黒いミスト
ダフォウはアーカのサインの入った木目の契約板を自身の体へと戻した。
表皮が幹に張り付く。
「アーカ・グランジ、7歳、出身はココトワチャウセカイの道沿いの家出身、ガールフレンドの記憶あり、母の記憶なし、光の使用権所持・・・」
ダフォウはまるで機械のように次々と読み上げる。だからアーカは重要な事を聞き逃した。
「男の子と言う事は、こっちで言うマクバか・・・おや?あなた二人組に追われていますわね?・・・ちっこいのとおっきいのに、まぁ、こっちの国までは来ないでしょう。・・と言うより来れないでしょう」
ダフォウがニッコリと笑ってキャンドちゃんも笑った。アーカはダフォウが何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「僕そんなに色々書いたっけ?それに名前を書くったってペンを渡されなかったから、サインは適当に指でなぞっただけだよ?」
アーカがそう言うとダフォウは少しとぼけて答える。
「え・・・?ああ、契約板は触れれば意志さえあればオートペンシルなんですよ」
「おーとぺんしる・・?」
「まぁアーカの紹介状を勝手に書いてくれるってことだよ」
アーカが戸惑うとキャンドちゃんが横から間に入って言った。
「アーカはキャンドちゃんと同じ住民になったんだよ」
キャンドちゃんはそう言うと体を包む黒い布を広げた。
「まま、ま、おまちよキャンドちゃん、それ後に取ってる方が良くなくて?」
ダフォウが慌ててキャンドちゃんの行動を止める。
「あー、またやってしまった」
キャンドちゃんの体にまた黒い布が巻き付かれた。アーカにはそれが生物のように見える。所々が霞んだ黒い霧のような・・・暑苦しそう。
「すぐお披露目ちゃうんだから」
「キャンドちゃんはすーぐお披露目ちゃう」
ダフォウがそう言うと森全体が揺れた。葉っぱがヒラヒラと落ちて来たのでアーカは頭上を見上げた。さっきはさっぱり見えなかった景色が今はしっかり見えている。森は黒いのに色が主張して前に出ようとしているのが分かった。
「それでは行きましょうマクバ・アーカ」
ダフォウがそう言うと幹からダフォウの顔は消えて、ただの木になった。




