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進め!魔法学園2  作者: 木こる
12000回目の自殺
82/83

1年目7月

“魔物との戦い”と“人間との戦い” はまるで違う。

まず魔物には痛覚が存在しないため、

ダメージを与えても痛みで怯むことはない。

心も存在しないので、話術による説得や

フェイントなどの心理的駆け引きも通用しない。

そして組み込まれたプログラム通りにしか動けない。

魔物とは即ち、ロボットのような存在なのだ。


その機械的な邪悪との戦いの様子は

紀元前5000年前の壁画にも記されており、

それを基にして神話が作られたという説もあるが、

今更確かめようがないので真実は定かではない。


人類は石器や鉄器、火薬などの武器を用いて

魔物の脅威を退け歴史を積み上げてきたのだが、

その裏では己の身一つで魔物に挑んだ者たちもいた。

それは時の権力者を喜ばせるための余興だったのか、

それとも闘争本能を抑えることができなかったのか、

いずれにせよ愚かな挑戦であったのは間違いない。


“プロの格闘技選手が魔物相手にどれだけ戦えるのか”

という企画が数年に1回の頻度で行われているのだが、

大体どの挑戦者も中ランクの魔物オークで苦戦し、

勝利を収めた者たちは全員そこで挑戦終了している。


結論:人間が素手で倒せる魔物の限界はオーク。


それは通称『オークの壁』と呼ばれており、

近接武器による物理攻撃が有効なラインも

ほとんど似たようなものである。






隼斗は学園ダンジョンに様々な道具を持ち込み、

その使い心地を確かめようとしていた。

ソロでの活動ではあるが、護衛の金子がいるので

何かトラブルが起きても先輩が対処してくれるはず。


隼斗はまず棍棒と盾を装備してみた。

どちらの武具も、というか持ち込んだ全ての武具は

学園からレンタルした型落ちの中古品である。

とはいえ決して粗悪品というわけではなく、

品質審査をクリアして安全性が保証されている物だ。


しかし、それは()()()()()()()()()()()の話であり、

魔力を持たない隼斗には装備品の性能を引き出せず、

保証されているはずの安全性には全く期待できない。


「僕たち魔法能力者の基準で例えると、

 大上君は常にHPとMPが0の状態で

 戦っているようなものだよ

 防具のバリア機能を発動させられないし、

 武器に“魔物を殺す力”が乗らないんだ

 僕は絶対にそんな状態で戦いたくないね

 あまりにもハードモードすぎる」


そんな先輩からのありがたい忠告を

聞いているのか聞いていないのか、

隼斗はコボルトの群れに突っ込んでいった。


そして逃げる。


(ん……早速ピンチかな?)


金子は鞘から剣を抜いてしばらく様子を見る。

隼斗は3匹のコボルトを引き連れながら

玄室の中をぐるぐると走り回っている。

その軌道に狂いは無い。何か意図があるのだ。

彼は今、逃走ではなく後退をしているだけである。


(トレインか……

 ソロじゃ無意味な行為だけど、まあ練習かな)


トレインとは、敵を引きつけたまま

特定の位置へと誘導する戦術である。

パーティープレイにおいては前衛、

特に防御役(タンク)にとって必修課題の1つだ。



しばらく逃げ回っていた隼斗が突然足を止め、

振り返って棍棒と盾を構えた。

どうやらトレインの練習を切り上げて

戦闘を行う気になったようだ。


と、金子は不思議な現象を目にした。


コボルト2匹からの同時攻撃を棍棒と盾でブロック。

残った1匹からの攻撃を盾で受け流す。

コボルト2匹からの同時攻撃を棍棒と盾でブロック。

残った1匹からの攻撃を盾で受け流す。

コボルト2匹からの同時攻撃を棍棒と盾でブロック。

残った1匹からの攻撃を盾で受け流す。


「え、なんだこれ……

 完全にリズムが出来上がってる……?」


コボルトなんて取るに足らないザコの1種であり、

金子は今まで速攻撃破する戦いしかしてこなかった。

そんな感じで眼中に無かったザコモンスターが

実に規則正しい動作を繰り返しているではないか。


「資料映像を観て予習しておきましたからね

 なるべく敵の攻撃回数……つまり俺の防御回数を

 減らすために動きを揃える必要がありました

 コボルトは3〜6匹の群れで行動しますが、

 どのパターンでも必ず足の速い個体が存在します

 そいつの攻撃速度は標準個体と全く同じですが、

 他の個体よりも早く交戦することになるので

 自然と攻撃のタイミングがまばらになるわけです」


「走り回っていたのは位置調整のため……

 つまり、攻撃開始のタイミングを合わせるためか

 時間と空間を利用したトレイン戦術……

 もしかしたらこれは大発見かもしれないぞ?」


「そして、どの群れにも攻撃速度の遅い個体がいます

 こいつが少々厄介でして、他とは速さが違うために

 少しずつタイミングがズレることにより、

 6回目の攻撃で標準個体と行動が一致します

 音楽的に表現すれば、ポリリズムですね」


「え、わかんない」



隼斗はその6回目の攻撃、つまり3匹からの同時攻撃を

盾両手持ちによるブロックで丁寧に防御する。


「敵の攻撃速度が常に一定ということは、

 こちらにとって絶好のカウンターチャンスです

 なので、積極的にカウンターを狙っていきます」


隼斗は2匹からの同時攻撃のうち片方をブロック。

そして棍棒を振り上げて宣言通りカウンターを放つ。

顎を撃ち抜かれた個体は仰向けに転倒し、

ぐったりと横たわったまま動かなくなった。

まずは1匹撃破だ。


「パワー、角度、タイミング……全てが完璧だ!!

 強烈な一撃が相手の顎にジャストミート!!

 コボルト選手、立ち上がれない……!!

 カウントの必要無し!!

 この時点で試合終了ーーー!!」


「先輩、少しボリューム下げてくれませんか?

 戦闘に集中できませんので……」


「あ、ごめん」



続いて標準個体の顔面に棍棒をフルスイング。

当然タイミングドンピシャのカウンターである。

これで残るは攻撃速度の遅い個体だけとなった。


「せっかくなので拳パリィの練習しておきますね

 こればかりは攻撃してくれる相手がいないと

 感覚を身につけられない技術ですから」


「ん、なんか聞いた話によると

 いつも鍛錬につき合ってくれるパートナーが

 いるんじゃなかったっけ?

 魔物相手に練習するよりも、

 人間相手の方が安全だと思うけどなあ」


「いやあ……それを試してみた結果、

 手加減というか、攻撃するのが怖いとかいう理由で

 全然パリィの練習にならなかったんですよね」


「ああ、いるねそういう子

 魔物が相手なら戦うことはできるけど、

 人間同士の争いには興味無いってスタンスの」


「いえ、そういうのとは……まあいいか」


隼斗はコボルトの縦斬りを冷静に見切り、

左腕に装備した籠手で受け流す。

だが衝撃が大きい。パリィが成功したわけではない。

これではブロックの出来損ないである。


パリィは“攻撃を弾く”のが目的ではなく

“力の流れる方向を変える”ための技術であり、

習熟には実際に攻撃を受けてみるしかない。

成功させるのに必要な材料はまず度胸。

ある程度のパワーやスピードも要求されるが、

何よりもタイミングが重要である。



と、2回目のパリィでコボルトの体が泳ぎ、

攻撃を受け流した籠手への衝撃も小さい。

どうやら成功したようだ。

隼斗はその瞬間を見逃さず、

渾身の右フックをぶち込んで絶命させた。


これにてコボルト3匹との戦闘終了。

大上隼斗、無傷の完全勝利である。


「おお、やったね大上君!

 複数の敵と戦うのは初めてだったんでしょ?

 それを完勝で飾るなんてすごいじゃないか!」


「ありがとうございます

 ですが、完全に上手くいったわけでは……

 1回目のパリィで成功させるつもりでしたが、

 籠手の重量を見落としていたせいで失敗しました

 もっと軽い装備……拳武器なら成功したでしょう」


「拳武器かあ

 上級者向きの装備だけど、

 君なら使いこなせそうな気がするね

 もちろんゴーレムを破壊したりはできないけど、

 オークの壁には届くんじゃないかな?」


「オークの壁、ですか

 それを目標に頑張るのもいいですね」


(それって世界チャンプレベルの偉業なんだけどね)

「ところで大上君

 いつまで万歳してるんだい?

 しかも剣持ったままだと疲れるでしょ」


見ると隼斗はよほど勝ったのが嬉しかったのか、

両手を挙げた状態でうろうろしている。

だがそれは歓喜のポーズではなく、

別の目的があってのことだった。


「ローパー対策です

 ここは第2層ですからね

 いつ触手に捕まるかわかりません」


「ああ、なるほど

 もしローパーに捕まったとしても、

 刃物を持った手さえ自由であれば

 触手をぶった斬ることができるわけだ

 1年前の僕に教えてやりたいよ

 邪悪な先輩に騙されて……いや、この話はよそう」


金子先輩には何か失敗談があるらしい。




通路にて、隼斗は魔物の群れに対して

大盾を構えながら槍を突っついて応戦していた。

槍と盾を用いたド安定の近接戦闘スタイル、

通称『盾チク』あるいは『1人ファランクス』である。


「ところで先輩

 冒険者法によれば弓などの遠距離武器は

 持ち込み禁止となってますが、

 石や武器を投げるのはOKなんですよね?

 日本冒険者協会は一体どんな基準で

 近距離武器と遠距離武器を区別してるんですか?」


「いや〜、難問だね

 奴らは何も考えてないと思うよ」


「そうですか……

 では、クロスボウなどの部品を持ち込んで

 ダンジョン内で組み立てて使うのはアリですか?

 日本冒険者協会が禁止しているのは

 あくまで『遠距離武器の持ち込み』であって、

 『部品の持ち込みと完成品の使用』に関しては

 一切触れてませんからね」


「えっ……

 う〜ん、どうかな……

 いい考えだとは思うけど、グレーゾーンだね

 使った証拠を残さなければ問題無いだろうけど、

 なぜかそういう話は協会の連中にすぐ伝わって

 違約金だのなんだの搾り取ろうとするんだ

 まあ、やめといた方がいいよ

 海外じゃ当たり前に銃とか弓とか使われてるのに、

 本当に不公平な話だよねえ」


「誤射による事故を警戒して……じゃないですね

 冒険活動が楽になって一体誰が困るんだか」


日本冒険者協会は悪の組織である。




帰り道でゴーレムを発見した。

向こうはこちらに気づいておらず、

邪魔な位置にいるわけでもないので

無視して通り過ぎるのが懸命である。


「さて、どうする大上君?

 ちょっとだけ叩いてみるかい?」


「いえ、まさか

 倒すための道具を持ってきてませんし、

 相手にするだけ時間の無駄です」


「ははは、それが正解だ

 君がまともな判断のできる人間でよかったよ」


「ところで先輩

 ゴーレムに対してブライスターを用いた静的破砕を

 試そうとした人間とか過去にいますかね?」


「え、何?

 ブライスター……?

 いや知らない……全然ピンと来ない」


「そうですか

 今の話は忘れてください」


「うん、覚えてないから安心して」


後に調べてみたところ、その手法でゴーレムを

倒した人間がいるという記録は存在していた。

だが強力な破砕剤を使用しても1〜3時間はかかり、

破砕剤を流し込むための孔穴を開ける必要があり、

それならそのまま外殻を削り切ってしまった方が

効率が良いというのが結論だった。


先駆者の名は……甲斐晃。

きっと彼も知恵と工夫で戦ってきた人間なのだろう。

やはりあの荒唐無稽な武勇伝は嘘だったのだ。

そう思うと少し親近感が湧いてくる。


そんな勘違いをする隼斗であった。

基本情報

氏名:大上 隼斗 (おおがみ はやと)

性別:男

年齢:16歳 (6月6日生まれ)

身長:169cm

体重:58kg

血液型:A型

アルカナ:正義

属性:なし

武器:貫く信念 (なんでもあり)


能力評価 (7段階)

P:6

S:6

T:6

F:0

C:0

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