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リーゼントシロクマと作る異世界レストラン 〜魔法の町で楽しい転生ライフ〜  作者: 七星かなみ


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22/42

【022】ここにいる理由

 …。


どのくらいの時間が経っただろうか。


俺とシロクマの睨めっこは続いていた。


―


「ちょっとおー!

なに固まってんのよぉ!

こっちはお金払ってるんだけど?!」


90年代のコギャルのような女性が、不満そうにベンジーを怒鳴りつける。



ハッ。



ここで俺達の緊張感がほぐれた。


「す、すみませ〜ん。」


撮影係の人が、カメラを持ったまま慌ててお客さんの元へ走ってきた。


「シロクマさん!

ボンヤリしてないで、しっかりお願いしますよー!」


そう言いながらお願いのポーズ。


「…フ、フン!」


ベンジー(おそらく)は、大きく鼻を鳴らすと、コギャルに寄り添った。

そして手でハートマークを作り…。


「は〜い!

それではいきますよぉ!

3、2、1…!

トキメキ〜!」


「トキメキー。」



カシャッ!



シャッター音が響く。


「…やったぁ!

私、シロクマと写真撮るの初めて!」


コギャルは嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。




「あ、あれ、本当にベンジーなのか…?」


俺の頭は混乱。


普段のイメージと違いすぎて、本人なのかどうか分からなくなってきた。


もしかして、似ているシロクマがもう一頭この町に…?




するとコギャルは係員に質問した。


「ねえ。

今撮った写真に、サインももらえるのよね?」


「さようでございます。」


係員はその場で印刷すると、できたてホヤホヤの写真をシロクマに手渡した。


「はい。

それでは、こちらにサインもお願いします。」



グッ。



シロクマは、足元に置いてあった黒の油性ペンを握った。



それを見た俺はステージへと近づく。



ズンズンズンズン!



「あ!

マックス、待って!

取材はタイミングを見て…!」


慌てて俺の後を追う、フルーティー。


そこで係員が俺達を止めに入った。


「お待ちください。

お客様には、順番にお並びいただいて…。」


それを聞いたフルーティーが、さっき入り口でもらった社員証を見せる。



パッ。



「あっちで行列の整理をしていたお兄さんにもらいました!

私達、港町新聞社の者です!

取材のために、通していただけませんか?!」


「ん?」


係員はフルーティーの手から社員証をもぎ取った。


…。


「失礼いたしました。

どうぞ。」


よし、これで近づける!



ズンズンズン!



大股で前に進む俺。


油性ペンを持ったまま、こっちを見つめるシロクマ。




じーーーーーー。




あの写真に、なんとサインするのか。


【ベンジー】って書けば間違い無し。


でも他の名前なら、人違い(クマ違い)かも。



俺は見逃さないよう、シロクマの横にピッタリと張り付いた。

そして一応、尋ねてみる。


「ベンジー?」


プイッ。


シロクマは顔をそむけた。


…


「ベンジーじゃないの?」


プイッ。


またまた顔をそむける。


…


うーん…。

答えないけど…。


リーゼントで、ピンクメッシュで、暑さに強いシロクマ。

こんなの…。

ベンジーに決まってるよな?!

他にいる訳がない。

だけど。

あれだけこだわっていたアロハを脱ぎ捨て、ハートマークを作り、トキメキーなんて叫んでる。

ここが引っかかる。

果たして、彼はこんなことするだろうか?


考えれば考えるほど、疑問が湧いてくるのだ。



答えを得るには。


この写真にどうサインをするか。


それを、この目で確かめるしかない!



ゴクリ。



俺は唾を飲み込み、シロクマの手元に集中した。


…


ポン!



シロクマが油性ペンの蓋を取る。


よ、よし。

いよいよ書くぞ…。


俺は拳を握りしめ、前のめりになる。



キュ…。



ペンを写真の上に乗せた。


緊張の瞬間だ。


もし、ベンジーであるならば。

最初に書くのは

ベ

もしくは格好つけた場合、英語の

B

と記すはず。



ツー……ポタッ。



俺の額から汗が流れ落ちる。


そして次の瞬間。



…キュ。


シュシュシュシュ!



お?!

は、早い!

早すぎて文字が見えない!



…ポン。



サインを書き終わったシロクマは、再び油性ペンの蓋を閉めた。



どれどれ。

一体なんと書いた…。



―



【ジイ。】



ジイ?


…


ベンジ(・)ー(・)の、ジイ?



ズルッ!



「誤魔化したいのか誤魔化したくないのか、どっちなんだい!」



俺は思わず叫んだ。


やっぱりベンジーじゃん。


もう!!




コギャルが去ったあと、俺達は特別許可をもらい、ベンジーに話しかけた。


「もー!

ベンジー!

なんだよ!

ベンジーならベンジーって、最初から言ってよ!」


俺がプンスカしながら言うと。


「…。

だってよぉ。

こんな姿…。

…。

誰にも見られたくねぇだろう!!!」



グワァァァァァ!!!



獣のような叫び声を上げる。


会場のお客さん達は驚いて、みんな逃げていってしまった。



ガラン。



俺達と係員以外、誰もいないステージ。


「ちょっとおー!

何してるんですかあなた達ー!」


係員が顔を真っ赤にして怒ってる。


「あ、あの!

すみません!」


やっばぁ…!汗


俺達のせいで、お客さんいなくなっちゃったよ。



するとベンジーが。


「おうおう。

にいちゃん。

ワリイな。

なんと言われようと、俺は動物なもんでな。

たまには雄叫(おたけ)びくらい、あげるンダワ。」



サ〜、サ〜、サ〜。



そう言うって、リーゼントを手でとかす。



「そんなこと言われても困ります!

どうするんですか?!

まだスケジュール残ってるのに!」



ムクッ。



ベンジーは氷の椅子から立ち上がると、遠くへ向かって手を振る仕草をした。


その場にいた全員がそっちへ目を向ける。


すると、逃げたお客さん達がゲートの外側から手を振っているのが見えた。


「すごーい!

雄叫(おたけ)びカッコいいー!」


「今のはビビっときたなぁ〜。」


「ますますサインが欲しくなっちゃった♡」



え?


まさかの。


好感度アップ。



「フッ…。

いいかぁ?

オメエら。

こういうのは恋愛と一緒なんだ。

甘々ばっかりじゃあ、駄目なんだよ。

たまにはワイルドさも見せなきゃあ。」


?!


ベンジーって恋愛上級者だったの?!


でも、【トキ⭐︎メキ】なんてTシャツ着た男が何を言ってるんだか…。


と思いつつ。


…く。

くそぉ!


俺はあまりモテてこない人生だったので、ちょっぴりジェラシー。笑




「ってことでよ。

休憩挟んだら、また午後にはしっかりやるからよ。

安心しな。」



ポンポン。



係員の肩を叩く。



良かった〜

と安心した係員達は、バックステージへ入っていった。


「…。

すごぉーい!」


大きな目をキラキラ輝かせてそう言うのは、フルーティー。


「かっ、かっ、かっこいいーーーーー!!!」



…え?


今の、かっこよかったか?


俺は口がポカン。



するとベンジーは会釈をして。


「あ、どうも。

ベンジーです。

いつもコイツ(マックス)がお世話になってます。」


とご挨拶。


「こちらこそですー!

私はフルーティーといいますー!

マリオさんのところで、バーテンやってるシロクマさんですよね?

私、一度お会いしたかったの!」


ウッキウキのフルーティー。


足長(あしなが)ボーイズじゃなかったけど、良いんかい。


「なんでこんなバイトされてるんですかー?」


フルーティーが聞くと。


「いやぁ…。

俺もこういうの、本当は苦手なんですよ。

だけど…ある目標のためにね。

このバイトは時給が桁違いなんで。

恥ずかしい気持ちよりも、早くお金を貯めるぞっていう。

そういう理由ですよ。」



えっ…?


そうだったんだ…。


少しでも早く、お金を貯めるために…?


みんなのレストランを、実現させるため…?


ベンジー、こういうの絶対嫌いそうなのに。



…ウルッ。



俺の涙腺が緩む。


「ベンジー!」



ギュウウウウ!



俺はベンジーの大きなお腹に抱きついた。


「な?!な?!」


困惑するベンジーに構わず、俺はさらに強く抱きしめる。


「ベンジ〜!

ありがとう〜!泣」


もう俺、このシロクマが大好きだ。

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