【016】編集長の秘密
「ぐう。」
フルーティーが大声で叫んだにもかかわらず、編集長はまだ寝ている。
「あれ。
さっきは起きたのに…。」
俺が不思議そうな顔をしていると、フルーティーは言った。
「眠りが深い時はね、これじゃダメなの。
もう一声必要なのよ。」
てことは、今のをもう一回やるのか。
勘弁してくれ。
と思いながら、俺は耳を塞ぐ準備をした。
そして…
彼女は再び編集長の耳元に顔を近づけると。
「出番♡」
ボソッ。
今度は小さな声でこれだけ呟いた。
…
すると2秒後。
!!!
「はん?!
あん?!
出番?!」
編集長はバッと上半身を起こし、メガネをかけた。
「…。
おぉう。
フルーティー。
おはよう。」
これ、さっきと同じ流れ。笑
「おはようございます!
編集長!
出番です!」
「…。
なぁにぃ?!
…出番かっ!」
編集長は立ち上がった。
そして手前のデスクに散乱していたものを、左から右へと押し出した。
ザーッ!
「よし、片付いた!
フルーティー、洗濯カゴじゃ!」
「あいあいさー!」
せ、洗濯カゴ?!
一体何に使うんだ?
俺の頭が混乱しているうちに、フルーティーは部屋の隅に置いてある洗濯カゴを持ってきた。
「洗濯カゴ、用意!」
ドンッとデスクの上に乗せる。
「対象資料は?!」
編集長が聞くと。
「本日は、こちらです!」
俺が書いた記事を見せる。
…
「これは!
よ〜く書けてお〜る!
1000枚刷る価値あり!」
「価値あり!」
なんなんだよ、このやり取りは。笑
俺は思わず笑いそうになる。
言っていることと、2人の真剣な顔が全然噛み合っていない。笑
次は一体何をやるのか…。
グイッ。
編集長は蝶ネクタイを整え、腕まくりをした。
そして。
「ん〜…。
…。
シュラッペ!!!」
俺の記事に向かってそう叫ぶと、周りがキラキラと輝き始めた。
と、同時に。
シュババババババババババババババ!
コピー機から出てくる印刷物のように、
(それも、見えないくらいのものすごいスピードで)
元の記事から大量の紙が飛び出してきた。
「えぇぇぇ?!」
い、印刷している?!
まさか印刷できるシュラッペを持っていたとは…!
編集長の出番って、こういう事だったんだ!
なんだか映画に出てくる魔法使いみたい。
出てくる紙は、洗濯カゴの中に綺麗に収まっていく。
どんどんすごい厚みに。
なんせ、1000枚も刷るんだもんな。
…
数分後。
「…できた。」
疲れた顔でそう言った編集長は、ヨロヨロしながら自分のデスクへと戻る。
メガネを外し。
そして。
バタッ!
「ぐう。」
また寝た。笑
「うぉー!
すごかったー!
編集長の出番って、これだったんだね!」
俺が興奮して叫ぶと。
「笑。
そうそう。
でもこれ、かなり疲れるみたいで。
それで出番が無い時は寝てるの。」
フルーティーは笑いながら印刷物をまとめるが…。
「うわっ!!
やっちゃった!!」
手に持ったそれを、ドサッと洗濯カゴに落とす。
「えっ。
なになに?!
どうしたの?」
俺が覗き込むと、フルーティーは顔面蒼白。
「また、やっちゃった…。」
そう言って指差すのは、さっき俺が付箋を貼った箇所。
あとで観光客の口コミを入れる。
と記して、一部空欄にしてあったところだ。
「あー!
そうだったね!
呆気に取られて俺も忘れてたよ!
ごめんごめん。」
未完成のまま、1000枚も刷ってしまったのだ。
フルーティーは頭をかきながら。
「だぁーん!
もう!
これ、時々やっちゃうのよね。
編集長の睡眠時間が足りない時は、チェックが曖昧で…。
自分でもしっかり確認しないとダメなのよ。
普段は凄腕なんだけど。
…。
けどもう今回は仕方ない。
この紙はメモ用紙にしよう。」
トントン。
フルーティーは紙を整えて、デスクの端に置いた。
その様子を見ていた俺は、閃いた。
「…。
あのさ。
これから俺、口コミ聞きに行ってこようか?」
壁の時計を見ると、まだ2時半。
マリオのバー開店までまだ余裕がある。
緑の海老のバーガーの感想、調査できそう。
フルーティーも時計を見上げて。
「そうね…。
この時間帯は、まだまだバーガー売れるもんね。
そしたらお願いしよっかな。
…
ていうか。
聞くの忘れてたけど。
あなた、勤務時間はどうするの?」
あっ。
そういえばそういう話、してなかったな。
「選んで良いのなら、朝9時から、午後3時まで。
どうかな?」
このくらいなら、バーの支度も間に合うだろう。
「9時から3時ね…。」
印刷ミスした紙を裏返しにして、早速そこにメモするフルーティー。
「ほらね。
これで資源を無駄にしないで済んだ。
了解。
じゃあ契約内容は、あとで編集長に伝えておくから。」
良かった!
…
そんじゃあ、聞き込みに行くか。
俺は紙とペンを持ち、扉の方へと歩いて行った。
すると。
「あとさ、あなたの名前。」
フルーティーが俺の背中に向かって声をかける。
「うん?」
「マックス。
だったわよね?」
俺は振り向きながら答える。
「そう。
マックス。
合ってるよ。」
ズンズンズンズン!
ここに来た時と同じ大股歩きで、フルーティーはこっちへやって来た。
そして。
スッ。
右手を差し出す。
「今日から同僚になるんだから、名前で呼ばせてもらうわ。
宜しくね。
マックス。」
おー!
嬉しい。
こちらこそ、だ。
俺も右手を出して、彼女の手を握った。
「雇ってくれてありがとう。
俺、役に立てるよう頑張るから。
宜しく、フルーティー。」
ギュッと手を握り合う。
「じゃあ行ってくるよ。
2、30分で戻るから。」
「うん。
気をつけてね。
よろしくぅ〜。」
バイバイ。
小さく手を振って、フルーティーは席に戻って行った。
よーし!
聞き込み頑張るぞ!
俺は扉を開け、外へ飛び出した。




