【011】嵐のあとには
「クア〜クア〜!
クアックァッカァッ…!」
うーん?
どこからかカモメの鳴く声が…。
!
バッ。
俺はベッドから起き上がった。
ぼんやりと明るい部屋の中。
カーテンの隙間から、太陽の光が漏れている。
…
そうだ!
俺は転生したんだった。
ジャッ!
カーテンを素早く引いて、窓を開けた。
「お〜う。
これこれ!」
窓の外には、どこまでも広がる青い海とヨット。
キラキラと輝く水面が眩しい。
えっと。
昨夜は…。
売却騒動を終わらせて、この店を残すことができた。
そして今日は、ベンジーとドリスさんと今後の話し合いをする予定だ。
「洗濯してないけど、まあいっか。笑」
寝る前に脱ぎ捨てた、魚のTシャツとズボン。
ベッドの脇にぶん投げてあったそれを拾い、着替える。
「ふぁぁ〜。
…っく。」
背中を反らせて伸びをする。
思ったよりも凝ってないな。
さすが18才の体。
ケンジの時と全然違う。
トントントントン。
軽い足取りで階段を降りる。
お腹すいたから、朝ごはん食べよう。
冷蔵の中のもので…。
ガチャ。
昨日の営業でほとんど食材を使ってしまったが、1つだけ使えそうなものが。
サンドイッチ用のパンが、少し残っている。
具材はスッカラカンだけど、俺には…魔法があるもんね〜。
「ふん♩ふん♩ふん♩」
気分が良いので鼻歌。笑
パンを皿に移して、そこに手をかざす。
「えっと。
どうするかな…。
えー。
ピーナツバター!」
シュラララ〜・:*.:
手から光が放たれると、パンの上にピーナツバターが乗った。
「おー良いじゃん!
これで十分、十分♩」
皿を持って客席に移動しようとした、その時。
ギィ!
店の扉が開き、白い物体…
いや、ベンジーが現れた。
「ちーっす。」
「あ、ベンジー!
おはよう!」
って、ん?
なんだかベンジーの顔がボヤけてる。
眠いのかな?
「ベンジー、なんかニャムニャムしてるね。笑
朝に弱いの?」
キッ!
その言葉を聞いたベンジーは、俺を横目で睨んだ。
「あのなぁ…。
寝不足なんだよ!
誰かさんのせいでな!
フンッ!」
あ、そうか。
確かに昨日は、寝たの12時過ぎだもんな。
しかも俺のせいで。(苦笑い)
「…。
おい。
オメエそれ、朝ごはんか?」
俺が手にしていたパンを見て、ベンジーが聞いた。
「そうそう。
今から朝ごはん。
なんも無いから、残り物のパンに、シュラッペしたんだ。
美味しそうでしょ?
少しあげる?」
俺はソファー席に座りながら、上目遣いでベンジーを見る。
クワッ!
「そうじゃねぇよ!
…ったく。
俺は、食事は家で済ましてきた。
ちょっと待ってろ。」
そう言うとベンジーは、バーカウンターの中へ入っていった。
ガサゴソ…。
しゃがんで何かやってる。
「おー、あった。
これだこれ。」
そう言いながら、赤い瓶に入った飲み物をカウンターの上に置く。
2本の瓶を両手に持つと、
「ふんっ!」
手に力を込めた。
あ。
あれって、冷やす時の…?
「ほらよ。」
瓶の蓋を開けて、ベンジーがテーブルへ持ってきた。
瓶も赤いけど、飲み物も赤い。
「あ、ありがとう。
これジュース?」
「野菜とフルーツの健康ジュースだ。
パンだけじゃ栄養つかねぇ。
いつもオヤジさんが言ってただろう。
人も動物も。
食べ物が体を作るんだ。」
真顔でそう語るベンジーが、なんだかカッコ良い。
パンを口に入れながら、俺は思わずこう言った。
「ベンジーってさ。
…。
優しいよね。」
もぐもぐもぐ。
「…なっ!」
カアッ。
ベンジーの白い毛が、ピンク色に染まる。
「えっ?!
すごい!
ベンジーがピンク色になった!
照れると…ピンクに染まるんだ?
可愛い!」
キャッキャ!
俺がはしゃいでいると。
…
バコン⭐︎!
「大人をからかうんじゃねぇ!
ったく!
せっかく店をやり直すって決めたのに、オメエが倒れたら終わりだろ!
だからだよ!」
ベンジーはそう言いながら、バーカウンターへ戻っていった。
「ふふふっ。
照れちゃって。」
そんなベンジーの姿を見て食べる朝ごはん。
なんだかとっても美味しい。
…
「おはよーう!」
元気な挨拶と共に入ってきたのは、ドリスさん。
「あ、おはようございます!」
俺は立ち上がった。
「おはようございますー。」
ベンジーもカウンターの中から会釈する。
ドリスさんは包帯を巻いていない右手に、紙袋を持っていた。
「それ、何か荷物ですか?」
俺が聞くと。
「じゃ、じゃーん♩
って、この言い方、おばちゃんクサイか。笑」
笑いながらカウンターに置いたのは、透明の箱に入ったケーキ。
ケーキ?!
「うぉぉー!
ケーキだー!!!」
俺はテンションぶち上げで駆け寄る。
タタタタタッ。
箱の中には…。
レモンが乗った黄色いタルト、虹色の層が美しいミルフィーユケーキ、そして星型のフルーツが散りばめられたぷるんぷるんのゼリー。
彩り綺麗で、眺めているだけでも幸せな気分。
「うっわ〜!!
めちゃくちゃ美味しそう!!
ケーキなんか、何年も食べてないや!」
俺は小学生のようにキャッキャとはしゃいだ。
「…まったくよー。
子供か?
オメエは。」
呆れ顔のベンジー。
するとドリスさんが。
「色々あった後には、美味しいもの食べてリフレッシュしなきゃ♩
そして、今日からの再スタート。
そのお祝いも兼ねて、買ってきたのよ。」
そう言いながらカウンターの内側に入ると、フォークを取り出す。
カラカラッ。
「それでね、このケーキ。
せっかくだから外で食べない?」
お皿とフォークをまとめながら、ドリスさんは言った。
「外?」
俺が不思議そうに聞くと、ドリスさんはベンジーに向かって。
「ね、ベンジーちゃん。
倉庫に入ってた、紫色の大きなパラソル。
あれ、まだ捨ててないわよね?」
…
ベンジーは数秒考えたあと。
「あー、あれですか。
あのデカいやつ。
オヤジさんがサイズ間違えて、ずっと倉庫で眠ってる…。」
「そうそう!
それっ。
そのパラソルと、あと丸いテーブル、折り畳みの椅子も。
このへん引っ張り出して、浜辺で食べましょうよ。
まだそんなに暑くないから。」
「良いっすね。
じゃあ俺、倉庫に行ってきます。
おいマックス。
オメエはコーヒーでも淹れておけ。」
「あ、うん。
コーヒーね。
お2人とも、ミルクと砂糖は…。」
「ブラック!」
「ブラック!」
ベンジーとドリスさんは同時に叫んだ。
「笑。
了解で〜す。」
俺は棚からコーヒー豆を取り出した。
―
「潮風が気持ち良い〜。」
俺達3人は、淡い紫色のパラソルの下でケーキタイム。
虹色のミルフィーユケーキ、めちゃくちゃ美味い。
昼間から海辺でケーキとコーヒーかぁ…。
なんて…贅沢な時間なんだ。
…
サササッ。
食べ終わったケーキのお皿をよけると、俺は顎に手を乗せて、遠くを眺めた。
「ふぅ。
時間が止まれば良いのに。」
甘いものを食べて癒されたのか、ベンジーもまったりしてる。
「ほんと、時間よ止まれ…だな。」
しばらくまったりすると、ドリスさんが手を叩いた。
ポンポン!
「さーてお2人さん!
リフレッシュできたところで、本題に入りましょうか?」
俺達に向かって言った。
「ご馳走さまでした。
そうッスね。」
とベンジー。
俺も慌てて。
「ものすごく美味しかったです!
ご馳走さまでした。」
ペコッ。
お礼を伝える。
いやいや本当に美味しかった。
パワーをチャージできたから、今後の計画、しっかりと話し合えそうだ。




