【030】ベンジーの家
「あーっ!」
スーパーを出た後、俺は叫んだ。
「アイスクリームだけ、買えばよかった…。」
緑の海老カレーはともかく、アフォガードは材料も少ないし、すぐに作れる。
だったらこれだけでも試してみたい。
ポイント2000倍もいらないから、笑
もう1度戻って、アイスだけ買ってこよう。
「…ああん?
アイスぅ?」
ベンジーが眉を寄せた。
「あ、うん。
バニラアイスだけ、今すぐ欲しいんだ。
それとコーヒーが必要なんだけど、コーヒーは店に戻ればあるからさ。
てことで、ちょっと戻って買ってくる。」
そう言うと。
ギュッ。
ベンジーが俺の手首を掴んだ。
「おい、オメエ。
さっきから、カレーだとかアイスだとか。
一体何するつもりなんだ?
えぇ?
スーパーなんて、悪ガキとたむろする以外は来なかったくせによ。」
!
そうか。
俺、まだマリオさんのレシピのこと、ベンジーに話してなかった。
「えっとね、言うの忘れてたんだけど。
実はオヤジが、レストラン用のレシピを書き遺してて…。」
…
「なぁにぃーーー?!?!
そんなものがあったのかよ!
早く言えってんだバッキャロー!!!
つまり、オヤジさんの夢が……店で出したい料理が、その手帳に綴られているんだな?!
ああん?!?!」
キーン!
ベンジーが興奮してドデカイ声を出したので、耳が痛い。
「ちょっとぉ!
声が大きいよ!
はー……耳が。
って、そうそう。
イラスト付きのレシピが、20くらいあってさ。
そのうちのいくつかを、今度のツアーでも作れたらと思って。
それがね、もうみんな美味しそうなんだよ。」
「くぁ〜っ!」
ビシバシビシバシ!!!
ベンジーはニヤけながら、俺の背中をぶっ叩いた。
「痛い痛い痛い、痛いんですけど!泣」
まったくもー!
俺じゃなくて自分を叩いてくれ!泣
「やっぱりなぁ!
オヤジさんのことだから、きっとどこかに何かは遺してると思ったぜ!
いやぁ。
さすがだぜ〜。
フハ〜。」
ベンジーは腕を組んで、うんうんと頷く。
また叩かれたら嫌だから、今のうちにスーパーに戻ろう。
くるっ。
俺はしみじみしているベンジーに背中を向けた。
「んじゃ、そういう事だから。
アイス、買ってくるね。」
スーパーへ戻ろうと歩き出すと。
ガツッ!
再び手首を掴まれた。
「おぉい!
ちょっと待った!
バニラアイスと、コーヒーがありゃあ良いんだよな?
だったらそれ、俺んちにもあるぞ。」
…
「え?
俺んちって…。
家?
これから、ベンジーの家に行っていいってこと?」
「おう。
作ったものは、客に出すんじゃなく、試作品ってことだよな?
だったら家にあるアイスでいいだろ。
わざわざ新しいの買うのはもったいねぇ。
無駄遣いすんな。」
そう言うと、ベンジーはスタスタと歩き始めた。
急な展開に、俺はポカン。
「ベンジーの……家?」
え…。
えぇー!!!
ベンジーの家に、行けるんだ?!
声に出してみたら、止まっていた脳みそが動き出した。
ベンジーの家かぁ!
どういう所に住んでるんだろう。
って、実はずっと思ってたんだよね。
これはもう……めっちゃくちゃ楽しみ!
「あれ?」
いつの間にか、ベンジーの背中は遥か遠くへ。
「ま、待ってよー!」
タタタタタッ!
俺はそこに追いつくため、猛ダッシュした。
…
ザ〜ン…。
心が落ち着く、波の音。
「ここだ。」
ベンジーが足を止めたのは、ビーチ沿いの一軒家。
白い壁に、茶色い屋根。
平屋で、結構大きな家だった。
「へぇー!
ここに住んでるんだ!
このへんは、マリオのバーからも近いよね?」
俺はキョロキョロと周りを見渡しながら聞いた。
海沿いには、こうした一軒家。
そしてその少し後ろには、低層のアパートがいくつか並んでいる。
「…おう。
そうだな。
職場まで、徒歩10分くらいだ。」
ほー。
海が目の前で、職場も近くて、良い感じ。
「上がれよ。」
ガチャッ。
俺がぼんやりしていると、ベンジーが扉を開けた。
「あ、うん。
ありがとう。
それにしても、家はピンク色じゃないんだね。」
リーゼントに入れてるメッシュはピンク。
アロハシャツもピンク。
なのに、家は普通に茶色と白。
ここはこだわらないのかな。
「おお。
探したけど、なかったんだ。
なんてったって、海の町だからな。
景観に馴染むよう、白とか青とか茶色とか。
そのへんのカラーしかねぇよ。」
あ。
探したのは探したんだ。笑
「おじゃましまー……。」
扉の中へ入ると。
!!!
「えええーっ!
な、なんか…。
思ったより、かなりお洒落!」
いやほんと、驚いた。
人の家で失礼だけど、思わず床から天井までジロジロ見ちゃう。
「ったく!
思ったより
だとぉ?!
無礼な奴だな!
フンッ!」
壁紙は、淡いブルーの雪の結晶模様。
まさにシロクマの世界って感じの。
そして。
リビングには、ガラスの横長のテーブルに、使い込んだ感のある茶色いソファー。
向かいには小さくて古いテレビ。
部屋の端っこの棚には、本や雑誌がいっぱい。
しかも窓の外に目を向けると、砂浜と繋がったテラスまである。
「うわぁ……!
冗談じゃなく、すんごいお洒落!
中に入ったら、全部がアロハ柄かと思いきや。
これはかっこいい!
ベンジー、センス良いよ!」
俺が興奮して叫ぶと。
「ああん?
…
フハッ。
まぁな!
さすがに内装がアロハじゃ、落ち着かねぇだろ。
家はくつろげる空間じゃねぇとな。
フンフンフン♩」
ベンジーは嬉しそうに鼻歌を歌いながら、キッチンでお湯を沸かし始めた。
「ねぇ、本棚見ても良い?」
すごい数だから、気になる。
「おう。
好きに見ろよ。」
やった!
…ほー。
すごいな。
全部で100冊以上はありそう。
ベンジーって、読書家なんだな。
どんな作家のものを読んでる……
【リーゼントの大歴史】、【男を磨くアロハ術】、【シロクマにも分かる盆踊り解説】
「…。」
ちょっと、思ってたのと違ったかも。w
まぁ良っか。
って、ん?
端っこの空いているところに、写真が束になって置いてある。
これ、見ても良いかな?
さっき好きにしろって言ってたから、大丈夫…?
チラッ。
台所を見ると、ベンジーはまだ色々やってる。
よぉし、見ちゃおう。
パラッ。
パラパラ…。
おぉー?!
シロクマの写真が、いっぱい!!
か、か、可愛い!
これ、ベンジーの友達や家族なのかな?
「ねー、ベンジー。」
「あ?」
ピラッ。
俺は1枚の写真を上に掲げ、ヒラヒラさせた。
「これ、元カノ?」
まつ毛がくるんとした、可愛らしいシロクマさんが写ってる。
「なっ!
テメェ!
勝手に見たな!
元カノ……じゃねぇよ!
妹だ、妹!」
い、い、妹?!
「ベンジーって兄妹いたんだ?!」
「…ったく。
いるよ。
兄貴と、妹がな。」
あ。
確かさっき、シロクマが3頭写ってる写真があったぞ。
えぇっと…。
……
これだ!
女の子、ベンジー、真面目そうな男の人。
の3人。
「ねー!
この3人で撮った写真が、兄妹?」
トンッ、トンッ。
コーヒーをたっぷり入れたアロハ柄のマグカップを、テーブルに置くベンジー。
「あぁ?
……そうだよ!
って、それ聞いてどうすんだ?」
いやもう、俺は興味津々だから。
「お兄さんて真面目そうな人だね!
ベンジーとはまた違った魅力って感じ。
名前、なんて言うの?」
「はぁ?
…
ボンジー。」
ボンジー?!
ベンジーと、ボンジー?!
語呂が良い!
「じゃあ、妹さんは?
リンジーとか?」
…
「ハナコ。」
ズルッ!
なぜか妹さんだけ種類が違う!笑
「へぇ〜。
良いね、兄妹たくさんいてさ。
俺はひとりっ子だから、ちょっと羨ましい。」
マックスも、ケンジの時も。
兄弟がいないからなぁ、俺。
ズッ。
ベンジーはコーヒーをすすると。
「まぁ…。
兄妹っつっても、色々あるからな。
実際は。」
…
「ふぅん…。」
なんか、これ以上は聞きづらい雰囲気。
「いつかさ、機会があったら俺のこと紹介してよ。
ベンジーの家族に挨拶したいな。」
「…。
おう。
いつかな。」
流すように答えると、ベンジーはソファーから立ち上がった。
「んじゃ、アイスクリーム出すか。」
「あ、うん!
だけど……。
この部屋、冷蔵庫が無いみたいだけど?」
そう。
さっきから気になっていたが、冷蔵庫らしきものが見当たらないのだ。
「あ?
なーに言ってんだ、オメエは。
目の前にあるだろ。
これだよ、これ!」
そう言って、茶色いドアの前に立った。
「え?
そこ、トイレとかシャワーじゃないの?」
俺がキョトンとしていると…
…
ガチャッ。
…
冷〜〜〜〜〜〜〜
…
!!!!!
「うわっ?!
なにこれ?!
この部屋全部が……冷凍庫?!?!」
フンッ。
と鼻を鳴らしたベンジーは。
「あったりめぇよ。
ほら、あそこに仕切りがあるだろ?
上半分が冷蔵庫。
で、下半分が冷凍庫だ。」
えぇぇぇぇ!
確かに、下の部分には凍った魚がバッサバッサと積まれている。
さすが、シロクマ…!
「で、コイツが。
んっ!
バニラ…アイスだ!」
うんしょと持ち上げたのは、バケツほどの大きさのアイスクリームカップ。
!!!
「マママママジ?!
これ全部アイス?!
嘘でしょ?!
バケツに入ったアイスって、俺ずっと夢だったんだけど!!!笑」
なんじゃこりゃ!
最高!
テンション爆上げ!
ひゃっほーい!!!♩
…
子供のようにはしゃぐ俺を見て、ベンジーはため息をついた。
「はぁ〜…。
コイツ、一体いくつだよ…。」




