【020】ジェットコースター
あっ…!
トロッコごと宙に投げ出された俺達。
人の姿も。
風の音も。
賑やかな遊園地のBGMも。
この世の全てが止まったように感じる。
スローモーションで動いているのは、恐怖で顔が歪んだ自分と、隣のフルーティーだけ。
…このまま
落っこちる…
少し前に死んだばかりなのに、また死ぬのか。
ギュッと目を瞑り、覚悟を決めた。
が、その時。
…
「シュラッペー!」
地上から誰かの叫ぶ声が聞こえた。
と、同時に。
シュラララ〜・:*.:
トロッコ全体が、眩しいほどのキラキラに包まれる。
!
こ、これは!
…
ギュイン!
落下していたトロッコは、向きを変えて空へと走り出した。
レールも無いのに!
…シャー!
青い空と、モコモコの雲に向かって走るトロッコ。
「嘘でしょ?!
私達、飛んでるー!」
フルーティーがパッと両手を広げた。
「ちょっと!
危ない!」
そう言いながら、俺も心が弾んでる。
これ、空中散歩のジェットコースターだったんだ!
良い意味で予想を裏切られた。
ヒョン!ヒョン!ヒョン!
雲と雲の隙間を抜けて、結構な高さまで登る。
なんだよぉ…。
これは。
素っ晴らしいじゃないか!
もう現実世界のことなんて、忘れてしまいそう。
そして。
トロッコはまた停止した。
「いらっしゃ〜い。
ここからが本番だよ〜。」
斜め上から、若い男の子の声が聞こえる。
見上げると。
なんと気球が浮かんでいた。
「おー?!
気球ー?!」
次は一体何が起こるんだ?
ワクワクが止まらない!
コースターは、気球の近くまでゆっくりと近づき…。
ふわん、ふわん。
目の前で緩やかに浮いた。
「こんにちは!
空中散歩のジェットコースター、楽しんでいただけてますか?!
これからまだまだ夢の世界へお連れしますよー!
心の準備をお願いします!
…
せーの!
シュラッペ♩」
シュラララ〜・:*.:
今度は、空全体が光に包まれた。
「わぁ…。」
ぽわん。
ぽわん。
周りの雲がカラフルに色づき始める。
そして。
ボン! ボン!
なんと、形まで変化しだした。
くるくる模様のキャンディーや、カモメの群れ、雲の海を泳ぐイルカの姿まで。
遠くの雲も、どんどん魔法にかかっていく。
「うはぁ…!」
「す、すっごーい!!!
可愛いーーー!!!」
俺もフルーティーも、ファンタジックな世界にウットリ。
そして。
スッ…
シャアァァァァァァァ!!!
「わぁーーー!」
そんな魔法の世界を、コースターは上下に動きながら走り出した。
さっきのイルカが、俺達の後をついてくる。
ヒョン!ヒョン!ヒョン!
「マックス、見てー!
雲のイルカが泳いでるわ!」
その後もショートケーキやドーナツの雲に囲まれ、虹のアーチをくぐり…。
素敵すぎる空の旅を、思う存分楽しんだ。
こんな体験、地球では絶対にできない!
…と、夢の世界に浸っていた、その時。
ボンボンボン!
フルーティーが俺の肩を叩いた。
「マックス!
あれ、さっきの風船じゃない?!」
「えっ?」
言われて横を向くと、乗り場で女の子が手放してしまったウサギの風船が。
「あー!
ほ、ほんとだ!
タイミングが合えば、掴めるかも!」
…キュイーン。
まるで俺達の会話を聞いていたかのように、トロッコは風船の方へと角度を変えた。
「…うっく。
あと少しで…。」
パッ!
思いっきり手を伸ばすと、風船の紐を掴むことができた。
「と、取った!
やったー!」
「イエー!」
俺とフルーティーはハイタッチ。
…
「お疲れ様でしたー!」
空の旅は終わり、トロッコはゆっくりと乗り場に戻る。
ガタッ。
停止したのを確認し、シートベルトを外す。
「いや〜。
すごかったね!」
興奮が冷めない俺達。
するとその時、次に乗るお客さんがこっちへ来た。
「…あ〜?
ウサちゃん!」
はっ。
あ、あれは!
さっきの風船の女の子だ!
「ウサちゃん!
ウサちゃん!」
女の子は嬉しそうにこっちへ駆けてきた。
俺は彼女の目線に合わせるため、しゃがみ込む。
「さっきはごめんね。
これ、お空を旅してたよ。
君のところへ帰りたいって言うから、俺が連れてきたんだ。」
サッと風船を手渡す。
女の子の表情がパアッと明るくなった。
「お兄ちゃん、ありがとうー!」
「どうもすみません。」
ご両親も俺に頭を下げる。
「いえいえ。
俺が手を振っちゃったから。汗
こちらこそ、すみませんでした。
コースター、楽しんで来てね!」
バイバーイ!
俺達は階段を降りた。
「…見直したわ。」
ベンチで休憩していると、フルーティーがボソッと呟いた。
「えっ?」
「さっきの女の子への対応!
ちゃんと目を見て話せるように、あなた、しゃがんだでしょ。
あれができる人、意外と少ないのよ。」
そう言いながら、チューっと紙パックのジュースをすする。
「この前…。
マックスが初めて新聞社に来た時。
不良!
なんて言ったの、間違いだった。
ごめんね。」
いや、そんな…。
でも、照れるな。
そんなに意識してやった訳じゃないんだけど。
褒めてもらえて嬉しい。
「ありがとう。
今後も、良い人間でいられるよう努力するよ。」
俺は空を見上げた。
はぁぁー。
この世界、好きだなぁ…。
…ガヤガヤ
ぼんやりしていると、敷地の奥の方が騒がしいことに気がついた。
人がどんどんそっちへ流れていく。
「何だろう?」
俺が言うと、フルーティーが歩いている人に声をかけた。
「すみません。
あっちで何かあるんですか?」
その女性は立ち止まり、丁寧に教えてくれた。
「なんかね、新しいアトラクションがあるんですって。
私も友達に聞いて来たの。
時間が限定されてるみたいだから、あなた達も興味があるなら早く行った方が良いわよ。」
「へぇ〜。
そうなんですね。
ありがとうございました。」
お礼を言うと、女性は去っていった。
俺とフルーティーは目を合わせて。
「行く?」
…
「行こう!!!」
首からぶら下げたカメラを握り締め、ベンチから立ち上がった。




