【033】写真が語るもの
まずは、マリオさんの記事を読もう。
ペラッ。
……
【8才の子供を抱えて、港町に引っ越してきたマリオさん。当時の心境は?】
【病気で妻を亡くし、しばらくは絶望感でいっぱいでした。働く気力が無くなり、毎日フラフラと…。でもある日、小さな息子に言われたんです。パパ、頑張らないと天国のママに怒られるよって。それを聞いて目が覚めました。このままではいけない。息子のためにもう一度立ち上がろう。そう、決心したのです。】
【…そうでしたか。でも、なぜ港町に移住を?】
【それにはちゃんと理由があります。実は妻との新婚旅行先が、この港町だったのです。綺麗な海と、新鮮な空気。そして優しい人々。彼女は港町をとても気に入っていました。またいつか訪れたい。そう、何度も口にしていたほど。
そんな思い入れのある場所で、息子と再スタートを切る。そういう気持ちで、ここへやってきました。】
ほー…。
そうだったのか。
それで、それで?
ペラッ。
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……
【なるほど。そして、海辺のバーを買い取ったと。】
【買い取った…。というよりも、譲っていただいた。の方がしっくり来ますね。だって、たったの1モンですよ?信じられますか?港町新聞社の社長さんには、もう感謝しかありません。
だってこの店はもともと、社長さんのお父様のものなんですからね。】
ん?
…
んんん?
【港町新聞社】の、しゃちょ……
「へっ?!?!」
俺は叫んだ。
すると、同じページを読んでいたフルーティーも。
「うそ?!?!」
やっぱり叫ぶ。
港町新聞社の……社長さん?!
って…!
パッ!
俺は編集長の顔を見た。
この、目の前にいる、編集長?!
すると編集長はニッコリと微笑んだ。
クイクイッ。
人差し指で、自分の顔を指差す。
「ほっほっほ。
ほーうほうほう。笑」
自分だよって言ってる。
「えぇぇぇぇ?!?!」
俺とフルーティーは絶叫。
「あ、あ、あの店って、編集長のお父様のお店だったんですか?!?!」
いやこれ、結構衝撃。
マリオのバーが……編集長の?!
まさかのまさか。
ベンジーからも聞いたことがないから、きっと彼も知らないのだろう。
「ほーっほっほ。
そうなんです。
実はもともとは、父の店なんですよ。
どうにもならなかったあの店を、マリオさんが助けてくださってねぇ…。」
「え?
助けてくださったって、逆じゃないですか?」
俺はキョトンとしながら言う。
だって、1モンで店を売ってくれたって、マリオさんは話してるよ?
「いえいえ。
そうではありません。
父の形見であるあの店はね、ずっと引き継ぐ人がいなくて困っていたんです。
1人息子の私は、こうして新聞社の道に進みましたし。
だからもう、店は壊すしかない…と。
そんな時に、子供を抱えて職を探していたマリオさんに出会ったんです。」
「…えぇぇぇぇ。
ちょっと待ってください。
編集長とは、マックス…いや、俺が子供の頃にすでに会っていたんですね?
そしたら、俺がここの面接に来た時って…。」
ニコォ。
編集長は、目尻に皺を寄せた。
「もちろん!
君のことは知っていました。
不良で有名…だからじゃなく。笑
なので君が現れた時には、縁を感じましたよ〜。
父の店をマリオさんが買ってくださり、そしてそのマリオさんの息子が大きくなると、今度は私の会社で働きたいという。
なんというか……。
私達の間には、不思議な絆を感じます。
ほーっほっほ。」
…
すると黙っていたフルーティーが口を開いた。
「編集長!
マックスが面接に来た時に、ほとんど喋りもしないで採用を決めたじゃないですか?
あれって…。」
「ほーうほうほう。
そうです。
マリオさんは私の恩人ですからね。
マックスがここで仕事をしたいというのならば、今こそが恩返しの時。
断る理由はありませんよ。」
……えぇーっ!!!
そういうこと?!
なんか色々びっくり。
確かにあの日は、顔を見るなり即採用って感じだった。
そして思い返してみれば、先日バーに新聞を届けてくれた時。
編集長は、壁の写真をずっと眺めていたんだよな。
あれは店の歴史が分かるような写真。
お父さんの店だから、あんなに長い時間眺めていたのか。
今になってみれば、色々なことが腑に落ちる。
ポン。
編集長が、俺の肩に手を乗せた。
「マリオさんは亡くなってしまいましたけれど。
こうして君が新聞社で働き、そしてまたバーを継いでくれること。
きっと、天国で喜んでいますよ。
勿論、私も、私の父もね。
感謝しています。
ありがとう。」
へ、編集長…。
編集長って、風変わりな面もあるけれど。
心が温かい人なんだな。
だからここの新聞社も、長く続いているんだろう。
人柄が良くなかったら、どんな会社でもダメになるもの。
……
って、そしたらアレを伝えなきゃ。
「編集長、すみません。
これは初めて話すことなんですが。
実は、あのバー…。
レストランに変えようと思っているんです。」
えっ!
という顔で俺の方を向いたのは、フルーティー。
「マックス、そんなこと計画してたの?!
じゃあ、バーと掛け持ちで新聞社の仕事をしているのは改装費のため?」
うん。
と俺は頷く。
「バーだと、どうしてもお酒がメインになるでしょ?
そうすると、来てもらえるお客さんが限られちゃう。
まず子供なんかは絶対にNGだし。
だけどレストランにすれば、もっと色々なお客さんに楽しんでもらえる。
…
って実はこれ、オヤジの案なんだ。
死後にメモが見つかってさ。
地元の人達へ恩返し。
そのために、レストランにしたいって。」
サッ。
静かに話を聞いていた編集長は、メガネを外した。
そして。
ズボンのポケットから、先日俺がプレゼントしたハンカチを取り出すと、ギュウッと目頭を抑えた。
「…。
おぉ…。
ありがたい、ありがたい。
とても良い案ですね。
父の店を…。
そうでしたか…。
ぜひとも、宜しくお願いします。」
ペコ。
「あ!
編集長、やめて下さいよ!
こちらこそ、あんなに素敵なお店を譲っていただいて、感謝しています。」
ズズッ。
編集長は鼻をすすると立ち上がり。
「あー。
久しぶりに色々思い返したら、泣けちゃいました。
ちょっと、洗面所で顔を洗ってきます。
お2人は続きを読んでいてください。」
そう言うと、廊下へ出て行った。
「…なんか、編集長の新たな一面を知ったって感じね。」
フルーティーの大きな目にも涙が。
「うん。
そうだよね。
助けて、助けられて。
今あることの全ては、そんな過去から来てるんだね。」
はぁ…。
俺は天井を見上げる。
天国のマリオさん、編集長のお父さん。
見ててね。
俺とベンジーとドリスさんで、人々に愛されるレストランを絶対に作ってみせるから。
そして今では、転生した自分(勿論周りはそれを知らないけれど)を受け入れてくれたこの町に、俺自身も恩返しがしたい。
そう思ってるよ。
この世界の人達に喜んでもらえるお店を作ろう。
「で、ベンジーの記事は…。」
ペラッ。
今度はこっちだ。
青メッシュのベンジーが、町に来たっていう記事。
ピンク色じゃなくて?
と思ったけれど、思えばマリオさんの手帳に挟んであった、昔の写真。
あれも青メッシュに青アロハだったんだよな。
なんで途中からピンクに変わったんだろう?
いつか、聞いてみよう。
「あんまり書いてない。」
フルーティーがボソッと呟いた。
「え?」
俺が聞き返すと。
「ほら。
写真はあるけど、文字はそんなに…。
数年前に、この町に来たベンジーをマリオさんが雇ってあげた。
としか。」
「…。
ほんとだ。」
2人の写真が載っているだけで、情報はほぼ無い。
なーんだ。
ガッカリ。
このへん、詳しく知りたかったな。
バッ、バッ、バッ、バッ。
フルーティーが、積み重なっている新聞を素早く振り分けていく。
すると。
「あ、待って!
こっちにもあるわ!
これも…。
これも!」
パパッと新たに3部取り除くと、それらを床に広げた。
「おっ?!」
なんと、そこにもベンジーの写真が。
フルーティーはそれを見て笑う。
「ふふふっ…。」
?
「ねぇ、何がおかしいの?」
何がおかいしいのか分からない。
「ふふっ。
違うわよ。
面白くて笑ったんじゃないわ。
良かったなと思って笑ったの。」
「え?」
ちょっと意味が…。
「どういうこと?」
するとフルーティーは、右の新聞から左の新聞に向かって指を差した。
「いい?
早い日付けの順に、ベンジーをよーく見て。
……
まずはこれ。
さっきの、シロクマさんが町にやってきたっていう記事の写真。
マリオさんの陰に隠れて、どこか寂しそうな顔してる。」
「…うん。
確かに寂しそう。
ていうか、表情がちょっと暗いね。」
サッ。
「で、次。
今度は2人が横に並んで、少し微笑んでる。
……
次はお店のバーカウンターで、慣れた手つきでお酒を作っている姿。
……
そして、最後。
マリオさんとドリスさんと3人で、店の前で大笑い。
しかも、ピンクメッシュのシロクマさんっていう表記に変わったわ。
メッシュの色が、今のピンク色になったのよ。」
……
!!!
「ほ、ほんとだ!
文字は少ないけど…。
これを見れば。」
フルーティーは頷いた。
「うん、うん。
ベンジーが、マリオさんと出会って、あのバーで働いて。
そうして日が経つほどに、どんどん彼の笑顔が増えているの。
それにベンジーだけじゃなくて、マリオさんも。
この写真を見るだけで、彼らがどんな時間を過ごしてきたのかが分かるわ。」
…
ほんとうだ。
働き始めたばっかりの頃のベンジーは、どこか自信無さげで寂しそうなんだけど。
日が経つにつれて、表情が明るく変化してる。
…はっ。
俺はここで思い出した。
マリオさんが手帳に挟んでいた、あの写真。
そしてその裏面に記されていた言葉を。
【ようやく慣れてきたベンジー。
心も元気に。】
これこれ。
心も元気にって。
やっぱりベンジーって、若い頃は何か抱えていたのかも。
でもマリオのバーで働き始めて、それが変わっていったんだな。
じーーー。
俺は新聞に顔を近づけて、もう一度よく見る。
ベンジーとマリオさんの絆。
それが、このたった4枚の写真だけで伝わってくる。
きっと彼らも、助け助けられここまで来たのだろう。
バサッ!
「おわっ?!
びっくりしたー!」
フルーティーが新聞を追加して、床に置いたのだ。
「これも、忘れないでよね!笑」
ん?
これは…。
この前俺達が書いた、遊園地の記事?
【トキ⭐︎メキ】Tシャツを着て、ウィンクしているベンジーの姿が。
「ははは。
そうだった。
最新のこれも、忘れちゃいけないよね。笑」
ベンジー、今はこんなに明るく元気になって。
本当に良かったな。
「…ねぇ。
編集長、遅くない?」
フルーティーがドアの方に目を向ける。
そういえば、洗面所に行ったっきり帰ってこない。
「確かに…。
ま、まさか、トイレで倒れて…?!」
いや。
待てよ。
あの人の場合はそうじゃなくて…。
俺達は顔を見合わせた。
多分、同じ事を思っている。
「さ、じゃあ仕事に戻りましょうか。」
「そうだね。
編集長はきっと…。」
「寝てるから!」
「寝てるから!」
俺は立ち上がり、ファイルを片付け始めた。




