【012】作戦会議
「これです。」
バッ。
俺は、マリオさんの【改造計画】の紙をテーブルに広げた。
シワシワのところを手で延ばして…。
「えぇ?!
バーからレストランに。
ですって。
オヤジさん、こんな事考えてたのね。」
ドリスさんは目を丸くする。
「…。
いや、これ、俺は聞いた事あるぜ。」
紙をじっと見つめるベンジー。
「えっ。
ベンジー、相談されてたの?」
驚いて聞くと、ベンジーは腕組みをして。
「いや、相談じゃあねぇよ。
…なんつーか。
バーだと酒を飲む客しか呼べねぇからよ。
ここがもっと、色んな人が来てくれる場所になったらー。
なんて呟いてのを、聞いただけだ。
でもこれを見たところ、真剣に考えていたようだな。」
なるほど。
レストランにすれば、沢山の人に来てもらえる。
だから【地元の人に恩返し】なんて書いたのかも。
「これ、やろうよ!」
ガタッ。
俺は勢いよく立ち上がった。
するとドリスさんが。
「そうね…。
これ、すっごく良いアイディアだと思うわ。
店内をもっと明るくして、壁紙も変えて。
地元の素材を使って美味しいご飯を作って…。
飲み物も、アルコールばかりじゃなくて普通のジュースも増やして。
…って、考え始めたら、なんだかワクワクするわねぇ!」
目をキラキラさせる。
そしてベンジーも。
「だな。
俺も、この案良いと思うぜ。
何よりオヤジさんが望んでいたことだしな。」
!
やった!
2人とも、良い反応!
「じゃあ、賛成?
だよね?
…良かったぁぁぁ!
そしたら今日から俺達は、チームってことで。
新しい店作り、頑張ろう!」
手を張り上げて、ハイタッチを求める。
しかし。
「金だな。」
ベンジーがボソッと呟いた。
ドリスさんも。
「最低でも150モンって、ここに書いてあるわ…。」
スッと現実に引き戻される。
そっかぁ。
お金、めちゃくちゃ必要だよね…。
150モンがどれくらいなのか分からないけど…。
しかし俺はその時、思い出した。
昨夜のクローゼットの中を。
「あ、待って。
そういえば、オヤジのクローゼットの中に貯金があったんだ。
あれで足りないかな?」
「貯金って、どのくらい置いてあったんだよ?」
…。
えーっと…。
俺は親指と人差し指で、厚みを表現してみせた。
多分3センチ分くらいだったかな。
「えっとね、紙幣がこれくらい。」
ガタッ!
ベンジーが椅子からずり落ちる。
「これくらいって、オメエ…。
そんなの、生活費2ヶ月分くらいだろう!
バカなのか?
コイツは…。」
ものすごい呆れ顔。
「え?
ははは…。
こ、これってそんなもんなんだ。
ごめんごめん。」
俺は頭の後ろをポリポリとかいた。
「うーん…。」
ドリスさんは眉間に皺を寄せる。
そして。
「各々、アルバイトしない?」
と、提案。
「アルバイト?」
俺が聞き返すと。
「そうそう。
結局さ、今のバーって夕方からでしょ?
だから仕事するの。
昼間に。
空いている時間に別の場所でも働いたら、案外すぐに貯まりそう。
だって3人よ。
1人だったら苦しいけど、3倍稼げるんだもの。
どうかしら?」
パチパチパチパチ!
ベンジーが拍手をした。
「やっぱドリスさんは違いますね。
コイツとは。」
ギロッ。
そう言いながら、横目で俺を見る。
…はぁ〜。
返す言葉が無い。
俺は思わず苦笑い。
「本当、良いアイディアですね、それ。
3人だったらそんなに必死にやらなくても大丈夫ですし。
俺、ベンジー、ドリスさん。
それぞれ何か見つけましょう。」
確かにみんなでコツコツ貯めれば、ゴールはそう遠くないはず。
しかしベンジーがここで一言。
「ただし。」
ピッ!
ドリスさんの腕を指差した。
「これ。
ドリスさんは、怪我が治ってから始めて下さい。
その分はマックスがキッチリ稼ぎますから。」
えっ。
俺?!
「あったりめえだろ。
なんだその顔は。
この中で1番若いのはオメエなんだからよ。
それに、これまで俺達に散々迷惑かけただろ。
その分をここで挽回してくれよ。」
ふー。
ベンジーは大きくため息をついて、足で砂を掻き回した。
「ここの砂、気持ち良いんだよな。
場所も中心部から離れてるから、静かで。
…
ここでレストランを開けるように、みんなで頑張ろうぜ。」
…。
そうだ。
ここで頑張らないでどうする。
なんのために昨夜チンピラと戦ったんだ。
それに今の俺は18才だぞ。
アルバイトの掛け持ちくらい…どうってことない!
「よし!
俺やりますよドリスさん!
任せてください!」
キリッとした顔で、ドリスさんに向かって宣言する。
…。
「ぷっ。
なはははは…!」
ドリスさんは、
もうダメ!
と言った感じで、笑い出した。
「あははははは!」
涙まで流してる。
俺とベンジーは目が点。
「えっと…。
ドリスさん、どうしました…?」
俺達が心配そうに聞くと、涙を拭いながら。
「はー、はー。
ごめんね、真剣に話してるところ笑っちゃって。
ベンジーちゃんのお心遣いはありがたいんだけど、私、稼げるから大丈夫よ。
だからマックスにも負担もかけないから。
安心して。
もー…。
さっきのマックスの顔ったら!」
ポンポンと自分の胸を叩いて、笑いを止めようとするドリスさん。
「いやでも、その腕で仕事なんて…。」
俺が言うと。
「あ、あのね。
実は私、昨日からもう仕事始めてて。
この怪我もそのせいなの。」
えっ?
という表情のベンジー。
「なんで…。
給料足りなかったら言ってくださいって、俺いつも…。」
すると手をぶんぶんと横に振るドリスさん。
「違うわよ〜!
そうじゃないの。笑
生活が苦しいとか、そういうんじゃなくて。
ウチの息子!
息子がね、バンドデビューすることになって、その関係で。」
?????
「あ、ごめんね。
唐突で意味不明よね。笑
息子がずっと音楽やってて、今年やっとデビューが決まったの。
だけどメンバーの1人が抜けちゃって、音が足りなくて。
で、代わりが見つかるまで、私がメンバーに入ったのよ。」
「バンド?!」
「メンバー?!」
俺とベンジーは大声を出した。
「あの、メンバーって…。
まさかギターとかですか?」
ドリスさんがバンドやってるなんて、想像がつかない。
「ううん。
ドラムよー。
ここ最近ずっと練習してて、左腕がおかしくなっちゃって。
それで包帯してるの。」
「ドラムー?!」
俺とベンジーの声が重なる。
「そんなに驚かないでよ〜。笑
簡単なパートだけ。
今度、町の音楽フェスティバルに出るから、それまでちょっとね。
で、お給料もちゃんともらえるから。
そういうことよ。」
えぇぇ。
ドリスさん、簡単とはいえドラムできるんだ!
なんか想像つかないけど、かっこいい!
「息子さんがバンドデビューして、しかもお母さんも一緒にって、すごいですね!
CDとか無いんですか?!」
「確かに。
俺も見たいッスよ、ドリスさん。」
俺とベンジーはもうワックワク。
「あのね、これからデビューだからCDはまだなんだけど…。
ジャケ写になる予定の、仮のポスター。
それならあるわよ?
見る?」
「見たいです!!!!!」
俺達、即答。笑
「そお?
じゃあ…。
ちなみにこれ、私は写ってないからね。
仮メンバーだから。」
ガサゴソ。
ドリスさんは、砂浜に置いていたトートバッグの中を漁る。
「いや〜!
子供がバンドデビューって、そうそう無いよなぁ。」
ベンジーが目を細める。
「そうだよね!
他人の俺ですら、胸がドキドキするもん!
一体どんなバンド…。」
と、ここまで話した時。
バッ!
ドリスさんは、4つ折りに畳まれていた、大きなポスターをテーブルの上に広げた。
そこに写っていたのは。
バンド名
「エンドレス腰痛」
デビュー曲
「枕を替えても」
…
んっ?
なんか
思ってたのと
ちが
う
「これよ、これ〜♩!
いざ!
バンドデビュー!
ひゅう〜〜〜♩!!!」
テンション高く拳を挙げるドリスさん。
ポスターの中の3人の男が、腰を押さえたポーズでこっちを見ている。
…
ビュウ〜…。
ぬるい潮風が、俺達の横をそっと通り過ぎた。




