顔面強打、その後は。
後半はシリアス。
こんばんは。明音です。顔面が痛いですっ♪
話し合いが終わったあと、どうやら私の体力は限界だったらしく気絶した模様。
……顔面、テーブルに強打したな?鼻血は出ていないだろうか。
ん。確認したけど問題無し。
そういえば、ここはどこですか?私は何で下着でベッドに寝かされてんの?
「失礼する」
三回ノックしてすぐに開いたドア。
返事をしようと口を開けたままベッドに座り込む私。
そんな私を凝視したまま硬直するキースさん。
……どうしろっての?あんたが硬直したらどうにもなんないだろう。
「ええと、何の御用で?」
「!!!き、ききき着替えを持って来たんだが本当にすまない!!!!!」
猛烈な勢いで閉まるドア。なんか蝶番が壊れかけてますが弁償するのは誰なんだ?
とりあえず、私じゃないのは確実だ。
階段から転げ落ちる音と悲鳴が聴こえたが、私は知らん。
つうか、着替え置いてけ。
その後、宿屋の女将さんが着替え片手に入ってきた。
キースさんはルイス様と腹黒様に説教されてるそうです。ざまぁみろ。
女将さんに渡された魔術師用の服(凄いと誉められた)に着替えて、食堂に降りる。
めちゃめちゃ良い匂いがしてます。空腹で殺す気か!
ルイス様と腹黒様は奥の方の席に陣取っていた。
私に気付いたルイス様が手招きしとる。
「ルイス様。着替え有り難うございます……ところで、何で魔術師用の服なんですか?」
「ああ、魔力耐性の無いものだと、破れたり燃えたりする可能性があるんだ」
「貴女はまだ、魔力を制御出来ないでしょう?感情が乱れて炎を出したり、風で刃を出してしまうと普通の服では駄目なんですよ」
成る程。お約束のポロリですか。想像すると嫌な予感がするんだけど……。
「何と言うか……、女性だったら目の保養ですけど、むさ苦しい男性とかは嫌ですね……」
「大丈夫ですよ。見慣れますから」
素敵な笑顔で言い切る腹黒様。
やっぱりあるのか。男のポロリが。
……つうかさ。腹黒様の目線、さっきよりずっと高いんだよね。
これ、突っ込まなきゃ駄目かな?その他の騎士様方が必死に視線を逸らしてるんだけどさ。
腹黒様の足下と顔を見て、腹黒様は大変お怒りだと確信した。こっちに話を振ったら駄目だ。
「えと、ルイス様…?」
「なんだ?」
はい、詰んだ。こっちもキレてる。
もの凄い笑顔が返ってきた。これはお手上げだ。
何でこの2人、マジギレしてんの?
首を傾げてたら、ルイス様が私を見て首を傾げた。
「アカネ、怒ってないのか?」
「……ああ!さっきの乱入が原因ですか!」
「……本当に申し訳ない」
下からキースさんの苦し気なお声が。
腹黒様、さっきから土下座したキースさんの上に立ってんだよね。たまに思いっきり足踏みもしてるし。
「まぁ、わざとだった訳じゃないんだからその辺で良いですよ」
「……そうか。クロウ降りろ。……キース、お前は宿舎の掃除1ヶ月だ」
「はい。……本当に、申し訳ないことを」
罪悪感に苛まれてるキースさんに、ニッコリと笑いかけて言ってやった。
「あれ?私、怒ってないとも許すとも言ってないですよね?」
ピタっとキースさんの動きが固まった。
え?だって言ってないじゃん、そんなこと。
「今のはルイス様の罰が決まっただけですよね?」
「……そういえば、そうだな。アカネは私の問いには答えてなかったな」
怒ってないのかって聞かれたとき、さっきの事かって言っただけだぞ?
で、わざとじゃないからその辺で良いって言っただけだぞ?……踏むのは。
キースさんの怯えた視線に、ニタリと笑顔を向けてやる。
さっきの会話で私の性格わかんだろ?
「ふふっ、とりあえず私の気が済むまで頑張ってくださいね?」
「……アカネさん。とりあえず、仕事に支障がない程度でお願いしますね?」
「大丈夫ですよ。加減はわかってますし」
……てか、あれ?
「名前呼びですか?」
「ええ。貴女はルイス様に忠誠を誓われた。ならば私達とは仲間ということでしょう?」
「……そうですね。そうしてもらえると嬉しいです」
成る程。その方が変な噂は立ちにくいと。
腹黒様と視線を合わせて頷くと、良い笑顔が返ってきたよ。
「……ふふっ、キースよりもアカネさんの方が話が合うかもしれませんね」
「そうですね♪私も今、そう思ったところです」
うん。自覚はあるぞ、腹黒様。
私の属性はあんた寄りだ。
2人で友情を確かめあってたら、横で土下座したままキースさんが震えていた。
「いやだキースさん!大丈夫ですよ?心配しなくてもクロウさんを奪ったりしませんよぉっ!」
「誰もそんな心配はしていないっ!!」
「そんな恥ずかしがらなくても……。親友が他の人と話しているのに嫉妬しただけでしょう?隠さなくて良いんですよ?」
「嫉妬なんてするかっ!お前達が恐ろしいだけだ!」
「……恐ろしい?おかしいですね?本当に恐ろしいのは寝室で下着姿のときに、男性が乱入してきた場合じゃありませんか?」
ニッコリと微笑んで言ってやったら崩れ落ちた。
この人、本当に直情的だな……。大丈夫だろうか?
うっかりキースさんの心配をしてたら、腹黒様がルイス様の側の席に私を座らせた。
「アカネ、とりあえずキースで遊ぶのは後にして、夕食にしよう」
「………待たせてしまいましたか?」
「仕事の話をしていたら、この時間になっただけだ。アカネが気にする事など無い」
うん。本当に普段は優しい人だなルイス様。
性格が男前だ。キースさんがやらかした事も変に突っ込んでこないし、服は用意してくれるし。仕事の話題出して気にしないようにしてくれるし。
あまりの嬉しさにニッコリ笑いかけちゃうよ。
「…………。」
……何で無表情でなでなで?
「アカネさん。ルイス様のご兄弟は全員男なんですよ。ご両親も女児が欲しかったと嘆いておられるくらいです」
「ああ……そういうことですか……」
クロウさんが生暖かい視線をルイス様に向けていた。
妹扱いか。別に構わないけど私みたいな妹は可愛くないと思うぞ?
「ルイス様は何番目のお子様なんですか?」
「私は三番目だ。下に2人の弟がいる」
「クロウさんは?」
「私も三番目なんですが、上が双子の姉なんですよ」
「それは……大変そうですねぇ」
「ええ……。色々と鍛えられました……」
遠い目をした腹黒様に合掌。この人の姉上だ。とんでもない御方なんだろう。絶対に会いたくない。
「キースさんは?」
「コレは長男ですよ。下に一人弟がいますよ」
「弟は文官で、キースの弟とは信じられないくらい頭脳戦に長けてるな」
「そうですね。多分キースが御母上の腹に忘れた分を、しっかりと引き継いで産まれてきたのでしょう」
「ああ、確かに。あっちは兄のような失敗はしないな」
あー……。ルイス様も腹黒様も騎士として怒ってんのか。
じゃあ、キースさんは仕置きを甘んじて受けるしかないな。
「……そうだ、アカネ。何か食べられない食材や苦手な料理はあるか?」
「何でもいけますよ?あ、とりあえず熱すぎるのは苦手なくらいですかね?」
「焼いた熱々の芋にチーズをのせたものはどうです?」
何それ、大好物です!!
「………ああ。わかった。好きなんだな。そろそろ来るだろうから、楽しみにしていなさい」
またもやルイス様になでなでされてます。
うん、芋のチーズのせなんて言うんだもん。顔がだらしないことになってるよ。
ああ…っ!異世界の料理早く来い!!
アカネさんが瞳をきらきらさせて待つ間、ルイス様は度々頭を撫でておられました。
まぁ、気持ちは理解出来ます。容姿も相まって小動物のような雰囲気になってましたから。
料理が来てからも可愛らしかったですねぇ。
小さな口で一生懸命食べる姿に、部下達も熱い視線を送っていましたし。
マナーも数点注意すれば合格でしたし、この辺りの文化は然程変わりないようですね。
アカネさんは今、ルイス様の隣で食後のお茶を飲んで寛いでいます。
普通、ここまで寛げないんですけどねぇ。
「アカネさん、料理の感想は?」
「とても美味しかったです!素材の味を楽しめましたし、何よりスープが絶品でした!」
「この宿で一番人気のメニューだからな。海鮮スープは私も好きだ」
「とりあえず、皆さんと味覚の違いが無いと解って良かったです。味覚だけはどうにもならないので、口に合わなかったら精神的に甚大な被害を被るところでした」
ああ、確かに。食べてるときの表情は至福の一言で表現出来る状態でしたからね。
さて、世間話はそろそろ終いにしましょうか。
ルイス様に視線を向けると、同意の視線が。
「アカネ」
ルイス様の声で、アカネさんの空気が一変した。
しっかりと自分より上位の相手にルイス様を据えている。
「お前を教育していくのに、一つだけ、お前の意思を確認しておかなければならない事がある」
「はい」
「お前は人を殺せるか?」
アカネさんが黙り込む。しかし、出来るのと出来ないのではこれから先の教育に差が出てくる。
ルイス様も私も、同じ懸念をしていた。
「その前に……。過去の異界人は自分の世界に帰れるんですか?」
「……今のところ、帰れた者は一人もいないとされている。少なくとも、この国に現れた過去の異界人は一人も帰ることが出来てない」
「そうですか……。では、私に気遣いなど不要です」
「……良いのですか?」
「だって、ちゃんと教わらなければ私は一人で立つことが出来なくなる。国単位とはそういうことでしょう?」
その通りだ。私達が懸念していたのは彼女の安全面。
これから彼女は常に誘拐と暗殺の危機に曝される。
私達が常に護衛出来る状況にするか、全てを教え込んで自力で状況を変えれるまでに育て上げるかで、教育法も訓練の仕方も変わってしまう。
護られることを前提に生きるか、戦うことを前提に生きるか。
「……私は、護られるだけのお荷物になるのは嫌です。同じ後悔なら自分が汚れるほうを選びます」
空から落ちてきた彼女は、ルイス様に気付いた瞬間声を荒げて退けと言っていた。
この性格です。護衛がどうなるか彼女は解っているんでしょうね。
存在が公になったら確実に、彼女を狙い精鋭が放たれる。
本体か命。どちらかを狙って。
アカネさんの護衛も、無事では済まない。
「わかった。……アカネ、私達の持てる全てを教える」
彼女はこれから、どう変わっていくのでしょうか?
……行き着く果てに、アカネさんがルイス様に仇なすときは教育した者として、私が殺して差し上げましょう。
それが、私なりの責任の取り方ですから。




