【028】オカシナ電話
「…。
って、ことなんですよ。」
…
ガタタッ!
「えぇー?!」
今のは、ベンジーとドリスさんが椅子からずり落ちた音。
朝になって、足長ボーイズから受けたツアー同行の件を話したのだ。
なお、昨夜は色々あったから、今日のアルバイトはみんなお休み。
「おい。
ちょっと待てよ。
つまりあれか…。
俺達に、ツアー中の食事を作って欲しいと?!」
ベンジーは彼らのファンとだけあって大興奮。
「そうそう。
ツアー中って言っても、隣町に滞在する1週間だけだけどね。」
「くぁぁ〜!」
ベンジー、喜びを噛み締めてる。笑
そしてドリスさんも。
ズズズ。
コーヒーをすすりながら、目が点。
静かにパニック状態。
「あ、あのー。
あれよねぇ?!
トップアイドルの食事管理を任されたっていうか…。
つまり、あの人達の体を、私達が作るのよねぇ?!」
ちょ。笑
ドリスさん大きく考えすぎ。
「いや、あの…。
体を作るっていうのは大袈裟かもです。
そういうのは、普段からちゃんとトレーナーさんが付いてるみたいなんで。
なので管理っていうよりも、コンサートが終わった後に美味しいものが食べたい。
そういうニュアンスでした。
もちろん、ちゃんとしたものを出さなきゃダメですけど。」
ほぉ〜。
と、頷く2人。
「で、これを承諾すると、バーを少し閉めることになるんですが。
お2人はどう思います?
ちなみにお給料はちゃんと出るそうです。」
ベンジーとドリスさんは顔を見合わせて。
「やる!」
「やる!」
…!
や、やったー!
これで決まりだ!
「じゃあ俺、彼らの事務所に電話してきますね。」
俺は足長ボーイズが置いていってくれた名刺を握り、立ち上がった。
すると。
「俺に電話させろ!」
「私がかけるわ!」
ベンジーとドリスさんが同時に叫んだ。
「なっ?!」
びっくりしたー。
「あのう…。
お2人とも。
ただ、事務所に電話するだけですよ?」
ギロッ。
ベンジーが俺を睨む。
「オメエ…。
足長ボーイズに対して、どれほどの愛を持ってんだ?
えぇ?
いいかぁ、この電話はな。
リーゼントとアロハの次、そして、命と同じくらいに大事なもんなんだぞ?!
分かってんのかワラァァァ!!!」
…
「は?」
なんなの、これ。
てかリーゼントとアロハの方が、順位が上じゃん。w
んでその次に命って。
するとドリスさんも立ち上がり。
「そうよぉ!
マックス。
あなた、トップアイドルの食事管理が、どれほど責任あることか分かる?
次の日に足が1センチ伸びるかどうか。
それが私達にかかってるのよ!」
「へ?」
これもなんか違う!
だけど。
じーーーーーー。
2人の圧がすごい…。
「ど、どうぞ。汗」
俺はレジ横の電話を取ると、2人に託した。
「ベンジーちゃん、先に話してよ。
私は後からで良いから。
順番にいきましょ。」
「え、良いんですか?
それじゃあ…遠慮なく。
すみません。
ちょっと話したら、ドリスさんにも渡しますから。」
ダラー
ダラー
ダラー
ここの電話は、昔ながらのダイヤル式。
数字が書いてある穴に指を突っ込んで、右に回す。
懐かしいな〜。
昔、ひいじいちゃんの家にも置いてあったな。
「コホン。
コホン。」
緊張感MAXのベンジー。
咳払いをして、声の調子を整える。
そして。
「…。
あっ。
どうも〜。
突然すみません。
ワタクシ、美リーゼントシロクマの、ベンジーと申しますぅ。」
ズルッ。
おい!笑
「本日はですね、足長ボーイズ様の、ツアー同行の件でお電話させていただきましたぁ。」
ここまで話すと。
もう我慢できない!
とでもいうように、ドリスさんが受話器に顔を押し付けてきた。
グイグイッ〜!
「あのーう!
ワタクシ、港町健康管理スペシャルアドバイザーの、ドリスと申しますぅ。」
ズルッ!(2回目)
ドリスさんまで…。
しかも、健康管理アドバイザーなんて、聞いたことないんだけど…。
「足長ボーイズ様の、胃袋の管理、足の成長の管理。
全てお任せくださぁい。
翌朝には、1センチどころか、1.2センチ伸ばせる自信がありますぅ。」
…
受話器の向こうから、相手の声が聞こえなくなった。
きっと、固まっているのだろう。
…まったく!
俺は2人から電話を取り上げた。
「あ、お忙しいところ申し訳ございません。
わたくし、マリオのバーを経営しております、マックス・ストライバーと申します。
あ、はい。
そうでごさいます。
昨夜は、足長ボーイズ様に助けていただき…。
はい、はい。
そうでございます。
はい。
…。」
―
「…かしこまりました。
いえ。
こちらこそ、お時間割いていただき、ありがとうございました。
はい。
そうですね、詳しくはまた後日。
はい、はい。
それでは。
失礼いたしまーす。」
ガチャッ…。
ふぅ。
終わった。
取り引き先に電話をかけるという、サラリーマン時代のスキルが役に立った。
良かったぜ。
満足感に満たされていると。
じーーーーーー。
2人の強い視線が。
「な、なんですか!
俺はちゃんと話つけましたよ!」
ギロッ。
「なんかオメエ…。
電話になると、急におっさんクサくなるな。」
ぎくっ!
「ほんとよねぇ〜。
なんだか、今の電話が18才のものだとは…。」
2人とも、俺を変な目で見てる。
マズイ。
「もーう!
そんなの、どうだって良いじゃないですか!
ドラマで観たのを真似したんですよ!」
そう言うと、ベンジーが。
「ドラマぁ?
オメエ、ドラマなんて観るのかよ。
いっつもフラフラフラフラ。
夜中まで外で遊んでたくせによぉ。」
うっ…。
「とにかく今大事なのは、ツアー同行が正式に決まった。
そこでしょ!
それに今、事務所の人が話してたよ?
シロクマさんの超冷たいドリンク。
あれを、ボーイズ達が絶賛してました〜
ってさ。」
「フゴッ!
ほ、本当か?!」
身を乗り出すベンジー。
「ほんとほんと。
みんな、ベンジーが来てくれるの楽しみにしてるって。
あと、ドリスさんのことも。」
「あらっ。
私のことも?!」
「はい。
すごく気配りができる女性だって、ボーイズ3人が話してたみたいです。
またお会いしたい、とも。」
ドリスさんは両手で頬を挟むと。
「ききき気配り上手ですってぇ?!
まぁ〜!」
目をキラキラさせた。
よ、よし。
2人とも、俺への疑惑が飛んだな。
「じゃあ、今日はとりあえず解散しますか。」
俺がそう言うと、ドリスさんは手でバツ印を作った。
「だーめっ。
お祝いしなきゃ。」
「お祝い?」
するとベンジーがワクワクした表情で。
「久しぶりに、アレっすか?」
うん、うん。
と笑顔で頷くドリスさん。
一体、何をやるつもりなんだろう…?
「すぅぅぅ〜。」
ドリスさんは大きく息を吸った。
そして。
「…。
シュラッペ!」
次の瞬間、スピーカーが無いこの部屋から、音楽が流れ始めた。
♩ジャジャジャン、ジャンジャンジャン♩
80年代の、洋楽ポップソングといった感じ。
今にも体が動き出しそうな、明るい音楽だ。
「えっ?!
何これ!
すごー!!!
これが、ドリスさんのシュラッペ?!」
「ふふっ。
そうよ。
まだ記憶喪失が治ってないのね。
あなたが子供の頃は、これでよく遊んだのに。
私が望めば、いつでもどこでも音楽が流れる♩!」
えー!
このシュラッペ、最高じゃん!
羨ましい〜♩
って。
そうだ。
「でもそしたら、あのチンピラ達。
金髪と銀髪の…。
アイツらは、これで追い払ったんですか?」
「そうよぉ。」
えっ。
でも、あんなに怯えて…。
音楽で?
どういうこと?
「悟りラップでね。」
ドリスさんは体を揺らしながら呟いた。
「さとりらっぷ?」
俺は思わず聞き返す。
なんだ、それ?
「やーねぇ。
【人生の悟りラップ】よぉ!
耳の中で、爆音で、まっとうな人間になるようにと、悟りのラップをかましてやったわ!」
「じ、人生の悟りラップ?!」
なんだそりゃ!
でも、ある意味聞いてみたいかも。笑
で、あーいうチンピラには、かなりイタイお仕置きになったということか。
だからドリスさんを恐れてたんだ。
面白い。笑
「それじゃあ、みんなでパーっと踊りましょ!
誰も見てないから、思いっきりね!
ヘイヘイヘイ!♩」
ドリスさんはリズムに乗って手足を動かした。
よーし!
俺も!
「イエイ!イエイ!イエイ!♩」
た、た、楽しい〜!
そういや、ベンジーは?
横目でチラッと見ると…。
「あ、ソレ!
ソレ!
ソレソレソレ!」
…
?!?!
これ…。
盆踊りじゃん!
なんでベンジーがこの動き知ってんの?笑
しかも、音楽に全然合ってない。
…でもまぁ。
いっか。笑
楽しければ!
俺達3人は、時間を忘れて夢中で踊り続けた。




