【029】No. 1スーパー
「じゃあ、俺達は1回家に帰るからなー。
またバーの営業時間になったら来るからよ。」
「マックスも少し休んでね〜。」
ギィ。
踊り疲れて、フラフラしながら扉を開けるベンジー。
体を動かして血流が良くなったのか、ほっぺがピンク色になってる。
「はーい。
って、2人とも、帰る時気をつけてね。
踊りまくって疲れただろうから。
また、夕方に集合しましょう。」
バタン。
扉が閉まり、ドリスさんとベンジーは帰っていった。
…
「はーあ。」
俺は大きく伸びをした。
アイドルのツアーに同行かぁ…。
ドリスさんはちょっと大袈裟だったけど、計画はしっかり立てないといけないな。
思えばこの店のメインの食べ物って、ローストビーフと、鶏肉と、サンドイッチ。
これくらい。
あとはチーズやナッツといった、皿に盛るだけの簡単なもの。
まぁ…。
お酒がメインの店だし、従業員3人で回してるから仕方がないんだけど。
でも足長ボーイズに提供するのには、もう少しレパートリーが欲しいよな。
トントントントン。
そんな事を考えながら、俺は階段を上がり…。
「うわっと!」
途中でよろめいた。
咄嗟に壁に手をついて、体勢を整える。
人の心配ばっかりしてたけど、自分も踊りすぎて足がカクカクしてる。
気をつけなくちゃ。
トントン トントン。
今度はゆっくり歩いて…。
マリオさんの部屋へ入った。
そして。
ガラッ!
机の引き出しを開ける。
そこから取り出したのは、茶色い革の日記帳。
以前、写真が挟まっていた、あの手帳だ。
「確かここに、レシピの考案がいくつか…。」
パラパラ…。
「あ、あった。」
この前はちゃんと読んでなかったけど、マリオさんの料理のアイディアが、数ページに渡って記されていた。
「ええっと…。
レストランに改装したら。
……
ほー。」
いつものヨロヨロした文字と、色鉛筆で描かれた温かみのあるイラスト。
これがなんだかホッと癒される。
マリオさんがニコニコしながらこれを描いてるの、なんだか想像できるな〜。
で、内容は。
⭐︎緑の海老の甘口カレー
⭐︎卵と濃厚チーズの絶品オムレツ(海をイメージした青い皿に乗せる)
⭐︎ヨットの形をした、果肉たっぷりオレンジシャーベット
などなど。
「えぇー!
めっちゃ……良い!!」
マリオさんの発想、素敵。
港町をテーマにしたレシピが、ページの端から端までびっしりと書き込まれている。
また、いくつかは自分で作ってみたようで、分量を訂正した跡も。
これは…。
バーをレストランに変えるの、すごく楽しみにしていたんだろうなぁ。
…
「よぉし!」
自分がやりたいのは勿論だけど、マリオさんのためにも頑張らなくちゃ。
マリオさんが遺してくれたから、俺はここで仕事ができているんだし。
パラパラパラッ…。
20以上あるレシピを全て読み終わった。
もう、どれもこれもすごく良かった。
店が建ったら、絶対メニューに入れよう。
ただ。
今回は時間がないので、ツアーで作れるようにするのはここから2つくらいかな。
ツアーまではあと1ヶ月。
2つなら、どうにかマスターできるだろう。
「う〜ん…。」
1つは、最初に見た【緑の海老の甘口カレー】にするか。
カレーなら大鍋で作って、スタッフさん達にも分けられるし。
それに、緑の海老は本当に美味しかったから
(やみつきシーフードサンドで食べた)
これは自分の料理にも取り入れたい。
あとは。
【バニラアイスの、香ばしコーヒーがけ】
これかな!
これって、地球でいう【アフォガード】だよね?
俺、好きだったんだよなぁ。
甘〜いバニラアイスに、苦〜いエスプレッソをかけてさ。
で、かけた瞬間に、クリーム色だったアイスが、ミルキーなブラウン色に染まっていくの。
それを見るのも楽しくて。
マリオさん、これを思いつくのすごいぜ。
心の中でグーサイン。
…
パタン。
日記を閉じると、俺はデスクからメモ用紙を取り出した。
そして、調理に必要な材料を書き出していく。
「緑の海老、にんにく、あとはカレールーって書いてあったな。
…
カレールー?!
おぉー!
マリオさんが書いてるんだから、この世界にもちゃんと売ってるんだ。
良かった。」
スパイスから作れって言われたら、終わってた。笑
メモメモ…。
今日は新聞社で休みをもらったから、これから買い物に行ってみよう。
で、試しに1回作ってみる。
てか、足は?
ムギュッ。
ふくらはぎを握ると、もう張ってない。
よし、これなら出かけられるぞ。
サササッ!
俺はクローゼットからお金を適当に取ると、階段を駆け降りた。
…
「えーっと…?」
今俺が見ているのは、町の入り口、噴水の横に設置してある【港町マップ】。
まだスーパーには1度も行ったことないから、地図で確認。
「3つ目の路地を左に曲がるのか。
なんだ、すぐじゃん。
これなら数分で着きそうだな。」
再び歩き出す。
1つ、2つ、3つ…。
ここか。
左に折れる。
すると、すぐに大きなスーパーが現れた。
【港町No. 1スーパー】
おぉ!
ナンバーワンって書いてある!
これは品揃えが良さそう。
ウィーン。
自動ドアを入り、入り口のカゴを取る。
足を踏み入れると…。
ダーーーーーーーーーーー!
「うほ?!」
すっごい品揃え!
とりあえず野菜と果物しか見えないのに、それだけでも圧巻の眺め。
とにかくカラフル。
とにかく種類が豊富。
なんだか海外のお洒落なスーパーって感じ。
それの、特大バージョン。
「へぇ…。」
手前のピンク色の葉っぱを手に取る。
「チェタス。
だって。
レタスのピンク色バージョンみたいな感じかな?」
メモしてきたものとは全く関係ない食材だが、珍しくてつい観察。
「アオカド。」
アボカド?
「ぶどぅー。」
ブドウ?
「レモン。」
あ、レモン。
…面白い!!!笑
異世界スーパー、最高だわ。
ここで1日中遊んでいられそう。
「フンッ。」
すると突然、大きな鼻息?のようなものが肩にかかった。
「ん?」
振り返る俺。
…
「べ、ベンジー?!」
そこには、買い物カゴを手に持ったベンジーが立っていた。
「家に帰ったんじゃなかったの?!
休むって言ってたのに。」
俺が聞くと。
「…ふあぁ〜。」
大口を開けてあくびをする。
なんだか赤ちゃんみたい。笑
「いやぁ。
1回帰ったんだけどよ。
疲れすぎて、眠れないっつうか。
あるだろ、そういう時。
だからスーパーに来てみた。」
クイッ。
そう言って、カゴを持ち上げる。
中には
【シロクマさん専用・お魚味のキャンディ】
これが3袋入っていた。
「あっ?笑
何これ。
シロクマさん専用…だって。
こんなのがあるんだ?」
俺が不思議そうに言うと、ベンジーは得意げな顔になって。
(最近このパターン多い。笑)
「おうよ!!!
いいかぁ?
この町に、シロクマは俺1人しかいねぇ。
つまり、だ。
【俺のためだけ】に、この商品を置いている。
そういうこっちゃ!」
フンッ!
再び大きく鼻を鳴らした。
「…へー。」
俺が一言で済ますと。
じーーーーーー。
もっと聞け
という、無言の圧をかけてきた。
「あっ…。
えっと。
すごいじゃん!
そ、それで?」
仕方ない。
面倒だけど、聞いてやる。笑
…
「フッフッフッフ。
そんなに知りてぇか。
ならば、教えてやろう。
俺はな…。
ここの店長に、気に入られてんだぁ!」
ドヤァ!
「…。」
なんだ。
そんなことか。
こういうオジちゃん、よくいるよな。
俺はここに顔が効くんだぜ〜♩
ドヤァ!
みたいなさ。
ボカン⭐︎!
「いったぁ!
何すんだよ!」
「オメエ…。
今の、心で呟いたつもりか?
全部………声に出てたぞ!
ワラァァァ!!!」
なっ!
無意識に声に出してたか!
しまった、失敗した。
スリスリ。
俺はオデコをさすりながら。
「…いってて。
ごめん、ごめん。
悪かったよ、許してよ。」
とりあえず謝罪。
すると。
…
「ベンちゃん?!?!」
通路の奥から、白い服を着た男性がこっちへ走ってきた。
タタタタタ…!
「来てくれたんだ、ベンちゃん!」
その人は、寿司職人のような格好をしていた。
白い帽子に、白い甚平のような服、そこに緑色のネクタイを締めて。
身長は俺の半分くらいで、ぷっくりと丸いほっぺが可愛らしいおじさん。
「おっ。
店長〜!
今ちょうど、店長の話してたんスよ!」
あ?
この人が店長さんなんだ。
「初めまして。
マックスといいます。」
俺はペコリとお辞儀する。
「あれまぁ〜!
ちゃんと挨拶できるようになったんだっ!
偉いっ♡」
そう言って、両手のピースサインを頭の上に乗せた。
なんか…また濃いキャラが出てきたな。笑
「すみません、店長。
コイツ、最近記憶喪失で…。
今、初めて会った気になってるんスよ。」
ベンジーが申し訳なさそうに言うと。
ぶんぶんぶん!
店長さんは首を横に振った。
「そりゃー、ねぇ?
父親が亡くなったら、誰だってショックに決まってる。
記憶も吹っ飛ぶよね!
だけど、安心して♡
このスーパーは、
初めてでも、常連でも、記憶喪失でも、シロクマさんでも。
誰でもウェルカムだから!」
再び両手のピースサインを頭に乗せる。
?!
「あっ、ありがとうございます!」
よく分からないけど、お礼。笑
バッ。
店長さんは俺達のカゴを覗き込んだ。
「マックス君、まだなんにも入れてないじゃない。
何をお探し?」
ガサッ。
俺はメモを取り出した。
「これなんですけど…。」
「どれどれ…?」
店長さんはメモを見ると。
「あー…。
今日はねぇ、緑の海老が入って来てないのよ。」
えっ。
そうなんだ。
残念。
「そしたらね、明後日にまた来なさい。
この日、入荷日だから。」
「あ、そうなんですね?
じゃあ他のものだけ先に買って…。」
バッ!
店長さんは俺のカゴを取り上げた。
「へ?」
俺がキョトンとしていると。
「おやめなさい!
海老が無ければ、カレーは作れない!
だから明後日。
全て、明後日に買いなさい!」
真剣な眼差し。
「えっと…?
な、なんで…?」
すると彼はピースサインをこっちに向けた。
ピッ。
「2000倍。」
?
「2000倍。
明後日は、ポイントが2000倍。」
…
えっ?
ポポポポポ
ポイントが、2000倍?!
それ、付けすぎじゃね?!
ありなの?!?!www
…
ダメだ。
ぶっ飛びすぎてて、想像したら…笑っちゃいそ……!泣
「オメエ。
店長さんがせっかく教えてくれてんだから、明後日にしろよ。
俺もこのキャンディ、棚に戻してくるぜ。
緊急じゃなければ、明後日のが得だろ。」
いや、そりゃあ。
得っていうか…。
もうそれ通り越して、店の経営が心配になるレベルだけど?!
まぁでも、せっかく教えてくれたなら…。
「えっとぉ…。
ご親切に、ありがとうございます。
そしたら、また明後日に買いに来ますね。」
うん、うん!
嬉しそうに頷く店長。
「じゃあ、また明後日に♡
約束だよ?
お得だからね。
すごく、お得だからね。
よそは真似できないくらい、お得だからね。
…
ではでは。
2000バーイ!」
店長さんは再び頭にピースサインを乗せて、店の奥へと消えていった。
…
ツンッ!
ベンジーが膝で俺を突っついた。
「今の、分かったか?」
「へ?」
色々衝撃すぎて、俺はもう呆然。
…
「店長はな。
不定期で、ポイント2000倍デーを開催してるんだ。
その日が近づくと、待ちきれなくて手で2のポーズを作っちまう。
こんなに分かりやすく客に知らせてくれる店、なかなか無いぜ?」
そう言って、感心するベンジー。
あ、あれ。
ピースサインじゃなくて、数字の2を作っていたのか。
で、2000倍デーが近いよと。
なるほど。
ぐぬぅ。
なかなか奥が深い…。
って、そうじゃない!
2000倍って、一体どういう計算でそうなるんだよ!笑
「ねえベンジー。
ここのスーパーって、No. 1って名前に入ってるけどさ。
それって品揃えのことじゃなくて、もしかして…。」
「赤字、ナンバーワン。」
ズルッ!
やっぱり!
…
クイクイッ。
ベンジーが、反対側を見るようにと顎を動かした。
そこには手書きの貼り紙がデカデカと飾られている。
【この店は、毎月大赤字です♡】
って、明らか経営失敗してるじゃないか!笑




