2年目4月
なんとか無事に進級できた。
これも進級試験の内容が易しかったおかげだ。
必要となるのは正式な冒険者免許の取得、
筆記試験で合格点以上を取ること、
そしてゴーレムを1匹討伐するだけである。
数年前ならばバルログという魔物を倒さねばならず、
今でこそ取るに足らない存在として扱われているが、
魔法を使えない条件下で突破するには厳しい相手だ。
ちなみに伝説の男・甲斐晃は入学して間もない頃に
『生身で』しかも『単独で』撃破したらしい。
やはりあの人の強さは次元が違う。
それはさておき、新年度の始まりである。
新入生たちが緊張を隠せない様子が実に初々しく、
自分は先輩になったのだと自覚させられる。
彼らに情けない姿は見せられない。
これからはより一層、気を引き締めないと。
……などと決意する隼斗だったが、
すぐ近くで不穏な笑みを漏らす人物がいたので
気づかないふりをしつつ、そちらに注意を向ける。
「さて、とうとう俺らの時代が来たな
上級生……先輩……
なんと甘美な響きだろうか」
「きひひひ!
自分より下の存在がいるという安心感!
これだから先輩はやめられないぜえ!
1年間も我慢した甲斐があるってもんよ!」
嶋田と高木の小物コンビだ。
また何かろくでもないことでも考えているのだろう。
あの汚い笑い方には覚えがあるので間違いない。
彼らはこれまで悪巧みを企んでは悉く失敗して
さんざん痛い目に遭って反省してきたというのに、
どうやら苦い思い出は全て忘れてしまったようだ。
その証拠に、悪どい顔をする嶋田の口から
決定的なキーワードが飛び出たのだ。
「で、どいつをカモにするよ?
俺はあの眼鏡の奴に目をつけたんだが……」
「ああ、やっぱりあいつだよなあ?
背は低いわガリガリ体型だわ、
極めつけはあの常に周りを警戒してる態度!
これから誰が敵になるかわからないがゆえに、
しばらくは友達を作らずに様子見する気だぜ!」
「つまりは……ぼっち!
たとえ奴が困った状況に陥ったとしても、
積極的に助けようとする味方はいない!」
「きひひひ!
まったく馬鹿な野郎だぜ!
“群れる”ことこそ弱者が生き残る道だってのに、
その機会を自ら手放してくれるんだからなあ!
おかげで俺らは仕事がしやすいってもんよ!」
カモだの仕事だのと、やはり悪い予感が的中した。
こいつらはまたろくでもない悪巧みを計画し、
しかも今回は安土のような圧倒的強者ではなく、
右も左もわからない新入生を標的にしているのだ。
これは許せない。決して見過ごしてはならない。
「なあ嶋田、高木……
今度は何をしようとしてるんだ?
どうせまたろくでもない計画なんだろうけど、
いい加減、経験から学習したらどうなんだ?
お前らの悪巧みは1つも成功してないんだよ……」
隼斗は呆れた表情で、そして怒り混じりの低い声で、
愚か者2人に対して釘を刺してみる。
しかし……
「チッ、聞かれてたか
つい声がでかくなっちまったようだ」
「……って、大上じゃねえか
まあ誰かに聞かれて困るような話でもねえし、
なんならこいつも計画に加えてみるか?」
聞かれて困る話じゃない……?
少しは慌ててくれたっていいものを、
こいつらは全く動揺していない。
ただ単に舐められているだけかもしれないが、
それにしても予想外の反応に隼斗は戸惑う。
「どういうことだ……?
お前らの計画に加わるつもりはないが、
その内容が気になるから教えてくれ」
すると彼らはニヤリと微笑み、
今回の悪巧みを打ち明けるのだった。
もしかしたら、先程の会話は誰かに聞かせるために
わざと大きな声で話していたのかもしれない。
まんまと乗せられた感は否めないが、
隼斗はおとなしく話を聞くことにした。
結果、またろくでもない悪巧みであった。
「イカサマ、闇討ち、闇討ちと来て……
今度は後輩相手にカツアゲか
まったく本当にしょうもない奴らだな、お前らは」
わざわざ説明するまでもないが、カツアゲとは
他人を脅して金品を奪い取る犯罪行為である。
呼び方が与える印象のせいで軽く見られがちだが、
“恐喝”をカジュアルに言い換えただけであり、
実行犯には10年以下の懲役が課せられる。
ただし、それは一般人の間で適用されるルールであり
冒険者が冒険者をカツアゲしても罪には問われない。
これには実力ある冒険者を篩に掛ける意図があり、
『強い方が偉い』という思想に基づくものである。
人間同士の戦いで後れを取る者に用は無い。
厳しい業界なのだ。
とまあ、冒険者同士のカツアゲは違法ではないが、
人間としてのモラルには反している。
常識人である隼斗が呆れるのも無理はない。
「いや、待ってくれよ大上!
最後まで聞いてもらわないと困るぜ!
そりゃたしかに後輩相手にカツアゲはするけども、
俺らの計画はそこからが重要なんだ!」
「ピンチの場面に颯爽と現れるヒーロー!!
感謝する後輩!! 高まる名声!!
あわよくば可愛い彼女をGETだぜ!!
名付けて──“泣いた赤鬼作戦”!!」
しょうもない。
敢えて説明させてもらうが、泣いた赤鬼とは
人間と仲良くしたい赤鬼のために青鬼が悪者となり、
赤鬼をヒーローに仕立て上げるという童話である。
赤鬼は望み通り人間と仲良くなることはできたが、
青鬼という大事な友人を失って泣き続けました……
という悲しい結末が待っているのだが、
こいつらはそれを理解しているのだろうか?
「2人でよく話し合った結果、
今年は高木が悪者を演じる番で、
来年は俺が悪者になるって決めたんだ!」
「それならお互いに1年間はいい思いができるからな!
今までろくな人生を送ってこれなかったんだ……
俺たちはこの計画に全てを賭けるぜ!」
「そうか、頑張れよ」
隼斗はそれだけ言い残して、2人と別れた。
まったく馬鹿馬鹿しい。
たとえ作戦が上手くいったとしても、
どちらも泣く未来が待ち受けている。
それに感謝されるのは一瞬だけだろう。
奴らに1年間もヒーローを演じることはできない。
今までそのような生き方をしてこなかったのだから、
どこかで必ずボロが出るに決まっている。
最大の懸念点は“嶋田の裏切り”である。
もしも今年を無事に乗り切ることができたとして、
来年、嶋田は計画通りに悪者を演じるだろうか?
演じないだろう。
1年間、善良な先輩として過ごしてきた男が
自らの評判に傷を付ける行いをするはずがない。
この計画には最初から無理があるのだ。
……と、杜撰な計画だが見守ることにしよう。
これまでの悪巧みは安土が標的だったから
余計な心配をせずに済んできたものの、
今回の標的はいかにも弱そうな後輩なのだ。
演技とはいえ、高木がやりすぎないように
注意深く見張っておく必要があるだろう。
場合によっては嶋田の役を奪う結果になるだろうが、
その時はその時だ。助けに入るのが遅れた方が悪い。
そして後日、計画は実行された。
土曜日の放課後、芸術棟の裏に現れた新入生は
ガクガクと膝を震わせながら辺りを見回す。
だが所詮は警戒している気になっているだけで、
ガッツリ監視されていることには気づいていない。
このへんの甘さは経験値の低さゆえなのか、
それとも本人の資質によるものなのかはわからない。
とにかく、律儀にも彼は時間通りに現れたのだ。
「あ、あのぅ……
僕に……なっ、なんの御用でしょうか……
あっ、ぼ、僕は小田切って言います」
そして律儀にも名乗る新入生。
何考えてんだあいつ?馬鹿か?
チンピラ顔の先輩に名前を教えてどうする。
覚えられていいことなんて1つもないだろうに。
「そうかそうか小田切君ね……
はい、名前覚えましたーーー!!
もう逃げらんねえかんなーーー!!」
「せ、先輩の名前はなんて言うんですか?」
「ぁアン!?
俺は高木だ!!
これからの3年間、お前に地獄を見せる男だぜ!!
しっかり覚えとけよなあ!!」
「高木先輩は2年生なんですよね?
それなら3年間ではなく2年間では……?」
「ぁアン!?
言われてみりゃそうだなあ!!
留年なんかしてたまるかってんだ!!」
なんだこれは……出来の悪いコントか?
俺は一体何を見せられているんだ……。
「それで、その……カツアゲですか?
僕が弱そうだから……まあ実際弱いんですけど、
カモとして目をつけた……そうですよね?」
「へっへっへっ、まさにその通りだぜぇ
話が早くて助かるじゃねえか
そんで、今いくら持ってんだよ?
とりあえず財布の中身を見せてもらおうか」
「ひっ、ひいぃぃ〜〜〜!!
やっぱりカツアゲだった……!!
そんな予感はしてたんだ……!!」
そんな予感がしてたのに来たのか……。
カツアゲする側からすれば、なんとも都合が良い。
こんな人間がいるんだなぁ……。
と、このタイミングで嶋田が身を乗り出したので、
「まだだ」とアイコンタクトを送って制止する。
高木はまだカツアゲする意志を示しただけであり、
財布はおろか小田切本人には一切触れていない。
今助けてやってもいいが、時期尚早な気がする。
「あ、あの、高木先輩!
1つ提案したいんですが、いいですか……!?」
「ぁアン!?
提案だとぉ!?
えっと……なんだ言ってみろ!?」
おや、どうやら無策ではなかったようだ。
まあそれもそうか。
これからカツアゲされるとわかっていながら、
なんの対策もせずノコノコとやってくるのは愚かだ。
彼がどのような防衛策を用意したのか興味がある。
「先輩には毎月1万円をお支払いします!!
だから、それ以上は取らないでください!!」
やっぱり馬鹿だあいつ。
それ以上取れる物があると言っているようなものだ。
がめつい高木が言葉の裏に気づかないわけがない。
しかも、小田切は更なる餌をばら撒いたのだ。
「その、昔、親が300万円の宝くじを当てまして、
うちは4人家族なので、1人75万円で分けました!
僕以外の家族はすぐに使い切ってしまいましたが、
僕は毎月1万円だけ引き出すようにしていたので、
まだその時の貯金が残ってるんです!
なので、先輩への支払いが滞る心配はありません!
そこで、その、厚かましいお願いなんですが、
先輩に毎月1万円を支払うと確約しますから、
僕が他の人からカツアゲされないように、
先輩に守っていただけると嬉しいのですが……
ほら、そうすれば僕の貯金は減らずに済むので、
それはつまり、先輩の収入源が守られます!
お互いにとって、悪い話ではないと思います!
僕はそうやって中学の3年間を乗り切りました!
これからの3年間も平和に過ごしたいんです!」
これまでに支払った分が36万円。
これから支払う予定が36万円。
計72万円となるので、彼の手元には3万円が余る。
元の金額からはだいぶ減ってしまうが、
全てを失うというわけではない。
なんとも馬鹿げた金の使い道だとは思うが、
本人はそれで納得しているのだろう。
この小田切は、金で平和を買おうとしているのだ。
予想外の展開に高木も困惑している。
……いや、違う。
高木はその魅力的な提案に揺らいでいるのだ。
(おい高木、一旦作戦中止だ!!
こっち来い!! 戻ってこい高木!!)
と、嶋田がアイコンタクトを送り、
ギリギリ理性を保っていた高木は我に返る。
こいつらの目的は金銭的な利益ではなく、
良き先輩としての地位を確立することにあるのだ。
その初心を忘れてはならない。
「ちょっ、ちょっとタイムだ……
すぐ戻ってくるから待ってろよ小田切!!」
そう言い残して、高木はその場を離れた。
この機会に逃げることは充分に可能だが、
きっとあのカモは言いつけを守るのだろう。
嶋田と高木が真剣に話し合っている。
もちろん議題は小田切の提案についてだ。
「どうするよ高木……
あいつ、カモられる気満々だぜ?
少しは抵抗してもらわないと、
助け甲斐が無いっつうかさ……」
「いや、そういうことじゃねえだろ嶋田
毎月1万払うって言ってんだぞ?
3人で分けたら3千円ちょいにしかならねえが、
何もしなくても毎月自動的に金が入ってくるんだ
このチャンスをみすみす見逃す手はねえよ
作戦の標的なら別の奴を探せばいい……だろ?」
……?
計算がおかしい。
隼斗は会話に割り込んだ。
「おい待ってくれ、どうして3人で割るんだ?
まさかとは思うが、俺を含んでいるのか?」
「ああ、取り分は山分けだからな
なんだかんだで大上も現場に居合わせてるし、
口止め料として受け取る権利があるだろう」
「1ヶ月単位だと端数が出ちまうが、
合計24ヶ月ならきっちり8万円ずつになるな
これなら収入の分配で揉めることもなさそうだ」
「いや……待て待て!
勝手に俺を仲間扱いするな!
これは紛れもない本物のカツアゲじゃないか……
俺は悪事に加担する気は一切無いぞ」
すると2人の目つきが変わる。
ああ、敵を見る時の目だ。
こいつらの中では『味方ではないイコール敵』という
シンプルな図式が成り立っているのだろう。
「それに小田切を助ける気も無いし、
もうこの件に関わろうとは思ってない
カツアゲの収入はお前ら2人で分ければいい」
「えっ……???」
「助けない……のか?」
「そんなに不思議そうな目で見るなよ
本人が助けを求めてないんだから仕方ない」
我ながら薄情な選択だとは思うが、そうすべきだ。
小田切は自分なりに考えた末に自己防衛策を見出し、
被害を最小限に抑える方法を実行しようとしている。
それを邪魔するのは野暮というものだ。
まあ正直、ああいうタイプの奴が嫌いなのだ。
やられっぱなしで戦おうとしない男だ。
事情にもよるが、基本的に被害者が女子供であれば
問答無用で助けようとはしただろう。
だが小田切は男であり、小さな子供などではない。
チンピラに立ち向かうのは勇気が要るだろうが、
決して不可能な話ではないのだ。
なぜ戦わないのか理解できない。
これならば、無謀な挑戦を繰り返してきた
嶋田や高木の方がまだマシというものである。
……まあ、褒められるような行いはしていないので、
彼らも彼らで好きではないのだが。
難しい顔をする隼斗を見て何を勘違いしたのか、
嶋田と高木は声を潜めて少し相談した後、
よくわからない宣言をするのだった。
「う〜ん、それじゃあ……
毎月1万の24回払いじゃなくて、
20万の一括払いで手を打つことにするぜ!
それなら俺らにはまとまった金が入るし、
小田切の手元に残る金額も増えるだろ?
これこそお互いが損をしない儲け話ってやつだ!」
何がどうしてそういう方向に決まったのだろう?
まあ、考えたところで答えは出ない。
おそらくこいつらは奪う金額を減らすことで、
小田切に“優しい先輩”だとアピールしたいのだ。
もしこいつらが本当に優しい先輩なら
そもそもカツアゲなんてしないのだが、
あのカモならそう思い込みそうな気がする。
事実、小田切は高木に感謝したのだ。
「えっ!?
20万円で勘弁してくれるんですか!?
それは、すごく助かります!!
ありがとうございます!!
あ〜、優しい先輩でよかった〜〜〜!!」
カモになるべくして生まれてきた男、
それが小田切である。
「へへっ、まあいいってことよ
それよりお前、減額してやる代わりに
1つ頼みてえことがあんだけどよ……
俺はこんなチンピラみてえな顔をしちゃいるが、
案外悪くねえ先輩だって触れ回ってくれねえか?
ああ、あと嶋田って奴も俺と同類でな、
見た目だけで悪人だと思われてるんだわ
そのへんの誤解を払拭してもらいてえんだが……」
「はい、わかりました!!
高木先輩と嶋田先輩は、実は優しい人であると、
この僕が全力で広めてみせます!!」
「おう、その意気だぜ!!」
こうして小田切が体験談を全力で触れ回った結果、
カツアゲの事実が広く知れ渡ったおかげで
嶋田と高木は“見た目通りの先輩”として有名になり、
いつまでも泣き続けましたとさ。
基本情報
氏名:大上 隼斗 (おおがみ はやと)
性別:男
年齢:16歳 (6月6日生まれ)
身長:175cm
体重:62kg
血液型:A型
アルカナ:正義
属性:なし
武器:貫く信念 (なんでもあり)
防具:ブラックシープ (衣装)
能力評価 (7段階)
P:8
S:8
T:8
F:0
C:0




