寝起きドッキリとお出かけ
おはようございます、アカネです。
身動き出来ない現状に、途方に暮れてます。
昨日の手合わせの後、超不機嫌なルイス様が意味がわからん理由でキースさんと騎士の首を、身体と永遠にお別れさせようとして大変だった。
私の下着見たから殺すってなんだよ!
そんな理由で人の首を切り落としてたら、とんでもない噂になりそうだから、必死に止めた。
で、今。私はルイス様の抱き枕と化してます。
腕と脚がしっかりと、私をホールドして離さない。何故だ。
前に一度、ルイス様の部屋で飲み会したときにうっかり寝ちゃったんだけど、起きて絶望したね。
起きたら横に美形。目が潰れるレベルの。
これさ。他の女子に知られたら嫉妬で殺されるよね?
ルイス様達は近隣の友好国でも人気の美男子だってメイドさんに教えてもらってたから、血の気が引いた。
ルイス様を叩き起こして、説教した。
言葉使いも敬語とか吹っ飛んでた。後悔はない。
で、朝イチで仕事を持ってきた腹黒様が、ルイス様を怒る私を発見。
内容を教えたら、腹黒様もルイス様に苦言を呈してた。
私がルイス様の部屋で寝ちゃっても、抱き枕には二度としないと約束させたんだけど、ルイス様は諦めなかった。
私が抱き枕になると安眠出来るらしく、久々の熟睡をもう一度と、しつこく言っていた。
昨日。剣を抜いて、まずはキースさんの首を落とそうとする不機嫌MAXなルイス様に、私は一か八か叫んだ。
一緒に寝るから止めろ、と。
機嫌が直ればラッキーくらいな気持ちだったんだけどさ。
腹黒様が口をぱかっと開けて固まるくらいに、ルイス様は上機嫌になった。
変貌ぶりに私もびびったわ。そんで、ルイス様。そんなに寝足りなかったんかいと同情した。
にこにこしてんだよ、ルイス様が。
その間にキースさんは逃げて、腹黒様は私に説教。
「お願いですから……お願いですから、二度と下着を男に見せないでください。人命が懸かってます。よろしいですね」
そんな下らないことで死人が出るのは、なんか嫌だ。
そこは素直に了承しておいた。で、夕食を済ませて寝る準備が終わったら、ルイス様の部屋に拉致られた。
上機嫌で私を部屋から抱えて歩き、ベッドに転がるルイス様。文句を言うタイミングも無かった。
諦めて寝ましたよ。黙って抱き枕になってしまえと。
私も疲れてたから熟睡だ。
……それで、あんたはいつになったら起きるんだ?
何とか拘束を緩めようと奮闘するも、力が違いすぎる。
「……ああもうっ!ルイス様!いい加減、起きてくれませんかね!」
腰に回った手を動かすな!擽ったい!
「…………、……アカネ?」
「アカネです。起きて下さい~!」
そして私を解放してくれ!
寝惚けたルイス様と視線を合わせたら、なんか悪寒。何故だ。
「……、おはよう」
「おはようご……」
……ペロ、チュゥ……ッ
唇を、濡れた何かが触ったあと、吸われた感触。
目の前には、伏せられた睫毛が。
「……、………………ぅやぁぁぁああっ!!」
バッシーン!!!
振り上げた右手は、ルイス様の左頬を強打した。
「……アカネ」
「……………………」
「アカネ。…………おい」
「…………………………………………」
アカネの耳は、現在ストライキ中です。
「……クロウ、何で殿下の頬が赤いんだ?」
「キースは黙ってなさい」
腹黒様の言う通りだ。キースさんは黙ってろ。
「…………そんなに嫌だったのか」
「………………」
「朝まで一度も手放さなかったせいで動けなかったのは悪いと思うが、私としてはアカネの抱き心地が良いのも悪いと思うぞ?」
「誤解を招く言い方しないでもらえませんかねっ!?」
ぎゃー!!何てこと言ってんだこの人!
ルイス様の恐ろしい発言にうっかり反応してしまった。
キースさんなんか、ルイス様と私を見て硬直してるよ。腹黒様は生温かい目で笑ってやがる。
「たかが口付けだろう?それ以上のことはしていないのに、何故そこまで怒る?」
「…………解りました。」
“たかが”って言いやがった。ファーストキスだったのに。しかも、あんたはただ触れたんじゃなく、舐めて押し付けて吸ったんだろうが!
私は腹黒様を見て、微笑んだ。ターゲットはお前だ。笑いやがって。
「クロウさん。私に口付けしてください」
「……………………はい?」
腹黒様の顔が引きつってる。ルイス様の機嫌は急降下。キースさんは顔面蒼白だ。
「私、誰ともお付き合いしたこと無かったので、そういったことを事故や仕事以外でされるのは、どうしても気になってしまうんですよ。乙女としては当然かと思っていたんですが、ルイス様は“たかが”口付けと仰いました。これってやっぱり、経験値の違いのせいだと思いまして」
「……だから私に口付けろ、と?」
「ええ!“たかが”口付けごとき、と思えるまで経験を積めば、気にしなくなるんでしょう?“たかが”口付けごときと思えるまでしちゃって下さい!」
さあ、腹黒様。あんたは私の敵になるか味方になるか、どっちだ?
敵になるなら容赦はしねぇぞ?乙女の唇は高いんだ!
「……殿下。先程の言い様は、女性に対して些か問題ある発言だと思います」
おお。腹黒様が味方になった。
「アカネさんに言った言葉を私の姉上に仰いますと、おそらく男は再起不能になるほどに甚振られ、女性恐怖症に追い詰められるかと……」
何ソレ素敵。
まあ、ルイス様は女性不信くらいにしようかと思ってましたけど。
「女性は初めての経験を大事にされます。親愛の情を示したとはいえ、その後の御言葉がお気に召さなければ台無しです。このままでは、アカネさんに“女性の扱いが最低なロクデナシ”として認識されますよ」
「え?違うんですか?」
「そんなわけないだろう!」
ルイス様が必死だ。だが、先程の発言でルイス様は、私の中で女の扱いが最低組に位置しようとしてる。
「アカネさん、殿下は貴女を大切に扱っていらっしゃいます。ただ、今まで貴女のような女性がいらっしゃることがなかったので、今回のような言葉を言ってしまっただけだと理解して下さいませんか?」
「成る程。今までは入れ食い状態だったから、私のように“たかが”口付けごときで騒ぐ女はいなかった訳ですね。寧ろ喜ぶ女ばかりだったと」
「…………ええと、否定はしませんが、そこはぼかしてですね……」
……ふふ。よぉく理解しましたとも。
「ようは私が自分の地位と必要性を理解せず王族に嫁に行きたいが為に自分の身体を武器にしてその他のものを磨く努力もしない馬鹿女と同じだと思ったということですね」
「アカネ、」
「ルイス様のような地位の方に娶っていただくには地位と役割をこなせる知性や社交性と人脈が他の女とは求められるレベルが違うと理解せずに気に入っていただければ大丈夫だと勘違いして必要なものを疎かにし本人に突撃をかます馬鹿女と私が同レベルだと思ったと」
ここまで私はノンブレス。
私の様子に、流石のルイス様も冷や汗をかいてる。キースさんなんて、今にも倒れそうだ。
しかし、私はさらに微笑みを深めて、追い討ちをかけてやる。
「口付けの先を望み玉の輿を狙う頭の足りない馬鹿女共と私が同レベルだと思って口付けをして受け入れなかったから対処が解らずつい言ってしまったということですね理解しました」
「私が悪かった、許してくれ」
ルイス様が敗けを認めた。
「すまない。女性に対して不適切な物言いをした」
「二度と。二度と口付けはしないで下さいね」
「……頬にも、か?」
「そこは許容範囲です。こちらの親愛の挨拶だと理解しているので、別に怒りません。ですが、唇は別です」
「許可無く、二度と触れない」
「お願いします」
にっこりと、にっこりと微笑んでルイス様を見る。
「そうでなければ“たかが”口付けごとき、と思えるほど経験しなければいけなくなりますから」
ルイス様の眉間に皺が寄った。
まぁ、“消毒”しなきゃならないって言ってるのと同じだからね。自分に自信がある男ならむっとして当たり前だ。
でも、基本的にこの国は紳士教育が徹底している。
どんなに上位の男性でも、女性に対して適切な扱いが出来なければ一人前と認められず、半人前扱いになるんだって。
仕える立場に女性がいれば臨機応変に対処するけど、基本は女性をエスコートするのがマナー。不快にさせた男の方が悪いというのが、この国の風潮だと腹黒様に教わった。
今回はルイス様のうっかり発言が、どう考えても悪い。
女にキスして怒られたら“たかが”って、どんだけだよ。まぁ、ルイス様も叩かれて機嫌悪かったからだって理解してるけど。
「私は異界人なので、口付けに対しての感覚が違います。挨拶で手の甲にすら口付けすることがない文化で私は育ってます」
「そうなんですか?」
腹黒様が目を丸くした。ルイス様もきょとんとしてる。
「そうなんですよ。だから、どうしても驚きを感じてしまいます。普通、口付けは家族や恋人としかしないのが育った国の常識です」
「……成る程。ならばアカネさんの反応も同意出来ますね。気を抜いていたらいきなり、ですもんねぇ」
私の育った環境を教えたら、腹黒様が頷いて同意してくれた。ルイス様も困った感じになってる。
「知らなかった……とは、言い訳にもならないな」
一度理解してしまえば、ルイス様も私が怒る理由も解ったんだろう。神妙な顔で私を見てる。
「そこは、文化の違いを最初に説明しておかなかった私も悪いので、もういいです。忘れますから」
「忘れ……、いや、なんでもない」
……ん?何で三人とも微妙な顔してんの?
何でルイス様はどんよりした空気を背負ってんの?
一騒動あったあの後、ようやく私は邸の外へ出た。
城下町から少し離れたらある森にいます。
ここ、魔物と野性の獣がいるんだって。ピクニックがてら実践の経験値を積みに来ましたよ。
ついでに蒼天の使い心地の確認もすることになった。
どうやらこれ、持ち主が暴走しないよう余分な魔力を吸うことが判明した。
ルイス様の掛けた枷を外したら、余剰分を吸っただけで終わったんだよね。便利だ。
「アカネさん、いいですか?勝手にどこかに行ってはいけませんよ。あと、初めて見る動物に近付いてはいけません」
私は子供ですか、腹黒様。
マジな顔で私を見ないで下さい。それくらい大丈夫だっての。
片手はルイス様に繋がれてます。捕獲か?私がどっかに行かないよう捕獲してるな?
この扱いには、流石に異議を申し立てたいんだけど!
ぶすっとしてたら、キースさんが苦笑してた。
「アカネ嬢。ここは少し面倒なところなんだ。魔物が野性動物と見分けの付けにくい奴等ばかりで、君のように判別が出来ない者は怪我をしやすい」
「キースも幼少の頃、猪だと思って近付いたら魔物で、気付いた時には弾き飛ばされて大怪我してますからねぇ」
馬鹿なのかキースさん。
呆れてキースさんを見たら、明後日の方向に顔を逸らした。
コイツのせいで私はこんな扱いか?
ていうか、私はコレと同じ扱いか。
「ルイス様、クロウさん。流石にキースさんと同じ扱いは酷いと思います」
「貴女の場合、キースと同じ意味で心配してる訳じゃありませんよ。貴女は被害者じゃなく、加害者になるほうでしょうに」
腹黒様が素敵笑顔で私に言う。加害者って……。
ちょっと訓練や魔術の実験で、騎士さん達に電撃食らわせたり爆風で吹っ飛ばしちゃったりしただけじゃないか。
「故意に怪我させてませんよ」
「対象の他への被害が尋常じゃないことを、自覚しましょうね。アカネさん」
素敵笑顔は鉄壁ですね。
不貞腐れた私を、ルイス様は引っ張って歩いて行く。
どこまで歩くのさ?現代っ子の体力の無さをなめないでくれないか。
……あっれ~?何かが私の探査に引っ掛かりましたよ~?
普通は魔力の流れって、意識的に術者に触れてないと解んないんだよね。で、術の行使って魔力の量までは解るんだけど、どんなものかまでは解らないんだそうだ。
特に私は異世界人だから、ルイス様も私が魔術を使ってからじゃないと行使の内容が解らないんだって。
さらに探査系は、私に自分の魔力を流してないと解らないそうだ。
実際に確認したけど、探査系は私が内緒でやってると気付かない。
さて、引っ掛かったのはいいけど、これどうすっかな?
勝手にやらかすとルイス様のお説教コース直行だ。それは避けたい。
「……どこまで行くんですか?」
「もう少し行くと川がある。そこで魔物と野性動物相手に訓練しよう」
「あまり狩り過ぎても、森の生態系に悪影響を及ぼす可能性がありますからね。調整しやすい所でやりましょう」
うん。ルイス様と腹黒様も気付いてない。
結構離れたところから、猛烈な勢いでこっちに近付いてる何かに。
これ、野性動物か?それにしてはスピードおかしくない?
「ここには何がいるんですか?」
「ああ、そうか。アカネには説明してなかったか?」
「ここには野性動物だと猪や兎やリス、山犬や狼もいますよ」
「魔物なら猪型のブアや兎型のラリーリ、狼型の黒狼がいる。コイツらは動物と見分け難いことで有名だ、気をつけなさい」
「奴等は動物と気配も一緒で、魔力の有無を確認しなければいけないから厄介なんだ」
ルイス様と腹黒様、キースさんが特徴を教えてくれたけど、結局見てみなきゃよくわからんって事しか理解出来なかった。
魔物の名前は、発見者が過去の異界人らしい。
私が聞いててあれ?って思ったのは、同郷の異界人が名付け親なのか?
腰に差した蒼天の柄を撫でる。
これからずっと、異界人の話が出るたびに少しの動揺をするのだろうか?
悲観的な感情は薄い方だけど、やっぱり動揺はしてしまう私がいる。
何か嫌だ。今、ルイス様に手を引かれていることすら煩わしい。
ルイス様の手から自分の手を抜いて、先に進む。
ルイス様が私の方を見たけど無視。
皆もそれぞれ興味のあるものや、魔物について喋りながら歩き続けてる。
ルイス様も一瞬私に視線を寄越したけど、もう前を見て歩いてる。
ガサリと、真横の草むらから何かが飛び出してきた。
左から私に向かって口を開け、牙を剥き出しにした狼。
私は動物にも容赦はしないぞ?
丁度いい。蒼天の切れ味を試しましょうか。




