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進め!魔法学園2  作者: 木こる
12000回目の自殺
87/96

1年目11月

黒い羊(ブラックシープ)は『厄介者』を表す言葉である。

染色に向くのは白い羊毛なので、羊飼いからすれば

黒い羊は価値の低い存在であるとされてきた。

その一方で天然の黒羊毛は希少な素材であり、

『自然な色合いが好き』という理由で愛好家も多い。


黒といえば、他の何色にも染まらないことから

『公平さ』を表す象徴として裁判官の法服に

使用されていることで有名だ。

その一方で『暗闇』や『暗黒』などの象徴でもあり、

ネガティブなイメージを持つ者も多い。


まあ、視点によって物の価値は変わるのだ。

人間の価値観なんて所詮そんなものである。




最近肌寒い日が続き、本格的な冬が訪れる前に

冬服の整理をしていた隼斗はある事実に気づく。

なんだか服が縮んだような……というより、

いつのまにか本体が大きくなっていたのだ。

成長期の男子あるあるである。


まあパツパツな状態というわけでもないので

去年の服を続投すること自体は可能だが、

今後も背が伸びる可能性を考慮すると

サイズの大きい服を仕入れておくべきだろう。



隼斗は次の日曜日にでも1人で服選びをしようと

考えたのだが、ふと思い立って()を誘ってみた。

だが直接伝えるのはなんとなく避けたかったので、

メールでのやり取りで済ませた。


『安土、一緒に服を買いに行かないか?

 お前のファッションセンスは絶望的すぎる

 俺がまともな服を選んでやる』


『断る

 俺のセンスは悪くない

 自分が着る物くらい自分で選ぶ』


やはりだめだった。




日曜日になり、隼斗は1人で表参道に来ていた。

高級ブランド店が立ち並ぶファッション街であり、

幼い頃によく家族揃って訪れていたので、

隼斗にとっては懐かしの場所の1つである。


そして最初に入ったのはヴィンテージショップ。

最新ファッション信者ではない隼斗は、

本当に自分に合っているかどうかを基準にして

良し悪しを判断する主義なのだ。


しかし高い。


良い物がいい値段をするのは仕方ない。

それが世の摂理である。

裕福な暮らしをしていたあの頃ならば

気に入った商品をポンポンとカゴに入れられたが、

今はもうそんな贅沢をできる余裕はない。

おとなしく現実を受け入れて我慢するしかないのだ。


結局その店では何も買わずに退店した。



さて、1件目では収穫の無かった隼斗だが、

このまま何も得ずに帰宅するつもりはない。

財布が寂しいのを承知で、わざわざ高級ブランド店が

立ち並ぶこの街へやってきたのには理由がある。

彼は、良い物を安く買う方法を知っているのだ。


それを可能にするのがアウトレットだ。

余剰在庫やシーズンオフ品、訳あり品などを

メーカーやブランドが直接販売する業務形態である。

在庫処分を目的としているので非常に低価格であり、

デメリットとしては『何が販売されるかわからない』

くらいなもので、それはむしろ掘り出し物を

探したい層にとってはワクワクする要素でもある。


隼斗はワクワクしながら入店した。

しかし、すぐ怪訝な表情へと変わる。


「あ、大上君!

 こんな所で会うなんて奇遇だね!

 大上君もショッピング?

 実は私もなんだ〜!

 もしよかったら一緒に見て回らない?」


そこには高梨いちご……いや、りんごかもしれない。

髪型がポニーテールというのも厄介だが、

今は尻のホクロを確かめられる状況ではない。

どちらか判別できないが、とにかく彼女がいたのだ。


奇遇なものか。

どうせ尾行してきたのだろう。

その証拠に、役者が揃ってしまったのだから。


「あ、大上君!

 こんな所で会うなんて奇遇……って、りんご!?

 あんたこんな所で何やってんの!?

 一瞬そこに鏡が置いてあるのかと思ったよ!!

 もしかしてあんたも同じ目的で……」


「はああっ!?

 目的って何よ!?

 私はふらりとショッピングに来たら、

 偶然大上君と会っただけですぅー!!

 あんたこそ何やってんの、だよ!!」


「私もふらりとショッピングに来ただけですぅー!!

 ここで大上君と会ったのは偶然ですぅー!!」


双子は考えることも一緒なのだ。


(逃げるなら今だ)


隼斗は足音を消して後ずさりし、

人混みに紛れることに成功した。




隼斗は高級腕時計の専門店へと避難した。

もちろん買うつもりはないが、せっかくなので

洗練された職人の技術をまじまじと眺めながら

店内に漂う上品な空気を堪能させてもらう。


「あら、大上君

 こんな所で会うなんて奇遇ね」


(くそっ、追いつかれたか……!)


隼斗が振り返ると、そこには高梨姉妹ではなく

変態の早乙女花凛が立っていた。

彼女は本物の富裕層特有の気品に満ちており、

このような高級店にいてもなんら違和感が無い。

対する例の双子は精一杯お洒落した中学生のようで、

表参道初心者であることは明らかであった。


「大上君も時計を買いに来たのかしら?

 わたくしはもうすぐお父様の誕生日が近いから、

 そのプレゼントを選んでいるところなの

 もしよければ一緒に選んでくださる?

 恥ずかしながら、時計の知識には疎くて……」


「ええ、構いませんよ」

(こうしてピアノ弾いてない時は

 完全無欠のお嬢様って感じなんだけどな……)


聞けば彼女の予算は30万円だそうで、

毎月のお小遣いはその倍以上というのだから驚きだ。

本物のお嬢様である。

これなら遠慮することはない。

予算内で最高の一品を選んでやろう。



というわけで候補は2つに絞られた。


「わたくしはこちらの28万の方が

 お父様に喜んでもらえると思うのですが……

 値段からして、より良い時計なのでしょう?」


「俺の予想ではこっちの25万の時計ですね

 たしかにそっちの方が高いですけど、

 それは宝石の価値に引っ張られているだけかと

 クラシックカー集めが趣味とのことなので、

 豪華な見栄えよりも機能美を重視する気がします」


「機能美、ですか……

 そういえば昔そんなことを言っていたような……」


「とりあえず本人に確認してみましょう

 値段は伏せて、写真を見比べてもらえば

 どちらが欲しいのかはっきりしますよ」


「それだとサプライズが台無しですわ!」


「サプライズか……

 まあ、元も子もない言い方になりますが、

 きっと娘が選んだ物ならなんでも喜びますよ

 プレゼント選びで大事なのは、

 相手を喜ばせようという気持ちです

 先輩がここまで悩んで決めた物なら、

 なんであれ必ず大事にしてくれると思います」



その後、早乙女はしばらく悩んだ末、

最終的に機能美重視で25万円の腕時計を購入した。


「ありがとう、大上君

 プレゼント選びにつき合ってくれたお礼に、

 これから一緒にランチでもいかがかしら?」


「いえ、昼食ならもう済ませてあります

 それに1人でゆっくり探したい物があるので、

 俺はこの辺で失礼しますね」


「あら、そう……」


フラグをパキッとへし折る隼斗であった。






──高梨姉妹の追跡を逃れながら店を回るうち、

隼斗は最初に立ち寄ったヴィンテージショップとは

別の店へと辿り着き、ある商品に目が留まった。


それは合成皮革ではなく、間違いなく本物の羊革(シープスキン)

使用したレザージャケットであり、内側の毛皮も

染色されていない天然のブラックシープ素材だった。

相場にして15万円は下らないだろう。


が、その逸品がわずか3万円で売られているのだ。


これは買いである。


……と言いたいところだが、さすがに怪しい。

訳あり品の処分が目的のアウトレットならまだしも、

なぜこんな上等な代物がこんな目を疑う低価格で

ヴィンテージショップに陳列されているのか……。


店員を直撃してみた。


「ああ、あれかい?

 まあ予想はつくだろうけど訳ありでねぇ……

 あれは“呪いのジャケット”と呼ばれていてね

 ほら、持ち主に不幸が訪れる的な……」


「不幸と言いますと?」


「その、試験でヤマカンを外したり、

 ペットのハムスターが逃げ出したり、

 自転車の二人乗りを取り締まられたり、

 奥さんに浮気がバレて家庭崩壊したり……

 どれもこれも購入してから1年以内に起きたことだ」


「全部自業自得じゃないですかね?

 ところで訳あり品だとわかっているのなら、

 それこそアウトレットに置くべきでは?」


「うん、そうだね

 でも最後の購入者がそこの店主でね

 職を失ってしまった上に親権で揉めてて、

 問題が片付くまで仕方なくうちで預かってるんだ」


「とりあえず買います」


「えっ、今の話聞いて買うの!?

 呪われてるんだよ!?

 本当に本気!?」


この人は店員のはずだ。

商品を買うと言っている客がいて、

一体何を困ることがあるのだろうか?

売りたくないのならば、陳列しなければいい。

激安の価格設定をしておいて今更なんだというのだ。


「俺は迷信とか信じてませんからね

 良い物を安く買えるのなら、

 それに越したことはないです」


「う〜ん、そっかあ

 どうしても買いたいのかあ……

 それじゃあ、10万円でどうかな?」


「……は?」


店員が何かおかしなことを言い出した。


「いやあ、いくら呪われてるとはいえ、

 それなりに良い商品であるのは確かだからねえ

 大体は説得すれば引き下がってくれるけど、

 君のように購入意思の強いお客さんが

 たまに現れるんだよ

 ……そこで最終確認というかね、

 10万円でも買うと言うのなら売ることにしたんだ」


「それ契約違反ですよ

 店側は『3万円で売る』意思を提示していて、

 客が『3万円で買う』という意思を提示した……

 その時点で売買契約は成立してるんです

 契約成立前に価格を変更するのならばともかく、

 交わした後にそれを行うのは明確な違法行為です」


「え?

 いやいや、違法だなんて大袈裟な……

 僕はお客さんに不幸が訪れないようにと、

 自分にできることを精一杯やってるだけだよ

 そもそも君、高校生くらいでしょ?

 なんか法律に詳しいような口ぶりだけど、

 ただカッコつけたいだけでしょ?

 あんまり大人を舐めない方がいいと思うけどなあ」


「父が弁護士なもので」


こうして隼斗は上等なレザージャケットを

わずか3万円で購入したのである。

基本情報

氏名:大上 隼斗 (おおがみ はやと)

性別:男

年齢:16歳 (6月6日生まれ)

身長:173cm

体重:60kg

血液型:A型

アルカナ:正義

属性:なし

武器:貫く信念 (なんでもあり)

防具:ブラックシープ (衣装)


能力評価 (7段階)

P:7

S:7

T:7

F:0

C:0

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