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進め!魔法学園2  作者: 木こる
12000回目の自殺
88/95

1年目12月

隼斗は芸術棟の裏に呼び出された。

相手は変態の早乙女花凛である。


「大上君、この間は本当にありがとう

 おかげでお父様はすごく喜んでいたわ」


「ああ、時計の件ですね

 喜んでいただけたようで何よりです」


「お父様へプレゼントを贈った後に

 例の比較写真を見せたのだけど、

 わたくしが選ぼうとした方の時計は

 『余計な石が付いてるゴミ』と

 ボロクソにこき下ろしていたので、

 やっぱり機能美重視で正解でしたわ」


(割と重大な選択だったんだな……)


「ところで大上君

 あなたにはダンジョンでも助けてもらったし、

 何かお礼をしたいと思っているのだけれど」


「あ、いえ、お構いなく

 俺は当然のことをしたまでですし、

 実戦を通して大変貴重な経験を積めたので、

 それだけで充分です」


「そんなこと言わずに、

 何か欲しい物があれば仰ってちょうだい

 なんなら形あるモノ以外の要求でもいいのよ?

 例えばわたくしの体を自由にしたい、とか……」


そう言い、早乙女は妖艶な笑みを浮かべながら

リボンタイをシュルシュルとほどき、

Yシャツのボタンを上から外してゆく。


(やっぱり変態だったこの人)

「いえ、結構です

 先輩に望むモノは特にありません

 まあ、強いて言えば……

 ご自身を大事になさってください

 こんな野外で突然脱ぎ出すなんてどうかしてます

 誰かに見られたら『安い女』だと思われますよ?」


「安い女……!」


「先輩は絶体絶命のピンチから生還したことで、

 “吊り橋効果”の状態に陥ってるだけだと思います

 どうか冷静になってください

 このまま暴走を続けてしまえば、

 下手をすると『変態』だの『娼婦』だのと

 呼ばれることになるかもしれませんよ」


「このわたくしが変態……!

 娼婦呼ばわりされるだなんて……!」


ワナワナと身震いする早乙女をその場に残し、

隼斗は訓練室へと向かった。


早乙女との恋愛フラグはもうバッキバキである。


第三者からすればそう見えるだろうが、実は違う。

早乙女花凛は新たな自分を発見しつつあったのだ。

これで好感度が上がってしまうのだから、

やはり彼女は変態で間違いない。




訓練室にて隼斗はサンドバッグを叩く。

叩いて、叩いて、叩きまくる。

何かに怒りを感じているわけではない。

不満があって八つ当たりしているわけでもない。

ただパンチとキックの精度を高めるための練習。

それが彼のライフワークだから叩いているのだ。


「高梨さん

 カウンターの練習をしたいんだけど、

 俺に向かって攻撃してくれないか?」


「ん、オッケー!

 当てないように気をつけるね!」


「それじゃあ意味が無いだろ……

 君は今まで俺の何を見てきたんだ?

 ……まあいい、やってくれ

 威力は度外視でスピードのあるやつを頼む」



高梨いちごは修練用ポールを構え、

隼斗に向かって思い切り突き出した。


隼斗はポールを掻い潜りながら前進し、

高梨いちごの顔面まであと1cmの距離で拳を止める。


「わっ、うわあ!?

 もうちょっとで当たるとこだった!!

 怖いよ大上君!!

 女の子の顔は狙っちゃだめ!!」


事前にわかっていたことだが、全く練習にならない。

彼女のフルスピードは非常にスローなものであり、

殺気が込められていないので緊張感も湧いてこない。

そして余裕のある寸止めをしてもギャーギャー騒ぎ、

次の攻防に取り掛かるまでのテンポも最悪である。


(やっぱり魔物相手にやるしかないか……

 でもそれだと対人スキルが育たないんだよな)


ロボット同然の魔物相手なら、パワーとスピードさえ

強化すれば前衛をこなすことは可能であるが、

隼斗が掲げる目標は『安土をぶっ飛ばす』なので、

人間相手の心理的な駆け引きを学ぶことも重要だ。


だが、その練習につき合ってくれる人間がいない。

一応高梨いちごはやる気を見せてはくれるものの、

あまりにもポンコツすぎて話にならないレベルなので

練習相手としてカウントする必要は無い。

深刻なパートナー不足である。


そこで隼斗は妙案を思いついた。


(アロエさんを怒らせてみよう)






──親戚の家をたらい回しにされていた頃、

隼斗は1人の少女と出会った。

小学校からの帰り、公園で考え事をしていた時だ。


「アンタ見ない顔だね

 ここ来んの初めて?」


振り向くとそこには奇抜な髪色をした少女……

関東アロエの姿があった。

彼女は腕組みをしながらこちらを睨んでおり、

それが友好的な態度でないのは即座に理解できた。


「ここ、アタシの縄張り(シマ)だからさあ

 部外者はどっかよそに行ってくんない?」


出会いは最悪だった。


この少女はおそらくガキ大将的な存在であり、

事実、取り巻きというか下僕というか、

浮かない顔をした男子たちを付き従えている。

彼らは嫌々遊びにつき合わされているのだろう。

その中から恐る恐るボスに進言する者が1人。


「あ、アロエさん……

 せっかくだから彼も誘ってあげたらどうかな?

 なんだか友達いなさそうな感じの子だし、

 僕らが()()()してあげるべきじゃないかなあと」


友好的な下僕である。


……とも言えない。

彼は『仲良く』の部分を強調したのだ。

これは何か裏があるとみて間違いない。

被害者を増やすことで苦しみを分散させたいのか、

自分が標的になる確率を下げようとしている。

あるいは単純に『俺と同じ苦労を味わえ』という、

なんの生産性も無い理不尽な心理によるものだろう。


隼斗の答えはこうだ。


「では、よそへ行きます」


戦うこともできた。

「公園はみんなの場所だ」と主張することもできた。

が、この頭悪そうな連中に正論を説いたところで、

数の暴力によって封殺されるだけだろう。

関わらないのが最善策である。


しかし。


「あっ、それいいねえ!

 アンタもアタシの奴隷にしてあげるよ!

 誰か反対する奴いるぅ?

 いないよねぇ?

 じゃあ、はい決定!」


なんて強引な女だ。

しかも奴隷扱いとか、下僕よりもタチが悪い。



隼斗は戦うことにした。


「俺はお前らの言いなりになんかならない!」


悪には屈しないという意志も当然あったが、

攻撃されっぱなしというのは気に食わない。

やられたらやり返す。

その性格は生来のものであった。


「このアタシに逆らうとか生意気なんだけど!

 ほら、アンタたち!

 そいつ取っ捕まえてボコボコにしてやんな!」


「え、でもアロエさん

 どう見ても下級生ですよ?

 ボコボコにするのはまずくないですか?」


「だったらボディー狙えばいいじゃん!

 馬鹿なのアンタたち!?」


「あ、はい、じゃあボディー狙いで……」


奴隷男子たちが襲い掛かってくる。

乗り気ではないような発言をしておきながら、

結局彼らはその悪事を実行したのである。

『上から命令されたのだから仕方ない』。

そうやって自分を正当化しているのが透けて見える。


隼斗はこの手の連中を軽蔑していた。

彼らにはプライドが無いのだ。

こいつらに比べれば、自らの欲望に忠実に従って

悪を貫く『アロエさん』の方がまだマシである。



隼斗はまず逃げた。


とはいえ敗走ではなく後退しただけだ。

相手は上級生、しかも複数なのだ。

正面からやり合って勝てる状況ではない。


「あ、こら逃げんな卑怯者!」

「さっきの威勢はどうした!」

「正々堂々かかってこいや!」


どの口が言うか。

隼斗はこの公園内で自分にとって有利な地形、

ジャングルジムへと駆け込む。


すると上級生たちもすぐ追ってきたが、

体が大きいため入り口でつっかえて

スムーズに侵入することができない。


隼斗はそいつらに砂を撒き、石を投げて応戦する。


「くっ……!

 飛び道具使うとか卑怯だぞ!」


構うものか。

繰り返すが、相手は複数の上級生なのだ。

力の差を戦術で埋める。

それのどこが卑怯なものか。

それこそフェアな戦いというものだろう。


強引に近づいてくる者に対しては、

顔面に蹴りを喰らわせてやった。


「ぐはっ!!

 人の顔蹴るとか……お前マジかよ最低だな!?

 俺は歯列矯正してんだぞ!!

 歯並び悪くなったらお前のせいだかんな!!」


いいことを聞いた。

こいつの弱点は歯だ。

敵の弱点を攻めるのは戦いの基本である。


「こっちはコンタクトレンズだぞ!!

 いいか、絶対に目だけは攻撃すんなよ!?

 ホント洒落にならないからな!!」


こいつの弱点は目だ。


「俺は高所恐怖症なんだ!!

 上まで登るんじゃねえぞ!!

 届かなくなるからな!!」


こいつの弱点は高い所だ。


……なぜこうも自ら弱点を曝け出してくれるのか。

何か作戦があって……いや、ただ馬鹿なだけだろう。




ジャングルジムでの攻防が始まってから数分後、

下級生1人を相手に手こずっている手下たちの姿に

苛立ちを覚えたアロエは強硬策に出た。


「ゥラアアアァァッ!!!」


叫ぶと同時にアロエの髪が逆立ち、

その全身からはバチバチと光の線が走り、

傍目にも放電していることが明らかだった。


“逆鱗”──関東アロエのブチ切れモードである。


「げえっ、やべえ!!」

「アロエさんが切れた!!」

「逃げろおおお!!」


だが時既に遅し。

奴隷男子たちが逃げ出すより早く、

電気を帯びたアロエはジャングルジムに到達し、

鉄棒を介して3人の愚図が感電の被害を受けたのだ。

隼斗は放電現象を目撃した瞬間に手を離したので、

かろうじて難を逃れることができた。


「あがががが!!」

「ぎぎぎぎぎ!!」

「ぐげげげご!!」


打ち合わせでもしていたのだろうか?

まあそれはさておき、ボスの衝動的な行動により

ザコ3匹が片付いたのは大変ありがたいことである。


しかし劣勢であることには変わりない。

むしろ状況が悪化している。

先程までは体の大きい男子がつっかえていたから

なんとか防衛することができていたものの、

アロエの体格は隼斗とそう変わらないだけでなく

謎の放電現象を起こしているではないか。



戦場はジャングルジムの中。

周囲の鉄棒に触れれば感電は避けられない。

いくら体の小さい隼斗でも一切障害物に触れずに

外へと脱出するのは不可能であろうし、

当然アロエの本体に触られてもアウトだ。


「へへへ、もう逃げらんないよ

 このアタシを怒らせるとは大した度胸じゃん

 たっぷり痛めつけてやるから覚悟しときな」


完全に悪役の台詞だ。

彼女自身もそれをわかって言っているのだろう。

隼斗にスーパーパワーの1つや2つでもあれば、

この状況を自力で乗り切ることができただろう。

だが残念、大上隼斗は普通の少年である。

そして都合良くピンチに駆けつけてくれるような

正義のヒーローが近くにいるとは到底思えない。


なので、隼斗は一般人に助けを求めることにした。



<ビィー!!ビィー!!ビィー!!>



「えっ、あっ、ちょっ……!!」


防犯ブザー。

現代小学生の必須アイテムだ。

これを鳴らされて困るのは悪人だけである。


突然の警報に怯んだアロエは逆鱗モードを解除し、

慌てて逃げ出そうとして鉄棒に頭をぶつけた。


「ガッ……!?

 大人に助けを求めるなんて卑怯!!

 この借りはいつか必ず返すかんね!!

 覚えてろ!! このっ、クソッ!!」


そう言い残して、気絶した手下たちを現場に残して、

関東アロエはダッシュで公園から立ち去っていった。




駆けつけた警官や見捨てられた手下たちの話から、

まあ最初からわかりきっていたことではあるが、

彼女が近所で有名な問題児であると発覚した。


手下たちは「何もしてないのにいきなり蹴られた」と

被害者を装おうとしていたが、隼斗が証拠を出すと

顔面蒼白になり、親と警官からきつく叱られていた。


先程のやり取りは全て録音していたのだ。


今まで散々マスコミにつきまとわれてきた隼斗は、

自己防衛のために録音機を持ち歩いていた。

自分から喧嘩を売っておいて、反撃を受けたら

警察に泣きつく連中が過去に大勢いたのである。




後日、隼斗とアロエは同公園で再会することになる。

偶然でも、本人たちの意思によるものでもない。

お互いの保護者同士が「2人を仲直りさせよう」と、

勝手に結託して強行したのだ。


2人の仲が良かった時期など存在しないので

仲直りという表現はいかがなものかと思うが、

まあこのまま不毛な敵対関係を続けてゆくよりは、

表面上だけでも友好的である方が大人は安心できる。


隼斗は自分を引き取ってくれた親戚に

迷惑をかけないようにと、アロエを許すことにした。


一方、アロエは……


「はいはい、アタシが悪うございました

 ごめんなさーい、ごめんくださーい」


全く反省の色無し。

だが、一応は謝罪の言葉を口にした。

その行為に誠意があるかどうかは不問にしよう。

世の中の大人たちは、みんなそうしている。



アロエの保護者は国立魔法技術研究所の所長であり、

血縁者でないことはアロエ自身も知っているそうだ。


アロエはダンジョンの中で保護された少女であり、

それ以前の記憶は一切無い。

そして魔力の波長が人間のものではなく、

限りなく魔物に近いという性質から危険視され、

研究所でその身を預かっているとのことだ。


「……とまあ、複雑な生い立ちの子でね

 魔物に近いと言っても食事や睡眠を必要とするし、

 学習能力もあることから人間だと認められたんだ

 社会経験を積ませようと学校に通わせてみたけど、

 やっぱりまだ早すぎたのかなあ……

 あの暴力的な性格をどうにかしないと……」


複雑な生い立ちと暴力的な性格に因果関係は無い。

それは彼女自身が生まれ持った性質なのだろう。

ただ己の欲望に忠実であり、抗う術を知らないのだ。


むしろ一般の学校に通わせることは正解である。

研究所に隔離している限りは同年代との触れ合いを

経験することができず、成長の機会が訪れない。

社会性を身につけるには他人と関わるのがベストだ。


まあ、つき合わされる方はたまったもんじゃないが。



隼斗はアロエに誘われ、ジャングルジムに移動した。

なんだろう、報復で感電させられるのだろうか?

まあその時はその時だ。

今回は保護者同伴なので、万が一の場合には

大人たちがどうにか対処してくれるだろう。


「ねえ、アンタさ

 もしかして正義のヒーローとかに憧れてる?

 なんかあの時のアンタの目……

 『言いなりにならない!』って言ってた時の目、

 すんごいまっすぐな感じで良かったよ」


「ん……

 恐縮です」


「その後の卑怯な戦法で台無しだけどね

 砂撒きするヒーローがどこにいんのって感じだよ」


「それは戦力差を埋めるためだったんで……

 まあ、ヒーロー云々は一旦置いといて、

 “正義”という単語には強い関心があります

 少し語り合いましょうか?」


「え、何?

 いや、語り合うとか──」


「俺は『悪ありきの正義』を認めたくはありません

 それは言い換えれば『相対的な正義』なので、

 俺が求める『絶対的な正義』とは程遠い概念です」


「いや、ホント何?

 アンタ本当に8歳?

 年下と喋ってる気がしない!」


「『絶対的な正義』とは即ち『悪無き正義』であり、

 いついかなる時でもそれが正しいと万人が認める

 唯一無二の完成された概念でなければなりません

 俺はその『正義』の本質を知りたい

 アロエさんにとっての『正義』とはなんですか?」


「知らんわ!!

 悪い奴ぶっ飛ばしたらそれが正義だよ!!

 ヒーローはみんなそうしてるでしょ!!」


「いや、それだと『相対的な正義』なわけで……」


「あ〜もう、ゴチャゴチャうるさいなあ!!

 じゃあ先にてっぺんまで登った方が正義ね!!

 はい、よーいスタート!!」


なんとも無茶苦茶な理論である。

だがまあ仕方ない、相手は子供なのだ。

小難しい話についていけなくても当然だろう。


まあ隼斗も子供ではあるが。


とりあえずそんな小難しい話は切り上げて、

隼斗もジャングルジムを登ろうとゴールを見上げる。

すると……


目の前にはアロエの尻があった。


しかもドアップである。

隼斗の視界は今、アロエの尻で埋め尽くされていた。


遠近法が生み出した奇跡だ。


この経験が後の人生に影響を与えたのかもしれない。

否、遅かれ早かれ目覚める運命にあったのだろう。

それが早かったという話である。



夕刻となり、帰り際に2人はある約束を交わした。


「あのさ、アタシって魔法使いじゃん?

 だから将来は魔法学園通おうと思ってんだよね

 で、魔法学園って冒険者育てる場所だし、

 冒険者って悪い奴ぶっ飛ばす正義の人じゃん?

 だから正義について知りたいなら、

 アンタも魔法学園においでよ

 その頃にはアタシも色々成長してるだろうし、

 正義ってもんを少しは理解してるだろうから

 アンタに教えてやることができると思う

 これ約束ね」


「約束……

 はい、約束します!

 俺も魔法学園に通います!

 そうしたら俺に色々教えてください!」


「絶対に忘れんじゃないよ!

 もし約束破ったら半殺しだかんね!」


それから2人が顔を合わせることはなかった。

通っている小学校が違かったせいもあるが、

今回隼斗は正当防衛とはいえ暴力沙汰を起こし、

マスコミからの粘着攻撃を恐れた隼斗の保護者は

速やかに他の親戚へと厄介者を押しつけたのだ。






──そして隼斗は約束を守ったのだが、

言い出しっぺのアロエは完全に約束を忘れていた。

まあそれはいい。子供同士の約束なのだ。

アロエはただその場の勢いで口走っただけであり、

本気で言っていたわけではなかったのだろう。

それはもういい。もう諦めている。


だが、やはり何も感じていないわけではない。

少し仕返ししてやりたいという気持ちはある。


そこで隼斗はとっておきのネタを使うことにした。



隼斗はアコースティックギターを手に、

校庭のど真ん中に立ってジャラジャラと掻き鳴らす。

すると音に反応した生徒たちが窓辺へと移動し、

これから何が始まるのかと興味深そうに見物する。

その中にアロエの姿もあったが、この時点では

ただの観客であり、隼斗の意図は読めなかった。


そして隼斗が規則正しい伴奏を爪弾き始めたので、

見物人たちがこれはゲリラライブなのだと納得する。

思春期特有の突飛な行動。

第三者からすれば見ているだけで恥ずかしいが、

本人は最高にカッコいいと思ってやっているのだ。

そう納得し、生温かい目で演奏者を見守ってやる。


そして……



「♪みっずたっまり〜

 ♪みっずたっまり〜

 ♪ひっざにみっずがた・ま・る〜

 (セリフ)『膝に爆弾を抱えてるんだ』」



酷い歌が披露されたのだ。


「ぶははは! ひっでえ歌詞!」

「なんの曲だよ!」

「うちの婆ちゃんが悩まされてる症状だ!」


観客の反応などお構いなしに隼斗の演奏は続く。



「♪しっおづけ〜

 ♪しっおづけ〜

 ♪しっおづけの〜……物件!」



「いやホントなんの歌だよ!?」

「塩漬けの物件……?」

「不動産のCMソングかな?」


するとアロエの表情がみるみると強張ってゆき、

同級生たちを押し退けて廊下をダッシュする。



「♪薬用食用観賞用に〜

 ♪アロエが効きます(アロエは味方!)

 ♪薬用食用観賞用に〜

 ♪アロエのチカラ(アロエのパワー!)」



「今度はアロエの歌だと?」

「なんでそんな歌を……?」

「もしかしてアロエ先輩へのラブソングかな?」


と観客が勝手に盛り上がっていた見物人たちだが、

校庭に駆けつけたアロエの姿を見て理解した。



アロエはかつてないほど怒り狂っており、

その放電現象は静電気を通り越して

もはや火山雷の域にまで達している。


あの酷い歌を作詞作曲したのは関東アロエである。


その黒歴史をほじくり返されたせいで、

彼女は過去最大の逆鱗状態になっているのだ。



隼斗は殺意を伴う攻撃への対処法を学ぶため、

アロエの本気の怒りを引き出したのである。



「大上ぃぃぃ!!!

 その歌どこで覚えたあああ!!!

 なんでアンタが知ってんのおおお!!!」


顔を真っ赤にしながら叫ぶアロエを目の当たりにし、

隼斗はギターを避難させながら返答する。


「情報源は国立魔法技術研究所の所長さんです

 会いに行ったら、あの人は俺のこと覚えてましたよ

 それで色々と面白い昔話を聞かせてくれまして、

 アロエさんの“即興ソング100曲メドレー”の

 録音データをコピーしてくれました」


「録音データだとぉ!?

 そんなんいつのまに……クソがっ!!」


恥ずかしさで憤るアロエ。

穴があったら入りたい気分だろう。

黒歴史を掘り起こした男をぶっ飛ばしたいだろう。


それでいい。

隼斗はこの展開を望んでいたのだから。




まあ、結果は隼斗の勝ちだ。


もしこれが本当の意味で1対1の戦いだったならば、

十中八九アロエが勝利していたはずだ。

本気を出したアロエはまさに稲妻の化身であり、

人間の反応速度で追いつくのはまず不可能なのだ。


勝因はレフェリー金子の合図だ。

ルール無用の喧嘩なのだから無視すればよいものを、

アロエは素直に号令に従ってしまったのである。

彼女は人間であるがゆえに負けたのだ。

関東アロエには心がある。

それこそが彼女が魔物ではない最大の根拠である。


さておき、隼斗はその一瞬に全てを賭けた。


必ず来ると読んでいたドロップキックを

ドラゴンスクリューで絡め取り、

4の字固めでフィニッシュ。


隼斗は目を瞑りながらその動作を実行した。

余裕があったわけではない。

どうせ人間の動体視力では追いつけないし、

タイミングを合わせる作業だけに集中したのだ。

研究所で借りたアロエのビデオを参考にして

何千回とシミュレーションしてきた動きなので、

それは不可能ではないと信じていた。


そして、そのタイミングを合わせる作業こそが、

大上隼斗にとっての最大の武器であった。

基本情報

氏名:関東 アロエ (かんとう あろえ)

性別:女

サイズ:G

年齢:推定18歳 (4月5日に保護)

身長:160cm

体重:54kg

血液型:分類不能

アルカナ:皇帝

属性:雷

武器:スレイヤー (拳鍔)

防具:アイアンメイデン (軽鎧)


能力評価 (7段階)

P:7

S:7

T:5

F:10

C:1


登録魔法

・アロエさんを怒らせると怖いよ?

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