【032】過去の新聞
カラン。
俺は新聞社へ通勤途中、封筒をポストに入れた。
昨日書いたあれ。
足長ボーイズの事務所へ送る、履歴書だ。
ていうかもう。
本っ当に、疲れた。
ベンジーとドリスさんの大暴走。
しかも意味不明なアピール。
トップアイドルが絡むと、2人ともテンションがおかしくなるんだもんな。
楽しみにしているツアーだけど、今の段階でこれじゃあ…。
現地に行ったら、どうなってしまうんだろう。
はぁ。
…
「おはようございます。」
ガチャッ。
新聞社のドアを開ける。
「あ、おはよーう!」
勤務時間の20分前なのに、フルーティーはもう来てる。
「あれ?
今日は早いね。」
俺がそう言うと、フルーティーは自分のふくらはぎを撫でた。
「うん、そうなのよ。
実は夜中に足がつっちゃって…。
そこから眠れず暇だったから、早めに出勤したの。
という事で次の記事は、【足のつり】をテーマにしようと思いまーす。」
おぉ。
さすが記者。
そういうのも、次のネタに繋げるんだ。
すごいな。
「それで、今はもう大丈夫なの?
足。」
俺は椅子に座りながら聞いた。
「うん、もちろん。
だけど寝不足で疲れちゃったから、今日は取材はお休みしない?
室内でやれることを探そう?」
あ、今日は外に行かないのか。
俺も疲れてるから助かる。
「おっけーい。
言ってくれれば、何でもやるよ?」
…
「それじゃ、マックスはそっち。
私はこっち。」
ドンッ!!!
フルーティーは腕をプルプルさせながら大量のファイルを持ってくると、それを床に置いた。
(というか、投げた。)
「け、結構あるね。」
俺の口元は引き攣った。
だって、分厚いファイルがこんなに沢山…。
「当たり前よ。
ここには数十年分の新聞が入ってるんだから。」
「そ、そ、そんなに?!」
これからやろうとしているのは。
過去の記事を、大事なところだけピックアップする作業。
で、残りは廃棄。
「よぉし…。
やるか!」
バッ!
俺は覚悟を決めて床に座った。
それを見たフルーティーも、勢いよく拳を挙げる。
「やるぞー!
えいえい、おー!!!」
…
俺は(転生して)港町に来たばかりだから、昔の記事を見るのはとても面白い。
「へぇ〜。」
【町への入り口に、噴水を設置。】
だって。
この噴水、こんなに前からあったんだ。
んで、次は……?
ペラッ。
【港町No. 1スーパー。
全てのスーパーを抜いて、赤字1位に。
店長、感動の涙を流す。】
あ、あのスーパー…。
赤字で1位取って感動って、俺には理解できないんだけど…。
店長さん、頭にピースサイン乗せて喜んでる。
ペラッ。
【シングルファザーのマリオさん。
古びたバーを買い取る。】
?!
こ、これは!!!
「ねねね、フルーティー!
早いけど、休憩取っても良い?!」
俺は興奮して、思わず早口になる。
マリオさんがバーを始めた時の記事があるなんて。
これはじっくり読んでみたい。
「いる、いらない、いる、いらない…。
え?
良いけど、それにしても早くない?
休憩って、お昼って意味でしょ?」
あぐらをかきながら、フルーティは壁の時計を見た。
「そうなんだけど。
これ、見てよ。」
バサッ!
俺は手にしていた新聞を左右に広げてみせた。
「……。
あー?!
マックスのお父さん!
マリオさんだ!
そんな記事があったのねー。」
フルーティーは前のめりになる。
俺と一緒で、興味津々。
「そうそう。
これ、ちょっと読んでみたいなって。
だから、今からお昼休憩取っても良いかな?」
「もちろん良いけど…。
って、マックス!
その下も!」
フルーティーはクイクイッと人差し指を床にやった。
そこに視線を向けると。
【町に現れた、リーゼントヘアーに青メッシュのシロクマさん。
マリオさんの店で雇われる。】
「ふぁ?!
こっ、こっ、これはーーー!!!」
ヤバい。
こっちも読んでみたい。w
てか、ピンクじゃなくて青メッシュ……?
「マックス、それ、私も読みたい!
一緒に休憩に入ろう!」
フルーティーは手にしていたファイルをぶん投げると、床から立ち上がった。
こんな題名見ちゃったら、我慢できるはずがない。
「うん!
休憩休憩!
お昼、買ってこよう!」
ダダダダダダダー!
俺達は財布を持つと、外へ飛び出した。
…
「いつもありがとう〜。
また来てね♩」
青と赤の縞々帽子を被ったお姉さんが、俺達に手を振る。
新聞社のすぐ近くにある【やみつきシーフードサンド】で、
「ちびっこ帆立のピリ辛サンド」
を購入したのだ。
バターでこってり炒めた甘いホタテに、唐辛子のスパイシーさがミックスされた、食欲をそそる商品。
こんなの、絶対美味しいに決まってる。
「私ね。
この店で、これが1番好き!♩」
袋をゆらゆらと揺らしながら歩くフルーティーは、とても嬉しそう。
「へー、そうなんだ。
俺は初めて食べるよ、ホタテサンドは。
フルーティーのイチオシなら、なお楽しみ。
…
それにしてもさ、あの店員さん、ニコニコしてて感じが良いよね。」
「うん。
ユッキーさんね。
この町でまともなのって、ユッキーさんとルーカスくらいよ。」
ははは
と笑うフルーティ。
あのお姉さん、ユッキーさんっていうのか。
覚えておこう。
そしてまともな住民は、彼女とルーカスだけ…と。w
…
ガチャッ。
新聞社に戻ってきてドアを開ける。
すると。
「ほーうほうほう…。
ほうほう…。
ほう…ほう!」
なんと、編集長が起きていた!
しかも床に座布団をしいて、さっきの新聞を読んでいる。
「へ、へ、編集長?!」
こんな時間に起きている姿は、超珍しい。
フルーティーは彼の元へ駆け寄ると。
「へんしゅーちょー!
起きていたんですね!
嬉しい!
今、編集長の分もお昼買ってきましたよ!」
そう言って、サンドが入った袋を一つ渡す。
「おぉ…。
これはこれは…。
ほーうほう、ほうほう!♡」
笑顔で袋に頬擦りする編集長。
これは相当喜んでるな。笑
ササッ。
俺も中へ入ると、編集長の隣に座った。
すると編集長は、後ろの戸棚を開けて、そこから座布団を2枚出した。
パッ、パッと俺達にそれを渡す。
「床で作業をする時には、これを使いなさいと言ったでしょう?
フルーティー。」
編集長がジロリと睨む。
「あ、あはは。
でしたね。
なんか面倒なんで、そのまま座っちゃいました。」
フルーティーは苦笑いしつつ、頭をポリポリ。
「…。
ところでマックス。
これを読みましたか?」
ピッ。
編集長が、マリオさんの記事を指差した。
「あ、まだです。
これから読もうかと…。
編集長はこの記事の記憶、あります?
オヤジやベンジーの当時のこと、覚えていますか?」
……。
すぅ〜
編集長は深呼吸をすると、目を細めた。
「そりゃあ…。
覚えていますとも。
なんだか、つい最近のことのように思いますねぇ。」
そう言って、新聞を床に並べる。
サッ、サッ、サッ。
「お昼をいただきながら、みんなで読みましょう。
ちょっと、お待ちくださいね。」
…
「んんん…。
シュラッペ。」
シュラララ〜・:*.:
シュッ!シュッ!
いつもの印刷魔法で、新聞を複製。
「はい、マックス。
はい、フルーティー。」
編集長は、それを俺達に渡してくれた。
「あ、すみません。
ありがとうございます。」
…って。
いつもの変な儀式が無くても、普通に印刷できるんじゃん!笑
ガサゴソ。
俺は袋からサンドを取り出し、新聞を読み始めた。




