【021】トキメキ
「サインもらっちゃったー!」
「この写真、良いなぁ。」
これは、反対側から歩いてくるお客さん達の声。
新アトラクションを体験してきたのだろうか。
…だけど。
なんか。
話している内容がオカシイ。
「アトラクションって言ってたけどさ。
すれ違う人から、サインとか写真とか聞こえない?」
俺が言うと、フルーティーも。
「うん。
思った。
アトラクションっていうより、イベント系なのかな?
ほら遊園地って、よくアイドル呼んだりするじゃない?」
「…確かに!」
地球でも、歌手がサプライズで登場とかあったもんな。
「もしかして、足長ボーイズかも♩」
フルーティーの声が弾む。
「足長ボーイズ?」
「うん、えっとね。」
ガサゴソ。
フルーティーは、ショートパンツのポケットから、取材用のメモ帳を取り出す。
パラッ。
1番後ろのページをめくって俺に見せた。
シールが貼ってある。
そこには、足の長い金髪の男性が3人。
「おー!
足が長いねぇ!」
「でしょう?
みんなかっこいいのよー。
むっふふ…♡」
決めポーズの3人が写っているシールを、愛おしそうに撫でるフルーティー。
スリスリスリ。
「今彼らはツアーしてるんだけど、なんと2日前から、この港町に来てるの。
新聞社の者としては、滞在中に取材したいな〜って思ってたんだけど。
今日それが叶うかも!」
ルンタッタ ルンタッタ♩
フルーティーは鼻歌を歌いながらスキップしだした。
「へー。
これがフルーティーの推しなんだ。笑」
なんだか秘密を握ったような気分。
楽しい。笑
「最後尾はこちらでーす!」
遊園地の奥まで進むと、あったあった。
大行列を発見。
ザワザワ…
「うひゃあ。
前がぜんっぜん見えない。」
頭、頭、頭。
背伸びをしても、人の頭しか視界に入ってこない。
「…これ、並んでたら一日が終わっちゃうわね。
取材できないか、ちょっと係の人に聞いてみましょ。」
そう言うとフルーティーは、係の人に近付いていった。
「あの、すみませーん。」
グルッ。
係の男性は、手にしていたプラカードを俺達に向けた。
そして。
トントン!
文字の書いてある部分を叩いた。
【⭐︎トキメキ撮影会⭐︎
現在120分待ち・割り込み禁止】
って、俺達は時間が知りたい訳でも、割り込みたい訳でもない!
「あの、俺達は港町新聞社の者です。
こちらのイベントを取材させていただけないでしょうか?」
俺が言うと、フルーティーも話に割り込み、メモ帳に挟んであった名刺を渡す。
「こちらどうぞ。」
「…。」
名刺を見た係員の表情が変わった。
「…なんだぁ!
新聞社の方ですね。
ごめんなさい、勘違いしてしまって。
ぜひぜひ。
取材してください。
こちらは新しいイベントですので、宣伝してもらえるとありがたいです!」
そう言うって、首から下げていた社員証を外し…。
フルーティーに渡した。
「これ、あっちの係に渡して下さい。
そうしたら並ばないで優先してもらえます。」
やった!
俺達は目を合わせてガッツポーズ。
「後ろから回らないとダメね。
行列がすごくて、道が塞がってる。」
フルーティーは回れ右をして、別のルートを探し始めた。
「こっちから行けそうだよ。」
俺は斜め前を指差した。
隙間からちょっとしたステージが見える。
「あ、ほんとだ!
…
くぅぅぅ〜!
待っててよ!
足長ボーイズ♩!」
待ち切れないと言ったように、フルーティーは小走りで進み始めた。
クネクネ クネクネ
人混みを避けて、大きく迂回する。
そして…。
おぉー!
ステージが見えたぞ。
どれどれ?
この世界のトップアイドル、足長ボーイズとは…?
知らない人達だけど、芸能人に会えると思うとなんだかワクワクする。
「トキメキ〜!
はい、ポーズ。」
カシャ!
撮影会の音が聞こえる。
よぉし!
あと一歩でステージが見え…
「トキメキー。」
―ん?
ドスの効いた、低い声…。
この冷めきったトーン…。
こ、これは。
もしや。
バッ!
前へ進み出ると。
!!!
「ベ、ベンジー?!?!」
なんと、そこにはベンジーの姿が。
あのリーゼントシロクマの、ベンジー。
氷の椅子に座り、手でハートマークを作って客と写真を撮っている。
しかも、ウィンク。
はち切れそうな白いTシャツの胸元には
【トキ⭐︎メキ】
という大きな文字まで。
「な、な、な…?!」
見てはいけないものを見てしまったような気分。
俺はプルプルしながらベンジーを指差した。
すると。
「…ああん?!」
俺の声に気づいたのか、ベンジーもこっちを見る。
くるっ。
…
…
…
カアァァァァッ!!!
彼の全身が、一瞬でピンク色に染まった。
「マ、マ、マ…マック…!」
ピキィッ!
固まるベンジー。
ナンダコレハ。
【暑さに強いシロクマさんと、トキメキ⭐︎撮影会】
頭上の看板が、さらにカオス。
…家の近くの飲食店でバイトしてるんじゃなかったのかよ!
俺達は、目を合わせたまま動かなかった。




