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「鶴は初めの三十年を動物として生き、その後才あるものは約百年を修行を重ねる道士として、そして修行を終えたものだけがその後千年を仙人として人の形をして生きます。私はその道士の頃、貴方の先祖に私の番を助けてもらいました。」


ヨクウの黒目がちな瞳は優しく、そして哀しく揺れる。


「だからといって私を逃せば貴方が…」


後宮から結界を通り抜けてメイリンを連れ出したとなれば、龍王は黙っていないだろう。

そこまでしてどうして。

メイリンは驚き、不思議に思った。


「番の命とは私の命なのです。今はいなくなってしまった命であっても、私は番の亡骸を誰にも汚されることなく、消えるまで守り抜くことができた、それは私と彼女の魂の救いだったのです。あれ以来番もいない身に残すものもありません。」


メイリンとヨクウの間に風が強い吹く。

その風は冷たく、下界の空気を含んでいた。


「私は…参りません。番の概念のない人間が同じくというのは差し出がましいとは思いますが、私も骸となるその日までハクレン様の…龍王様のそばに居たいと思うのです。」


あの草原に何度帰りたいと願ったのだろう。

何度も願っては諦めた。

その想いに打ち勝ってしまう躊躇いがメイリンにとっての龍王との絆だった。

脆くて今にも消えてしまいそうだけれど、認めてもらえないかもしれないけれど。


「それは番より先に死ぬことを覚悟しても、ですか?」


ヨクウの問いにメイリンはコクリと頷いた。


「それでも側にいることが、最後に龍王様と龍華国の民に示せる私の決意です。…しかし、同時に命を賭して龍王から選ばれる日も待っているのです。」


恋い焦がれた空気はメイリンの心を暴いていく。

龍王の心を上手く操れるようになれば認められるようになると思った、後宮で大人しくしていれば認められると思った…それから?

どうすれば認められる?

自分の存在を否定され、踏みにじられ、メイリンは分からなくなっていた。

そして、龍華国の民から、龍王の愛する民から認められなくていい、龍王と共に外の世界で二人きりで暮らしたいと願うようになってしまった。

自分が危険な目にあって、いつかは龍王の龍華国への気持ちも消えて行けばいい、と。

それが叶わず、我が身を犠牲にしながら後宮に居続けなければならなくなったとしても、それもまた受け入れよう。

けれど、その願いは後宮の中で怯えながら暮らすメイリンの希望としてどうしても必要だった。

心が折れてしまわぬように、醜いと分かりながらも願わずにはいられないのだ。

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