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進め!魔法学園2  作者: 木こる
12000回目の自殺
90/96

1年目2月

こけし回

「はいどうも〜

 モノクル運送から荷物のお届けで〜す」


なんだろう?

通販を利用したことはないし、

もしも親戚からの贈り物だとしたら

何かしらの連絡があったはずだ。


もしや例の特注グローブが完成したのだろうか?

そう心躍らせながら差出人の名前を見ると、

それは予想だにしない人物からの荷物であった。


「えっ、甲斐晃って……

 なんだか緊張するなぁ」


人類最強の戦士、甲斐晃。

埼玉の英雄、そして関東魔法学園の誇り。

あまりにも常識から逸脱した武勇伝のせいで

評価が真っ二つに分かれる男でもある。

まあ隼斗も以前は胡散臭い男だと思っていたのだが、

夏休みに特別個人指導を受けたことにより、

今では彼の実力が本物であると認めている。


それにしても南極からの荷物だ。

この段ボール箱の中身は一体……?

正直、南極について知っていることは少ない。

氷とペンギンのイメージしか思い浮かばないのだ。

あとは世界最大の砂漠であるという豆知識くらいか。



隼斗は恐る恐る箱を開けた。

すると、これまた予想だにしない物が入っていた。

それは南極とは全く無関係なアイテムであり、

むしろ“和”を連想させる伝統工芸品であった。


「こけし……?

 一体、なぜ……」


箱に納められていたのは、こけし。

どことなく男前な印象を受けるのは、

それが隼斗を模して彫られた物だからだろう。

箱の中身はこけしと梱包材だけであり、

手紙などは添えられていない。


これでは意図がわからない。

あの伝説の男は何を思ってわざわざこんな物を

極寒の地から送りつけてきたというのか……。


困惑する隼斗を見兼ね、山田がフォローする。


「余った木材で作ったんだね

 あの人、手先が器用でさ

 木工細工全般が得意なんだ

 山籠りにつき合わされた時なんか、

 いとも簡単そうに小屋を建てていたよ」


「いえ、俺が知りたいのはそういう情報ではなく、

 アキラさんは何故こけしを彫ったのかという……」


「暇潰しに彫ってみたら上出来だったんだろうね

 それと、あの人なりの友好の証みたいなもんだから

 ありがたく受け取っておくといいよ」


「友好の証ですか

 それはかなり嬉しいですね

 お礼を考えておかないと……」


大先輩から目をかけてもらっているという事実。

これが嬉しくないわけがない。

それも伝説級の冒険者からの厚意とあらば尚更だ。

とにかく、このこけしは大切にしよう。


「山田さんも持ってるんですか?

 アキラさんの手作りこけし

 ……って、聞くまでもなく当然でしょうけど」


「ああ、うん

 僕の自宅には12体のこけしが飾ってあるよ」


「1ダースも!?

 もしかしてアキラさんは送ったこけしの量で

 親密度を表しているとか、そういうことですか?」


「いやいや、そういうことではないよ

 暇さえあればこけし彫ってたからなあ……

 本人は『集中力を高めるためのトレーニング』

 と言ってたけど、完全に趣味でやってるだけさ

 おかげで置き場所に困ってるんだけど、

 せっかくの貰い物を捨てるわけにもいかないし、

 僕にとってはちょっとした呪いのアイテムだよ」


「呪いのこけし……

 なんだか怪談話にありそうだ」


「ちなみに僕の同期がネットオークションに

 こけしを出品したことがあるんだけど、

 その事実を知ったアキラ先輩は

 ショックを隠し切れない様子だったよ」


「繊細な人なんですね」




とりあえず隼斗はこけしを訓練室の棚に置き、

本日の鍛錬に励んだ。

いつものパンチングボールやサンドバッグではなく、

液晶画面に表示された光に素早く触れるという、

反応速度を強化するためのメニューである。

それは生徒たちの間で『音ゲー』と呼ばれているが、

音楽が流れるわけではないので楽しくはない。

聞こえてくるのはピッ、ピッという無機質な機械音、

それが不規則なリズムで延々と垂れ流されるのだ。


隼斗はこの訓練が苦手であった。

この作業は“見てから対処”するしかなく、

持ち前のリズム感が活かされることはない。

次にどこが光るのかという予測もできないので、

タイミングを合わせるのは実質不可能なのだ。

視界から入った情報を脳が受け取って判断し、

筋肉を動かす信号を伝達するまでの時間を短縮──

これはそういう訓練であり、あまりに地味な作業ゆえ

本気で取り組む生徒はごくわずかしか存在しない。


まあ、苦手とはいえ成績は悪くない。

むしろ隼斗は上位ランカーの腕前である。

ただ、精神的につらいのだ。

音が鳴っているのに、そこにリズムは存在しない。

“音楽的に美しくない”というストレスだ。


「あ、大上君!

 今日は音ゲーやってるんだ!

 私も久しぶりにやってみようかな〜」


と、別のストレス源である高梨いちごがやってきた。

彼女のおかげで安土と顔を合わせずに済んでいるが、

なんというか少し目障りな存在でもある。

好意を持って接してくれる女子がいるというのは

年頃の男子としては非常に喜ばしいことなのだが、

問題は彼女が成長していない点だ。


高梨いちごの能力評価はオール3であり、

7段階評価では『やや低い』に該当する。

この数字は入学当初から全く変動していない。

この1年間、訓練で手を抜いてきた証拠である。

訓練室で隼斗と過ごした時間は無駄だったのだ。


現在は2月。来月には進級試験が行われる。

きっとこのままでは彼女は受からないだろう。

これは何か手を打っておかないと……。

正直言って鍛錬の士気を下げる邪魔者でしかないが、

あのだらしない尻を間近で拝めなくなるのは寂しい。

目の保養として残しておきたいという気持ちがある。



ふと、高梨いちごがある物の存在に気づく。


「え、何これ……

 なんでこけしがこんな所に!?

 しかもこれ、どことなく大上君っぽいよ!

 もしかして大上君の私物かな!?

 ちょっと欲しいかも……」


棚に置いてあったこけしだ。

鍛錬が終わったら持ち帰るつもりでいたが、

それを欲しがっている人がいるのなら

あげてしまっても構わないのではないかと思い直す。


隼斗は部屋に人形を飾るタイプの男ではない。

父が存命の頃、立ち寄ったホビーショップで

メタルハーツの人形を見かけたことがあるが、

特に欲しいという気持ちは湧いてこなかった。

ヒーローにとって大事なのは造形ではない。

子供ながらにそれを理解していたのだ。

そんなこともあってか、人形への執着は薄い方だ。

というか“人の形をした何か”が苦手である。

人の心を持たない連中を多く見てきた影響もあり、

今ではその苦手意識が非常に強い。


実のところ、迷惑なこけしだと思っていた。

貰い物だからそれなりに丁重に扱うつもりだったが、

これは送り主を傷付けずに手放せるいい機会だ。

『欲しがっている女の子がいたのでプレゼントした』

そんな言い訳が立つ。

これならば繊細なあの人も納得してくれるだろう。


「高梨さん、そのこけしが欲しいのか?

 それなら是非持っていってくれ

 一方的に送りつけられて少し困っていたんだ」


「え、ホント!?

 そうゆうことなら遠慮せず貰っちゃうね!?」


これで邪魔なこけしを円満に処分できる。

そう安堵しかけたのだが……


「さ〜て、どこに飾ろうかな〜♪」


高梨いちごは訓練室の中をうろうろと歩き回り、

こけしを飾るにふさわしい場所を物色し始めたのだ。

どうやら彼女はこの部屋に置いておきたいらしい。


「ん……高梨さん?

 持ち帰らないのか?」


「だって可愛いじゃん、ミニ大上君!

 みんなにも見せてあげようよ〜!」


「いや、勘弁してくれ

 それだと俺が縄張りを主張しているような……

 というか、勝手に変な名前を付けるんじゃあない」


「私にくれたんだよね?

 だったら私がどう使おうと私の自由だよね?

 この部屋がみんなで利用する場所だとしても、

 私が私の私物を置きっぱなしにしたところで

 校則的にまずいことなんて1つも無いよねえ?」


(くそっ、なんだこの女……

 普段は頭悪い癖に、こんな時だけ弁が立つ

 正論で返されたら何も言えないじゃないか……!)


不覚にも高梨いちごに言い負かされる隼斗であった。






後日、これまた珍しい客人が訓練室を訪れては

いやらしい笑みを浮かべながら戯言を口走る。


「大上君……

 アキラさんに掘られたんだって?

 その、硬くてぶっといモノをさ……」


生徒会長の白鳥飛鳥だ。

この場所で会うのは実に10ヶ月ぶりである。

第一印象は典型的な真面目な生徒だったが、

その実態は手に負えない腐女子なんだそうで、

今では関わりたくない人物の1人として数えている。

事実、彼女は例のこけしをニヤニヤと眺めながら

頭の中であれこれと妄想を膨らませているのだ。

これは絶対に関わり合いたくない。


「こけしを彫ってもらっただけです

 誤解を招く発言は控えていただきたい」


まったく何が楽しいんだか……。

理解できないし、理解したくもない。

この人に弄ばれる役回りは金子先輩だけでいい。


「あっはは、ごめんごめん

 今のは軽い冗談!

 私にとってはほんの挨拶みたいなもんだから、

 そうマジに受け取られても困るってば!」


先にこちらを困らせておいて、なんて言い草だ。

まったくとんだ挨拶があったものである。

しかしなんだ、金子から聞いていた話によると

なりふり構わず男をホモ扱いする人とのことだが、

こうして面と向かって直接言葉を交わしてみると、

そこまで酷いレベルだとは思えない。


「ああ、金子から色々聞いてるだろうけど、

 私は素質の無い人間には手出さないから安心して

 大上君は100%女の子にしか興味無いでしょ?

 そういう人種を標的にすることはないわ

 いじっても面白くないし、時間の無駄だからね」


キッパリと言い切った。

だが信用してもよいのだろうか?

まあ、判断材料が転がっているわけでもないし、

とりあえずこの場は信じておくことにしよう。


「つまり、金子先輩には素質があると?」


「ええ、あいつはホモよ」


キッパリと言い切った。

あの先輩には気をつけよう。






また後日、不可解な出来事が起こった。

こけしの数が増えているのだ。

どうやらアキラさんの手作りではない。

誰かを模して彫ったという感じがしないのだ。

旧校舎に“呪われた教室”なんて部屋が存在するが、

そこにまつわる怪談話を真似た悪戯だろうか?

増殖する人形といえば真っ先にそれが思い浮かぶ。


まあ、犯人はすぐに見つかった。

高梨いちごの仕業である。


「あ、これ?

 ミニ大上君1人だけじゃ寂しいだろうと思って、

 祖母(おばあ)ちゃんの家から持ってきたんだ!

 べつにこけしのコレクターってわけじゃないけど、

 何十体かあったから大丈夫かな〜って」


「ん……?

 まさか、無断で持ち出してきたのか?

 家族の所有物とはいえ……いや、というより、

 家族の物だからこそ黙って持ち出すべきじゃない

 親しき仲にも礼儀あり、だ

 祖母さんとの関係を悪化させたくないのなら、

 今すぐにそれを持ち帰って事情を説明するべきだ」


「え〜、大丈夫だよお

 祖母ちゃん優しい人だし、

 こんなことで怒ったりしないもん」


「いいから言う通りにするんだ

 祖母さんにとっては大事な物かもしれない

 それがある日突然消えていたら、

 泥棒に入られたと疑ったとしてもおかしくはない」


実際、やっていることが泥棒と変わらない。

持ち出した側だけ事情を知っていても仕方ないのだ。

『祖母の家からこけしが消えた』という、

その事実は揺るがないのである。


「そんな、泥棒だなんて大袈裟だよお〜」


と、ヘラヘラと笑い飛ばす高梨いちごであったが、

その甘い考えはすぐに打ち砕かれることになる。




翌日、高梨いちごはかつてないほど暗い顔で登場し、

重苦しいオーラに押し潰されながらも

事の顛末を報告してくるのだった。


「両親からメッチャ怒られた……」


「だろうな」


「祖母ちゃんが泣いてるとこなんて初めて見たよ……

 『あんたのやったことは泥棒と同じだ!』って、

 そりゃもう物凄い剣幕で怒鳴ってきてさ……

 ああ、私悪いことしたんだなって理解した」


まあ妥当だろう。

持ち出す前に一言さえあれば防げる事態だったが、

彼女はそれをしなかったからこうなったのだ。

これに懲りて同じ過ちを犯さなければよいが……。


「町内会の人たちからも責められまくったし、

 警察の人たちは呆れて物が言えない感じだった」


「それはまた随分と大事(おおごと)に……」


「その結果、祖母ちゃんの家には出禁になりました」


「出禁って……

 それは少しやりすぎな気もするけど、

 君がやったことを考えると文句は言えないな

 関係を修復するには時間がかかるだろうけど、

 誠意を見せ続ければいつかは許されるかもしれない

 これからは真面目に生きるんだな」


とシリアスに締め括ってみたはいいが、

高梨いちごはまだ何か言いたそうにしている。

これ以上、何を報告しようというのか……?


「その、すごく困ったことにね、

 ほら、私とりんごって双子でしょ?

 で、顔がそっくりじゃん?

 で、私ってりんごみたいな髪型でしょ?

 だから家では私がりんごだと思われててね、

 今回の件はりんごが悪いってことになったの」


「おい、それはまさか……」


双子トリック!


高梨いちごは、片割れであるりんごに

全ての罪をなすりつけてきたのである!


「ガチの犯罪者じゃねえか」


まったく酷い話があったものだ。

彼女は自分がいちごであることを名乗らず、

なんの落ち度もないりんごを生贄に捧げたのだ。

説教の現場にどんな空気が流れていようとも、

せめて自分が何者であるかくらい証明できたはずだ。


が、彼女はそれをしなかった。

その結果、無関係なりんごが泥棒の汚名を被り、

今後の姉妹仲が悪化する未来は確実なものとなった。


「りんごにはバレないようにしないとなあ……」


「なんだそのゴミのような発想は……

 さては全然反省してないだろ

 救いようがないな」


この女とは縁を切ろうと思った瞬間である。






それから3日経つが、高梨姉妹に異変は見られない。

まだ先日の出来事をりんごに伝えていないのだろう。

隼斗の口から真実を告げることも可能ではあるが、

これは高梨いちごが自ら招いた厄介事であり、

彼女自身が解決しなければならない課題なのだ。

下手に首を突っ込んではいけないし、

積極的に関わるつもりも無い。

ただおとなしく経過を見守るのが最善である。


本来こんな女は即刻見捨てるべき対象だが、

なんだかんだで一緒にいた時間が長いので

少しは情が移っており、少しだけ期待している。

決してハッピーエンドとはいかないのだろうが、

巻き込んでしまったりんごには謝っておくべきだ。

それができなければ高梨いちごを見捨てる。

そう決意して様子見を続ける隼斗であった。


「ん……?」


いつものようにサンドバッグを叩いていると、

なんだか落ち着かないというか、違和感を覚える。

キョロキョロと辺りを見回してみるが、

特に変わった所は発見できない。

が、それこそが違和感の正体である。


入口の棚に飾ってあったこけしが消えているのだ。


これも高梨いちごの仕業だろうか?

だとすると目的が気になる。

りんごに事情を説明するために持ち出した……?

その線は薄いだろうが、あり得ない話ではない。

考え足らずなことばかりやらかす彼女に限らず、

人間の行動を完全に予測することは不可能である。

精神的に追い詰められている者の行動は特にだ。


まあ、彼女の仕業と決まったわけではない。

こけしを気に入った誰かが持ち去った可能性もある。

その場合は高梨いちごが窃盗の被害者になるのだが、

誰でも出入りできる空間に私物を置きっぱなしにした

彼女自身の危機管理意識の甘さが招いた結果だ。


あのこけしは高梨いちごにあげた物なのだ。

所有物の管理は本人が行うべきであり、

この件で問題が発生したとしても隼斗に責任は無い。


……のだが、気にはなる。

責任は無いはずだが、なぜか尻拭いさせられそうな、

ろくでもないことに巻き込まれそうな予感がする。

そして、そういう不吉な予感というものは

どういうわけか結構な確率で当たってしまうものだ。




しばらくして、また珍しい客人が訓練室を訪れた。

今回は早乙女花凛だ。

この場で会うのはこれが初めてであり、

彼女は緊張でもしているのか、頬を真っ赤にしながら

モジモジと体をくねらせており、少し鬱陶しい。

まあどうせいやらしいことでも考えているのだろう。


まったく、いやらしい女だ。


「大上君

 練習中のところ申し訳ないのだけれど、

 わたくしのお願いを聞いてくださるかしら?」


「内容によりますね

 一体どのようなご用件で?」


すると彼女は少しの間言葉を詰まらせた後、

勇気を振り絞って告白したのだった。


「実は、こけしが抜けなくなってしまったの」


「病院へ行ってください」

基本情報

氏名:佐倉 香織 (さくら かおり)

性別:女

サイズ:D

年齢:17歳 (4月2日生まれ)

身長:158cm

体重:42kg

血液型:A型

アルカナ:隠者

属性:炎

武器:桜吹雪 (短剣)

防具:花信風 (衣装)


能力評価 (7段階)

P:3

S:8

T:8

F:2

C:4


登録魔法

・百花繚乱

・落花流水

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