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進め!魔法学園2  作者: 木こる
DOG DAYS
100/100

第一話

8月1日。

犬飼杏子はせっかく京都にいるのだから、と

特別に補習を免除されて観光を楽しんでいた。

両隣には亀山千歳と猪瀬牡丹。

まあ、いつもの仲良し3人組である。

最強剣士と死闘を繰り広げた翌日だというのに

杏子は完全に修学旅行気分であり、浮かれていた。


それもそのはず。

杏子はその戦いに参加していないのだ。


「あんたダンジョンへ何しに来たの?」

「今日から“うんこちゃん”って呼んでもええよな?」


「最低なあだ名……!!

 私だって戦う気はあったんだよ!?

 でも、急にお腹痛くなっちゃったんだから

 しょうがないじゃん!!」


杏子はラスボス手前のフロアで体調を崩してしまい、

その後、地獄のトイレタイムを過ごしている途中で

ダンジョンの崩壊が始まり、撤退したのである。

なので最終決戦に参加できなかったばかりか、

安土桃太郎を連れ戻すという任務も果たせていない。

当然、退路の確保などしている余裕は無かったので、

何一つ仕事をしなかったと言っても過言ではない。


それどころか杏子1人で撤退するのは危険だったので、

斎藤満月(みつき)が付き添いを名乗り出たことにより

第7層の戦力が半減するという事態を招いたのだ。

斎藤将太が山田とラストバトルを観戦していたのは、

さすがに1人で退路を確保し続けるのは無理と判断して

安全地帯へ避難したという経緯であった。


「しっかし、社長さんもお人好しよねぇ

 ただうんこしてただけのわんこにも

 報酬出してくれるって言うんだから、

 気前が良いなんてレベルじゃ済まないわよ」


なんと、支払われるのである。

『誰かがラスボスを倒したら1000万円』はまあ、

まだ筋の通る道理で受け取る報酬なのだが、

『安土桃太郎を保護できたら100万円』の方は

明らかに任務を達成していないのに受け取る金だ。


ダンジョンで排便していただけの犬飼杏子には、

最低でも1100万円の報酬が支払われるのである。


そう、『最低でも』だ。

その1100万円に加えてランク別報酬が発生し、

更なる利益を得ることができるのだ……!

まだランク毎の具体的な金額は決まっていないが、

仮に1億円を役に立たなかった100名で割ったとすると

追加で100万円が上乗せされる計算である。

しかも非課税で、だ。


「社長はんも気前ええ人やな思うけど、

 その息子……じゃなかった、その甥っ子も聖人やね

 億単位の借金がある立場やっちゅうに、

 『その金はお前らの金だ』なんて普通言われへんよ

 全員で分け合おうって言い出したのも安土君やし、

 最近、安土君の株が上がりまくる一方やわあ」


その原案を出したのは燻っていた連中の1人なのだが、

『みんなで1つのチーム』と発言してしまった彼も、

まさか参加者全員で10億円を分け合う事態になるとは

微塵にも思っていなかったことだろう。




当て所なく京都をぶらついていた女子3名だが、

ある店の前でふと杏子が足を止めたので、

他の2名も足を止めてその動向を見守ることにした。


「京都まで来てコンビニ……?」

「あ、うんこー?」


「そのネタやめて!?

 なんか急に寄りたくなったんだよ!!」


「やっぱりうんこじゃない……!!」

「生理現象を恥じんでもええで、うんこちゃん!!」


「やめて!!」


友人2人は下品なイジリをしながら笑っているが、

杏子は極めて真剣な表情であった。

その顔が『我慢している』ように見えてしまい、

友人たちを更に笑顔にさせたのだが、

杏子は全くふざける気分にはなれなかった。


今このコンビニに立ち寄らなければ、一生後悔する。


なんとなく、そんな予感がしていたのだ。

なんの根拠も無い直感ではあるが、

その直感に従うべきだと決断する杏子であった。


「あ、入った」

「ほなウチらも行くで」




入店早々、店員の中年男性が杏子を睨みつける。

それも一瞬では終わらず、バーコード頭の彼は

「いらっしゃいませ」という最低限の接客すらせずに

迷惑そうな表情でいつまでも凝視してきたのである。


「なんだろあの人、すんごい見てくるんだけど……」

「接客業の態度じゃないわね」

「それよりうんこちゃん、トイレはええの?」


やっぱり入らない方がよかったのでは……と

後悔しそうになる杏子だったが、店の奥まで来て

商品を陳列中の男性店員を発見すると再び足を止め、

何かを言いたそうに口をパクパクさせる。

この突然の不可解な行動に友人2人は首を傾げ、

それぞれの推論を口にしてみる。


「もしかして限界?」

「トイレなら入り口の近くにあったで」


すると店員は客の存在に気づいて振り向いたのだが、

彼も杏子の顔を見た瞬間ハッとした表情になり、

しばらく2人は無言で見つめ合うのであった。


「え、何この状況……知り合いかしら?」

「うんこちゃん京都の出身やっけ?」


だがもう杏子には友人たちの言葉が届いておらず、

目の前の男性になんと声をかけるべきだろうかと、

ただその考えだけに支配されていた。


「あの」


先に口を開いたのは男性店員だった。


「どこかでお会い……いや、してないはずだ

 だけど運命的なものを感じずにはいられない

 君を見ているとなんだか懐かしくなるような、

 とても不思議な感覚に襲われるよ」


「勤務中のコンビニ店員が客をナンパしたわ」

「あんさん、この子イケメンにしか興味無いで」


「あ、あのっ!

 実は私もそうなんです!

 あなたを見た瞬間、何かを感じて……

 なんだろうこの感覚…………なんなんだろう!?」


「まさかのOKサイン……!!」

「ブサメンなのに……!?」


「もしかしたら俺たちは、

 別の世界線で出会っていたのかもしれない

 何かしらの事情で世界線が統合したことにより、

 本来存在しないはずの記憶が蘇った……

 恐ろしく信憑性に欠ける仮説ではあるけれど、

 その確率はゼロじゃない!」


「なんかわけわかんないこと言い出した!!」

「絶対頭おかしい人やで、この男!!」


「世界線とかはよくわかんないけど、

 なんだかそんな気がします!!

 ううん、きっとそうなんだと思います!!」


「こっちにも頭おかしいのがいるわ!!」

「一体何が起きてるんや……!?」


「俺は君に『おめでとう』と言いたい!!

 なぜかはわからないけど、そうしたいんだ!!

 だから…………おめでとう!!」


「ありがとう……

 ありがとうごさいます!!」


「涙ーーー!!」

「なんでやねん!!」






一方その頃、関東魔法学園の教室でも

説明に困る不可解な異常現象が起きていた。

今まさに補習授業が行われている最中、突然である。

教壇に立つ教師が教科書を読み上げるのを突然やめ、

ある生徒の顔を凝視しながら叫んだのだ。


「なっ、名倉……!!」


「え、はいぃぃ!?」


いきなり大声で名指しされた名倉友紀は、

反射的に体をビクンとさせて顔を上げた。


ヤバい。

真剣に補習を受けるふりをしていながら、

こっそり漫画を読んでいるのがバレてしまった。

しかも、よりにもよって昭和の不良漫画だ。

べつに不良に憧れているわけではないが、

いざ読んでみると心に熱いものが込み上げてくる。

やっぱりちょっとだけ憧れているのかもしれない。

ともかく、これは言い逃れができない。

絶対に怒られる。絶対に怒られる。


そう思っていたのだが……


「名倉……!!

 お前、無事だったんだな!?」


「!?」


突然教師が号泣したのを機に同級生たちも号泣し、

その瞬間、名倉友紀はなぜだか主人公となっていた。


「いやっ……何!?

 なんなの!?

 なんでみんな泣いてるの!?

 意味わかんない!!

 何これ新手のドッキリ!?

 だったら大成功だよ!!

 もういいから誰か状況を説明して!?」


すると鳩中剣が勢いよく立ち上がり、

困惑中の名倉を更に困惑させるのだった。


「名倉ぁ……!!

 俺ら、ずっとお前のこと探してたんだぜ!?

 今までどこにいたんだよホントにもう……」


「えっ、何言ってんの!?

 探すも何も、僕ならここにいるじゃない!!

 今の今までみんなと一緒に補習受けてたでしょ!?

 それが突然、どうしちゃったんだよ!?」


「名倉ぁ!!

 お前は今まで行方不明だったんだよ!!

 俺ら、裏ダンジョンまでお前を探しに行って、

 そこでお前の亡霊と遭遇して……!!」


「いやいやいやいや……

 亡霊とか言われても、本気で意味わかんない!!

 僕生きてる!! 死んでないってば!!

 ってか、先週一緒にゲーセンで遊んだよねえ!?

 男4人で謝罪会見風のプリクラ撮ったよねえ!?」


「ああ、撮った撮った!!

 “申し訳なさそうな表情で直立”と、

 “誠意を込めた深いお辞儀”の2種類な!!

 あれにはたまらずカッキーも大爆笑してたぜ……

 でも、お前は行方不明だったんだよ!!」


「どゆこと!?」


行方不明だった名倉友紀が発見されたことで

補習は中止となり、報告を受けた名倉の両親や警察が

速やかに学園へと駆けつける。

そして親までもが号泣しながら抱きついてくるので、

自分は本当に行方不明だったのでは……?と、

まるで現実感の無い仮説に囚われ始める。


しかも警察さえも理解に苦しむ発言をするので、

名倉の頭はパンク寸前の状態であった。


「名倉友紀君……

 我々は確かに君の捜索を行なっていた

 そういう記憶はあるんだが、記録が無いんだ

 私は先週もこの学園へ足を運んだはずなのに、

 その時は全然別の場所にいたことになっている

 そして、そのどちらも覚えている……

 私だけでなく、他の人までもがそうなんだ

 正直、何が起きているのかわからないよ

 これが魔法……なのか?」


「僕が一番わかんないですよ

 本当に何が起きてんだか……」


誰一人としてこのカオスな状況を説明できないが、

とりあえず名倉の帰還がめでたいのは確実なので

急遽盛大な宴が開催される運びとなった。




名倉君おかえりパーティーが始まってから数時間後、

本日の調査を切り上げた調査隊一行は説明を受け、

やはり他の者たちと同じように頭を悩ませる。


彼らにも2つの記憶が存在するのだ。

名倉友紀捜索のため学園に留まっていた記憶と、

静岡での任務に励んでいたという記憶が。

そして警察と同じく、記録が存在していない。

調査隊の場合は名倉を捜索していた記録はあるが、

静岡で働いていたという記録が存在しない。

この違いに何か意味があるのだろうか……?


と、この状況を説明できそうな者が1人いた。

空間魔法の使い手、杉田雪である。


「名倉君はたぶん、並行世界にいたんだと思う

 そこでごく普通に日常生活を送ってたんだけど、

 どういうわけか現行世界と統合したことにより

 いろんな情報がバグっちゃったのかも……」


「おいおい、世界の統合ってなんだよ……

 まあどうせ聞いても理解できねえだろうけど、

 どうしてそんな現象が起きちまったんだ?」


「確証は無いけど、裏ダンジョンが原因かも

 ほら、あそこって“ランダムMAP生成”でしょ?

 きっとランダムで繋がっちゃったんだよ

 名倉君が消失しなかった世界線に……

 そして、お母さんが『バタフライエフェクト』を

 バンバン使いまくって世界のどこかで何が起きて、

 まんま『バタフライ効果』の結果で世界が統合して

 今に至る……ってのが私の考えだよ

 わかりやすく言うと、時間のループによって

 分岐しまくった現行世界の世界線が並行世界に

 絡みついたまま収束現象が起きたんだと思う

 本来は並行世界同士が交わることはないんだけど、

 分岐ルートが膨大に発生していたという前提で

 何が起こるかわからない魔法を使いまくった場合、

 そういう現象が発生する可能性はゼロじゃない

 まあ、証明のしようがないから仮説止まりだけど」


「全然わかりやすくねえよ……

 つか、おめえもバタフライエフェクトを

 バンバン使いまくってたじゃねえか

 世界がおかしくなったのはおめえら親子のせいか

 どう責任取るつもりなんだ、ァア?」


「いやいや、仮説だって言ったよね?

 それに証明のしようがないとも言ったはず……

 なので私のせいじゃありません、断じて

 悪いのはたぶんお母さんです、はい論破」


「クソッ、何か言い返してやりてえが、

 どう反論すりゃいいのかわかんねえ……!

 これだから天才って奴ぁよお!」


結局、真相はわからないままだった。






何はともあれ、この世界に生きる全ての者たちは、

永遠に繰り返される時間の檻から抜け出せた。

誰一人としてその事実を知る者はいないが、

彼らは定められた運命など存在しない

白紙の未来へと向かって進み出したのだ。


これより、誰も知らない物語の始まりである──!

紛らわしいタイトルですが、最終回です。

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