1年目3月
体育館から“仰げば尊し”の歌声が聴こえてくる。
月日が流れるのは早いもので、気がつけばもう
3年生たちが卒業を迎える季節であった。
とはいえ、今日はまだ本番ではない。
先輩方が心残り無く巣立ってゆけるよう、
卒業式に向けて練習をしている最中だ。
1年生の出番は主に校歌斉唱のターンくらいなので
本番ではほぼ空気のような存在ということもあり、
この練習を必要としているのは上級生だけである。
式前日に全校生徒参加の合同練習が行われる予定で、
隼斗ら1年生はその時に式全体の流れを掴めばよい。
(3年生、か……)
ふと、関東アロエの顔が思い浮かぶ。
入学する以前からの知り合いだったというのに、
向こうはこちらのことをまるで覚えておらず、
結局ほとんど接触せずに1年が終わってしまった。
隼斗にとっては少し苦い思い出である。
だが、まあ……尻の形は好みであった。
周りの男子はどいつもこいつも巨乳好きばかりなので
女子の尻について語り合う機会を得られなかったが、
もしも尻好きの同志がいたならば認めていただろう。
アロエ先輩の尻は国宝級である、と。
しかし、全てを良しとしているわけではない。
いくら形や大きさの面で優れていようとも、
彼女の尻の使い方には許せない部分があった。
尻好きの隼斗だからこそ、それを許してはならない。
尻でドアを開け閉めする行為についてだ。
一度や二度ならば目を瞑ってやることもできたが、
彼女は幾度となくそのはしたない行いを
公衆の面前で堂々とやってのけてきたのだ。
まったく品性に欠ける尻であると言わざるを得ない。
それだけではない。ベンチに座っている時に
片尻を持ち上げて空気を逃がす行為も言語道断だ。
その行いが何を意味するのか説明するまでもないが、
彼女はバレていないとでも思っているのだろうか?
とにかく、関東アロエは下品な尻の持ち主である。
彼女に対する評価はこんなところか。
次点で会話した時間が長い3年生は不破稔だ。
あの人は10回以上も留年してきた存在なので、
他の先輩と同等に扱うのは正直難しい。
もはや保護者の域に片足を突っ込んでおり、
小さなお子さんがいてもおかしくない年齢なのだ。
彼女の卒業を待つ辛抱強い婚約者がいるらしいが、
もうそんな約束なんて反故にしてしまえとも思う。
10代半ばの少年少女の話ではないのだ。
彼らは30手前の男女である。
もしもこの先10年、20年と留年が続くようならば、
それだけ彼らの結婚が遠のいてしまうだろう。
隼斗には関係の無い話だが、なぜだか不安になる。
「不破先輩
今年は卒業できそうなんですか?」
「え、卒業?
ふふっ、安心してヤマト君!
今年も立派にみんなを見送ってみせるわ!
それが私に与えられた役目……使命ですもの!」
今年もだめそうだ。
あと他に面識のある3年生といえば
元生徒会長の白鳥飛鳥くらいだが、
2回話したことがあるだけの間柄なので
特に振り返るような思い出は存在しない。
彼女に関連する話といえば……
次期生徒会長が金子先輩に決まった程度か。
まあ、別段驚くようなことではない。
元々優等生として通っていた人材であるし、
白鳥先輩から特に目をかけられていた男なのだ。
なるべくしてなった。そんなところだ。
ここで1つ疑問が浮かぶ。
白鳥先輩もそうだったのか?という点だ。
彼女が腐女子であることは公然の事実であり、
正直苦手に思っている生徒は少なくない。
だが彼女が生徒会長に抜擢されたのも事実で、
その役目を見事に務め上げたのもまた事実だ。
本当はすごい人だったのだろうか?
そんな疑念が脳裏をよぎるようになり、
いつしか隼斗の足は資料室へと赴いていた。
白鳥飛鳥の戦闘レポートを詳しく調査した結果、
隼斗には勝ち目の無い相手であることが判明した。
彼女は本当にすごい人だったのだ。
まず、関東アロエとの一騎討ちに勝利を収めている。
それは隼斗自身も成し遂げた偉業ではあるのだが、
その勝利に至るまでの過程に大きな違いがあった。
飛鳥はアロエからの直撃を受け切った上で勝った。
それが隼斗との最大の相違点であり、
決して飛鳥には勝てない最大の理由でもある。
大上隼斗は回避やパリィからの“迎撃”を主体とした
テクニカルな戦闘スタイルを得意としているが、
白鳥飛鳥は特殊なブロックからの“反撃”を軸にして
敵対者を確実に仕留める術を心得ているのだ。
どちらも自分からは手を出さずに
相手の攻撃を利用するという点では同じなのだが、
その耐久力の違いには天と地ほどの差がある。
もしも隼斗がアロエの直撃を受けたならば、死ぬ。
それは否定のしようがない確定事項だ。
彼には魔法ダメージを軽減する術が無い。
だが、飛鳥にはそれがある。
しかも彼女の戦法はかなり独特であり、
他に同じような技術を持つ者がいないことから
唯一無二の存在であると認めざるを得ない。
“総受け”──
白鳥飛鳥の第一形態。
被物理ダメージを半減、炎氷雷の3属性を吸収、
状態異常とデバフを無効化、HPとMPを自動回復……
という性能で、守りに特化しているのが特徴である。
この形態中はその場から動けなくなるものの、
魔物を引き寄せる効果が備わっているおかげで
移動封印は大したデメリットにはならない。
無属性の魔法ダメージのみ素通しさせてしまうが、
その攻撃手段を持っている魔物はごくわずかなので
あまり気にせずともよいだろう。
……と、これだけでも相当ぶっ飛んでいるのだが、
もう1つの戦闘モードもだいぶイカれている。
“一転攻勢”──
白鳥飛鳥の第二形態。
本来は“反転攻勢”が正しいのだが、まあいい。
名前から想像がつくように攻めに特化した形態だが、
最初からこの形態になることはできず、
総受け状態で被ダメージを稼いでおく必要がある。
形態移行時に無属性の攻撃魔法を解き放つのだが、
その威力は蓄積したダメージ量から算出される仕様で
『受けたダメージが大きいほど強くなる』という、
わけのわからない性能をしているのが特徴だ。
そして、この形態中に彼女が行う全ての攻撃は
ゴーレムなどの硬い装甲を貫通するようになり、
素早い魔物に対しても必中効果を得るらしい。
このように彼女は2種類の戦闘モードを切り替えて、
攻めと守りの両面で活躍できる特殊な前衛なのだ。
とまあ、白鳥飛鳥はバリバリの戦闘員であった。
てっきり事務仕事が得意な裏方タイプかと思いきや、
人を見かけだけで判断してはいけない好例だ。
目的の調べ物を済ませた隼斗ではあるが、
せっかく資料室にいるのだからと
他の先輩についての記録を漁ってみた。
……が、無い。
否、記録自体は棚に存在しているのだが、
その内容がほとんど黒く塗り潰されているのだ。
小中大。
甲斐晃とは同期であり親友と呼べる存在らしいが、
彼がどのような冒険者なのかという情報は
どういうわけか一切公表されていない。
魔法大学を出ているので相当な実力者なのだろうが、
なぜその情報が隠されているのかがわからない。
学園に残された記録だけではない。
日本冒険者協会が管理している冒険者照合サイトでは
小中大という人物は存在しないことになっており、
国際冒険者連盟のデータベースを検索しても
特定の人間以外は閲覧できないようになっている。
謎は深まるばかりだ。
後日、隼斗は配達にやってきた山田から
小中大に関する情報を聞き出すことにした。
配達指定場所はいつもの訓練室ではなく、
学園ダンジョン第4層である。
ここならば他の生徒と遭遇する可能性が低く、
表には出せない話をするにはもってこいだ。
山田は甲斐晃の後輩であると同時に
小中大の後輩でもあり、何か知っているはず。
調査隊の3人から情報を得る方法もあったが、
彼らは裏ダンジョンでの調査活動に精を出しており、
今は無関係な話題を振るべきではない。
それに山田の方が話し慣れている相手だし、
もし小中大に関する情報を口止めされていたとしても
問い詰めれば吐いてくれそうな雰囲気があるのだ。
「それで、山田さん
小中大という人物はどんな方だったんですか?」
「ん〜、ヒロシ先輩か……
なんとも不思議な人だったねぇ」
意外にも山田はすんなりと吐いた。
特に情報を隠そうとするそぶりは無い。
山田の口を割らせるためにネタを用意しておいたが、
どうやらこの流れならそれを使わずに済みそうだ。
「あの人はなんというか、
この世界におけるバグみたいな存在だよ
本人は至ってまともな性格をしてるんだけど、
戦いになると常識が通用しないというか……
習得できないはずの魔法を平然と使いこなしたり、
物理法則を無視した動きで周囲を困惑させたり……
君、二段ジャンプできる?」
「えっ……はあ???
二段ジャンプ?
そんなのできるわけがない
アクションゲームじゃあるまいし……」
「うん、そんな反応になるよね
でもヒロシ先輩にはできちゃうんだ
人類には再現不可能なアクションをさ
ヤバさでは確実にアキラ先輩の上を行ってるよ
……って言っても、にわかには信じられないか
実際に自分の目で見ないとだめだね、あれは」
甲斐晃の時と同じ流れだ。
胡散臭い武勇伝だと思っていたものは真実だった。
とすると、この小中大に関する話も本当なのか?
いや、だが……さすがに二段ジャンプはあり得ない。
しかし、山田が嘘を言っているようには見えない。
信じてもいい……のか?
「それなら実際に見せてもらえませんか?
俺を信じさせるには一番手っ取り早い方法です」
「いやあ、無理だよ」
と、期待させてからの拒否である。
これはいただけない。
今こそ用意しておいたネタの使い時だろうか?
山田はかつて3人の女性からアプローチを受けたが、
返事を保留にしたまま逃げ出したという過去を。
彼女らは全員山田の元冒険仲間であり、
山田の転職先や連絡先を知らない。
その3人に教えてやってもいいのだ。
「ヒロシ先輩は今、エジプトにいるんだ
ニュースは見てるよね?
あの国は出入国禁止の状態だから、
日本に帰ろうにも帰れないんだ」
「ああ、それなら仕方ありませんね」
反乱軍と政府軍による内乱。
最近ではあまり報道されなくなったが、
たしか2年ほど前からその状態が続いている。
これは山田を脅したところでどうにもならない。
個人がどうこうできるレベルの話ではないのだ。
「新婚旅行先でクーデターに巻き込まれるとか、
本当にツイてないとしか言いようがないよ
あの人たちのことだから無事なんだろうけど、
早く連絡が取れるようになるといいなあ」
なんと運の悪い夫婦だろう。
隼斗にとっては面識の無い先輩たちだが、
2人が無事であることを願わずにはいられない。
基本情報
氏名:白鳥 飛鳥 (しらとり あすか)
性別:女
サイズ:F
年齢:18歳 (8月1日生まれ)
身長:166cm
体重:55kg
血液型:AB型
アルカナ:世界
属性:無
武器:アスカロン (片手剣)
武器:ゲイボルグ (片手槍)
防具:ドラゴンフォース (重鎧)
能力評価 (7段階)
P:5
S:5
T:10
F:5
C:5
登録魔法
・総受け
・一転攻勢




