【014】初めての町
フシャア〜…
「あらまぁ〜。
綺麗ねぇ。」
「ママ!
これ冷たいよー?!」
ビーチから町へと続く道に設置してある、大きな噴水。
観光客や地元の子供達が集まり、キャッキャしながら遊んでいる。
…
「やっほーう!」
そこに混ざって、はしゃいで手を伸ばす俺、ケンジ。
訂正。
マックス。
「…ただの水だぞ?」
ボソッと突っ込むベンジー。
「だって見て!
この噴水、3段になってる。
お城みたい!
ほら、ベンジーも触ってみてー!」
ピュン!
俺はベンジーに向かって水を飛ばした。
「ぐあっ!
…
コルァ!
子供が真似するだろ!
ヤメロ!」
ピッピ
と水を払って、ズンズン歩いて行くベンジー。
「あ!
ま、待ってよー!」
俺は急いでベンジーの後を追った。
…
「うわぁ…。
おっしゃれ〜。」
綺麗に整備されたクリーム色の道。
その左右にはびっしりと、様々なお店が建てられている。
1点ものが揃う小さなブティックや、見たこともない植物で溢れるお花屋さん。
カラフルアイスクリームの販売車に、ベーコンの香り漂うパン屋さんも。
なんて…素敵な世界なんだ。
まるで夢の中にいるみたい。
…
「おい。
ちょっと時間ズラしてから行こうぜ。」
ボンヤリする俺に、ベンジーが声をかけた。
「え?
なんで?」
ピッ!
斜め右方向に手を向けるベンジー。
そこにあったのは。
【カラクリ時計・ミモザ】
という看板がかけられた、時計屋さんだった。
入り口に置いてあるカモメ型の時計。
その針は、12時30分を差している。
「面接、昼時に行ったら迷惑だろう。
1時になってから行け。」
あ、ほんとだ。
気づかなかった。
お昼になんか訪問したら、社会人失格。
「ありがとう。
時間全然気にしてなかった。
じゃあ俺、このへんで時間潰してから行くよ。
新聞社の場所だけ教えて?」
するとベンジーは立ち止まって。
「んー…。
さっきケーキ食ったばかりだけどよ。
オメエ、まだ何か食べられるか?」
「あ、うん。
朝も簡単だったし、ケーキはオヤツだし。
全然お腹すいてるよ。
なんで?」
クイクイ。
顎で、
こっち来い
という仕草をする。
100メートルほど歩くと…。
ベンジーは止まった。
青と赤の縞々模様の屋根が目立つ、こじんまりとしたお店の前で。
クンクン。
「何これ?
めっちゃ良い匂い!」
食欲そそる香りに、俺は思わず鼻を動かす。
看板を見上げてみると。
【やみつきシーフードサンド】
の文字。
「やみつき?!
シーフードサンド?!」
声が弾む。
もうお店の名前からして美味しそう。
「ほれ。
行くぞ。」
グイッ!
俺の手首を掴むと、ベンジーは店内へ入って行った。
…
「いらっしゃいませ〜。」
青と赤の縞々模様の帽子をかぶったお姉さんが、笑顔でお出迎え。
ウィンドウには、10種類ものシーフードパンが並んでいる。
「うわぁ…。」
俺は思わずしゃがんで覗き込む。
するとベンジーが店員さんに話しかけた。
「どうも。
出来立てって、あります?」
すると店員さんは後ろの厨房に入って…。
ハンバーガー型の丸いパンを、トレーに乗せて持ってきた。
「只今こちらが出来立てです。
緑の海老のクリーミーサンド。
いかがですか?」
それを聞いたベンジーは、下(俺)を見る。
うんうんうん!
俺は上下に首を振った。
「じゃあそれで。
2つください。」
「かしこまりました〜。」
会計を済ませると、ベンジーは再び歩き出した。
ちょっと先にベンチが見える。
…
「よしっ。
ここで良いだろ。」
ドカッ!
ベンジーは大きなお尻をベンチに乗せた。
シロクマが座っても大丈夫なんだ…。
めちゃくちゃ頑丈なベンチ。
スイッ。
俺もベンジーの隣に座る。
「ほれ。」
ベンジーは袋からバーガーを取り出し、俺に手渡した。
…ふわ〜ん
その瞬間、焼きたてパンの香ばしい匂いが俺の鼻をくすぐった。
「ふはぁ〜…。」
匂いだけでもう幸せ。
ムシャムシャムシャ。
ベンジーはもう食べ始めている。
よおし、俺も…
ハム!
…
!
ムシャムシャムシャ
…
!
「おっ…!
美味しいー!」
緑の海老が若干不安だったけど、なんとこれがすごく美味い!
地球の海老よりも甘味があって、プリプリ感もすごい。
そこにしっかりと絡みつく、スパイスの効いたクリームソース。
これは…
店名どおり、やみつきになるお味。
「ベンジー、これヤバい!
今まで食べたバーガーで、1番美味しいかも。」
「…フッ。
だろう。」
得意げな顔で俺を見るベンジー。
「いやマジ。
あと10個食べたいくらい!笑
…
ちなみに。
このお金は、アルバイトが始まったらちゃんと返すからね。」
俺が言うと、ベンジーは口元のソースを拭った。
「あのよぉ…。
これくらいで、返すもなにもねぇよ。
それにガキから金を取るなんて、んなことできるかってんだ。」
えっ。
ご馳走してくれるんだ。
…
俺、分かってきたぞ。
ベンジーって口は悪いけど、その裏には思いやりや優しさがあるんだよね。
乱暴なのは照れ隠し。
そんなベンジーがなんだか愛おしくなって、ニヤニヤしてしまう。
「なんだぁ?
気持ちワリイ…。」
カラッとした青空の下、アロハシャツのシロクマとバーガーランチ。
最高だ♩
…
「じゃあ、あの3つ先の茶色い建物。
あれが新聞社だからよ。
面接頑張ってこい。」
そう言って、ベンジーは俺の背を叩いた。
「えっ。
建物の前まで、一緒に来てくれないの?」
はぁーーーっ…。
ベンジーは大きなため息を吐いた。
「あのよぉ。
子供じゃねぇんだから、ここから先は1人で行け。
それに俺だって、自分の面接があるんだ。」
そっか。
ベンジーもアルバイトするんだった。
「だよね、はは。
でもベンジーはどこで仕事するの?
なんかもう目星はついてるみたいに言ってたけど。」
「俺は自分ちの近くの飲食店だよ。
マリオのバーと同様、シュラッペで冷たい飲み物出す仕事。
バイト募集してたから、きっと大丈夫だろ。」
「そうなんだ。」
ドリスさんはバンド、ベンジーは飲食店。
俺以外、もうみんな仕事が決まってるんだ。
新聞社の面接、絶対に受からなくちゃ。
「ね、服とか髪とか、乱れてない?
大丈夫かな?」
くるりと回って、ベンジーに身だしなみをチェックしてもらう。
…
「おう。
大丈夫だ。
服装も襟付きシャツだし、失礼に見える点はどこもねぇ。
あとはバカをやらずに、しっかりと面接に臨むだけだ。」
「う、うん。」
久しぶりの面接でちょっと緊張するけど。
中身は32才なんだし、ちゃんとやればきっと受かる!
「じゃあ行ってくるね。
色々ありがとう。
ベンジーも、頑張って。」
「おうよ。」
俺たちはまた夕方に会う約束をして、ここで解散した。
よぉーし。
行くぞ!




