遭遇中です。
何この刀、コワイ。
蒼天、マジハンパネェ。
とりあえず飛び出してきたのは黒狼でした。
んで、抜いたじゃん?蒼天をさ。
当てただけで、真っ二つになったよ?
何この切れ味。おかしくね?
十頭の群れが私を取り囲んできたので応戦中。
ルイス様達は気配を消して傍観してます。
まあ、私の訓練の為のお出掛けだ。文句はない。
しかし鬱陶しいな。素早くてめんどくさい。
剣の練習になんないから魔術は補助しか使わないけど、そうじゃなけりゃ魔術で瞬殺してたところだ。
当たればスパッと斬れて終わるのに、私の腕の問題で当たらん。身体補助じゃ足りないのか?
補助のおかげで、私の速さと力は人間じゃ有り得ない状態になってるんだけど、これじゃ駄目か。
純粋な技巧の問題?それを補うには?
……今の補助を改良していくか。
目視で認識したあと身体を動かすんじゃ駄目だな。
なら、探査も改良だ。相手を引っ掛けるんじゃなく、どう動くかも解るように。
視野も今の状態じゃ狭い。これも補えるようにして。
……よし、いい感じだ。これで良い。
探査は網状じゃなく、私を中心にドーム状に改良。これで動きが正確に読めるから、上から見下ろしてるみたいに敵の動きが解る。
私が認識してから身体を動かすんじゃ遅い。だから魔力で身体を操る。その方が速い。
探査と連動させて、敵の動きを察知したら反応するように。
おお、三頭を瞬殺。よし。改良成功かも。
改良後。襲ってきた黒狼は秒殺でした。
最初からこうしてりゃ良かった。教わったもので満足してたら駄目だな。ちゃんと自分で考えて、自分に合ったものにしていかないと。
うん。私の周りはスプラッタだけど、色々と改良の余地ありと解っただけ僥幸だ。
騎士さん方は、私を見てドン引きしてる。
気持ちは解る。最後の方は、私の動きは黒狼より速かったからな。
「……アカネ嬢、この短時間で何て動きを……」
キースさんの顔が引きつってる。
急に達人レベルの動きになったから驚いてるんだろう。
自分で動くより、魔力で身体を操る方が理想的な動きが出来た。
自分で動くと、どうしても無駄な動きが入っちゃうんだよ。経験が足りないから。
「補助のやり方を改良しながら戦闘してたんで、そう見えただけですよ」
「途中から、背後の動きも解っていたようだが?」
「探査しながら戦ってたんで」
え?何で固まるの?腹黒様もか。
ルイス様が呆れ返った表情ですが、何事なの。
「……あの状況下で魔術行使する余裕があったのか」
「え?ルイス様は出来ないんですか?」
「術式が簡単な魔術ならなんとかなるが、お前のような複雑なことは、私でも無理だな」
複雑な表情でルイス様が言った。
そもそも、私みたいに無詠唱の行使はおかしい。
魔術にはイメージの正確さや魔力を練る量を間違えない判断力が必要。
初級魔術なら、ある程度経験を積んで高い魔力を持ってる人なら出来る人もいるそうだ。ルイス様も初級魔術は無詠唱でいける。
でも、魔術は本来集中力も必要になる。それを補うのが詠唱行為。
ルイス様も戦闘中に魔術行使するときは、詠唱を省略しないそうだ。
目の前の相手を警戒してると、どうしても魔術行使に必要な集中力が削がれるとか。
「へぇ~。そうなんですか」
「アカネさんは、腹立たしいくらいに規格外だと解りましたよ……」
腹黒様は詠唱を省略すると、魔術の制御が出来なくなるそうだ。
昔、戦闘してない状態で、無詠唱で炎を出せるか試してみたら何度やっても親指くらいのちっぽけな火が出たそうだ。
腹黒様が出すつもりだったのは、自分と同じ大きさの炎。
何その差。笑える。
「貴女がおかしいんですよ。笑わないで下さい」
「いや、落差が酷くて……」
うん、流石に笑うのはまずいな。
笑いを堪えて周りを見ると、本当に酷い有り様だった。どうするこれ?自然破壊か。
「この死骸、放置はよろしくないですよね?」
「そうだな……。埋めるのが最良なんだが……」
なんだ。埋めれば良いのか。
全ての死骸を魔力で捕捉して、一気に術を行使すれば一瞬か。
よし、さっさと終わらせましょ。
死骸の真下が抉れ、地中深くに落ちる。血の染み込んだ土も一緒に。
うーん、元通り。痕跡無しです。
達成感に頷いていたら、ルイス様に睨まれた。何故。
「……アカネ。術を行使するときは声を掛けろと言ったはずだぞ」
「え?誰も巻き込んでないのに?」
「……アカネさん、普通に驚きますから。魔術を使える者は貴女が元凶だと解りますけど、それ以外の者は敵襲かと警戒してしまいますからね?」
ああ、成る程。
「次は気を付けます」
「そうしろ」
皆が一瞬、気を抜いていた。私もだ。
そんな時だった。
〔少し、娘を借りるぞ。……娘、おいで〕
「アカネッ!!」
ルイス様が必死の表情で手を伸ばし、私もそれを握ろうとした。でも。
届かない指が空気を握って。
私の視界が暗転して、意識は途切れた。
「……ぅ、ぁあ?どこよ、ここ?」
目が覚めたら、草の上に寝かされてました。
周りは樹しかない。あ、池。
とりあえず汗かいたから顔洗お。
〔……随分と呑気な娘よな……〕
何処からか声が聴こえた。
〔我がそなたを害するとは思わぬのか?〕
「……何かするなら、私を誘拐してすぐにどうにかするでしょ。手も足も拘束されてない、猿轡も噛まされてない。なら、あんたは私を害する気がない……違う?」
笑ってる気配。私を観察して楽しんでる?
〔……ふふ、そうさな。我に害する気はない〕
声の機嫌が良いな。さて、どうするか。
〔我はただ、久方ぶりの落人を見てみたかっただけ。そう警戒せんで良い〕
「そんな理由で誘拐とか、馬鹿?」
〔ハハハ!良いな!素直で愉快だ、娘!〕
激昂してくれないかと思ったんだけど……。やりにくいな。顔も見えないから、声だけで相手を判断しなきゃなんないのはキツい。
ま、空から落ちる経験に比べたら、これくらいどうってことない。
あの経験のせいで、どんな状況でも落ち着いてる自信がある。
〔……お前は還りたいか?〕
……は?
「……何処に」
〔己が在るべき場所に〕
「……具体的に言ってくれない?こんな状況で遠回しな言い方されると頭にくるわ」
落ち着け、私。
〔成る程。まぁ、我が無理に連れてきたからな。……そなたの世界に還りたいか?〕
なに、言ってるの。こいつは。
〔どうする?迷い子よ。そなたの心の奥は、迷いが見えるな……、なぁ、“明音”〕
「……っ、な、んであんた、」
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。
思考を乱すな。落ち着け、私。
……コイツ、そもそも何なの?そんなこと聞いてどうするわけ?
「……方法があるの」
〔さあ?どうだろうなぁ?そなたは有ると思うか?〕
ふざけてんのか。
ああ、頭にきたから落ち着いてきたわ。
「つうかさ。前の人で、とんでもない魔術師になった人いたでしょ。その人の著書を読んだけど還り方は解らなかったって書いてあったわ。手掛かりすら解らないって」
そう、手掛かりすら見つからなかったと書いてあった。嘘かもしれないけど。
「確かに、私は未練がある。当たり前でしょ。その世界で産まれて、今まで生きていたんだから」
そうだ。当たり前だ。友達だっていたんだから。
〔……還りたいとは?〕
「今のところ、そういう感情は無いわね。私を拾ってくれた人のおかげで」
ルイス様には感謝しなきゃ。日本が懐かしいとか思うけど、還りたいとは思ってない。
「つうか、さっさと出てきなさいよ!何処にいんのよ、隠れてるとか疚しいことがあるわけ?」
私、さっきから池の横で立ったまま。
誘拐犯が何処にいるか解んないから、大声で喋ってます。空しい。
探査に引っ掛からないし、気配すらないってどういうこと。
とにかく顔見て判断しなきゃ、どうにもなんないんだけど。
〔ふむ……。しかし、我の顔を見たらそなたは取り乱すと思うがな〕
「……超絶美形は見慣れてるけど?」
主にルイス様のおかげで。女が裸足で逃げたくなるくらいルイス様は睫毛は長いし肌もスベスベだ。
……ああ、一発で良いから殴りたい。
〔……何故遠い目になった〕
「真横に乙女の敵が居たと、今思い知らされたのよ。察して」
観賞するなら良いけど、横にいるのって結構面倒なんだよね。身嗜みとか、一応気にしなきゃだし。
〔……あの銀髪の男か?横に立たせればそなたが映えるだろうに。何を気にする?〕
「は?……ああ、色彩的な話ね。そこより肌よ、肌!手入れしてるのかって聞いたら最低限だけだって言われたよ!乙女の敵な発言!」
〔そ、そうか……。我には解らん話だな……〕
若干呆れた声だな。
ん~。コイツの性別って……
「肌の話についてこれないって、あんた男?」
〔……まあ、そうさな。“男”で間違いはないわな〕
……何だ、その含みは。
〔……いつまでもこうしていても、時間の無駄か。…………娘、大声を上げるなよ〕
後ろから草の擦れた音が聴こえて、振り返った。
……はい?
〔さて、そういえば我が“何か”言っていなかったな〕
金髪っていうか、月色?の鬣がお美しいですね……。
〔我は“月狼”。……“神獣”と呼ばれるものだ〕
目の前に、人が二人は乗れる、馬鹿でかい狼が出てきた。




