【023】ボーナス
書き書き書き…。
消し消し消し…。
また、書き書き書き…。
…
じーーー。
唇と鼻の間にペンを挟み、自分の書いた記事と睨めっこ。
遊園地で撮った写真を並べて…っと。
うん。
これはここ。
これは向こうに。
バランスを見ながらペタペタ貼り付けていく。
そして。
…
「できたぁ!」
1〜2ページ目。
【緑の海老バーガー。
美味しさの秘密。】
3〜5ページ目。
【行かなきゃ損!
夢の移動遊園地。】
あとはフルーティーの記事と合わせれば、結構な枚数になるはずだ。
「あれっ。
完成したの?!」
フルーティーがこっちへ来た。
バッ。
俺から記事を取り上げると、真剣に読み始める。
「…ふんふん。
なるほどね。
あー!
うんうん。
分かるこれー!」
キャッキャしながら読み進める。
そして最後のページまで目を通すと…。
ポン。
彼女は俺の肩に手を乗せた。
「君ぃ!
やるじゃないか!」
社長みたいな褒め方。笑
「あはははは!」
俺達は大笑い。
良かった〜!
なんとか上手く書けたみたいだ。
あとは、編集長にチェックしてもらって…。
「ありがとう。
外に連れ出してもらったり、写真の撮り方を教えてもらったり。
こんなに良いものが書けたのは、フルーティーのおかげだよ。」
「ふっ。
まぁね〜。
…って、ウソウソ。
マックス、記者の才能あるわよ。
文章の組み立て方も、写真のバランスも。
どっちも絶妙。
初心者なのにこんなに上手いなんて。」
いやぁ…。
照れる。
そしてやっぱり嬉しい。
サラリーマン時代に培ってきた経験が、異世界で役に立つなんて。
俺、資料作りはマジで得意だったもんな。
当時は大変だったけど、頑張ってきて良かった。
「じゃあ、編集長のチェックをお願いします。」
俺が言うと、フルーティーは記事をデスクに置いた。
…
「ねぇ。
自分でやってみたら?
これから先、いちいち私に頼んでたら面倒じゃない。」
え?!
あの、眠っている編集長を起こす儀式を?!
「お、俺が?!
でもあれってなんか特殊というか、コツがあるんじゃない…?」
「コツなんかないわよ。
良い?
まずは
へーんーしゅーう……ちょおー。
しゅーう
のあと、
ちょおー
を言うまで、2秒置くの。」
おい。
やっぱりコツがいるんじゃないか。
「えっと。
へんしゅー…ちょー。
で良いかな?」
「だーめだめだめ!
よく聞いて!
へーんーしゅーう……ちょおー。
で、それで起きなかったら、
出番♡」
もう、この世界って毎日色々おかしすぎる。笑
仕方ない。
やってみるか。
俺は椅子から立ち上がり、編集長のデスクの前に立った。
相変わらず気持ちよさそうに寝ている。
よし。
やるぞ。
すぅぅぅ〜。
「へーんーしゅーう……ちょおー!!!」
…
…
…
ダメだ。
起きない。
今日は眠りが深い日のようだ。
フルーティーが、あれを言えと手で合図。
いやこれ、恥ずかしいんだけど…。
でもやらなきゃ起きてくれないのか。
「…。
出番♡」
耳元で優しく囁く。
…
ムクッ!
よし、起きた!
「…おん?!
あん?!
出番?!」
編集長はメガネをかけると。
「…。
おぉう。
マックス。
おはよう。」
えっと、この後なんて言うんだっけ…。
確か…。
「おはようございます。
編集長、出番です!」
「…。
なぁにぃ?!
…出番?!」
編集長は立ち上がると、片付いているデスクの前に立った。
「よし、準備万端!
マックス、洗濯カゴじゃ!」
「あ、はい!
ただいま!」
カゴを床から拾い上げると、デスクの上に乗せた。
「洗濯カゴ、置きました!」
「対象資料は?!」
編集長が聞く。
「あ、えっと…。
こ、これです!」
俺が書いた記事を見せる。
…
「これは!
…
よ〜く書けてお〜る!
1000枚刷る価値あり!」
や、やったー!!!
1000枚刷る価値あるんだ!
俺が喜んでいると、フルーティーが慌てて叫んだ。
「早く!
価値ありってあなたも言わなきゃ!」
あ、そうか。
それを言ってから印刷だったっけ。汗
「価値あり!」
編集長は蝶ネクタイを整え、腕まくりをした。
そして。
「シュラッペー!!!」
…
シュババババババババババババババ!
もうこれ。
何回見ても楽しーい!笑
―
ひらりん。
最後の一枚が洗濯カゴに乗ると、編集長は疲れた顔でデスクへと戻っていった。
これでまた寝ちゃうんだな。
と、思いきや。
「フルーティー。」
おっ?
今日は寝ないパターン?
「はい。
編集長。」
「これは、よーく書けておる。
ボーナス1モン。
やってくれ。」
バタッ。
「ぐう。」
…
「マックス〜!!
やったね!
ボーナスくれるんだって!」
「え?
俺に?」
「そうだよ!
初記事で初ボーナス!
これはすごいよ!」
フルーティーは俺の手を取り、ぶんぶん上下に振った。
「ええぇ!
ほんと?!
それは…めちゃくちゃ嬉しい!
でも、俺だけ?」
ガサガサ…。
フルーティーは、金庫を開いて中を探った。
「私のはまだ完成してないから、仕上がったら貰えると思う。
いつもそうだから。
だから気にしないで、先に受け取って?
はい。」
そう言って、紙幣を一枚手渡した。
ここの給料システムは、週に1度の支払い。
なので、俺にとってこの【港町新聞社】で受け取るお金は今日が初めて。
「いや〜…。
なんかめちゃくちゃ嬉しいな。
頑張って、認めてもらえて、それでいて楽しくて。
そんな環境の中、いただくお金。
こんな気持ちは久しぶりだよ。」
バーの方でも毎日稼いでるけど、そっちとはちょっと違う感覚。
ガチャッ。
金庫をしまうと、フルーティーは時計を見上げた。
「13時か。
少し早いけど、今日はもう上がって良いわよ。
記事ができたから、やることないし。」
えっ。
「さすがに早くない?
まだ2時間もあるよ。
何か手伝うことない?」
うーん…
と考えるも、フルーティーの答えは。
「ない。」
ガクッ。
そうか。
じゃあ、退社しちゃおうかな…。
「せっかくボーナスもらったんだし、どこか遊びに行けば?」
あ。
まぁ確かに、それも良いな。
「この裏に、新しい雑貨屋さんができたわよ。
あとで記事に書こうと思ってるし、偵察がてら見てきたら?」
へー!
雑貨屋さんか。
色々売ってそうだし、楽しそうだな。
「ありがとう。
じゃあお言葉に甘えて、ちょっとそこへ行ってみるよ。」
「うん。
こういう日は息抜きして楽しんできてね。
また明日〜!」
バイバイ!
俺は新聞社を出た。
―
「お洒落だな〜!」
新聞社の裏の道を5分ほど歩くと、その雑貨屋さんは現れた。
紫色の建物に、黄色のお花が屋根からぶら下がっている。
そして木の看板で
【雑貨屋アリス】
と記されていた。
ザワザワ。
新しい店舗ということもあり、地元の人や観光客で賑わっている。
カラン♩
入店すると、ドアのベルが鳴った。
「…うぉ!
ひ、広ーい!」
外から見るよりもずっと広く感じる。
そして何より、置いてある商品がとても可愛い。
港町らしいカモメのマグカップや、食器、海の香りがするメモ帳、カニさんのボールペン…。
これは、男の俺でもウキウキしてしまう。
いつか自分達のレストランを作る時が来たら。
こんな心踊るお店にしたいなぁ。
…
広い店内をゆっくりと見て回る。
実は俺には、探しているものがあって…。
「あった!」
それは、ハンカチコーナーだ。
先に見ていた女性客が離れるのを待つ。
そして、その人がいなくなると売り場へ近づいた。
「す、すごぉ〜!
100種類のハンカチコーナー
だって!」
興奮して、思わず独り言。
シンプルデザインから可愛い柄物まで。
ズラリと並べられている。
そもそも、なぜハンカチを探していたかっていうと…。
ギュッ。
さっき新聞社でいただいた紙幣を握る。
初めてのボーナスで、お世話になった人達にお礼がしたい。
そう思ったから。
異世界に来てまだ日が浅いけど、知らない場所でこんなに楽しく生活できているのは、みんなのおかげ。
何かちょっとでもお礼がしたい。
「えーっと。」
ガコッ。
俺は積み重なっていた買い物カゴから、1つ取って腕に乗せた。
「これと…。
あ、これも良いなぁ。
で、あの人には…。」
なんだか幸せな時間。
俺はルンルンしながら、次々とカゴにハンカチを入れていった。




