桃源郷
安土流剣術奥義・轍!
安土はもう1人の安土に超高速で接近し、
その首を狙って黒光りする刀を振り抜いた。
だが、命中ならず。
もう1人の安土は安土と同じく轍で高速移動し、
安土の背後へと回り込んで黒光りする刀を構える。
安土はその奇襲を空蝉で後方へ回避してからの轍!
もうこの時点でギャラリーは困惑していた。
どちらの安土も同じイケメンフェイスをしており、
同じ悪趣味な衣装を着ているばかりか、刀まで黒い。
どっちがどっちだかわからない。
「これじゃあ援護できないよ……」
「迷惑なやっちゃなあ」
「いっそ両方まとめて攻撃魔法ぶち込んじゃう?」
一同が困惑する中、突如として戦場に花びらが舞う。
それは桜の花びら……安土にとっては危険な植物だ。
アナフィラキシーショックを起こされては困る。
戦闘開始前に燃やしたはずなのに、なぜ……?
と慌てる仲間たちだが、ここでネタバラシ。
「あ〜、ただの演出だから平気平気!
オイラの魔法だよ
“百花繚乱”は一応広範囲の攻撃魔法なんだけど、
オイラの魔力じゃ大したダメージにはならないから
あんまり使ったことないんだよね
でも今なら面白い映像が撮れそうだし、
せっかくの機会だから美麗な演出を取り入れて
あいつのファンに売りつけてやろうかなあと」
佐倉香織は小遣い稼ぎをする気だ。
まったく抜け目がない女である。
「それ、あたしも一枚噛んでいい?
派手に盛り上げてやるから、
売上は山分けってことで」
「私も協力しますよ」
「ウチも参加してええかなあ?」
「じゃあ僕も」
「んじゃ、アタシも〜」
『パキットの在庫ならまだあるよ』
こうして安土同士で剣を交えている現場に、
両方まとめて攻撃魔法がぶち込まれる運びとなった。
安土流剣術奥義・剣風!
安土流剣術奥義・蠍突き!
安土流剣術奥義・空蝉!からの流れ星!
安土流剣術奥義・轍!
安土流剣術奥義・轍!
安土流剣術奥義・暴れ大蛇!からの蠍突き!
安土流剣術奥義・土蜘蛛!
安土流剣術奥義・双尾の蠍!
安土流剣術奥義・乱れ咲き!
安土流剣術奥義・狂い咲き!
……とまあ、2人の安土が次々と戦技を繰り出し、
そこへ花びらやら火柱やら氷の結晶やらが飛び交い、
それはそれは実に雅な光景が広がっていた。
少し離れた位置で観察していた隼斗は時計を確認し、
そろそろ脱出しないと本気でまずいと焦り出す。
「山田さん
そちらの状況を教えてください」
『第7層には僕と将太先輩だけ残って、
他はもう撤退済みだよ
僕らも早く脱出しないとヤバいね
先輩、猶予はあとどれくらいだと思いますか?』
『5……いや、3分かな』
『あと3分以内に決着がつかないようなら、
戦いを切り上げて戻ってきなよ
お金より命の方が大事だって忘れちゃだめだよ』
「ああ、斎藤さんと一緒に観てるんですね
とりあえずあと3分……はい、わかりました」
残された時間は少ない。
イケメンと雅が目まぐるしく攻守交代し、
もう仲間たちは安土の判別を諦めていた。
とにかく現場に攻撃魔法をぶち込み続け、
映像を演出する作業に徹するしかない。
ただ1人、安土の判別が可能な人材がいた。
大上隼斗だ。
2人の安土は顔も装備もほぼ同じではあるが、
剣術を放つ際の構えが明確に異なる。
それにより使用する技の性能に差が生じ、
結果として得意技が違うものになるのだ。
安土桃太郎は斬撃、特に剣風を得意としており、
安土桃之進は刺突、特に蠍突きが得意である。
この情報は使える。
「山田さん
合図したらバギー2号と3号を
安土に向かって走らせてもらえますか?」
『ん……?
まあいいけど、どっちの安土?』
「どっちもです
見分けがつかなくても構いません
とりあえず2方向同時にお願いします」
『わかった、やってみる』
作戦本部には山田だけでなく斎藤もいるのだ。
マギアバギーの同時操縦は可能である。
「鬼島先輩
合図したら爆発を起こして、
安土を吹き飛ばしてもらえますか?」
「ん……?
まあいいけど、どっちの安土?」
「どっちもです
見分けがつかなくても構いません
とりあえず2人まとめてお願いします」
「わかった、やってみる」
必要な人材はこんなところか。
ひとまず様子見に戻ってタイミングを見計らおう。
そして指示を出してから2分が過ぎた頃、
2人の安土はまるで示し合わせていたかのように、
きっちり同じタイミングで同じ技を使ったのだった。
安土流剣術究極奥義・剣嵐。
相手を真の強者と認めた時にのみ放たれる超必殺技。
イケメンと雅が互いの持てる力を全て吐き出し、
2本の妖刀が火花を散らす様は、誠雅也。
だが、そのいつまでも観ていたくなるような光景に
横槍を入れる者がいた。
大上隼斗だ。
「先輩、今です!!」
合図されたので、神楽は安土と安土の中心地点に
周囲一帯のマナを掻き集め、大爆発を引き起こした。
爆風により2人の安土は剣戟を強制中断させられ、
それぞれの方向へと吹き飛ばされる。
スーパーアーマー付きの技を使用中であったのに、
なんとも恐ろしい威力である。
ちなみに今の魔法はスーパーノヴァではない。
隼斗からの注文は『2人まとめて吹き飛ばす』だ。
単体対象のスーパーノヴァでそれは実現できない。
後輩に対して「やってみる」と言ってしまった以上、
「やっぱりできませんでした」は恥ずかしい。
なので他の方法で爆発させることを思いついたのだ。
アドリブで新魔法を生み出す女。
それが鬼島神楽である。
ともあれ、神楽は仕事を果たしてくれた。
隼斗はたった今爆発が起こった位置へと移動し、
2人の安土が起き上がるより早く次の合図を送る。
「山田さん!!」
2台のバギーが戦場を駆け抜ける。
1台は安土を目指し、もう1台も安土を目指す。
しかし、ゴールに辿り着けたのは1台だけであった。
安土流剣術奥義・剣風。
バギー2号は見えない斬撃によって破壊された。
『ああ、もうっ!!
また僕が操縦してたやつだよ!!』
残骸となったスピーカーから山田の悔しがる声が
聞こえてくるが、これで隼斗の目的は果たせた。
人間の安土がバギーを破壊する理由は無いのだ。
よって、剣風を放ったのは魔物の安土である。
これでどちらを仕留めればよいのか確信できた。
「起動!!」
キュイィィン、バチバチッ!と拳が叫ぶ。
「えっ、ちょっ」
「大上君!?」
「早いよ!!」
「遠すぎる!!」
そんな声が聞こえてくるが、これでいい。
今までは敵に密着した状態で電磁力発生のスイッチを
入れるようにしていたのだが、今は距離がある。
だが、それでいい。
今回は槍が届く程度の射程で正しいのだ。
安土桃之進は首切姫を顔の横で水平に構え、
その刃先は大上隼斗に向けられている。
それは彼が取るに足らない存在などではなく、
敵として認めている証でもあった。
剣vs拳。
この無謀な構図に、盾持ちの仲間が割り込んで
隼斗を守るという選択肢はあった。
だが猪瀬は安土同士の激しい剣戟を観戦した影響で
足が竦んでしまい、飛び込むことができなかった。
金子は別の理由により、敢えてその場を動かずに
成り行きを見守ることにしたのだ。
今からでは割り込みに間に合わない可能性が高い。
魔法部隊は安土同士の剣戟に巻き込まれないように
拠点から一歩も前へ出なかったので距離が遠い。
そして、もし隼斗や安土がやられてしまった場合、
この仲間たちは仇を取ろうとするだろう。
それだと脱出が間に合わず、全滅確定である。
なので仇討ちを止めて撤退指示を出す人間が必要だ。
その場合は自分がこの場に留まって盾となり、
仲間たちが無事に脱出する時間を稼がねばならない。
金子は『ここは俺に任せて先に行け!』
的な展開に備えて踏み止まっていた。
そして、運命の瞬間が訪れる──
安土流剣術奥義・蠍突き。
一撃必殺の威力を秘めた渾身の刺突技であり、
安土桃之進が最も得意とする攻撃手段でもある。
人間だった頃の彼がこの技を使っていた主な局面は
確実に仕留めておかないとまずい相手との戦いで、
前周までの世界では神楽を殺し続けてきた技である。
必殺剣が放たれる寸前、隼斗は叫んだ。
「限定解除!!」
ギュイィィン、バリバリバリッ!!と、
グローブに組み込まれた機構が唸り声を上げる。
その明らかに異常なモーターの回転音と放電現象が、
仲間たちをより一層不安にさせるのだった。
剣と拳が交差する。
安土桃之進は隼斗の心臓を狙い、
目にも止まらぬ速さで正確無比な突きを繰り出した。
隼斗は急所への攻撃をかわしながら前進し、
その異常な熱を帯びた拳を敵の顔面へと放り込む。
ゴシャアアアァァ!!!!!
安土桃之進の体が宙を舞い、地面に叩きつけられ、
天井を見上げたままピクリとも動かなくなった。
一瞬の攻防であった。
隼斗は相手が必ず蠍突きを使ってくる距離を見切り、
攻撃の軌道を見切り、タイミングを見切り、
電磁加速カウンターを合わせることに成功したのだ。
本日2回目の『安土をぶっ飛ばす』である。
「終了!!」
キュルキュルとモーターの回転が弱まってゆき、
手首のパーツからブシュウゥゥと気体が噴き出す。
限定解除モード使用後の排熱処理なのだろう。
成り行きを見守っていた仲間たちは皆、
ポカンと口を開けて間抜け面を晒している。
気持ちはわかる。
隼斗自身もこの結果には実感が無いのだ。
本当は自分も同じように放心したいところだ。
だが、今はそんな余裕は無い。
やるべきことがある。
「残りHPは!?」
その呼び掛けで仲間たちはハッと我に返り、
もう微塵も動く気配の無いラスボスの解析を試みる。
「0……ゼロだよ!!
ラスボスのHPはゼロだよ!!」
倒した。
倒してしまった。
勝つつもりで挑んだ戦いではあったが、
それにしても、まさか初見で撃破できるとは
あまりにも話が出来すぎている。
相手は500年間無敗の最強剣士だったのだ。
それを1回目の挑戦で撃破してしまったのだ。
仲間は全員、五体満足。
爆発で吹き飛ばされた安土だけはズタボロだが、
それ以外は誰一人として一滴の血も流していない。
安土桃太郎以外は無血の完全勝利。
とても信じられない。
だが、今は……
「さっさと引き上げましょう!!」
脱出が最優先である。
通常ならばラスボスを倒した時点からダンジョンの
崩壊現象が始まるはずが、今回はどういうわけか
ラスボス後半戦開始が崩壊のトリガーとなっていた。
それから10分以上も経過している。
もう一刻の猶予も残されていない。
「いや、待て」
安土桃太郎。
「その、首切姫が……
地面に吸い込まれたんだが…………」
「知るか!!
帰るぞ!!」
第7層。
待機していた山田&斎藤将太と合流を果たし、
真っ先にバイクを捨てるよう促される。
さすが、この2人はわかっている。
崩壊現象の開始からだいぶ経っているのだ。
ダンジョンの揺れはかなり激しくなっており、
そんな状況で不安定な二輪車を走らせるのは
自殺行為以外の何物でもない。
この場にいるのは全員、魔法学園の生徒か元生徒だ。
地獄のトレーニング地獄を耐え抜いてきた猛者だ。
自分の足で走って、走って、走りまくる。
その訓練の成果が問われる時が来たのである。
第6層をすっ飛ばして第5層。
行きも帰りもショートカットを利用したので、
第6層がどんな環境であったのかは知る由もない。
「よう、待ってたぜ」と出迎えたのは宮本正志。
相棒の佐々木小司郎が付け加える。
「6層の連中は撤退済みだ、俺たちも急ぐぞ」
どちらも関東の卒業生であり、頼もしい先輩たちだ。
「ここから先は俺たちに任せろ!!」
「露払いは得意分野なんでな!!」
そこから先は宮本&佐々木コンビの無双が続いた。
彼らはほとんど魔法を使わず、その卓越した剣技で
退路を塞ぐ弊害を取り除いていったのである。
他に帰り道で遭遇した冒険者といえば、
第3層で燻っていたおじさんくらいなものだ。
ただし彼は退路を確保していたのではなく、
魔物に見つからないよう隠れていただけだった。
「一緒に燻ってた連中はさっさと帰っちゃったけど、
おじさんはほら、こうして最後まで残ってたよ!
だから、おじさんも君たちの仲間だよね!?
ラスボス討伐チームの一員でいいよねえ!?」
なんと図々しい。
そこまでして金が欲しいのか。
まあ、欲しいだろう。
もしもこのおじさんをカウントした場合、
1人当たりの取り分はいくらになるだろうか?
いや、そうなると斎藤将太、宮本&佐々木コンビも
頭数に加えないと不公平というものだ。
「検討します」
今は金の話なんかしている場合じゃない。
おこぼれ頂戴目的でダンジョンに留まっていたのは、
なにも燻りおじさんだけではなかった。
第1層入口……今は出口であるその場所周辺では、
大勢の冒険者たちが英雄の帰還を待ち侘びていた。
「安土君、きっと無事に帰ってくると思ってたよ!」
「どけ、邪魔だ」
「僕たちは君のことが心配でたまらなかったんだ!」
「後ろがつっかえてるんだ、早く出ろ」
「ちゃんとギリギリまで退路を確保しておいたよ!」
「してなかっただろ、いいからさっさと行け」
「僕たちみんなで1つのチームってことでいいよね!」
「いいわけあるか、状況を見て物を言え」
立っているのがやっとな激しい揺れの中、
金目当ての冒険者たちは分け前を確約させようと、
ニコニコと笑顔を浮かべながら安土に擦り寄る。
なんと醜いことか。金の魔力とは実に恐ろしい。
「神楽、ぶっ放せ」
「あいよ」
収束したマナが大爆発を引き起こす。
その爆風で半数以上が強制的に出口から追い出され、
残った者たちは恐怖に怯えながら逃げ出すのだった。
こうして、安土桃之進を討伐した英雄たちは、
誰一人欠けることなく生還を果たしたのである。
──夕刻、最終決戦に勝利した冒険者10名は
高級温泉宿“桃之湯”で各自戦いの疲れを癒していた。
本来この宿は予約制なのだが、安土桜夜の計らいで
特別に宿泊することを許されたのだ。
実際に予約していた客はどうなったのか気になるが、
まあそのへんも社長パワーでどうにかしたのだろう。
さすが高級宿だけあって飯も風呂も最高なのだが、
先日ここで夜中に泣き喚いて追い出された神楽は
居心地が悪いので、外の空気を吸いに散歩へ出た。
すると偶然にも安土桃太郎とバッタリ出くわし、
彼も同じ理由で散歩していたのだという。
ああ、偶然ではない。
彼は昔、この宿で父親に殺されかけた過去がある。
居心地が悪くて当然なのだ。
神楽が夜中に泣き喚いた理由は、その暗い過去を
思わぬ形で知ってしまったからであった。
「……って、あんたの伯父さんも現場にいたんだから
当然その過去を知ってるはずよね?
物忘れが激しい人ってわけでもなさそうだし、
なんでこんなクソ宿をチョイスしたんだか……」
「さあな、わからん
だが、何か考えあってのことだろう
どうせ『出会いをやり直したい』とかじゃないか?
あの人は俺に対して負い目を感じてるようだし、
あとで一緒に風呂に入ろうだなんて誘ってきたし、
親子の絆を深めたいと思ってるのは確かだ」
「あ〜、ありそうねぇ
しっかし、男同士で裸のつき合い……
元会長が大歓喜するシチュエーションだわ
カメラが仕込まれてないか注意しなきゃね」
「安心しろ、全部外した」
「あったんだ……」
「それより神楽、さっきは助かった
桃之進とチャンバラしてた時だ
もしあの爆発で吹き飛ばされてなかったら
スタミナ無限の魔物相手との体力勝負の末、
俺は確実に打ち負けていただろう
つまり、死んでいた
きっと前周までの俺はそうやって死んできたんだ
そのチャンバラを中断した結果俺は生き残り、
お前たちが仇討ちに挑むという選択肢が消えた
こうして全員無事に生還できたのはお前のおかげだ
神楽……
ありがとうな」
「それ、大上の案よ」
「なっ……!?」
「まあ実行したのはあたしだけど、
あいつのアイディアが無かったら……いや、
白刃取りで桃之進の動きをほとんど封じてたし、
なんだかんだでトドメ刺したのもあいつだし、
今回の戦いにおけるMVPって大上じゃない?
感謝する相手が違うわ
まあ、あたしも我ながらよくやったと思うけどね」
「…………」
安土は眉間をつまんで黙り込んでいる。
複雑な心境なのだろう。
2人は敢えて時間差をつけて宿へと戻った。
べつに一緒に戻るのでもよかったが、念のためだ。
妙な誤解をして事実無根の噂を流す連中がいるのだ。
そいつらに餌を与えてはならない。
安土は部屋に着くなり布団へ身を投げ出し、
神楽の発言について思考を巡らせる。
本日のMVPは誰なのか、という件だ。
(俺だろ……?)
まず、誰の手も借りずにボス部屋の手前まで
無傷で辿り着けたという事実。
その時点で他の有象無象共とは格が違うのだ。
そして成り行きで参加したラストバトルでは、
混乱ばら撒きマシンをひたすら消し続けるという
一見地味ではあるが重要な役割を完遂した。
それだけではない。
仲間のMP管理と状態異常回復もこなしたのだ。
黒い竜巻を喰らった際、目の前が真っ暗になったが、
あれは竜巻の色を見ていたわけではない。
魔法能力者の五感を奪う新種の状態異常である。
それと同時に恐怖の状態異常も付与されていたが、
とにかくその2つを治療したのは自分なのだ。
後半戦でつい熱くなりヘマをやらかしたものの、
その件を差し引いても大活躍だったのは間違いない。
(俺がいなきゃ、みんな死んでただろ……)
それを神楽に言わせたかった。
そうやって1時間ほど悶々としていると、
次第に他の考え方もするようになる。
たしかに活躍していたという自覚はあるが、
やはり裏方の働きは目に見えにくいものなので
表舞台で動いていた者が脚光を浴びるのは仕方ない。
ここはひとつ自分自身の評価は保留しておき、
他の者たちの働きを採点してみようじゃあないか。
まず神楽、満点。
むしろ120点を与えてやってもいいくらいだ。
魔法アタッカーの仕事を忠実にこなしたばかりか、
天才的な閃きによって聖水や黄金の太陽を生み出して
MP管理のサポートまで行うという活躍ぶりだ。
とにかく予想を超える働きをしてくれた。
そして、脚が魅力的である。
もうあいつがMVPでいいんじゃないか?
亀山も満点……と言いたいところだが、
俺を縛ったので減点。90点だ。
まあ、それ以外の仕事は完璧にこなしてくれた。
特に攻撃デバフには助けられた。
桃之進の異常な高火力を半減させたのはでかい。
もし亀山不在の状況で戦っていたとしたら、
俺は桃之進と剣を交えようとはしなかっただろう。
いや、それが正解だった……のか?
猪瀬も防御バフで安全の確保に貢献してくれた。
ほぼそれだけだったが、それでいい。
もし桃之進がデバフに対して耐性を持っていた場合、
味方が受けるダメージを軽減するには防御バフ、
それと一瞬で消えるマジックシールドで
的確に魔力攻撃を防ぐという方法しかないのだ。
猪瀬はそのどちらもこなしていた。
幸い桃之進にデバフ耐性は存在しなかったため、
バフデバフ完備という最高の形で挑むことができた。
そういえば1回だけ体当たり攻撃を仕掛けていたが、
あれは余計な行動だった。
大上のカウンターは成功したはずだ。
猪瀬が割り込まなければそこで戦いが終わっていた。
まあ、カウンター失敗の可能性も捨て切れないので
完全な無駄行動ではなかった……ということにする。
とりあえず95点だな。
金子も与えられた役割を完璧にこなしていたので、
評価が下がるということはない。
拠点防衛、攻撃バフに防御デバフ、黒い竜巻に対して
マジックシールド……と、色々やってくれた。
何よりの成果は、あの男が拠点に踏み留まることで
仲間たちが思い切って戦えるという精神的な支柱、
安心感を生み出していた件だろう。
見た目はヒョロいが生徒会長という肩書きがあるし、
いかにも聖騎士っぽい重装備をしているおかげで
頼っても大丈夫だと思わせるのだ。
だが男男男の三角関係を形成しているとの噂があり、
俺をじっと見つめる目が怖かったので50点だ。
白鳥が後半戦で大ダメージを稼いでくれたおかげで、
戦闘時間の短縮ができて脱出が間に合った。
苦手な女だが、良い仕事をしたので80点をやろう。
いや、俺をモデルにしたBL本を描いてるらしいので、
やっぱり30点にしておこう。
関東アロエ……本当は強いはずなんだがなぁ。
物理と魔法の複合ダメージを与える“魔法拳”が、
今回の戦いでは相性が悪かったように思える。
それしか使えないせいで、遠距離攻撃を行うには
マジックアイテムに頼るしかない。
それを解決したのがマギアランチャーなわけだが、
あの女、俺に石ぶつけやがった。
迷わず0点をつけてやりたいところだが、
特別に参加賞として10点をやろう。
佐倉先輩は戦闘では大して活躍しなかったが、
桜の花を燃やしてくれたので満点だ。
スカッとした。
あとで改めてお礼を言いに行こう。
山田さんは戦闘には参加しなかったものの、
なにも怖気付いていたわけではないだろう。
ああ見えて陰の実力者なのだ。
もしもの場合に備えて待機していた。
そう考えると合点が行く。
彼が言っていた通り、バギーによる調査が無ければ
混乱からの全滅コースを辿っていたかもしれない。
その最悪の事態を未然に防いでくれたので満点だ。
残すは大上か。
あいつは…………
一通り評価を終えた安土は、ある言葉を思い出す。
『みんなで1つのチーム』という図々しい台詞である。
低層で燻っていた弱者の戯言ではあるが、
実際そうなんじゃないかと思い始めたのだ。
こうして今あれこれと傲慢な採点ができるのも、
全員無事に生還……生きているからだ。
これがもし誰か1人でも欠けていたならば、
味方の評価どころではなかっただろう。
あるいは犠牲者に100点を与えていたかもしれない。
自分1人の力で勝てる戦いではなかったし、
決戦メンバー10名だけで無事に帰れたかわからない。
残りの者たちが退路を確保してくれたおかげだ。
まあほとんどは燻っていただけの役立たずだったが、
それでも少しは仕事をしてくれた痕跡はあった。
とりあえずご褒美を与えて然るべきだろう。
30分ほど考えて方針が決まり、
安土はスマホに向かって話しかける。
「伯父さん
報酬の取り分について相談したいのですが」
『え、今その話する?
激戦の後で疲れてるんだろ?
そういう生々しい話は明日にして、
今日はゆっくり体を休めるべきじゃないかな』
「いや、今しておくべきかと
明日になれば、金目当ての連中が騒ぎ出すでしょう
そうなる前に手を打っておきたいんです」
『そう……
それで、どんな内容なのかな?』
「今回の戦いに参加した総勢216名、
その全員で10億円を分けるべきだと思いましてね」
『えっ……全員で!?』
「はい
もちろん等分ではありません
ラスボスとの死戦を繰り広げた者たちと
低層で燻っていた連中の報酬が同じ金額では
あまりにも不公平なので、争いの火種になります
ですので働きに応じてランク分けを施し、
分配するのが得策であると考えています」
『どのみち僕が出す金額は変わらないから
その提案通りにするのは全く構わないけど、
モモ君は……本当にそれでいいのかい?
借金を全額返済できるチャンスなんだよ?
きっと君の仲間に事情を話せば返済に協力して、
余った金額を山分けって形に落ち着くはずだよ
その機会を自分から蹴ってしまうだなんて……』
「べつに構いませんよ
元々D7攻略の報奨金で返済するつもりだったので、
今回降って湧いた10億円は見送ることにします
むしろ、ここで下々の者たちに大盤振る舞いすれば
ブランドイメージの向上に繋がるでしょう
それにまあ、誰一人として死ななかったとはいえ
負傷者の数がそれなりに多いですからね
治療費や武具の修理代を出すべきだと思いまして」
『ああ、怪我人といえば……
藤原兄弟の損傷具合は酷いものだったよ
兄の鎧は布切れのように引き裂かれ、
弟に至っては両腕があらぬ方向に折れ曲がっていた
第6層は激戦区だったみたいだね』
「行きも帰りもショートカットを利用したので、
その階層には立ち寄りませんでした」
『そう……』
──夜になり、個室で食事を済ませた安土は
宴会部屋に金子の姿があるのを確認する。
浴衣を着ているので、もう入浴した後なのだろう。
よし、安全だ。
伯父との裸のつき合いは丁重にお断りしておいた。
今は……というか、どんな時であっても
風呂には1人でゆったりと浸かりたい。
しかし、ここで凡ミスが発覚。
露天風呂で大上隼斗と鉢合わせてしまったのだ。
さっき、奴の姿も確認しておくべきだった。
おかげでシャンプーハット姿を見られてしまった。
後悔するが、もう遅い。
とりあえず外しておこう。
「……」
「……」
反応が無い。
大上隼斗はただゆったりと湯に浸かり、
星空を見上げながら戦疲れを癒していた。
他人のファッションに難癖をつけてくる奴のことだ、
どうせ心の中では笑っているのだろう。
まあ、それはいい。
奴が感想を口にしなければ戦争にはならない。
「なあ、大上……」
「なんだ、安土?」
こいつには言いたいことがある。
ラスボスを倒した直後に首切姫を回収しておけば、
愛剣がダンジョンに吸収されるという結果には……
いや、そうではない。
まさかそうなると思っていなかったのは俺も同じだ。
むしろ自分が気づくべきだった。
首切姫が地面に吸い込まれる場面は、
戦闘が終わるまでに2回も目撃していたのだ。
警戒を怠った結果がこのザマだ。
いやいや、そうではない。
そうではない……。
「安土、俺に一体なんの用だ?
話しかけておいて黙り込むとか、
新手の嫌がらせは勘弁してくれ」
まあ、当然の反応だ。
だが、べつに嫌がらせをしたのではない。
不愉快にさせるために話しかけたわけではない。
ここはひとつ、ズバッと言ってやるべきだ。
「よくやった」
「お前に褒められても嬉しくない」
こいつ……!!
何やら隣の男子浴場が騒がしくなってきたので、
白鳥飛鳥は女子浴場の高壁をよじ登って覗き込んだ。
すると2人の男が取っ組み合っているではないか。
イケメンと男前が互いのプライドを懸け、
下半身の妖刀がぶつかり合うのも気にかけずに
肉弾戦を行う姿はまさに絶景──これぞ桃源郷。
「美しい…………」
飛鳥は二度とお目にかかれないであろうレアな光景を
大粒の涙を流しながら深く記憶に刻み込むと、
そっとカメラのシャッターを切るのであった。
基本情報
氏名:安土 桃太郎 (あづち ももたろう)
性別:男
年齢:16歳 (9月6日生まれ)
身長:165cm
体重:58kg
血液型:O型
アルカナ:死神
属性:無
武器:黒薔薇 (妖刀)
防具:雅 (衣装)
能力評価 (7段階)
P:9
S:9
T:9
F:8
C:10
登録魔法
・ディスペル
・リフレクト
・マジックアーマー
・ディヴォーション
・ソウルゲイン
・マナストック
未登録魔法
・サクリファイス
基本情報
氏名:鬼島 神楽 (きじま かぐら)
性別:女
サイズ:AAA
年齢:17歳 (3月30日生まれ)
身長:151cm
体重:44kg
血液型:O型
アルカナ:運命の輪
属性:無
武器:ニルヴァーナ (杖)
防具:千紫万紅 (衣装)
アクセサリー:黒タイツ
能力評価 (7段階)
P:4
S:3
T:3
F:15
C:5
登録魔法
・スーパーノヴァ
・アブソリュートゼロ
・グランドクロス
・サンクチュアリ
・マナストック
未登録魔法
・ステイゴールド
・トリコロール
・ホーリーシャワー
・ビッグバン
基本情報
氏名:大上 隼斗 (おおがみ はやと)
性別:男
年齢:17歳 (6月6日生まれ)
身長:177cm
体重:63kg
血液型:A型
アルカナ:正義
属性:なし
武器:ウルフファング (拳鍔)
防具:ブラックシープ (衣装)
能力評価 (7段階)
P:8
S:9
T:10
F:0
C:0




