ!
ここで怯んだら、また訳のわからない2000倍デーに来ることになる。
よ、よし。
ケンジ。
ここで負けてはいけない。
断るんだ!
「あ、あの、俺は…!」
「店長ー!」
俺が最後まで言い終わらないうちに、店の裏口から複数の人が駆けてきた。
タッタッタッタ…。
「店長!
2000倍デー、お疲れ様です!」
「大赤字、おめでとうございます!」
そう言って、その人達は次々と店長の手を握る。
彼らの胸にはネームプレートが刺さっていた。
よく見ると…。
ここに商品を卸している、メーカーさん達のようだ。
「店長!
これじゃあ売り上げゼロで、しばらくは何も食べられないでしょう。」
「従業員の給料や生活費も心配よね。」
「赤字が度を超えてるから、生死にも関わるな。」
そんな会話をした後、彼らは再び店長の手を握った。
ギュッ。
「てことで、今回の卸値、全てタダにしますから。」
え?
「ウチも!」
「ウチも!」
…えぇ?!
「あ、ありがとう!
キミ達!」
瞳を潤ませる店長。
「いやぁ。
うちのメーカー、今月は大赤字だな。」
「ウチもさ。
家族に給料持っていってやれないから、嫁に怒られる。
ハハハ。」
「ウチなんか、来月には倒産しちゃうかもしれないわ。
うっふふ♡」
ははははは
みんなで大笑い。
ポカーン。
俺は、この時点でついていけなくなった。
と、その時。
ピカァ!
店の屋根から、スポットライトが彼らに向けて照らされた。
そして。
【〜港町は、助け合いでできている。
今日も、明日も、明後日も…。
ルルルル〜♩〜】
急に放送がかかった。
と、同時に。
…パチパチパチパチ!!!
耳が壊れそうなほどの大きな拍手。
いつの間にか、俺達の周りにお客さんが集まってきていた。
みんな頭に懐中電灯を挟んだまま、ボロボロと泣いている。
それを見た店長は、感激した様子で群衆の前に立った。
「…皆さん!
ありがとう!
こうして協力してくれるメーカーさん、そして買い物に来てくれる皆様。
そのおかげで、この店は成り立っています!
赤字は……感謝の印です!
これからも…喪服で、来てくれるかな?!」
「行きますぅぅぅー!!」
ワァァァァ!
「せーのっ。」
……
「2000バーイ!!!」
ワァァァァ!
パチパチパチパチ!
会場?
は大盛り上がりだった。
ベンジーも頷きながら、しっかり拍手。
ボー。
俺だけ世界に入り込めず。
だってさ。
…全っっっ然。
助け合いになってない。
ただ、赤字の連鎖を起こしてるだけじゃん?!
頭痛がしてきた俺は、ひと足先にバーに帰ることにした。
「午前中、バイトの休み取ってて良かったぁ…。
はぁ…。」
フラフラしながら、1人スーパーの敷地を出た。




