【031】履歴書
とぽとぽとぽ……。
深さのある器に、ポテっと置いたバニラアイスクリーム。
そこに、ゆっくりとコーヒーを流し込んでいく。
「ほぉ…。
こんなやり方があるんか。
なんだか邪道のような気もするが。」
興味は示すものの、疑いの目を向けるベンジー。
「いや、あのね。
この世界では存在していないんだろうけど。」
?
「ああん?
この世界?
って、他にどの世界があるんだよ。」
うっ!
マズッた。
「えと、ごめん。
言い間違えた。
ベンジーは見たことないと思うけど、俺、これやったことあるんだよ。
(前世で)
大人のデザートって感じで美味しかったから、ちょっと食べてみてよ。」
そう言って、ベンジーに1皿渡す。
「…どれ。」
スプーンを手にして、コーヒーでトロトロになったアイスを口に運ぶベンジー。
パクッ。
…
「フン?!
……
う、う、う、うんめぇぇぇーーー!」
キラキラ〜・:*.:
↑これは、あまりの美味しさに、ベンジーが発光している音。
「でしょー?!
美味いよね、これ。
ただ、当たり前だけど、コーヒーによって微妙に味が変わるから。
今度はそれを色々試していきたいなって。」
パク パク パク。
手が止まらないベンジー。
すごい勢いで食べるので、口の周りが茶色く染まっている。
「ちょ!
ベンジー、ドロボーの口みたいになってる!
なははっ!」
俺は思わず爆笑。
「んなっ。
笑ってんじゃねぇよ!
って、オマエのそのバカ笑いも頭に来ないくらいにうめぇや。
いやぁ…ほんと驚いた。
コーヒーとアイスって、別々ではいつも食べてるのに。
2つを合わせると、こんなに変わるんだな。」
「そうそう。
相性抜群だよね。
ちなみにこのコーヒー、すごく香りが良いけど…。
どこの豆?」
ザッ。
ベンジーはソファーから立ち上がると、台所へ向かった。
ガサゴソ。
手を伸ばし、棚の奥から豆の袋を取り出す。
「ほれ。
今日のは、これだ。」
そう言って俺に見せたのは、水色のオシャレなパッケージ。
ルーカスのお店のものだった。
「あー!
やっぱりね!
もしかしてと思ったら。
ベンジーも、ルーカスのお店のコーヒー、好きなの?」
「ったりめーよ!
この町でコーヒーっつったら、あの店だろう。
経営者も、感じが良いしな。」
うんうんうんうん!
と頷く俺。
「だよね!
やっぱりルーカスのコーヒーって、良いよなぁ。」
そう呟くと、ベンジーは手に持っている袋をじっと見つめた。
「この…。
この、アイスクリームコーヒーデザート?
それ専用に、オリジナルの豆を作ってもらうってのはどうだ?
オメエ、仲が良いんだよな?
経営者のルーカスと。」
!!!
「ベ、ベンジー!
それ、めちゃくちゃ良いアイディアじゃん!
冴えてる!」
そうだ、それが良い!
ルーカスなら、話せばきっと作ってくれる。
「それ今度、ルーカスに話してみるね。」
「おう。
よろしく頼むぜ。」
―
ザ〜ン…… ザ〜ン……
アフォガードを食べ終えた俺達は、海が目の前のテラスへ移動。
「ふぅ〜。」
お腹もいっぱいで、とことんまったり。
ベンジーはドデカイ帽子をかぶって、足まで乗せられるロングチェアへ。
俺はパラソル下のテーブルと椅子。
2人でのんびりと海を眺める。
今日も、ヨットがたくさん…。
「なんか、めっちゃ贅沢な時間だね。」
俺はテーブルに右腕を伸ばし、その上に頭を乗せながら言った。
「あぁ…。
たまにゃあ、良いだろう。
こういう時間も必要だ。
それに、試作品も無事に作り終えたし。
もうやることはないんだろ?」
…
「やること?
やること…。
やるこ…。
…。」
!
「あ!
あった!
あるよ、忘れてた!
あわわわわわ!!!」
「くぁーっ!
なんだよ、騒がしいな。
うるっせぇぞ!」
ベンジーはフワフワの手で耳を塞ぐ。
「ごめんごめん。
そういえば、足長ボーイズの事務所に言われてたんだ。
履歴書を送ってくれって。」
電話で話した時に言われたの、すっかり忘れてた。
「あ?
履歴書ぉ?
なんのために?」
「……多分、お給料をもらうからじゃないかな。
ちゃんとした会社だから、一応書いて送ってくれってさ。
ツアーで働かせてもらうのは、口約束しかしてないからね。
ただ、それで審査するとか、今回の仕事がチャラになるとか。
それは無いみたい。
仕事するのはもう決定だって。
だからきっと、身元の証明的な感じであっちは欲しいんだと思う。」
ほぉ…。
と、顎に手を乗せるベンジー。
「普通の履歴書で良いんか?
だったら俺、7、8枚持ってるぜ。
マリオのバーで採用してもらう時に書いたからよ。
かなり余ってる。
古いやつでも良いのなら。」
「ほ、ほんと?!
履歴書なんて、何年経ってもそんなに変化無いから大丈夫!
そしたら買いに行かなくて済むね。
じゃあ…。
なるべく早く送ってくれって言われたから、今、書いちゃわない?」
良かった〜。
新レシピの開発で頭がいっぱいだったから、履歴書のことなんてスッカリ忘れてた。
危ない、危ない。
「…。
ま、そうするか。
夜はバーの仕事で忙しいしな。」
ザッ。
ベンジーはチェアから降りた。
「うん、やっちゃおう!」
俺も顔を上げて、椅子から立ち上がる。
すると。
「そしたらよ。
ドリスさんも呼ぼうぜ。」
とベンジーが。
「え?
ここに?」
「おう。
ドリスさんち、近いから。
呼べば5分で来ると思う。」
へー。
この2人、結構ご近所さんだったんだ。
ダラー
ダラー
ダラー
ベンジーはテラスから部屋に戻ると、電話のダイヤルを回した。
―
そして5分後。
「来たわよ〜!」
ドリスさん、本当にすぐ来た。
マジで近所なんだな。
「あ、上がって下さい。」
ベンジーが玄関までお出迎え。
「はーい!
お邪魔しまーす!
って、ここに来るの、1年ぶりねぇ。」
……ん?
「ドリスさんって、ベンジーの家に来たことあるんですか?」
俺が不思議そうに聞くと。
「あ、うん。
何回もあるわよ〜。
風邪ひいちゃった時なんかは、お互いにお見舞いするもん。
ねー?」
と、首を横に折ってベンジーを見る。
「そうッスよね。
近いんでね。
お互い、助け合いで。」
えぇぇ。
そうなんだ。
職場だけじゃなくて、プライベートでも交流してたのか。
だからこの2人には、絆のようなものを感じるんだな。
「さっ。
じゃあ、書いちゃいましょうか。」
ドリスさんは腕まくりをして、やる気満々。
「そうですね。」
ドリスさんとベンジーがソファーに。
俺は床に座って、それぞれ履歴書を書き始めた。
……
カキカキカキ…。
「あのー。
お2人とも。
履歴書の書き方、分かります?」
一応確認。
「…バッキャローーー!
さっき、言ったろう!
バーで働くのに書いたって!」
ベンジーは額に青筋を浮かべる。
そしてドリスさんも眉をハの字に曲げて。
「私もよぉ。
それに、この年よ?
これまでに、一体いくつのパートをこなしてきたと思ってるの?
その度に履歴書出してたんだから、むしろ慣れてるってもんよ。」
あ、なるほどね。
じゃあ、大丈夫か。
カキカキカキカキ…。
……
って、ダメだ!
全っっっ然集中できない!!!
足長ボーイズの事務所への電話。
あれを思い出したら…。
《ワタクシ、美リーゼントシロクマの、ベンジーと申しますぅ。》
《足長ボーイズ様の、胃袋の管理、足の成長の管理。全てお任せくださぁい。》
ゾワッ!!!
2人がまともに書いているのか、不安で仕方がない!
俺は手を止めて、2人の履歴書を覗いた。
ジロッ。
まずは、ベンジー…。
【名前】
ベンジー(美リーゼント)
【職歴】
バーテンダー トキ⭐︎メキ撮影
【特技】
海の神に3時間祈る 盆踊り
【アピール】
もし、足長ボーイズ様で欠員が出た場合、代役を務められます。
そしてもし、ワタクシにファンが発生した場合、サインの対応もすぐに可能です。【ジイ。】
…
…
ブチッ。
「…うおおおおおおおおおおい!!!」
俺はキレた。
まさか、ドリスさんも?!
バッ!!!
俺はドリスさんの履歴書を取り上げた。
「きゃあ!
ちょっと、マックス!」
かまうもんか!
確認しないと、一体何を書いているか…。
【名前】
ドリス・レーン(気配り上手で有名)
【職歴】
バーのウェイトレス 港町健康管理アドバイザー1級(自称)
【特技】
息子と奏でるドラム音 人生の悟りラップ
【アピール】
喉の管理、足の管理、人生の悟り
全て、ワタクシにお任せくださーい!
…
…
わなわなわな…。
「2人とも…。
良い加減にしろーーーーーー!!!」
俺は怒りで血管が切れそうだった。




