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進め!魔法学園2  作者: 木こる
12000回目の自殺
89/96

1年目1月

ホモ回

訓練室に珍しい客人がやってきた。

2年生の金子である。

生徒会役員でもないのに、よく校内の見回りや

資料の整理など、本来は生徒会が行うべき仕事を

率先してこなしている生真面目な男だ。


そんな彼が自己研鑽のためにこの部屋を訪れるのは

それほどおかしなことではないのだが、

どうも彼は体を鍛えに来たわけではなく、

隼斗個人に用があるとのことだった。


「大上君

 今度の日曜日って暇かな?

 もしよかったら僕と遊びに行かないかい?」


「えっ、なんですか急に

 先輩とは初対面ではありませんが、

 一緒に休日を過ごすほどの仲でもないでしょう

 さては何か裏があるのではないかと

 勘繰ってしまいますよ、これは」


隼斗は冗談めいて返した。

優等生として通っている先輩から遊びに誘われ、

正直あまり悪い気はしていない。むしろ大歓迎だ。


この人の言う『遊び』とは一体なんだろう?

鳩中のように、みんなでゲーセン行こうぜ的な

ノリではないことは確かだろう。

大して言葉を交わしたことのない男子2人で

遊園地に乗り込むというのも考え難い。


おそらく図書舘や博物舘などの知的な空間──

そういえば、今度の日曜日といえば

上野でゴッホ展が開かれる予定だ。

もしかしてそのお誘いだろうか?

1人で行くつもりだったが、まあそれでも構わない。


そんな期待に胸を膨らませる隼斗だったが……


「ああ、バレちゃったか

 なかなか鋭いね君は……

 実はあるんだよねえ、裏が」


「あるんですか……残念です」


この話はもう切り上げよう。

そう思い、鍛錬を再開しようとするが、

金子は構わずに話を続けたのだ。


「実は中学時代の友人と会うことになってね

 その、念のための護衛というか、

 君が付き添ってくれると心強いんだけど」


「え、嫌ですよ

 なんだか面倒事の匂いがするので、

 丁重にお断りさせていただきます」


友人と会うのに護衛……?

まあ、何か複雑な事情を抱えているのだろう。

それについて考えたくはない。

大体、この先輩に護衛なんて必要だろうか?

彼は学業成績が優れているというだけでなく、

冒険者としての実力も相当に高いと聞く。


見た目こそヒョロいが、彼の役割(ロール)防御役(タンク)であり、

ただ単に硬いだけでなく盾パリィの名手だそうで、

回復・強化・弱体によるサポートも行えるらしい。

そして剣士としての技量も侮れない。


とにかく弱点が見当たらない先輩なのだ。

そんな人が、なぜわざわざ明確な弱点のある隼斗に

護衛の依頼など持ち掛けてくるのだろうか?

しかも会う相手は魔物ではなく人間である。

やはり面倒事の予感しかしない。


「たしか君の目標は『安土をぶっ飛ばす』だったね?

 それで、“拳での戦い方”の精度を高めるために

 毎日サンドバッグを叩いている、と……」


「その目標が全てではありませんが、

 まあ、概ねそんな感じです

 護衛の話なら他を当たってください」


「つまり、君は武器が無くても戦えるということだ

 拳と拳による純粋な殴り合い──喧嘩に強い」


「さあ、どうですかね?

 なんにせよ、俺はその友人とやらと

 喧嘩するつもりなんてこれっぽっちもありませんよ

 赤の他人の揉め事に巻き込まないでいただきたい」


「あ、いや、揉めてるわけじゃないんだ

 電話やメールでのやり取りはいつも平和だし、

 喧嘩らしいことをしたのは一度だけ……

 いや、あれを喧嘩と呼べるのかどうか……

 あ、もちろん殴り合いとかじゃないよ?」


ますますわけがわからない。

仲の悪い相手ではないのだから、

1人で会いに行けばよいではないか。

この人は一体何を警戒しているのだろう?


その時、ポケット内の振動に気づいた金子は

スマホを取り出してメールを確認する。

例の友人からだろう。

画面を見る彼はなんだか浮かない表情をしており、

なんというか、怯えているようにも見えた。


「このメールどう思う?」


と、興味の無い文面を見せられる。

読む気が無かったので全容は把握していないが、

最後の一行は『早く会いたい』で締め括られており、

それこそ全ての行におびただしい量のハートマークが

散りばめられていたのが印象的であった。


(ああ、これは会うのをためらうわけだ)


少し状況が見えてきた。

てっきり『友人』は金子と同性だと思っていたが、

おそらく女友達、あるいは元彼女なのだろう。

彼らの間に何があったのかは知る由もないが、

男女間の友情やらなんやらで気まずいのだ。

金子は“彼女の彼氏”を警戒しているのかもしれない。


「その日は予定がありますので」


隼斗はゴッホを選んだ。






──日曜日。

金子は待ち合わせ場所で祈りを捧げていた。

友人が昔の友人のままであってほしい。

ただそれだけである。


それと、できれば友人には来ないでほしい。

風邪を引いたとか、電車が遅れたとか、

何かもっともらしい理由で計画が潰れてほしい。

運命の悪戯が発生してほしかったのだ。


だが、金子の友人──(たち)は、

予定時刻の10分前に渋谷駅に現れてしまった。


「舘君……!!」


「金子……!!」


再会が実現する。

約1年と9ヶ月ぶりに顔を合わせる2人。


これまで金子は手を抜かずに訓練に励んできたので

中学時代とは比べ物にならないほど成長したのだが、

ヒョロかったのが標準体型に近づいただけであり、

昔の印象から大きく変わったとは言えない。


変わったのは舘の方である。


中学卒業時点で180cm以上あった彼の背は更に伸び、

肩幅も広がってゴツさに磨きがかかっているのだが、

そういうことではない。



彼はスカートを履いているのだ。



それも可愛らしいフリルが満載の、

ピンク色のゴスロリドレスに身を包んでいるのだ。

金髪縦ロールの髪型は、さすがにウィッグだろう。



化粧は……相当努力したのだろう。

顔だけに注目すれば、それなりの出来映えなのだ。

だが、いかんせん肉体部分が雄々しすぎる。

丸太のような四肢が全ての努力を打ち消している。



ともあれ、舘は女装しているのである。

それが似合うか似合わないかはさておき、

決してウケ狙いでやっているわけではない。

彼の金子を見つめる眼差しは真剣そのものだった。



「舘君、これは一体……

 どういうことなんだそれは!?

 君の身に何が起こったというんだ!?」


金子は友人の変貌ぶりに思わず声を荒げ、

何から話そうかと迷っている舘が

話しやすくなるよう、リードすることに成功した。

意図的にそうしたわけではない。


金子が無自覚なホモホイホイである所以だ。


「俺は以前、『もしお前が女だったら……』

 みたいな話をしたことがあるだろ?

 その結果お前を困らせてしまって、

 俺たちはしばらく口を聞かなくなって、

 あの当時は本当に辛かった……」


「ああ、うん覚えてるよ

 でもその話は蒸し返さなくていいから……

 で、どうして舘君はそんな格好をしてるのかな?」


「まあいいから聞いてくれ

 それから俺はその件でずっと悩んだんだ

 思えばあの発言は俺のエゴだったよな、と……

 男でありたいお前に女を押しつけるだなんて、

 俺はなんて過ちを犯してしまったのだろう、とな」


「ああ、はい」


「だから俺が女になることにした」


「待って」


……。


「舘君、ちょっと待って

 『だから』の部分、繋がってるかな?

 接続詞の使い方、それで合ってるのかなあ?」


「俺はお前と繋がりたい」


「待って

 色々と待って舘君

 僕は今、すごく嫌な予感がしてるんだ」


顔面蒼白な金子とは対照的に舘は頬を赤らめており、

すうっと大きく息を吸い込んだ後に、

その思いの丈をぶち撒けるのだった。



「俺はお前が好きだ!!」



その純度100%の愛の告白に心を打たれたのか、

2人のやり取りを見守っていた観衆たちの中から

ワアッと大きな歓声が上がる。

そして続け様に祝福の拍手が巻き起こり、

渋谷駅周辺は今、人々の優しさで溢れていた。


「いや、やめてくださいよお!!

 変な空気を作ろうとしないでください!!

 OKしなきゃいけない流れはやめてください!!」


ノンケである金子の答えは当然NOなのだが、

現場の勢いに負けて受け入れる可能性も存在する。

白鳥飛鳥はこの絶好の機会を逃すまいと奮い立ち、

各所に配備していた同志たちに指示を送り、

もっと会場を温めるよう促すのであった。


「……って、会長!!

 なんであなたがこんな所にいるんですか!?

 僕の今日の予定は伝えてませんよ!!」


ターゲットに発見されてしまった白鳥飛鳥だが、

彼女は一切動揺することなく、

それどころか余裕の笑みを浮かべながら

本日の主役へと近づいてそっと耳打ちしたのだ。


「頑張って、舘君

 あともうひと押しよ」


「うっす」


そう短く言葉を交わす2人はどこか親しげであり、

彼らが初対面ではないであろうことは明らかだった。

事実、白鳥飛鳥は何度も舘と顔を合わせていた。


彼女は腐っても生徒会長なのだ。

その地位を利用して金子の関係者情報を調査し、

舘の連絡先を入手するのは容易であった。

そこから先は説明するまでもないだろう。


彼女は舘の味方についたのだ。


「冗談じゃないですよ!!

 何この最強タッグ!?

 やっぱり護衛は必要だった!!

 大上君を連れてくるべきだった!!」


後悔先に立たず、である。

それは1人でノコノコとやってきた事実だけでなく、

他の男の名を口にしたことに対しても言える。


「大上君……だとぉ!?

 誰だそいつは!?

 お前の新しい男か!?」


「いや、誤解を招く言い方はやめて!!

 新しいとか古いとかないから!!

 僕はノンケなの!!

 男とつき合う気なんてないよ!」


「俺は女だ!!」


「無理だよ!!」


金子がキッパリと否定したことにより、

周囲の人々の関心は徐々に薄れていった。

昨今は多様性が囁かれる時代だが、

それは当事者同士の合意が前提であり、

一方の意見を押しつけるものであってはならない。

観衆たちはそれをよく理解していたのだ。


このカップルは成立しない。

そう判断して興味を失った人々は解散し、

渋谷駅周辺は元の雑踏を取り戻してゆく。




が、そんな場面に乱入する者が現れる。


「舘……!!

 お前、こんな所で何やってんだ!!

 それにその格好……女装だと!?

 ふざけるな!!

 お前には俺という男がありながら、

 まだ昔の男のことを忘れられないのか!?」


その口ぶり、その本気の怒り、

そして金子を昔の男呼ばわりしている態度からして、

彼は舘の新しい男なのだろうと容易に想像がつく。


まったく舘も罪な男である。

金子と別れた後に良き理解者と出会えたというのに、

己の欲望に逆らうことができずに昔の男と密会し、

あわよくば二股をかけようとしていたのだから。

なんとも節操のない奴だ。



だが、人はそういう状況に惹かれる生き物である。

この歪な三角関係を外側から眺めるのが好きなのだ。

しかも全員男。滅多に見られるものではない。

気づけば渋谷駅には人だかりが出来上がっており、

その9割以上はホモに関心のある女性であった。


「ふふふ

 これでゴールデントライアングルの完成ね」


「いや、何言ってんですか会長!!

 僕を変な図形に組み込まないでください!!」


ちなみに乱入者を呼び寄せたのは白鳥飛鳥だ。






──後日、金子は再び訓練室を訪れては、

無関係な隼斗に事の顛末を報告するのだった。


「いや、報告なんてしなくていいですよ

 俺は微塵も興味がありませんので」


隼斗は予定通り日曜日にはゴッホ展へと向かい、

存分に芸術を堪能してから洒落た喫茶店に入り、

紅茶とスコーンで優雅な午後のひと時を過ごした。

そんな穏やかな休日を過ごすことができたのだ。


同じ日に渋谷で騒ぎがあったのは知っているが、

その件について詳しく調べるつもりはない。

どうせろくでもないことが起きたのだろうし、

なんだか思い出が汚される気がしてならない。


「舘君の大胆な告白に勇気を貰ってしまったのか、

 突然カミングアウトする人が次々と現れてね

 そりゃもう大勢のカップルが成立していたよ

 それで駅周辺は満員電車並みの大混雑になって、

 警察が出動するまでの事態になったってわけさ

 僕は人混みに紛れて現場から逃げてきたんだけど、

 舘君には少し悪いことしちゃったかなあ……」


だが隼斗は何も答えず、黙々と鍛錬を続けた。


やはり本心からどうでもいい出来事だった。

その成立したカップルとやらは全員男なのだから。


ああ、考えたくもない。

基本情報

氏名:金子 正数 (かねこ まさかず)

性別:男

年齢:17歳 (10月1日生まれ)

身長:174cm

体重:58kg

血液型:A型

アルカナ:審判

属性:氷

武器:聖騎士の剣 (片手剣)

防具:聖騎士の盾 (盾)

防具:聖騎士の鎧 (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:6

S:5

T:7

F:5

C:7


登録魔法

・アイスボール

・アイスストーム

・マジックシールド

・ライジングフォース

・ディーツァウバーフレーテ

・ヒール

・サンクチュアリ

・アナライズ

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