【017】取材させて
ギイ…。
口コミ取材を終え、俺はマリオのバーに戻ってきた。
「ただいま〜。」
誰もいない店内。
それでもなぜだか、
「ただいま」
を言いたくなってしまうこの空間。
徐々にだけど、ここが自分の家のような感覚になってきている。
人も場所も、心地が良いんだよな。
厨房に入って、手を洗おうとした、その時。
「オッス。」
かがんでいるベンジーが俺を見上げた。
「うわっ!
びっくりしたー…。
帰ってたんだ?」
ベンジーは、うんしょと体を起こした。
そしてシミの付いたタオルを床から拾い上げて…。
「おう。
さっき帰ってきたぜ。
てかオメエ…。
こないだの夜、ソースこぼしたろう。
ったく!」
ローストビーフのソースを床から拭き取っていたようだ。
「あ、それ俺だね。汗
ごめんごめん。
まだ慣れてないんだからさ、許してよ。」
ヒョン。
ベンジーはゴミ箱にタオルを投げ捨てると。
「んで?」
こちらに問いかけた。
?
俺が首をかしげると、ベンジーは怒りの表情に変わる。
ブチッ!
血管が切れる音。
「面接に…決まってんだろう!!!
他に何があるんだよ!!!
えぇ?!
どうだったんだ?!」
あ、そっか。
確かに今聞かれるのはそれしかないよな。
「おかげさまで…。
採用されました!!!
イエー!」
パッ。
俺は両手でピースサインを出した。
「…おっ?!
ほ、本当か?!
受かったんだな?!
すげぇじゃねぇか!」
ニコォ!
目尻が下がるベンジー。
「うん、ありがとう!
あそこを紹介してくれたおかげで、良い職に就けたよ。
そういうベンジーは?
飲食店の面接、どうだったの?」
するとベンジーも俺の真似をして、顔の横で2つのピースサインを作った。
「そりゃあもう。
バッチリよ。」
なんか
可愛い。笑
バーの準備をしながら、ベンジーは俺の新聞社での1日を聞いてくれた。
「…でさ、編集長って人がすごくて。
基本ずーっと寝てるのに、出番が来ると覚醒するんだ。
そこで使うのが、まさかの洗濯カゴでさ…。」
ははははは!
店の外まで聞こえるほど、大きな声で笑うベンジー。
楽しそうな彼を見てると、なんだか自分も嬉しくなってくる。
…
「そうだ!
ベンジーにも協力してもらおう!」
緑の海老バーガーの感想。
これをベンジーにも聞こうと思ったのだ。
「あん?」
「あ、あのね。
今日早速、1つの記事を任せてもらえたんだけど。
それが、お昼にご馳走してもらった海老バーガー!
あの特集だったんだ。
ベンジーに教えてもらった店だし、さっき食べたばかりだし。
感想聞かせてよ。
今、口コミを集めてるところでさ。」
そう言うとベンジーは、ほぉ〜っと呟き。
「ちょっと待ってろ。」
急に後ろを向いて、何やらゴソゴソと動き始めた。
…
何をしてるんだ…?
俺がそっと近づき、覗き込むと。
ササ〜、ササ〜、ササ〜。
鏡を見ながらリーゼントをとかしていた。
ズルッ!
俺は思わずズッコケた。
「ベ、ベンジー!
写真や動画じゃないんだから、見た目は気にしなくて大丈夫だよ!」
そう言うと振り返り、
「ああん?」
不満そうな声を漏らすのだった。
そして。
「なんだよ、そういうことは早く言えよ。
ったく。
…
だがな。
…
しっかり書いておけよ。
〜美しいリーゼントを持つシロクマのコメント〜
とな!」
…
あ、あ、あはは…。
俺は、苦笑いすることしか出来なかった。笑
17時、10分前。
ギイ。
…
「ごめんねー!
遅くなっちゃった。
はぁ、はぁ。」
慌てた様子で、ドリスさんが入ってきた。
息がゼイゼイしている。
「全然大丈夫ッスよ。
危ないから、慌てないで下さい。」
グラスを磨きながら、ベンジーが優しく言う。
俺もドリスさんの肩からバッグを外し、ロッカーまで運んであげた。
「お疲れ様です。
バンドの練習、どうでした?
大変だったんじゃないですか?」
バッグからドラムスティックが見える。
「ふぅー!」
息を吐きながら、肩甲骨を回すドリスさん。
グリグリグリ。
「そうなのよ。
やること自体は難しく無いんだけど、なんせ慣れてないもんだから…。
ポンポン、ポン!
くらいの簡単なものなんだけど、リズム感とかがやっぱりねぇ…。
もう年だから。」
「あー。
そうですよね。
分かります、それ。」
俺が言うと、ベンジーが突っ込む。
「おい。
たかだか18のオメエが、何言ってんだ。」
ギクッ。
いや、マックスはそうなんだけど。
俺、中身は32のオッサンなんだよ〜…。泣
と、言いたいところをグッとこらえる。
すると今度はドリスさんが俺達に聞いた。
「マックスとベンジーちゃんは?
あの後、何か見つかった?」
トンッ。
ふいていたグラスをカウンターに置くベンジー。
「それが…。
ドリスさん聞いて下さいよ!
マックスが…。
マックスが!
なんと、新聞社に受かったんスよ!!!」
ヘッヘッヘ。
と笑うベンジー。
まるで、
ウチの息子が〜
なテンション。笑
「えぇぇ!
し、新聞社?!
マックスがぁ?!」
ドリスさん、めちゃくちゃ驚いてる。笑
「あ、はい。
自分でもまさか…
って感じですけど。笑
ベンジーが紹介してくれて、応援してくれて。
で、受かった感じです。」
ドリスさんは俺をグッと抱き寄せた。
「もぉぉぉ!
やればできるじゃない!
本当は出来る子って、私、何年も言ってたでしょ?!
オヤジさんも天国で喜んでるわ!
おめでとう!」
ギュウ〜!
俺をきつく抱きしめるドリスさん。
まるで自分の家族のことのように喜んでくれてる。
なんて、良い人なんだ…。
目頭がジュワッと熱くなる。
「さぁて、開店1分前だぜ。」
ベンジーの声で、俺とドリスさんも仕事モードに突入。
自分の持ち場へと移動する。
えーっと…。
「あ、ねえ。
オヤジが作ってた料理のストック、もう尽きちゃったよね?」
そういえば、今日からどうするんだろう。
ベンジーに聞くと。
「おう。
だから、今日はバイトの帰りに買ってきたぜ。
仕上がっているローストビーフと、サンド用のパン。
あと、カットされた鶏肉も。
市販のやつだから、値段は少し下げる。」
そう言って、向かいの壁を指差した。
【店主が亡くなり、店の改造を予定しているため、食べ物はしばらく簡単なものになります。
ご了承下さい。】
ベンジー手作りの張り紙。
なんと、これがめちゃくちゃ達筆。
「え?!
すごい!
ベンジーって字が上手いんだね!」
フンッ。
ベンジーは鼻を鳴らすと。
「それも書いとけ。」
?
「さっきの記事だよ!」
…
「へ?」
何がなんやら。
「いいかぁ?
…
〜美文字、美リーゼントのシロクマ、海老バーガーを食す〜
だ!
しっかり覚えとけ!」
ズルッ。
ふんふんふんふん♩
上機嫌に鼻歌を歌いながら、ベンジーは店のドアを開けた。
「お待たせいたしましたぁ〜♩」
…
まったく…。
面白いシロクマだよなぁ、ほんと。笑




