【025】夜の砂浜で
「ふんっ!」
「鶏肉に合うタルタルソース。」
シュラララ〜・:*.:
ベンジーはドリンクを冷やし、俺は食事(主に調味料)を作り、今夜も大忙し。
「4名様、入りまーす!」
ドリスさんも声を張り上げて頑張ってる。
…。
「オメエがちゃんとやってるから、最近、この店も調子が良いな。」
ベンジーに褒められる。
「そ、そうかな?
だったら良いんだけどね。」
確かに、俺が来た日から毎晩こんな感じ。
閉店までほぼ満席という盛況ぶりだ。
…。
ギィ。
「こんばんは〜…。」
!
扉が開いて入ってきたのは、フルーティー。
と、
編集長?!
俺は驚いて叫んだ。
「フルーティー!
編集長!」
カウンターの中の俺を見つけると、フルーティーはこっちへ駆け寄る。
編集長は、壁に並んだ写真を見ていた。
「どうしたの?!
バーなんて、普段行かないでしょ?」
俺は目をパチクリさせてフルーティーに聞いた。
「あ、うん。
そうなんだけど…。
さっきね、記事を仕上げたの。
この前のマックスのものと合わせて、ちゃんとした新聞ができたから、持ってきた。
初めてでしょ?
自分の記事がこうして形になるの。
早く見たいかなと思って。」
えー!
それでわざわざ持ってきてくれたんだ。
フルーティーって、ほんと良い子だなぁ…。
もちろん編集長も。
「どうも〜。」
ベンジーが横から挨拶。
「あ、こんばんは!
また会えましたね!
私の推しのシロクマさん♩」
カアッ!
体毛がピンク色に染まる。
なぁに照れてるんだよ!笑
俺が初めて会った日に、シロクマさんって言った時はキレてたくせに。
まったく〜。
…
バッ。
フルーティーは、2つ折りになった新聞をカウンターに乗せた。
「これね。
これが明日の朝、1000件のお家に届くから。」
「えぇぇー!
1000件かぁ。
改めて、それってすごいよね。」
「うん。
すごいすごい。
私も初めての時は超興奮したもん。
だからマックスの今の気持ち、分かる。」
「そうなんだ。
やっぱそうだよね。」
…って、そうだ!
せっかく来てくれてるから、プレゼントのハンカチ、今渡そう!
「ねえ、まだ時間平気?
5分だけ外で話せる?」
そう言うと、フルーティーは不思議そうな顔で。
「う、うん?
私も編集長も、あとはもう帰るだけだから大丈夫だけど。」
フルーティーは、まだ写真を眺めている編集長を呼んだ。
「へーんしゅーちょー!
外に出ますよー!」
…
「ぐう。」
やっぱり。笑
彼は立ったまま寝ていた。
…
ガサッ。
俺は紙袋を2人に渡した。
「これ、いただいたボーナスで買ったんだ。
いつもお世話になっている人達にお礼がしたくて。
少しですけど、どうぞ。」
「おーほほう?」
編集長、興味示してくれてる!
「きゃー!
嬉しいー!
なんだろう?」
ガサガサ…。
2人は開封して…。
「か、か、可愛いー!」
フルーティーには、シンプルなオレンジ色のハンカチ。
「ほーうほうほう。
これは…。
ほーうほうほう。笑」
編集長には、蝶ネクタイ柄の赤いハンカチ。
ほうほうしか言ってないけど、おそらくこれはかなり喜んでくれている。笑
「ありがとう!
マックス!
明日から早速使うね。」
編集長の表情も柔らかくなり。
「この年で贈り物をいただくとは…。
ほうほうの、ほうほうで…ほうほうじゃ♡
むはっ。」
「…ふふっ。
へんしゅーちょー。
よっぽど嬉しいのね。
何を言ってるか、もう訳が分からなくなってるわ。笑」
と、その時。
「すみませーん。」
誰かに話しかけられた。
「あ、はい。」
…
振り返ると、そこには。
金髪で、足の長い男性が。
しかもそれが3人。
「…ん?
あなたたち、どこかで…?」
見た気がする。
と言い終わらないうちに。
…
ドーン⭐︎!!!
「あっ、あっ、足長ボーイズぅぅぅ???!!!」
フルーティーに突き飛ばされた。
ドシャアーーー!
俺は砂にスライドする。
メリッ。
押された勢いが強く、尻が砂にめり込んだ。
「なっ…?!
足長ボーイズ…だとぉ?!」
無様な格好で記憶を辿る。
…確か。
思い出した!
遊園地で、フルーティーが見せてくれたシール。
あのアイドル達か!
それにしても足がものすんごい長い。
まるでモデルのようだ。
「きゃあぁぁぁぁ!!!
私、大っファンなんですぅ!!!」
フルーティー、目がハートマーク。
俺のハンカチのことなんて、きっと吹き飛んでいる。笑
「ははっ。
それはどうもありがとう。
今ね、ツアーをやっていて、この町に来てるんだ。」
「知ってますぅぅぅぅ!!!♡」
ダメだこりゃ。笑
「ここに人気のバーがあるって聞いたんだけど、あそこで良いのかな?」
ボーイズの1人が店を指差す。
と、その時。
…ドッドッドッドッドッドッド!!!
砂を蹴り上げる激しい音が。
アロハシャツが走ってくる。
いや、間違い。
ベンジーが走ってくる。
きっと、フルーティーの叫び声を聞いて駆けつけたのだろう。
俺はホッとした。
砂にめり込んだ尻を早く持ち上げたい。
手伝ってくれ、ベンジー!
…ドッ。
ベンジーが俺達の前まで来た。
「ハァ、ハァ、ハァ。」
猛ダッシュで来たので、息が切れてる。
「ふーっ、ふーっ…。」
膝に手をついて、ゆっくりと呼吸を整えるベンジー。
タイミングを計って、俺は手を上げた。
「ベンジー、こっちこっち…。」
…
「?!
グワァァァウ!!!」
!
突然ベンジーが、獣の声を出した。
な、なんだ?!
もしや。
このアイドル達を、フルーティーを襲った危険な人物と勘違いしたのかも。
ま、まずい!
もし彼らを襲ったりしたら…!
俺は上半身を大きく動かし、ベンジーにアピールした。
「ベンジー、違うよ!
この人達は…!」
「きゃあぁぁぁぁ♡!!!
俺、大っファンなんですぅ!!!」
…。
ん?
「いつも見てますぅ!!!
いっつも聞いてますぅ!!!
未来永劫応援してますぅぅぅぅぅ!♡」
フルーティーに続き、ベンジーまでもがキャラ崩壊。
すっかり乙女モード。
ベンジーって、足長ボーイズのファンだったのか!
知らなかった…。
ていうか、足長ボーイズってすごい。
こんなに沢山の人を虜にして…。
俺は不思議そうにその光景を眺めていた。
ま、そんなにファンなら、このやり取りが終わるまで待ってるか。
埋まっている尻を気にしつつ、俺はみんなを見守った。
―しかし。
ザァ〜ン!
「うっぷ!」
大きな波が俺を襲い、尻がスポッとはずれた。
と、同時に、海へ引き込まれてしまった。
「あっ?!
あれぇー!!!
た、助けてー!」
こんなに強い波は初めて。
どんどん冲へ流されていく。
「ん?
え?!
マックスが―!!!」
やっとフルーティーが気付いてくれた。
青ざめた顔のベンジー。
愕然とする足長ボーイズ。
砂で寝ている編集長。
…いやもうこれ、超絶ピンチ!
自然が1番怖いんだから!
俺、どうなっちゃうの?!




