スイーツとアクセサリー?
昼御飯は、今日も美味でした……っ!
今は目の前のスイーツに夢中です。
この世界に来て驚いたのは、スイーツの種類の多さだよ。
何でも、私の前の異界人がこの国に落ちてきたんだって。
で、その当時の料理に絶望したその人はブチキレたらしい。
「てめぇらそれでも料理人か!?ふざけんなボケェ!!!」
あ、これ意訳じゃないから。
料理人だったその人は、実際に王宮の調理場に乗り込んで、そう叫んだそうだ。
鬼の形相で乗り込んだあと、調理器具から調理法、全てにダメ出ししたらしい。
その人は王宮で保護されてたから、その後も料理人達をダメ出ししながら国全体の料理の質を上げたんだそうだ。
ルイス様の邸にいる高齢の料理長はその弟子なんだけど、思い出すだけで今でも涙目になる。
素晴らしい。私もそうなりたいものだ。
やっぱり、何か遺すなら鮮烈な記憶よね。頑張ろう。
……嗚呼、ベリーをたっぷり使ったタルトは最高だ。
黙々とそんなことを考えながら食べてたら、キースさんが私に怯えていた。
「何ですか?」
「…………何か、恐ろしいことを考えてはいないか…?」
……こいつはホント、変なとこで鋭いな。何故、普段は活かせないんだ?
「………………」
黙ってにっこり笑ってやったら、椅子から立ち上がって逃げの姿勢だ。
キースさんて、本当に弄りやすくて好きだな。
「ふふっ、大好きですよ?キースさんっ!」
「ひ……っ!」
面白いくらい顔面蒼白だ。クセになる。本当に愉快だ。
「……すっかりアカネさんの玩具と化してますねぇ。情けの無い……」
「やだ、いつもなの?」
「そうなんですよ。やり返すことも出来ず、ああしてアカネさんの機嫌を良くしてます」
「なっさけないわねぇ……。騎士のくせに」
お姉様と腹黒様がキースさんを仕留めてしまった。残念だ、次は私が仕留めたい。
食後の紅茶を飲んでたルイス様が、キースさんに呆れた視線を向けてる。
「ヘタレは放っておけ。それよりオルフィル、頼んでたものは?」
「こちらに」
お姉様が包みを取り出した。布を広げると幾つものネックレスやアンクレット、ブレスレットやピアスが。
え、何コレ高そう。
どう見ても高そうな装飾品に腰が引けるんですけど。一般庶民に見せんでくれ。
ちょっと引いてたら、ルイス様が私を見て首を傾げた。
「アカネ。どれが好きだ?」
「…………………………………………は?」
……え?これ、私の?……え、無理。
言葉も無く、目眩がするほど首を横に振る。
何が?何でこんなんくれてんのルイス様ぁぁ!!
冗談キツい!こんなん着けれないに決まってる!
「……好みじゃないのか。オルフィル」
「……ごめんなさいね、アカネ様。次はちゃんと好みに合わせるから、貴女の好きな感じを教えてもらえるかしら?」
そうじゃねえ!そうじゃねえよっ?
私の表情を見た腹黒様が、助け船を出してくれた。
「お二人とも、そこじゃありませんよ。理由が解らないから、びっくりされてるんですよ」
「……そうなのか?」
「そうなんですっ!こんな高そうな物、理由無く渡されたら引きます!」
……ルイス様、解ってない。首を傾げたままだ。
「何でこれを私に?」
「え?アカネ様は知らなかったの?」
はい。だからドン引きです。
私の様子に、お姉様がルイス様を呆れた視線で見てる。
腹黒様も溜め息吐いてるよ。やっぱり私の反応は普通だよね。
だって、いきなりどうぞって高そうな物を渡されたら、何してんの?ってなるよ。
「アカネさん、これは魔具なんですよ」
「え?これが?」
驚いた。もっとそれっぽい感じだと思ってた。
一見ただのアクセサリーじゃん。
「私の作品だもの。一目で魔具だって解る作品を作る職人なんて、二流だわ」
胸を張って鼻で嘲笑うお姉様は、素敵だ。
しっかし、本当に綺麗だな。私みたいな小娘が着けて大丈夫かな?
手に取って見てたら、ルイス様が何点か選んで私に寄越した。
紅い石のピアスにブレスレット。アンクレットの石は光の加減で七色に輝いてる。高そうだ。
「アカネに似合うのはこれだ。その他は少しイメージと違う」
「魔力抑制のものが二点に、結界のものなら安心ですもの。他のはまた出来上がり次第、御報告致しますわ」
ルイス様とお姉様の間で、話が進んでる……。
私の意見は?
「ルイス様……これ以上は貰えません」
「何故?」
「いや、ピアスとブレスレットが抑制で、アンクレットが結界なんですよね?」
「そうだが?」
「他は要りませんよ!」
「だから、何故?」
……か、会話が出来ねえ!何で?ルイス様、アンタいつもは頭良いでしょっ?
「他にも有れば、安心だろう?」
「必要なら、お金稼いで自分で買いますから!」
「持っていれば、必要なときに着けるだけで済むだろう」
「貰わないのに、理由は要りませんよ!」
「ならば贈るのに理由が要るのか?」
ああ言えばこう言う……っ!!
一瞬、叩きたくなったぞ、オイ。
額を押さえて腹黒様を見たら、諦めろと首を横に振られた。
何コレ押し売り?あ、買ってないから押し贈り?
……もういいや。めんどくせ、貰っとけ。
「こっちはどうされます?」
話が終わったとこで、お姉様が別の包みを取り出した。
……どっから出したの?それ。
新たな包みを取り出したお姉様を見てたら、それは艶やかな微笑みが。
……うん。貝になろう。
余計なこと言うな小娘って目だ。逆らうまい。
中身は幅広のバングルや首輪。指輪もあったけどルイス様が避けてる。
「こっちは攻撃用の魔具です。敢えて魔具だと解りやすくしてみました」
「……まあ、その方が牽制になるか」
成る程、武器持った奴に馬鹿正直に飛び掛かる奴は居ないわな。
「これは魔力を込めると剣になって、これは針が出て、これは斧になります。あとは……」
「え?何で武器っ?」
普通、魔術じゃないの?
「だって、魔術じゃ意味無いでしょ?アカネ様は無詠唱で行使出来るし、それ考えたら実用的なのはこっちよ」
いや、間違ってはいない。いないけどさぁ。
「……ほんっとうに、セイカイ式の職人はおかしな技術力をお持ちですね……。普通、こんな魔具作れませんよ?どうやったら出来るんです」
「教える訳ないでしょ。自分で考えなさいな、若造が」
「え??若造??」
お姉様の外見、お三方とそう変わんないでしょ?
「アカネ嬢。これでもオルフィルは、我々より十以上は歳上だ」
「小僧!!てめぇぶん殴っぞ!」
キースさんがお姉様に恫喝されとる。
女性?の年齢に、迂闊に触れるからだ。愚か者。
「お姉様、スゴいです!尊敬します!」
「あら、ありがと!」
本当に凄い。肌も荒れてないし、髪もサラサラだし。どうやって若さと美貌を保ってるんだ?
お姉様、細身だけどしっかりした体格なんだよな。女性的な美しさなんだけどさ。
他の三人は女性的なとこはないけど、美しいのは変わらない。
……うん。これ、他の御令嬢に見られたら袋叩きにされそうだ。
何で周りが男ばっかり?潤いは無いのか?
「これも試してくださると、調整や新しい魔具を作るときの判断材料になるから助かるのだけれど……」
「……そうだな。次は複数を相手にやってみろ」
「でしたら、部下を用意しますか」
腹黒様がイキイキと部屋を出ていく。
どうやら、生け贄を探しに行ったようだ。
……さっきルイス様とのやり取りで感じたストレスを、ソイツらで存分に晴らすか。
「ほらほら、右側がお留守ですよ~?」
アカネさんは絶好調だ。
私の用意した八人の部下は、アカネさんに翻弄され右往左往している。
情けの無い。あれでも精鋭隊の一員でしょうか?
隊に入ってから、だらけてきたと報告を受けた者を敢えて何人か混ぜて選んだんですが、失敗でしたかね。
首に着けた魔具で針を放ち、避けたところを魔術の罠で攻撃。
……とても素敵な笑顔ですね。アカネさん。
アカネさんはイキイキと騎士を甚振っている。
ああ、そっちに逃げたら……。
「のわあぁぁっ!」
アカネさんの腕輪が刃に変わり、それを避けようとした騎士の足元が空洞に。落とし穴ですか。
小さな爆発と共に、その騎士が穴から吐き出されました。あれは、だらけていた一人ですね。
「あらあら、その程度で気絶するなんて……。軟弱な方ね?貴方はどう思う?」
今度は部下の中でも女性に人気のある、それなりに容姿の整った部下を的にするようです。彼はそれなりに出来る方ですが……。
アカネさんの戦闘は魔術を行使しているので、切れのある舞いのような印象を受ける。
それに、普段とは違う艶やかな微笑みをし、相手を翻弄するのが彼女の戦闘スタイル。
……アカネさん、部下の顔が赤くなっているんですけど。
風の補助と身体補助を使ってるせいか、アカネさんは体重を感じさせない動きで、彼に顔を近付けて囁く。
「ねぇ……、遊んで?」
攻撃を捌いていた手元が乱れましたよ、あの馬鹿。
というかアカネさん……、殿下の機嫌が最悪なんですよ。早くソレから離れて下さい……。
自分の攻撃を上手く捌いているのが愉しいんでしょうけど、そこまで近付く必要はありません。
慌てて距離を取り、体勢を立て直した部下に可憐な笑みを見せて、アカネさんが跳んだ。
「な……っ?」
部下は声を上げて地面に叩き付けられた。
……私はその方法に、声も出せませんでした。
アカネさんは前から太股でソイツの頭を挟み込み、後転する要領で地面に引き倒しました。
……アカネさん。貴女、スカートでしょう?!
戦い方を考えてください……っ!!!
隣にいらっしゃる殿下を見れない。見てはいけない。
魔術師の制服は騎士と違って、女性はスカートを着用する許可が出ている。中に武器などを隠しやすいからだ。
騎士とは違い、素手ではどうしても弱くなる魔術師への特例処置。女性魔術師は好みに合わせてズボンかスカートに変えている。
まあ、それぞれの戦闘スタイルに合わせて、ですが。
アカネさんはどっちでも良いと言っていたので、メイドがスカートを用意していました。
今日アカネさんが着ていたのは、パニエを幾重にも重ねた黒の膝丈のもの。
ああ!脚をそんなに上げてはいけませんよ!
足首に着けたバングル型の魔具を使いたいのは解りますがっ!
避けた瞬間に電撃を食らわせてるのは評価します。しかし、殿下の機嫌がどんどん悪くなってるの気付いてますっ?
……嗚呼。真面目に勤めていた者たちに悪いことをしました。
この後、殿下の地獄のしごきに、精神を脅かされるやもしれません。
……生還したとき、使い物になるよう祈ってますよ。
「ふふふ……っ、そこは駄目よ?」
六人交互に相手していたアカネさんが、二人の騎士を最初に渡された剣に風を纏わせて吹き飛ばし、壁に叩き付けていました。
どこまでも鮮やかな微笑みを浮かべるアカネさんに、騎士達は戦慄しています。
残りの騎士は、どう動いて良いか迷ってるみたいですが終わりですね。
「……愚かね」
地面が凄まじい早さで盛り上がり、騎士は空中に投げ出されてそのまま電撃の餌食に。
失神したまま地面に叩き付けられました。
「私のような無詠唱の魔術師相手に、一瞬でも隙を見せてはいけないわよ?……聴こえてないでしょうけど」
魔力で靡く黒髪をそのままに、微笑んで男達を見下ろす様は妖艶ですらある。
観客と化した他の騎士は、アカネさんを見つめて顔面蒼白になっていますね。
少しでも弛んでいたらアカネさんの訓練の餌食にすると脅せば、必死になるかもしれません。検討しておきましょう。
その前にキースに叩き直されるでしょうけど。
横に居るキースは、額に青筋を浮かべて失神している者達を睨み付けています。
まあ、騎士達とアカネさんに戦闘訓練をつけているのはキースなので、気持ちは理解できます。
アカネさんは三週間しか訓練を受けていないのに、騎士が善戦出来ないとは何事かと思っているのでしょう。
アカネさんは失神している者たちに治癒を施し、オルフィルのところへ。
……アカネさん!その前に殿下をどうにかしてください!!
オルフィルも蒼白になり、首を横に振っている。
当たり前です。まだ死にたくはないでしょう。
アカネさんはオルフィルの様子に首を傾げ、殿下を見た。
眉間に皺を寄せた殿下に首を傾げ、アカネさんが近寄っていく。
「私、何か失敗しましたか?誰も殺してないし、治癒もしたんで怪我もさせてないですよ?」
「そこじゃない」
「……あ!じゃあ、穴と盛り上がった地面ですか?あれはすぐ戻せますよ。ほら!」
アカネさんの言葉で地面が元通りに。
……アカネさん、そこじゃないです。
殿下の眉間の皺がさらに深く。ああ、もう……どうするんですか。
「そこでもない」
「???」
「……なんだ、あの戦い方は」
「はい?」
「お前はスカートだろう。もう少し考えた戦い方をしなさい」
「ああ!別に下着見られても減るわけじゃないんで、どうでもいいです。下着の中身じゃないですし」
……その言葉に、殿下が頭を抱えました。
私も酷い頭痛を感じ、こめかみを押さえてしまいました。
オルフィルは笑いを堪えています。殿下とアカネさんの余りの温度差に笑いがこみ上げたんでしょう。
私もオルフィルと同じ立場なら笑ってましたが、教育係としては笑っていられません。
下手をしたら、私が殿下に八つ裂きにされてしまいます。どうしたものか……。
「アカネ嬢!傭兵がスカートの下に着ているタイツの様なズボンがあるから、頼むからそれを着てくれ!」
顔を真っ赤にしたキースが懇願した。
そういえば、普段の訓練の時はアカネさんはズボンを着用していたような……。
「訓練するときに今の状態では、私は無理だ!!!」
「………………キースさんは純情なんですね」
真っ赤なまま言い募るキースに、アカネさんが生温かい視線で同意しました。
殿下もアカネさんがスカートの下に履くと聴き、機嫌の降下が止まりました。
「……とりあえず、二度と脚で顔を挟まないように私は暗器を作るわね……」
オルフィルの言葉に、私は言葉もなく頷きました。




