【024】成功の裏には
「ありがとうございましたー。」
ハンカチを買って、俺は店を出た。
両手には紫色の紙袋がいっぱい。
「よし、遠くの人から渡しに行こう。」
来た道を戻ると、俺は左に曲がって歩き始めた。
…
「こんにちはー!」
まずやってきたのはここ。
今日もスモーキーで香ばしい匂いが…。
もう、これで分かるよね?
「おー、マックス。
今日もどこかへ取材に行くのかい?」
そう。
コーヒー屋のイケメン店長、ルーカスの元へやってきたのだ。
「あ、ううん。
今日はね、これを渡したくて…。」
ガサッ。
紙袋を渡す。
?
「俺に?
開けても良い?」
レジにお客さんが並んでいなかったので、ルーカスは背後のカウンターで包装を開いた。
ゴソゴソ…。
「ん?
なんだこれー!
すごい可愛いハンカチ!」
ベージュ色に、コーヒー豆の刺繍が入ったデザインだ。
「えへへ。
気に入ってくれた?
それ、この前コーヒーをご馳走してくれたお礼だよ。
柄がめっちゃルーカスっぽいと思って。」
彼の反応が良かったので、俺は嬉しくなった。
「いや、これ、まさに俺の好みだよ!
よく見つけたなぁ。
ありがとう、大切に使わせてもらうよ。」
良かった〜。
なんか、正しいお金の使い方したって感じ。
…
「せっかく来たから、コーヒー買っていこうかな?」
「ぜひぜひ。」
んー…。
メニューがいっぱいで迷う。
「本日のブレンドコーヒー。
これにする!」
「りょうかーい♩」
グリグリグリグリ…。
豆を挽く音が心地良い。
そしてなんといってもこの香り…。
はぁー。
たまらないな。
「良かったら、店内で飲んでいく?」
言われてみれば、確かに。
テーブルも1つ空いてる。
「うん、じゃあそうさせてもらう。」
するとルーカスはカウンターから出てきて、
店のドアにかかっている看板をひっくり返した。
【open】から【close】へ。
「えっ。
お店、閉めちゃうの?」
「うん。
2、30分ね。
俺も休憩に入るから、一緒に飲もう。」
やった!
ルーカスとは、
もっと話してみたい、仲良くなりたいって思ってたんだよね。
嬉しすぎる♩
―
ズズズズ…。
「あー、うんまい。
ここのコーヒー、本当に美味しいな。」
窓際の席で、道行く人を眺めながら呟いた。
「ははは。
何度も褒めてくれて、ありがとう。」
いや、マジで美味いんだよ。
なんでこんな味が出せるんだろう?
「あのさ、ルーカス。
フルーティーから聞いたんだけど。
このお店を出すのって、結構大変だったの?」
…
トン。
ルーカスはコーヒーをテーブルに置いた。
「まぁ、なんだって大変だよ。
成功するには、苦労が必要。
逆を言えば、苦労が無ければ成功もしない。
…って偉そうなこと言っちゃったけど。
でもそれを知ったの、俺もここ最近なんだよね。」
「へぇ…?」
こんなにかっこよくて、コーヒーのセンスもあって。
それでもお店を出す前は、色々と苦労したんだな。
「マックスと同じ年くらいの時。」
ルーカスが話の続きを始めた。
「あ、うん。
18才前後ってこと?」
「そうそう。
その頃はさ、別の夢があったんだ。
だけどある日その夢が壊れちゃって。
それでコーヒー屋をやろうって。
人生で2番目に好きなのが、コーヒーだったからね。」
えっ。
そうだったのか。
「その、もともとの夢っていうのは、マラソン選手だったんだけど。」
ルーカスは少し悔しそうな顔で言った。
「マ、マラソン?!
あんまりイメージ無かったかも…。
スポーツが得意なの?」
「うん。笑
スポーツっていうか、走るのが好きで。
だけど膝を痛めて、プロの道は断念。
長距離が無理になっちゃって。
そこからだよ、コーヒー屋を考え始めたのは。」
へぇ〜。
人って話してみないと、分からないなぁ…。
「ただ、あの頃は俺も若かったから。
単に自分の直感や自信だけで、いきなりコーヒーを売ってみたんだよ。
テント張ってさ。
でも、そんなんじゃ誰にも相手にされなかった。
舐めてたんだよね、世の中の色々なこと。
で、これじゃダメだって、そこで気がついて。
アルバイトでお金を貯めたら、全国のコーヒ店を回った。
そこで研究して、勉強して、修行して。
それを何年か続けたあと、やっとこの店をオープンしたんだ。」
窓の向こうにいる、小さな子供に手を振るルーカス。
この優しい笑顔の裏には、苦労が沢山あったんだ。
なんか…。
そういう発想が無かった自分が、恥ずかしい…。
「ルーカスってさ…。
かっこよくて、そのうえこんな立派なお店まで持って。
色々な物を手にしていて、俺、羨ましいなって思ってたんだ。
でも、ここに辿り着くまでには、沢山の努力や苦労があったんだね…。」
するとルーカスはちょっと恥ずかしそうに目を逸らして。
「いや、えと、うん。
そんなに大袈裟なものじゃないんだけど。笑
でも人ってさ、どこで何に気が付くか。
それで人生は大きく変わるんだって学んだよ。
周りを見ていても、何かを成し遂げている人は、見えないところで頑張っているし。
だからマックスも…。
昔の俺と、今、同じ年でしょ?
何か夢があるなら、ここで真面目に向き合うことで未来は変わると思う。」
そっか。
簡単に手に入るものなんて、無いよね。
…
今思えば。
桜堂。
転生前に、スーパーで久しぶりに再会した桜堂も、そうだったのかな。
彼は人生順調だし、なんでも器用にこなせて良いなぁ。
なんて思ってたけど。
きっとそれは、彼の努力があったからに違いない。
自分はなんて浅はかだったんだ。
今更ながら、恥ずかしくなる。
「色々話してくれてありがとう。
実はね…。
俺も、あのバーを改装して、レストランにしたいなって考えてるんだ。」
ほ〜!
と、興味を示してくれるルーカス。
「良いじゃん!
すごく良い案だと思うよ。
マリオさんの店を、新しい形で引き継ぐんだね。
だから資金集めで新聞社の仕事を?」
さすが。
鋭い。
「うん、そうなんだ。
バーの稼ぎだけじゃ、改装資金もなかなか貯まらないから。
空いてる時間も、何かやろうって。」
…
「その姿勢、素晴らしい。」
グッと親指を立てるルーカス。
「そういう気持ちなら、いつか絶対に素敵な店を作れるよ。
応援してる。
そして…。
自分で店を持った俺からのアドバイス。
色々なことにアンテナを張ると良いよ。
この店の内装良いな、とか、ここのレストランの味付け良いな、とか。
真似するんじゃなくて、吸収する感じね。
そしてそれを自分流に作っていく。
ぼんやり過ごしているのと、アンテナ張ってるのとでは、あとで全然違ってくるから。」
ズズズ。
ルーカスはコーヒーを飲み干した。
…なるほど!
いやもう、全てが勉強になる。
さっきの雑貨屋さんも、色合いや配置のセンスが良かったもんな。
ああいうドキドキした時の感覚、覚えておこう。
「じゃ、そろそろ営業に戻ろうかな。」
ガタッ。
ルーカスが立ち上がった。
「あ、うん。
今日はありがとう。
深い話もできて、すごく楽しかった。」
「俺も。笑」
飲み終わったコーヒーカップを持ち上げた、その時。
「うわぁっ!」
ルーカスが大きな声を上げた。
外を見ているので、俺もそっちに目を向けると。
じーーーーーー。
窓に張り付く2人の男。
それは。
「…あぁっ!
アイツら、また…!」
金髪と銀髪のノコギリヘアーの男。
あの、インチキ不動産のチンピラ達だった。
「マックス、知り合い…?」
ルーカスが青ざめた顔で俺を見る。
「いや、知り合いというか絡まれたというか…。
とにかく、俺が追い払ってくるから安心して!
ご馳走様でした!
またね!」
そう言って、俺は店を飛び出した。
―
「おうおうおう!
オンボロバーのにいちゃんよぉ!
久しぶりだなぁ、おい。」
うっしっし。
と、笑いながら近づいてくる。
銀髪の男は、俺を下から上まで舐め回すように見ると。
「シャツなんか着ちゃって〜。
真面目君のつもりかぁ?
こないだまで、親の店、勝手に売り飛ばそうとしてたくせによぉ!」
…うっ。
しつこい。
今度は金髪の男が口を開いた。
「ここで会ったのも何かの縁。
迷惑料、今すぐ100モン払いなぁ!」
は?!
「いや、おかしいでしょ!
契約書の通り、前日までにはキャンセしたんだから!
お金を払う義務はありません!」
と言うものの、こういう奴らに普通の話は通じない。
「おいおい、俺らとやるつもりかぁ?」
ジリジリ…。
俺の方に詰め寄ってくる。
ど、どうする?
俺っ。
プレゼントのハンカチで、どうにかするか?
いやでも…。
するとその時。
「マックスー!♩」
後ろからドリスさんの声が聞こえた。
バンドの練習帰りだろうか。
トートバッグを肩に下げて、満面の笑顔。
そしてなんと、隣にはベンジーもいる。
「…ふぁっ?!!!!!」
チンピラ達の顔色が変わった。
その瞬間、俺は思い出した。
以前ドリスさんが、コイツらを2分で追い出したことを。
「あ、あ、あ、あ………!!!」
顔面蒼白で、歯がカタカタ鳴る2人。
「マックスー♩!
今、そっちに行くわねー!
そこにいるのはー?
なんだか見たことある顔ねー!
まーたお仕置きして欲しいのかしらー?!」
…
「あ、あ、あ…。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ビュン!
彼らは風のように去って行った。
…
「アイツら、まーた絡んできたのね。」
ドリスさんとベンジーがこっちへ来た。
「あ、はい…。
偶然会って、捕まっちゃって。
金を払えとかなんとか…。」
フンッ!
ベンジーが鼻を鳴らした。
「…ったくよぉ!
しつけぇ奴らだ。
アホすぎて話にならねぇ。
…。
んまっ、俺が来たら、ビビって逃げちまったけどな。笑」
と、得意顔。
「は?」
アイツら、ドリスさんを恐れて逃げたんだろ!
心でツッコミ。
ベンジーはTシャツの上から胸をボリボリとかいた。
そこには、今日もデッカく
【トキ⭐︎メキ】の文字。
…まあいっか。
このまま機嫌が良い方が助かるし。
それに、勘違いしているベンジーがちょっと面白い。笑
「さて〜。
私達はバーに戻るけど、マックスはどうする?」
「あ、俺も帰ります。
3人で戻りましょう。」
そう言って、俺は2人の間に入った。
(あっ。
フルーティーと編集長のハンカチ、渡しに行く時間がないや。
仕方ない、明日にしよう。)
…
ドリスさん、俺、ベンジー。
仲良く横に並んで、バーへと向かった。




