番外編 やらかしました。
三週間にあった小話です。
1、見学は命懸け。
殿下が本格的に魔術を教え始めて3日。
既に魔術を使えない私達は恐れ戦いている。
アカネ嬢に殿下が教えている姿は、遠目から見ればとても仲睦まじく、お前ら恋人かとツッコミたいくらいだ。
アカネ嬢を後ろから抱き寄せて、文字通り手取り足取り教えている。が、内容は恐ろしい。
「……これは対象を失神させるか瞬殺するか選べて、範囲も好きなようにできる術だ。覚えておきなさい」
「なるほど~。こうすると電撃が出るんですね」
「ああ。……アカネ、広範囲の攻撃はやれるか?」
「はーい!」
ゾワッと身体が粟立った。
兎に角、言葉もなくその場から走りだし、屋敷の壁に近付いた瞬間。
ドオォォォン……ッパチパチパチ……
……これは電撃ではない。特大の雷だ!!
逃げ遅れた哀れな部下が、電撃という名の雷で失神している。
……死んではいないと思いたい。
「……アカネ。私達に結界を張る余裕があるなら、もう少し手加減しなさい」
「え?しましたよ?」
あれで!?手加減しなかったらどうなってんの!?
ギリギリで逃げ仰せた者は、同じことを思ったはずだ。
「だってほら。どこも焦げてませんし、ちゃんと失神した後に治癒をしました。……ね?ちゃんと手加減してます」
手加減してなかったら、黒焦げの物体になってただけですもん!
…………何ソレ怖い。
にっこりと可愛らしく微笑んだアカネ嬢の言葉に、生き残りは戦慄した。
何故、殿下は彼女の頭を撫でて褒めるんだ?
もっと他にやることがあるでしょう!
その前に、見学者を巻き込むなとか!手加減の意味を間違えてるとか!治癒する前に結界張ってやれよとか!!
顔から血の気が引いたまま、茫然としていたらクロウに肩を叩かれた。
「……諦めなさい。殿下はジルのせいでアカネさんに容赦という言葉を教える気がありません」
私達魔力無しの騎士は、二人の授業を見学するのを止めた。
2、変態対処法。
今日の殿下の機嫌は最悪です。
ジルがアカネさんの採寸が記されていた紙を燃やしたらしく、魔術師団から今一度採寸をさせてくれと懇願されたそうです。
ジル、お前死んだな。
それを聴かされた時の、私とキースの感想はこれでした。
城に入る前に、殿下がアカネさんに何か渡していましたが何だったのでしょうか?
……とりあえず、ナイフじゃないことを祈ります。
若干遠い目になりつつ、魔術師団の方に向かっていたら前方から噂の馬鹿が走ってきました。
……本当に、本当に馬鹿だ!!
私とキースが慌ててアカネさんの前に立ち塞がろうとすると、それより先にアカネさんが走り出した。
殿下直伝の身体補助のせいで、私達では止められない。
殿下は無表情で立っています。
「ァァアアアカァァァネェェェッ♪♪」
城内に響き渡るんじゃないかと思うほどの大声。
思わず顔をしかめたその瞬間。
「くたばれ変態」
鳩尾に一発。走った勢いそのままに、無防備だった腹部にアカネさんの拳が。
あ、手を保護するグローブがしっかり装着されてますね。
……殿下は、これを渡していたのか。
ジルは無言で床に沈んだ。
それを見届けた殿下は、アカネさんを無言で抱き上げた。
床に沈んだまま動かない物体を踏み越え、そのまま無視。
……心の底から、ジルがお嫌いなんですね。
一部始終を見てた警備の者に床の物体の処理を任せて、私とキースは二人に続いて歩き出した。
3、危険物は渡してはいけません。
爆音が屋敷に響き渡った。
城から届けられた書類に目を通してサインをしていたらだ。
方向はアカネが居るはずの場所から。
特注の机を踏み越え、制止するクロウを置いて走り出した。
庭は黒焦げになっていた。
爆音の原因と思われるアカネは煤まみれになって涙目で咳き込んでいた。
その頬には火傷があった。
ブツッと、何かが切れた。
アカネの隣には、私を見るなり硬直した此度の元凶が。
「…………アカネに何を渡した」
久々にこんな低い声を出した。殺気も抑える気は無い。
クロウでさえ、私の様子に硬直している。
当たり前だ。こんなに頭にきたのは初めてかもしれない。
「ゲホ……ッ、あ~、びっくりした」
空気にそぐわない呑気な声が、場の緊張を壊した。
……まぁ、良い。キースの仕置きは後だ。
顔面蒼白のキースは放置し、アカネの顔を魔術で洗浄する。
……やはり、火傷がある。
キースを睨みつけると、アカネがきょとんとして私を見上げた。
「ルイス様、これってどうやって使うんです?」
アカネの小さくて細い手にあったのは、夜営などで使われる着火用の魔具。
「……………………これが先程の原因か?」
「はい。キースさんとなぞなぞしてて、問題がこれだったんです。使い方が判んなかったんで、とりあえず魔力込めたら爆発しました」
……何故、そうなる。
普通、これは火が出るだけだ。しかも、大きくて掌くらいの。
最近、アカネはなぞなぞ遊びにハマっていた。
この世界の一般的な物を知るために、問題形式で使い方を覚えている。
それが、このような事態を引き起こすと誰が予想する?
私でも無理だった。
「…………とりあえず、それは没収だ」
「ええ~!」
「ええ、じゃない。……いいから着替えなさい」
不服そうなアカネを抱き上げ、彼女に与えた部屋に向かう。
アカネには火系の魔具は与えぬよう、その日の内に部下達に厳命した。




