とりあえず、試してみようか
工房からアカネがお届けいたします。
もうね、この刀凄かった。
ルイス様に言われて、試しに鞘から抜いた状態でキースさんに渡したら、電撃が。
返事がない。ただの屍のようだ。
キースさんは失神して部屋の隅に転がされてる。
哀れだ。
「……どういう原理なのでしょう?非常に気になるんですが、調べるのに手を出したらキースの二の舞ですね」
蒼天に熱い視線を向けた腹黒様は、悩ましい溜め息を吐いた。
オルフィルお姉様も、腕を組んでブツブツと何事か呟いてる。
「……オルフィル。お前は同じものを造れるか?」
「……いいえ。無理でしょうね。アカネ様はなにもしていない。強いて言えば銘を正しく喚んでいたけど……、この現象と同じ原理は我が一門にも伝えられていませんわ」
てかさ。さっきから気になってんだけど……。
「……お姉様。なんか……この刀、私の魔力吸ってるみたいなんですけど」
「「今すぐ放しなさい!!」」
おお、ルイス様とお姉様の声がハモった。
びっくりして刀落としちゃったよ。
「どういうことだオルフィル!」
「……私にも判りません。ただ、私はこの剣の管理を師から継ぎましたが、一度としてそのようなことはございませんでした」
……あれ?なんか…………。
「……ルイス様、身体がすごく楽です」
「……何?」
「余計なものがなくなった感じ……うん、身体を動かすのがすごく楽です」
実はこっちに来てから、身体がずっと重怠い感じだったんだよ。
魔力に枷を掛けられてからは、余計に辛かった。
流れる魔力を塞き止められて、蓄積されていくのって結構キツいんだよね。
「……まさか、私が掛けた枷のせい、か……?」
ルイス様が後悔の滲む、苦しげな声で私に訊いた。
うわ、気にしてるよ……。ルイス様、私の保護者みたいな感覚あるからなぁ……。
「でも、枷は必要ですよ?私がいつ、どんな状況で暴走するか判断できないなら当然の処置です」
「……それでも、私はアカネの状態も考慮すべきだった……。今は、平気なんだな……?」
…………。切ない顔で私の頬を撫でないで下さい。
目が潰れそうです。
「…………ちょっと、クロウ。何この状態。聞いてないわよ」
「まぁ、なんと言うか……。言えないでしょう?」
少し離れたとこでお姉様と腹黒様が何とも形容しがたい表情で、囁き合ってる。
御二人はお似合いですねと言ってやりたいが、今はルイス様が優先だ。
「大丈夫ですよ。生活するのに支障は無かったですし」
「しかし、辛かったんだろう」
「普通に比べて、です。ルイス様が気にすることじゃありません」
「無理だ」
断言しやがった。参った、辛いなんて言わなきゃよかった。
大体、体調になんかあっても大丈夫って確信してたからなぁ、私。
「何故私に言わなかった?体調に何かあったらどうする?」
「大丈夫ですよ」
「だから、何の根拠があって言っている?」
「え、ルイス様が居るからですよ」
え、何でポカンとしてんの?
この人の過保護ぶり考えれば普通じゃね?
「私に何かあったら、ルイス様がどうにかしてくれるでしょ?」
……何でここでなでなで?
駄目だ。ルイス様の思考回路はたまに解らん。
「アカネさん……。貴女、理解してませんよね……」
「は?何が?」
「………………いえ、良いんです。解ってますから」
腹黒様、溜め息吐いてどうした?
なんか一人でブツブツ言ってるけど。“こんなとこだけ鈍い”とか、“天然”てなんのことだ。
「……旦那様、大変ねぇ……。天然ほど面倒な相手もいないでしょうに」
……だから、何が?
ルイス様を見上げたら、気にするなと言われた。
じゃあ、忘れよ。何かめんどくさそうだし。
とりあえず、刀は少しの間触るなとのお達しです。
キースさんの意識が戻ってから(すっかり忘れてた)、お姉様が用意した武器も見せられた。
「こっちが私の作品よ。遠距離は魔術があるけど、近距離はこういった武器の方が良いと思ってね」
「おお!可愛いですね!」
「そうでしょ~?やっぱり女の子が持つなら華やかな装飾が必要じゃな~い?もう、頑張っちゃったわよ~」
短剣……これ、確か小刀だよね……。
渡されたそれは、私の肘から指先までの大きさの軽いものだった。
鞘は朱色をベースに、白や淡い黄色の可愛いらしい花の装飾がされている。芸が細かいな、お姉様。
その他にナイフが一本。これも鞘は朱色で装飾付き。
「何度でも魔術付加が出来るように、しっかり術式組み込んどいたから安心してね。特別仕様よ?」
「……ちょっと待ってください。オルフィル。普通、魔術付加は何度も掛けたり解除したり出来ないのでは?」
「いやだ、誰に向かって言っているのかしら。私はセイカイ流の鍛冶職人よ?その名に恥じぬ技術を持っていて当たり前でしょう」
胸を張って、腹黒様に言い返すお姉様は男前だ。
自分の仕事を誇り、名に恥じぬ技術を持つ一流の職人様だ。
「……お姉様、格好いいです!惚れそうです!」
「!!!……ありがと。でも、それ、二度と言わないでお願いだから……」
……何でルイス様の機嫌が降下してんの?
そんで、お姉様を睨みつけてるのは何故だ。
「うん、解ってないのは解ってるから、アカネ様。お願いだからその表現は勘弁して」
「??自分の腕を誇り驕らない職人に敬意を持つのは当たり前じゃないんですか?」
「……アカネ嬢、とりあえず、さっきの表現は二度と使わない方向で頼む」
二人の反応に首を傾げてたら、腹黒様が苦笑して言った。
「アカネさん、その表現だと変な勘違いする馬鹿がいたら面倒でしょう?せめて、好きくらいにしておきましょうね」
……何か他にも含んでそうな気がするのは何故。
まあいいや。ここは逆らうまい。
「…………クロウ、しっかりアカネに叩き込んでおけ」
「……かしこまりました」
ルイス様が腹黒様に命じてる。
え、そんなまずい発言なの??
場所を庭に移しました。
お姉様が武器の調整が必要か、確認したいそうだ。
お姉様、本当に職人だな。
キースさんと真剣で手合わせするのは初めてだ。
いつもは刃を潰した練習用の剣だから、感覚が変わるな。
二度、三度と刃を交えてお姉様が言ってたことを思い出した。
魔術付加はやり方の説明は受けたけど、まだやったこと無かったんだよな……。
キースさんの剣を受け流しながら、説明を思い出す。
……うん、やってみよ。
攻守が変わり私が攻撃するとき、小刀に属性付きの魔力を流した。
現れたのは焔。純度の高い熱波は迷わず剣筋の先へと走る。
「……っ!」
キースさんの表情が変わった。
私の殺気に反応してる。それがチャンス。
熱波を地面を転がることで避け、次いで攻撃に。
大丈夫、目で追える。視界補助、様々だ。
魔力を攻撃ではなく守備へ。
刃から結界の盾が。キースさんの剣が音を立てて阻まれる。
結界は生かしたまま、次の攻撃へと移る。
私が攻撃するのと、キースさんが気付いたのは同時。
小刀を横に薙いだのを、キースさんは間一髪で地面に伏すことで避けた。
ズ……ッ、ドゥゥン……ッ
「……………………」
「チ……ッ、避けられた」
キースさんの背後の方向にあった大木が、音を立てて倒れた。
キースさんは、後ろを凝視したまま硬直している。
「……後で庭師が騒ぎそうだな」
のんびりしたルイス様の声でキースさんが正気付き、私に必死の形相を向ける。
「アカネ嬢!避けられなかったら死んでいたぞ!」
「ええ。ですからキースさんに放ったんじゃないですか」
「私を殺す気かっ!?」
「殺す気じゃないなら、練習になりませんよ?私は相手を殺す訓練をしている自覚がありますし」
「………………」
キースさんが黙った。
愚か者。私は狙われる身の上なのに、ちゃんと殺す術を持たなきゃ殺されるじゃないか。
「……難なく扱ってるわねぇ。私が施した武器の能力も上手く扱ってるし」
「これ、やりようによって色々出来ますよ。すごく良いです」
お姉様は本当に素敵だ。
これほど相性の良い武器は無い。大きさも丁度良い。
「一応、こんなのも造ってみたんだけど、どうする?とっても似合うと思うの♪」
「「「………………」」」
にっこり笑顔のお姉様の手元を、私達三人は凝視。
「……いや、確かに物凄く似合いそうだが」
「そうですねぇ……。よく、本当によく似合いそうです」
お姉様が持ってたのは、鞭だった。
あれだ。よく女王様が持ってる長いやつ。
試しに持たされ、振り回してみる。
おお。叩く度に乾いた良い音が。
何度か振り回したらコツ掴んできたよ!結構楽しいなコレ!
「……楽しそうだな」
「いやだ。もう使い方覚えたみたいよ?素質あるのかしら」
「何の素質か訊きたくないんだが……」
「しかし、本当に似合いますねぇ……」
夢中で鞭を振ってたら、ルイス様以外の三人が何か言ってる。
声が小さすぎてよく聴こえない。
まあ良いや。それより鞭だ。今、私は上機嫌だ!
アカネさんが上機嫌で鞭を振るっている。
恐ろしいほど、よく似合っていますね。性格的にも。
………………これ、不味い組み合わせではないでしょうか。
一人、この光景を見たら狂喜する馬鹿を思い出しましたよ、私は。
「…………殿下。あれ、ジルが見たら不味くないですか?」
「「「「………………」」」」
私の言葉に、オルフィルも含む全員が硬直した。
オルフィルもあの馬鹿のことは殿下から聞いている。
この光景を見たときの馬鹿の反応を想像したんでしょう。
殿下が眉間に深い皺を寄せ、アカネさんのところへ近付く。
「アカネ。これは没収だ」
「えっ!何でですか!」
「……ジル」
殿下の言葉に不服を訴えたアカネさんでしたが、馬鹿の名前を聞くと硬直しました。
「……喜びますよね」
「絶対な」
「多分、私の武器にそれがあると知ったら、自分に使ってもらおうと画策しますよね」
「確実にな」
アカネさんが目眩を起こして、殿下に支えられてる。
「……え?そんなに酷いの?」
「……前回は、どうしても彼女に会いたくて師団にあった彼女の採寸データを燃やしたほどですよ」
オルフィルがドン引きしている。
私もそれを聞かされたときはドン引きしましたよ。そこまでやるか、と。
異界人のデータはどんなものでも重要です。
そんなものを燃やしたら、厳しい罰則が与えられる。
……それなのにあの馬鹿は、会うためだけにそれを燃やし、アカネさんに殴られていました。
……後日聴いた話ですが、それは至福そうな顔で治療を受けるのを拒否していたらしい。
殿下はそれを聴いて、アカネさんに接触させないように陛下に御願いしに行っていました。
仕方ない。あれはもう、手の施しようがない。
陛下も内容が内容なので、無下に出来ず了承していた。
万が一、それが理由でアカネさんが亡命でもしてしまったら、洒落にならないですからね。
私も嫌です。変態のいる国として有名になるのは。




