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進め!魔法学園2  作者: 木こる
12000回目の自殺
98/100

黄金の夜明け

『安土をぶっ飛ばす』という快挙を成し遂げた隼斗は

感涙に咽ぶでもなく、安土桃之進が起き上がる前に

速やかに足元の刀を回収してから距離を取った。

その行動を静観していた仲間たちはハッと我に返り、

今が戦闘中であることを思い出す。


せっかく絶好の攻撃チャンスであったというのに、

つい見惚れてしまい何もできなかった。

先輩冒険者としてあるまじき大失態である。


そんな彼らには目もくれず、隼斗はバギーに向かって

黒薔薇の装飾が施された刀を見せつけて確認する。


「山田さん!!

 これは魔力構造体ではありませんね!?

 磁力に反応していたので金属のはずです!!

 魔物の体の一部ではなく、現物ですよね!?」


『あ、ああ……そうだよ!!

 魔力伝導性の高い物質……なんだけど、

 魔道工学合金(マギアメタル)ではないようだ!!

 それでも人間が作った物には違いない!!

 レアアイテムGETだね!!』


思わぬ追加報酬に山田は興奮するが、

隼斗には別の思惑があって質問したのだ。

これは専門家による意見も聞いておく必要がある。


「安土!!

 この刀は首切姫と同類か!?

 もし安土家に伝わる呪いの刀なら、

 俺とお前以外は触らない方がいいよな!?」


隼斗は安全確認を行いたかったのだ。


「さあ、わからん

 だがまあ、そんな予感はする

 他の人間は触らない方が賢明だろう」


専門家がそう言うのならば従うべきだ。

隼斗は黒薔薇を握り直し、気を引き締める。


とりあえず、こちらが優勢のように思える。

白刃取りどころか刀そのものを奪い取れたのだ。

安土桃之進が新たに刀を作り出すかもしれないが、

もしそうなった場合、それは魔物の体の一部である。

コボルトの剣と同じように、その武器を攻撃すれば

本体にダメージを与えられるようになる。


又、ストーンアーチャーは矢を作り出す際に

HPを消耗するという性質を持っており、

そのルールが安土桃之進にも適用された場合、

刀を奪い続けることで自滅を誘う戦術が可能になる。

一度成功したのだ。刀を奪う手順は学習済みである。



しかし、その期待は裏切られてしまった。

良い方向に。


安土桃之進には『自身のHPを削って刀を作る』という

行動パターンが搭載されていなかったのだ。

だが、手放した黒薔薇を取り返そうとはしてくる。

その方法は……


『歩いて追いかける』である。


周りに人間がいるというのに一切の興味を示さず、

攻撃行動を取らず、補助魔法すら使わず、

ただひたすら黒薔薇を目指して歩くのだ。

隼斗は困惑しながら早歩きで逃げ回っている。

なんともシュールな光景である。


「アロエさん!!

 鬼島先輩!!

 何やってんですか!?

 攻撃チャンスですよこれ!!」


その通りなのだが、攻撃部隊は動かない。

というか動けないのだ。

隼斗のカウンターに見惚れていた時とは違う理由だ。

アロエはまた攻撃を完全回避されることを恐れ、

神楽のスーパーノヴァは動き回る的には当たらない。

彼女らは他の攻撃手段を持っているにもかかわらず、

事前の作戦通りに動こうとして考えが至らないのだ。


「安土!!

 お前が“空蝉”を使う時はどんな時だ!?

 さっきの残像ジャンプだ!!」


「また勝手に名付けやがって……

 まあ、普通の回避じゃ間に合わない時だな

 それも、まともに喰らったら大ダメージ確定の

 狙い澄ました一撃を空振りさせたい時だ

 それでカウンターを避ければよかったものを……

 おそらく魔力が無いから警戒してなかったんだろう

 お前は格下のザコ扱いされてるんだ」


心なしか、安土は不機嫌そうだ。

自分と瓜二つな男が格下のザコにやられたのが

相当効いてしまったのかもしれない。

真偽は不明だが、とにかく必要な情報は聞き出せた。


ここで金子が作戦変更を告げる。


「鬼島さんはスーパーノヴァ以外の攻撃魔法で

 チマチマとダメージを稼いで!

 元会長と佐倉さんはランチャー持って集合!

 アロエ先輩の分も忘れずに!

 山田さん、もし“パキット”の在庫があれば、

 僕の合図でドローン配送を頼みます!」


パキット……大量のマナを発生させることにより、

一時的に魔法を使い放題になるアイテムだ。

大ダメージを狙わずに短期決戦を実行するには、

手数を増やす以外に方法は無い。

増員すればMPの消耗が激しくなるので、

その備えが必要になるだろう。

亀山と猪瀬も呼び寄せた方が手数は増えるが、

その2人は安土の仲間なので扱いづらい。保留だ。


『パキットだけど、ただ届けるだけじゃなくて

 遠隔操作で使用することも可能だよ

 マギアドローンには作業用アームが付いてるからね

 現地の君たちは忙しくて手が回らないだろうし、

 僕がアイテム係になるのがベストだと思う』


「では、それでお願いします!」




増員された攻撃部隊が活動を開始する。


神楽は威力が高くなりすぎないように調整しながら

3属性複合の攻撃魔法を連射。しかも追跡弾だ。

ラスボスに与えているダメージの半分以上は

彼女1人で稼いだものであり、魔法アタッカーとして

求められる役割を見事に果たしている。


他3名がマギアランチャーに頼る理由は、

香織の場合は『その方がダメージを稼げるから』、

アロエと飛鳥は『攻撃魔法を持っていないから』だ。

2人とも厳密には魔法による攻撃手段はあるのだが、

仕様が特殊すぎてこの局面では使えないのである。


「アロエさん!!

 俺を狙わないでください!!

 もっと真面目にやってくださいよ!!

 こう見えて俺、命懸けなんですよ!?」


「あ、バレた?

 あはは、ごめんごめん

 つい遊んでみたくなっちゃってさ〜

 見た目が全然武器っぽくないし〜」


マジで命が懸かっている。この場にいる全員の命が。

この戦い、隼斗が死んだらそこで終わりなのだ。

他に白刃取りを実行できる者はいないし、

彼が黒薔薇を持っているこの状況こそが重要である。


神楽は観てしまった。

ラスボスの最強必殺技を。

それは形態移行時に放たれる黒い竜巻であり、

初見殺し性能に満ちた逆転の一手、

安土桃之進の最後の切り札であった。


神楽はその必殺技に備えていた。

3属性複合の追跡弾なんて高等技術を使っているのは

敢えて複雑な技術を重ねることで頭をフル回転させ、

迫り来る脅威への対抗策を導き出すためである。

マルチタスカーならではの思考法だ。

もう安土と相談できるような時間は残されていない。

彼女がやるしかないのだ。






──順調にダメージを積み重ねてゆくうち、

とうとうその時が来てしまった。

必殺技使用に必要なアイテムが隼斗の手中にあるので

神楽は安心していたが、安土桃之進は予想外の方法で

強引に事を進めてきたのである。


「ぬぅぅひっぱ……!?」


と、素っ頓狂な声を上げたのはイケメン安土。

非常にレアな反応だが、今はそれどころではない。


地面に突き立てた首切姫が吸い込まれたのである。


そして次の瞬間には安土桃之進の足元から刀が生え、

彼はそれを手にして、全身から黒い霧を噴射した。

その衝撃で隼斗は吹き飛ばされたが、受け身を取って

なんとか被害を最小限に抑えることができた。

他のメンバーは何人か転倒しかけたものの、

踏ん張る金子にしがみつくことで難を逃れる。


これで終わりではない。

大変なのはここからだ。


神楽は無我夢中で叫んだ。


「亀山さん、ブタちゃん、急いでこっち来て!!!

 男共は残って、他は全員退避!!!

 いや、元会長も残ってください!!!

 山田さんはパキットの準備を!!!

 大上はその刀を安土に渡す!!!

 安土はそれを首切姫の代わりに!!!」


突然の指示に仲間たちは困惑するが、

神楽の只事ではない様子から危険を察し、

ここは素直に従うべきだと判断した。


その直後、首切姫から無数の霊魂が飛び出して

安土桃之進の周囲を行き交い、漆黒の渦へと育つ。

これより放たれるのだ。

巻き込まれた者を永遠の闇へと誘う、死の嵐が……。



安土流陰陽術究極奥義・百鬼夜行。


広範囲に魔法防御力無視の無属性ダメージを与え、

恐怖と暗闇の状態異常を付与する凶悪な必殺技。

必中ではないが攻撃判定が108回もあるため、

実質回避不能という点も厄介である。

その1つ1つに状態異常の効果が乗るばかりか、

しばらくHPとMPが回復しなくなるという

嫌がらせを極めたようなおまけまで付いてくる。



そして、これこそがラスボスの自滅行動であった。

発動するには全ての魔力と大量の生命力を必要とし、

人間だった頃の安土桃之進が使用を渋っていたのは、

このコスパの悪さが何よりの理由だった。


ゲーム風に言えば『MP全消費、HP半分消費』で、

HPが半分になった時点で形態移行したと考えると

ラスボスの残りHPは大体4分の1になるはず。

HPの最大値を50000と仮定したとすると、

あと12500ダメージを与えれば勝つことができる。


勝利は目前。


だが、まずはこの厄介な必殺技をどうにかしなければ

勝利もへったくれもない。

せっかくここまで追い詰めたのだ。

討伐報酬10億円で安土の借金をチャラにしようという

神楽の願いは、あと少しの辛抱で叶いそうなのだ。


(退いてたまるもんですか……!!)


小さな胸の中で、烈火の如く闘志が燃え上がる。

仲間たちは誰一人として知る由もないが、

ここが正念場であると彼女だけが理解している。

神楽は己自身に課した責務を果たすため、

百鬼夜行との真っ向勝負に挑む……!




耳を劈かんばかりのけたたましい悲鳴。

それと同時にフロア全体が振動する。

安土桃之進が百鬼夜行を解き放った合図であり、

ダンジョンの崩壊が始まった証拠でもある。

まだラスボスが生きているにもかかわらず崩壊現象が

起きてしまうのは、おそらくプログラムミスだろう。

百鬼夜行使用コストの『HP半分消費』の部分が

深刻な不具合を引き起こしているものと考えられる。


それはさておき、仲間たちも動き出す。

「安土、受け取れ!!」と黒薔薇が地面を滑り、

安土は先祖の愛剣を踏みつけてキャッチ。

すぐさま地面に突き立てて精神を統一させる。

朝焼けの雲が問題無く発動したのを確認し、

これは首切姫と同系統の妖刀なのだと確信する。


直後、安土桃之進を取り巻く渦が唸り声を上げ、

黒い竜巻となって膨張を開始した。


「大上、飛び込んで!!

 台風の目は安全地帯!!

 金子はマジックシールド連打で援護!!」


なぜ神楽が初見のはずのラスボスの行動パターンを

把握しているのだろうという疑問はあったが、

まあ、天才の直感に賭けてみるのも悪くない。

2人は指示通りに動いた。


「元会長にはその、ちょっと頼みにくいんですけど、

 わざとダメージを受けてもらいます

 ほら、ドMモードで受けたダメージが多いほど

 ドSモードでの攻撃力が上がるとかなんとか……」


白鳥飛鳥の変則的な戦闘スタイル、

“誘い受けからの一転攻勢”のことを言っている。

ナイスな采配だ。

神楽は飛鳥の戦闘力についてあまり知らないのだが、

この局面で彼女を投入するという判断は正解だった。


「オッケ〜ぃ!

 死なない程度に頑張ってくるね〜」


なんとも軽いノリで黒い竜巻へと向かう飛鳥。

やはりこの女は只者ではないと噛み締めながら、

その背中を見送る神楽であった。


と、ここで朗報がもたらされる。


「先輩の読み通り、台風の目は安全でした!!

 それと、首切姫の奪還には至りませんが、

 白刃取りに成功しました!!

 この状態を維持して待機します!!」


なんと有能な働き者だろうか。

神楽の知る限り、ラスボスの魔法行動はただ1つ。

というか実際そうなのだが、それ以外のパターンは

刀を用いた物理行動しか用意されていない。

朧満月はまあ、もう1匹の敵という認識でいいだろう。

とにかく、この2回目の白刃取りは大きい。

『形態移行時に百鬼夜行を使用する』を乗り切れば、

あとは物理攻撃への対策だけに専念すればよい。

その対策を既に完了してくれたというのだ。


「来ましたよ」

「ウチらは何すればええの?」


亀山と猪瀬、到着。


「ちょっとだけ待ってて!!」


そう言うと神楽は空中に巨大な氷の塊を作り出し、

それを炎で包み込むという不可解な行動に出た。

溶けた氷が水へと変わり、拠点の中心地である

安土の頭上からドバドバと降り注ぐ。

その足元にはみるみるうちに水溜まりが出来上がり、

同じく頭上からの被害を受けている金子は、

神楽の不可解な行動にツッコむべきかどうか迷った。


「これは……なんのつもりだ?

 精神統一の邪魔をするな……」


ずぶ濡れの安土が恨めしそうに呟くが、

なにも嫌がらせ目的でやったのではない。

神楽は“魔力で作り出した本物の氷”を、

“魔力で作り出した本物の炎”で溶かしたのだ。


そうして生み出された液体は──“聖水”。

非常に高い魔力伝導性を持っているだけでなく、

魔法効果を増幅させるという性質を兼ね備えている。

つまり、これにより味方単体への魔法が範囲化し、

安土が増幅魔法(リフレクト)を使わずともバフの効果を

向上させることができるというわけだ。

結果的に絶大なMP節約となるので非常に助かる。


「金子はいつでも大上と元会長に

 マジックシールド展開できるように待機!!

 亀山さんは攻撃魔法ぶち込み続けて!!

 ブタちゃんは拠点にマジックシールド連打!!

 山田さん、パキッとやっちゃってください!!」


『ほい、パキッとね!』


マギアドローンの作業用アームがなめらかに動き、

辺りにパキッ!と乾いた破裂音が鳴り響く。

そして大量のマナが発生したことにより、

これから数秒間は魔法を使い放題となった!



黒い竜巻が眼前まで迫っているが、

神楽の心は妙に落ち着いていた。


できることは全部やった。


大上は生存確定、元会長ならたぶん大丈夫、

その2人が平気なら拠点メンバーも平気なはず。

マジックシールドで大幅にダメージをカット、

もし状態異常にかかっても朝焼けの雲で即復帰、

思いつきの変な汁のおかげでMP管理も万全だ。


……本当に万全か?


急に不安になった神楽は最後にもう1つ、

とっておきの魔法を使いながら竜巻に呑まれてゆく。




10秒ほどだっただろうか、10分ほどだっただろうか、

拠点メンバーたちは暗黒の暴風に曝されながらも

歯を食い縛り、それぞれに与えられた役割をこなして

嵐が過ぎ去るのを待った。


金子は待機を命じられていたが、パキットの効果で

潤沢なマナが溢れている状況で何もしないのは

もったいないと思い、こっそりヒールを使っていた。

だが、HPが回復した様子はない。回復量よりも

受けるダメージの方が多いという手応えではない。

その異変から導き出された答えは『HP回復無効』。


それがわかると即座に無駄な回復行動を切り上げ、

拠点にマジックシールドを連続展開するのだった。

その作業は既に猪瀬が行なっていたのだが、

2人がかりで交互に展開することで隙間が無くなり、

より安全になるという判断によるものである。


その判断は正しかった。

金子のアドリブにより、百鬼夜行の多段ヒットは

30発程度に抑えることができたのだ。



闇が晴れる。

もう悲鳴のような轟音は聞こえない。

フロアはグラグラと揺れているが、

それはダンジョンの崩壊によるものだ。


「みんな無事ぃ!?」


神楽の呼び掛けに仲間たちが応える。


拠点メンバー5名、全員生還。

大上隼斗、生還。


「……くぅううう〜〜〜!!!

 死ぬかと思ったあああああ!!!」


白鳥飛鳥、生還。



百鬼夜行による死者、0名!




鬼島神楽、安土桃之進の切り札を完全攻略……!!




その大快挙に神楽が内心大はしゃぎする中、

安土は異変に気づいて背後に目をやった。


すると上空には──黄金色(こがねいろ)に輝く巨大な球体。


これはまずい。


まだ朧満月の復活周期は来ていないので、

あの発光体は別物だと考えるのが妥当だろう。

一体どんな効果があるのか、いつ出来たのか、

なぜ気づけなかったのか、何もわからない。

が、とりあえず消滅させておくべきだろう。


安土は謎の球体に向かって手をかざした。


……が。


「ちょ、待って待って待って!!

 それあたしが作ったやつ!!

 無害!! 無害だから!!

 むしろ有益だから消しちゃだめ!!」


「神楽が作った……?」


その言葉に眉をしかめるが、すぐにピンと来た。

安土自身もそ(・)れ(・)を作ることができるのだ。

だが余裕のある時にしか作ったことがないので、

まさか戦闘中にあんな物が生み出されるとは

思ってもみなかったのである。


「マナストックかよ

 しかも、あれ…………完熟してやがる

 どうやったんだよマジで……」


マナストック──魔力を保存する魔法だ。

神楽はパキットで魔法使い放題の状況を利用して、

膨大な量の魔力をマナで包み込んでいたのだ。

本来、熟成にはそれなりの時間を要するのだが、

神楽は天才なのでその問題を軽くクリアできた。

本人は原理を理解していない。直感である。


ともあれ、突如出現した謎の発光体は

神楽特製の特大きびだんごであった。


「たしか作った本人しか回復できないんだっけ?

 でも、あんたなら上手くやってくれるでしょ!

 とにかく予備のMPは用意しといてあげたから、

 足りなくなったらアレから吸い取って!」


朗報。

ソウルゲイン使い放題。

もう誰も残りMPを気にすることなく、

思う存分に魔法を使える状態となったのだ。

MP供給役である安土の負担は増える一方だが、

本人もそれくらい覚悟していたことだろう。


と、このタイミングで朧満月が復活したので

安土は反射的にディスペルを発動。

これにより死の月は跡形も無く消え去り、

戦場の空には黄金の太陽だけが残った。


「総攻撃を仕掛ける!!

 控えメンバーも加われ!!

 このターンで終わらせるぞ!!」


安土は号令をかけると黒薔薇の刃先を地面から離し、

再び突き立てて精神を統一させた。

この局面では、防御優先の朝焼けの雲よりも

攻撃優先の十六夜を使用すべきという判断である。




控えメンバーの到着を待たずに攻撃開始。


まずは朧満月が残していった全能力弱体効果を

金子と猪瀬のバフで上書きする。

聖水溜まりのおかげで対象範囲が広がっており、

1人1人にばら撒く手間が省けるのはありがたい。

しかも自動的に増幅効果まで付いてくる。

神楽は大変良い仕事をしてくれた。


お次は金子と亀山のデバフにより、

安土桃之進にかかっている全能力強化を打ち消す。

ついでにこちら側の安土によるリフレクトで

デバフの効果を増幅させておいた。


「亀山、縛れ!!」


「了解!!

 バインド!!」


魔力の縄が安土桃太郎をきつく締め上げる!


「俺じゃない!!

 あっちだ!!」


「了解!!

 バインド!!」


魔力の縄が安土桃之進をきつく締め上げる!


相手の行動を完全に封じる魔法……。

最初から使用していれば楽だったかもしれないが、

拘束中はMPを消耗し続けるという性質と

そもそもラスボスに通用するのかという疑問により、

無駄撃ちになる可能性が高かったので控えていた。

もし通用した場合でも、一度かかった状態異常への

耐性が上昇するという特性があるかもしれないので、

この魔法を使うなら後半、それも絶対に外したくない

強力な一撃をぶち込むという場面が使い時なのだ。


そして、今こそ強力な一撃をぶち込む場面だ。


「一転攻勢……!!

 ホォォォォモォォォォ!!!!!」


白鳥飛鳥は汚い咆哮を上げながらモードチェンジし、

ロックオンした標的に極太のビームを発射した。

どんな原理かは理解不能だが、誘い受けモード時に

百鬼夜行の多段攻撃がフルヒットしたおかげで、

彼女は今、えげつない火力の持ち主となっていた。


標的の至近距離で白刃取りを実行中の隼斗は

(どうか俺には当たりませんように……)と、

冷や汗を垂らしながら祈るばかりだった。


ちなみにこのモードは攻撃必中化の特性が備わるので

敵を拘束しておかなくてもビームは当たったのだが、

まあ念のため保険をかけておいて損は無い。


ビーム照射が終わると、飛鳥は頭をフラフラさせて

その場にへたり込んでしまった。

彼女にはそのままトドメを刺してもらいたかったが、

ここまで強力な一撃を放ったのは初めてだったのだ。

大量の魔力放出による反動で戦闘続行は厳しい。

というわけで退場。

もうダンジョンの崩壊は始まっているのだし、

一足先に脱出フェーズへ移行させておくべきである。




飛鳥退場と同時にアロエ入場。

前半戦ではアタッカーの役割をこなせなかったが、

今は標的を拘束中という絶好の攻撃チャンスであり、

これならば雪辱を果たすことができそうだ。


「今度こそぶちかましてやんよおおお!!!」


アロエは稲妻の化身となり、

ラスボス目掛けて飛び込んでいった。


……が。


標的にドロップキックが当たる直前に拘束が解け、

またもや安土桃之進はその場に残像を作り出して

上空へと緊急離脱したのである。

亀山が遊んだわけではない。

拘束の状態異常に対する耐性が付いてしまったのだ。


「くっそおおおおお!!!

 またかよおおおおお!!!」


アロエ、いいとこなし。


しかも今回の空蝉は前半戦の時よりも厄介だった。

隼斗は派生技の流れ星にカウンターを合わせるため

白刃取り中の首切姫を投げ捨てたのだが、

それが地面に吸い込まれてゆくではないか。

そして次の瞬間には天井から生えて落下し、

安土桃之進は空中で雅にキャッチ。

前回とは違い、今回は刀を装備した状態で

隼斗目掛けて急降下してきたのである。


攻撃力にデバフがかかっているとはいえ、

真剣を持った相手に拳でのカウンターを合わせるのは

恐ろしくリスクの高い行動である。

だが、回避も防御も無意味なこの状況では、

その一か八かの危険な賭けに命運を託すしかない。


隼斗は覚悟を決めた。



だが、この状況を打開したのは隼斗の拳ではなく、

重装備に身を包んだ猪瀬牡丹による体当たりだった。

安土桃之進は彼女を格下のザコだと認定しており、

完全にノーマークの状態であった。

その取るに足らない存在から落下の軌道を読まれ、

空中で突進を受けて吹き飛ばされたのである。


「猪瀬さん、ナイスヒップ!!」


「……!?」


聞き間違いだろうか?

猪瀬は困惑しつつも隼斗の無事を確認して安堵する。

身を挺して仲間のピンチを救うことができた。

なんだかんだで彼女も優秀な前衛なのだ。



転倒中のラスボスに対して集中砲火を浴びせる。

神楽は前半戦で不発に終わったスーパーノヴァを

直撃させることに成功し、残りのメンバーたちも

各自最強の攻撃魔法を惜しみなくぶち込んだ。


……のだが、まるで手応えが無い。

一応ダメージは発生しているのだが、

せいぜい1〜10ポイント程度といったところだ。

魔法防御力を無視しているはずの神楽の攻撃でさえも

300程度と、明らかに軽減処理されている。

飛鳥が汚いビームで5000ほど削ってくれたものの、

このペースではダンジョンの崩壊が完了する前に

残りのHPを削り切ることは不可能だろう。


バフデバフ完備の状況だというのに、

なぜこうも魔法ダメージの通りが悪いのか……。

その疑問は前半戦でも薄々感じていたのだが、

後半戦に突入してからはますます拍車が掛かり、

冒険者たちを苛立たせるのであった。


「安土因子ってやつのせいか……?

 奴は人間だった頃にもあの妖刀を使っていたんだ

 呪いへの耐性、というか魔法そのものに対して

 強い耐性が備わっていると考えると腑に落ちる

 現代の安土がそうであるようにな」


現代の安土は仲間たちから睨みつけられたが、

決して涼しい表情を崩しはしなかった。


「俺を睨むな……

 魔法が駄目なら物理で攻めればいいだけの話だ

 あとは俺がやる

 大上は下がってろ、邪魔だ」


そう言い、安土は黒薔薇を手に拠点から離れる。

安土桃之進と剣を交えるつもりはなかったが、

もうあまり時間が残されていないし、

自分がやるしかないと思ったからだ。

基本情報

氏名:大上 隼斗 (おおがみ はやと)

性別:男

年齢:17歳 (6月6日生まれ)

身長:177cm

体重:63kg

血液型:A型

アルカナ:正義

属性:なし

武器:ウルフファング (拳鍔)

防具:ブラックシープ (衣装)


能力評価 (7段階)

P:8

S:9

T:10

F:0

C:0

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