HERO(13)
ヒカルと会ったのはいつものコーヒーショップ、もちろんあのフザケた犯罪者の店員の姿はない。今ごろ留置場か裁判所で反省したフリでもしていることだろう。
ヒカルは相変わらずコーヒーにいろいろと甘そうなものを盛っていたが、俺はもうシンプルにココアにした。寒くなるとやっぱりココアが美味い。
「久しぶりに会うが、全然変わってないな」
俺の言葉を聞いたヒカルはなにそれ、とだけ言ってからからと笑った。
その笑い方の中に、前に見た時よりも年相応の無邪気さが含まれているような気がして俺は嬉しくなる。水曜日プラネットの連中が逮捕されたことでヒカルなりにいろいろと吹っ切れたのなら、俺も体を張った甲斐があったというものだ。
今朝、急にヒカルから電話があって驚いたが、「久しぶりにコーヒーショップに来れない?」と言うので、すでに退院していた俺は松葉杖をついて家を飛び出した。
正直に言うと、一目見た瞬間に、ヒカルがどこか以前と違う雰囲気をまとっていることに気付いていた。だが、俺はそれを口に出してしまえるほど器用じゃない。
「それで、今日はどうしたんだ?ヒーローとして次の事件を解決するとか言い出すんじゃないだろうな?見ての通り、俺はまだリハビリ中だぞ」
しばらくヒカルは言い出しづらそうに指と指を絡めてもじもじとしていたが、やがて思い立ったように息を吐くと、カバンから茶封筒を取り出し、俺に手渡した。
「これは?」
「バイトして貯めたの、ヒーローの給料の相場って分からないけど……イワオカさんに受け取ってほしいの」
そんなたどたどしいヒカルの言葉を聞いて俺はキレそうになるけど。俺とヒカルの仲だ、ここは我慢する。
だが、俺は大人として、いや(ヒカルに直接確認したわけじゃないが)ヒカルのヒーローとして、一言ヒカルに言わなければ気が済まなかった。
「お前は俺を馬鹿にしてんのか?俺は金が欲しくてお前を助けたんじゃない。金なんていらねー。俺は俺がやりたいからやっただけだ。金もヒカルも親父も犯罪者も何もかも関係ない。ただ俺が自分自身を尊敬できるヒーローになりたかったからこそ、あの馬鹿げた新聞広告に応募したんだ。ヒーローっていうのは……よく分かんないけどそういうもんだろ?」
カウンター席に座る俺たちの近くにいたお洒落なカップルが、こいつ何言ってるの?って視線を俺に向けて笑っていたが俺は全く気にしない。
しばらく反応を待っていると、ヒカルは小声でありがとう、とだけ言って、いきなり俺の頬にチューをした。
「何するんだ馬鹿!」
俺は必至で服の裾で頬の辺りを拭う。手のひらに触れる顔は熱く、自分があり得ないくらい真っ赤になっているのが分かった。
「サービスよサービス。デビルマン程じゃないけど、タートルズくらいにはカッコ良かったからね。このお金は弟へプレゼントでも買ってあげるのに使うことにするわ」
俺は頷き、とにかく早いとこ話題を変えようと咳払いをひとつしてヒカルに質問する。
「そういえばお前、中学生なのにアルバイトなんかできたのか?」
「私高校生だし、ほんっと馬鹿なんだから!」
「あ、そうだったの……?」
「もう!」
ヒカルと別れた帰り道、俺は久々に緑地公園に寄り道して帰ることにした。
緑地公園とはいったものの、この時期にもなると木々の葉もその多くが散ってしまって、見ているこちらまで寒々しい気持ちになってくる。
この辺の浮浪者たちにも厳しい季節だろう。今度焼き芋を食べさせたもらったお返しに、古くなった毛布でも持ってきてやるか……。
そんなことを考えつつ松葉杖をついてぶらぶらやっていると、どこかから音の割れたカム・オン・レッツゴーの音楽が聴こえてきた。近くで浮浪者の誰かが壊れたラジオでも聴いてるのだろうか。
ラジオに合わせて鼻歌をやりつつ歩いていると、どうも竹林が植えられている辺りが騒がしいことに気づいた。
少しイヤな予感を覚えながらも竹林に近づいていくと、そこには顔を真っ白に塗って、口の周りに紅を塗りたくった巨漢の金髪男が立って、なにやらもの凄く楽しそうな奇声を上げて時限爆弾のコードのようなものを繋ぎ合わせながらはしゃぎ回っているのだった。
イカンイカンと思いその場を去ろうとするが、俺は振り返り、つい声を掛けてしまう。
「あんた、そこで何やってんの?」
そう、俺はまだ最初の一歩目を踏み出したに過ぎない。俺のHEROへの道のりはまだ始まったばかりで、きっとそれはこれから死ぬまで間違えたり傷ついたりしながらもずっとずっと続いていくものなのだ。




