↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

番外編 憐れな騎士のその後

アカネの太股に挟まれた騎士視点の話です。

 ある日、俺達はクロウ隊長に呼び出された。




 異界人のアカネ様に与えた魔具の具合を確認したいらしい。


「訓練も兼ねているので、頑張りなさい。アカネさんの戦闘術がどれだけ成長しているか判るように戦うんですよ」


 俺を含む八人の騎士が演習所にしている庭の一角に集まり、アカネ様と戦うことになった。

 三人ほど、最近勤務態度のだらけてきた奴が混ざっていた。

 最凶と名高いクロウ隊長のことだ。どうせ(ふるい)に掛けるおつもりなんだろう。


 戦闘が始まり、アカネ様の技術の高さに感服した。


 魔力有りの俺だか、魔術は行使出来ない。隊の合計人数が五十人ほどだが、その中でも魔術騎士を除けば魔力持ちは一握り。どいつも魔力の流れは感知出来ない。

 魔術が発動しているのは解るんだが、どこに何をとなると、本能が感じる危険を察知するほか術はない。

 馬鹿が一人、アカネ様が誘導なさる通りの行動をして穴に落ちた。

 馬鹿め。視線とフェイントに引っ掛かっていたな。

 穴に落ちた馬鹿は次いで起こった爆発で、穴から吐き出されて地面に転がっていた。


 その様子に、アカネ様が嘲笑を向けている。恐ろしい。


 最近移動してきた、まだ十代の奴がアカネ様に飛び掛かる。が、全て(かわ)されている。

 隙を窺っていたら、目が合った。

 ふわりと微笑んで、アカネ様が俺に接近する。

 斬り掛かられながらの質問に返答する余裕はない。

 魔具や剣、しかも魔術が何処から攻撃してくるか判らないのに、会話するなど俺の技量ではまだ無理だ。

 それなのに、見てしまった。アカネ様の表情を。

 他意は無い。俺にはそんな気は一切無かったが、アカネ様の香りと表情と言葉に、動揺してしまった。

 集中が一瞬乱れて、慌てて距離を取った。

 危ない。冷静にならなければ。

 体勢を立て直した俺に、何故かアカネ様は可憐な微笑みを向けて下さった。

 意味が理解出来ないまま動けずにいたら、アカネ様が跳んだ。


 俺の右肩にアカネ様の左足が。


 滑らかな肌が俺の頬に触れた瞬間、頭が真っ白になった。


 殿下に殺される!!!!


 顔に感じた圧迫感に、全身の血の気が引いた。

 瞼を開けたら殺されるだけでは済まない。拷問という言葉が俺を手招きしている。

 柔らかな圧迫感と、しっかり後頭部で組まれた脚。

 次の瞬間、俺に女性の全体重が乗っかり、客観的にどんな状態か考えてしまった。


 俺の頭が、アカネ様の……。


 俺の人生は終わりだ……。もう、どうにもならない……。

 諦めの境地に達したところで、アカネ様が反動をつけて後ろに倒れた。

 後頭部でしっかり組まれた脚のせいで、俺は地面に頭から叩き付けられて意識を失った。



 目を覚ましたところは、隊舎の医務室だった。

 先輩が憐れな視線を俺に向けていた。


 嗚呼、俺、死ぬのか。


 諦めた。殿下のアカネ様に対するご寵愛を知っている。

 交代制の護衛番には「アカネの髪の毛一本、傷付けさせるな」と言い含めておいでなのだから……。

 本人があれだけお強くても、殿下はあの御方が心配らしい。

 魔術師団のジル殿など、汚濁のような扱いだ。

 ……あれと同じ扱いだけは、止めて欲しい。命の前に、心が折れてしまいそうだ。



 食堂に行くと、皆から同情された。

 先輩方が最後の晩餐になるかも、などと不吉なことを言いながら俺の肩を叩いていく。

 同期の奴も異様に優しい。その中の一人が教えてくれた。


「アカネ様がお前の顔を跨いで、押さえつけたとき……俺ら、殿下の殺気で気絶するかと思ったよ……」


 ……言わないでくれ、そんなこと!!!

 頭を抱えて食堂の長机に突っ伏した。


「あんなにお怒りになった殿下、初めて見たよ……」

「今にもコイツのこと殺しそうでしたもんね」

「あれは一瞬でというよりは甚振(いたぶ)り尽くしてから殺す表情だったな」


 頭上て交わされる会話に、乾いた笑みしか出ない。


「サイードはいるか?」


 キース隊長が俺の名を呼びながら食堂に現れた。

 食堂が静寂に包まれる。


 …………終わった。俺は、もう駄目だ。


「……は。ここに」


 立ち上がり、頭を下げる。


「…………サイード、安心しろ」


 隊長に肩を叩かれ、顔を上げるよう促された。


「お前を殺しそうな殿下を見たクロウが、アカネ嬢に言ってくれてな」


 隊長が言うには、静かに怒り狂っていた殿下の機嫌をアカネ様に直していただいたそうだ。


「大変だった……。お前が運ばれた後、アカネ嬢を抱き上げた殿下がな……」


 殿下の機嫌が悪いとクロウ隊長に言われ、アカネ様は殿下の腕の中で大人しくしていたらしい。


『あれを私の前に戻せ。とりあえず、頭を落とす』

『……は?』

『アカネのスカートの中を見ただろう。魔術で記憶を消すのが面倒だ』

『何言ってるんですか、駄目ですよ』

『なら、目を潰す』

『どうしてそうなるんです!それならキースさんなんて私の下着姿見てますよ』

『……そういえば、そうだったな』

『アカネ嬢ぉぉぉっ!!!』

『いや、だからなんでキースさんに剣先向けるんですか!』

『…………こっちの首も落とすか』

『ちょっ!駄目ですってば!』

『アカネは良い子にしていろ。すぐに終わる』

『いや、だから待つ!ルイス様、ちょっと待つ!』

『大丈夫だ。すぐに終わる』

『だから、ちょ……っ!……解りました!今日から一緒に寝ますから機嫌直して下さい!』


 その発言で殿下の動きが止まったらしい。

 アカネ様が邸に住んで丁度一週間経ったとき、殿下の部屋で隊長達とアカネ様で呑まれたことがある。

 初めての飲酒だったアカネ様は、そのままルイス様の横で寝てしまい、朝まで起きなかったそうだ。

 翌日、殿下に文字通り抱かれて寝たアカネ様は大変機嫌が悪く、噂になったら面倒だと嘆いていた。

 殿下も、女性にそんなことを言われたのは初めてのせいか、機嫌がよろしくなかったのを覚えている。

 まあ、想っている女性にそんなことを言われたら、男は傷付く。

 二度としないと、アカネ様に殿下は約束させられてたくらいだ。それは傷付いただろう。


「クロウから聞いたんだが……、どうやらあの時、殿下は寝室を一緒にしようと画策なさっていたらしい。アカネ嬢にも、その……、一緒に寝ないかと言っていたらしくてな」

「えっ?アカネ様は、まさか断られたんですかっ?」


 信じられないとばかりに、一人が声を上げた。

 他の者も驚きを隠せていない。


「『嫌です』の一言で終わったそうだ……」

「うわ……それは傷付く……」

「ああ。実は何度かそのやり取りもあったんだが、彼女は断っていたんだ。だが、今日の機嫌の悪さでアカネ嬢が折れてな……」

「機嫌が一気に直った……と?」

「ああ……」


 ……俺は助かったのだろうか?


 隊長を凝視していたら、苦笑して頷いてくれた。


「すっかり機嫌を直されて、アカネ嬢と部屋に戻られているよ。アカネ嬢も言い含めていたし」

「では……」

「まあ、アカネ嬢に簡単に負けた罰は有るかもしれないが、あのご様子ならそれで終わるだろう」


 余りの安堵に、俺は膝から崩れ落ちた。

 どんな死に方が待っているのかと思っていたのだ。安堵しないほうがおかしい。


「……俺、アカネ様の盾になって死にます。そうじゃなければご恩返し出来ません……」

「……気持ちは解るんだが、それは諦めろ」

「何故ですか?」

「……多分、その、近付いたら殿下を刺激するだけだ。私の場合は、見てしまっただけだが、お前は、その……なぁ?」


 ふと、あの時の感触を思い出して血の気が引いた。


「……アカネ嬢は、意外に鈍いらしくてな……。男を動揺させる手段は知っているようだが、性格を知った男が自分に恋情を向けるとは思ってないみたいで……」

「……まさか、殿下の御気持ちに気付いてない、とか……?」

「ハハハハハ!」

「え?じゃあ、恋仲でもない……?」

「ハハハハハ!」


「「「「「………………………………」」」」」


 隊長の反応に、全員が蒼白になって俺を見る。


 俺は、殿下が片思いしている相手の太股の感触を顔で…………。


 ……よし、逃げよう。




「隊長、退職願いを」

「却下だ。諦めろ。……安心しろ。私も殿下に睨まれているが、今のところ命まで取られていない」


 何の気休めにもなってません!隊長ぉっ!!


 俺は再び崩れ落ちた。絶望しかない。

 これから先、いつまで俺の精神は持つのかと途方に暮れて涙が出た。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。