1年目8月
配達を終えた運送業者の男は校舎を仰ぎ見て
「ここも色々変わったなぁ……」と呟き、
乗ってきたバイクに跨がろうとした。
「あれ、もしかして山田さんですか!?」
「えっ」
運送業者の男は苗字を言い当てられて動揺するが、
そんなのお構いなしに詰め寄る男子生徒。
「やっぱり山田さんだ!
“山田メソッド”の山田さんですよね!?」
「え、いや、人違い……だよ、うん」
「いえ、絶対に山田さんですよ!
ここの卒業生ですよね!?
たった今、校舎を見上げながら
『ここも色々変わったなぁ』とか呟いて、
青春を振り返っていたじゃありませんか!」
「うっ……
君の聞き間違いだと思うよ?
それじゃあ僕は仕事があるからこのへんで……」
そう言い残して山田は速やかにバイクに乗り、
逃げるように……というか実際、逃げたのだ。
その後ろからバイクが1台ついてくる。
「ついてくるの!?」
隼斗は普通二輪免許と自分のバイクを持っていた。
新聞配達で貯めた金の使い道がこれである。
2人はお洒落なケーキ屋へと場所を移した。
他の女性客たちが何やらヒソヒソと話しながら
こちらを観察しており、とても恥ずかしい。
山田は非常に肩身の狭い思いをしているが、
隼斗は全く意に介さない様子だった。
「いやあ、こうして山田さんと直接話せるだなんて
夢にも思っていませんでしたよ……」
「ああ、うん
きっと君は夢を見てるんだ
目を瞑ったまま、じっとしていてごらん?
そのうち目が覚めるだろうからさ……」
「その反応!
やっぱり山田さんで間違いない!」
「何それぇどういうことぉ!?
僕の記録は後輩たちにどんな形で伝わってるの!?
困るよ本当に……現在進行形で困ってるよぉ!!」
山田は頭を抱えた。
“山田メソッド”──
端的に言えば魔物の行動に割り込むことにより、
いわゆる完全ハメ状態を強引に作り出す戦術である。
その画期的な戦術の生みの親こそが彼、山田なのだ。
彼の編み出した戦術は容易に再現可能であり、
間接的に多くの冒険者の命を救ってきた。
山田は尊敬されて然るべき先輩の1人なのだが、
その人物像はいまいち知られていない。
それはなぜか?
同時期にもっと有名な冒険者が現れたからである。
甲斐晃をはじめとするスター選手たちだ。
獣の如き肉体を持つと云われている甲斐晃を筆頭に、
なぜか全ての記録が封印されている謎多き男ヒロシ、
魔法剣や既存魔法の可能性を大きく広げた栗林努、
ファイヤーボールが代名詞にもなった高音凛々子、
現在調査隊として活躍中の進道黒岩並木トリオ、
世界で唯一の空間魔法の使い手である杉田雪、
フィリピンで何かやらかして逮捕された正堂正宗、
扱いの難しい変形武器を自由自在に操った十坂勝、
敏腕サポーターとして仲間を支え続けた松本静香、
後に甲斐晃の妻となる合法ロリの立花希望、
バーサーカー有馬力と相棒の七瀬圭介……などなど、
山田の周りはキャラの濃い連中ばかりだったので、
いまいち地味な彼にスポットが当たらなかったのだ。
尚、余談だが海外で一番人気だった高音凛々子は
秩父防衛戦の舞台となった“名も無き村”が“稲葉村”に
改名された際、新村長と結ばれて冒険者を引退した。
十坂勝と松本静香も結婚を機に現役を退いており、
現在は地元の肉屋で夫婦仲睦まじく暮らしている。
そして、その手の余談が世間に広まるにつれて
山田の影はますます薄くなってゆくのだった。
「僕はそれでよかったのに……
あんまり目立ちたくないからね
人知れずフェードアウトしたかったんだよ
それこそまさに『山田メソッドの山田さん』
なんて呼ばれるのが嫌で冒険者を辞めたってのに、
どうしてこうなっちゃうかなぁ……」
「いやいや、山田さんは真の英雄なんですから
世間から完全に忘れ去られるのは不可能ですよ」
「英雄とかそういう恥ずかしいこと言わないで……
少なくとも世界史の大西先生は忘れてたよ
廊下で挨拶したら『ご苦労様です』って……
あれは完全に業者に対する態度だったね、うん」
「まあ業者の制服着てますし、
特徴の無い顔立ちなのでわからなかったのかと
俺もすぐには判別できませんでした」
山田は“モノクル運送”の制服を着ている。
『いつでも、どこでも、誰にでも』
のキャッチフレーズで有名な会社であり、
トレードマークの片目眼鏡のおじさんは
『物来る』に掛けているのだろう。
「モノクル運送といえば、
ダンジョン配達サービスが有名ですよね?
さっき冒険者を辞めたとか言ってましたが、
前線からは退いたけども裏方から支える立場に
クラスチェンジしただけなんですね?」
「大間違いだよ、それ
僕は本当に冒険者の世界から離れようとしたんだ
本気で離れようとはしてたんだ……
でも入社したその年に新サービスが導入されてね、
運悪く冒険者免許を持ってた僕は
その担当部署に配属されちゃったってわけさ」
「え、それはつまり……
呼べば来てくれるってことですよね?」
「やめて」
「『山田さんに運ばせてください』と指名すれば、
いつでもどこでも駆けつけてくれるんですね?」
「配属先まで言うんじゃなかった……!!」
隼斗が優雅にティラミスを相手にしている間、
山田はモンブランとチーズケーキをペロリと平らげて
次は何を頼もうかとメニューと睨めっこしていた。
どうやら彼は大の甘党らしい。
「そういや君の名前を聞いてなかったね
要注意人物っぽいから是非知っておきたい」
「1年5組の大上隼斗です
もうお気づきだとは思いますが、
俺は魔力を持たない側の人間なので
円滑な冒険活動を行うためには
それなりの知恵と工夫が必要になります
そこで特に参考にさせてもらっているのが
山田さんの戦闘レポートというわけです」
「ふーん、僕の知らないうちに関東でも
非魔法能力者を受け入れるようになったんだね
そういうのは中央だけかと思ってたけど、
それって戦闘員が欲しいんじゃなくて
技術者を育成するのが目的でしょ?
仮免持ってるからって調子に乗らない方がいいよ
それは現場の空気を知るための見学チケットさ」
「あ、いえ
俺は戦う力を身につける目的で
一般入試を突破してきた口です
技術者クラスがあるのは未だに中央だけですよ」
「ん……ちょっと待って
一般入試を突破したって……?
君が……?
にわかには信じられないよ」
「ええ、そうでしょうね
守秘義務があるので詳しくは話せませんが、
今年の試験は簡単だったので助かりました」
「他に受かった子はいるの?」
「いいえ、俺だけです」
「つまり君は……
史上2人目の一般入試合格者、と……」
「はい」
すると山田はショコラの皿にフォークを置き、
しばらく困惑した表情で押し黙った。
「……ああ、よく似てるよ君は
見た目は全然違うけど、その、雰囲気がね
基本おとなしい性格だけど強引なとこもあって、
他人との距離感が少しおかしいというか、
信頼している相手への期待が大きすぎて
つき合わされる方にとってはプレッシャーになる
決して悪人ではないんだけど、
一緒にいると疲れる人だったよ」
「誰の話をしてるんです?
まさか、あの人じゃないでしょうね」
「もちろん甲斐晃の話だよ
他の同期生たちはそれぞれ違う感想だったけど、
僕には無言の圧力をかけてくる鬼教官に思えたね」
「それは山田さんが
特に信頼されていたという証なのでは?」
「ああ、うん
本人がそう言ってたよ……
あの人はなんというか、自分にできることは
他の人にもできると思い込んでるんだ
それがたとえ僕のような凡人であってもね
勝手に期待される方はたまったもんじゃないよ
おかげで僕を愛弟子かなんかだと勘違いした輩に
絡まれたりしてトラブルが絶えなかった」
(この人は期待に応え続けてきたんだろうな)
「ところで大上君
本当に強い冒険者になりたいのなら、
僕の戦闘レポートだけじゃなく
アキラ先輩の記録にも目を通した方がいいよ」
「え?
いや、一応目は通してますけど、
あれを記録と呼んでいいのかどうか……」
「嘘だと思ってるでしょ?
まあ、その気持ちはすごくわかるよ
僕も自分の目で見るまでは信じてなかったからね
でも本当なんだ
あの人は嘘をつかないし、騙す理由が無い
ただ規格外な人物ってだけだよ」
「いやいや、さすがにゴーレムを素手で──」
「はいはい、その話ね
耳が腐るほど聞いたよ
で、口が腐るほど答えたよ
まあ実際に僕の体はどこも腐っちゃいないけど、
どれだけ真実を伝えても信じてくれないよね
人は自分が信じたいものしか信じないし、
信じたくないものは信じられない
その気持ちは、本当に、すごく、よくわかるんだ
でもね、実物を見たら信じるしかない
だって嘘じゃないんだもん
とはいえやっぱり僕の言葉だけじゃ足りないよね
そんな君にちょうどタイムリーな話がある
今月、アキラ先輩が日本に帰ってくるんだ
学園にも寄る予定だって言ってたから、
是非パフォーマンスを見せてもらうといいよ
百聞は一見にしかずってね」
「工具と破砕剤を使った手品ですか?」
「いや、胡散臭い武勇伝の方だよ
君が冒険者を目指してる理由がなんであれ、
強くなるには常識の殻を破る必要がある
一般入試を突破した時点で既に非常識だけど、
今のまま頑張ってもオークの壁止まりだろうね」
(オークの壁……またそれか)
後日、隼斗はダンジョンに潜り、
コボルト相手に拳パリィの練習をしていた。
本日の成功率は100%。もう手慣れたものだ。
何よりもタイミングが重要な技術ということもあり、
リズム感の強い隼斗が急成長を遂げられたのも
割と納得のいく話である。
右利き冒険者の装備スタイルは
右手に武器、左手に盾を持つのが定番だが、
レンタルグローブ装備の隼斗は左右共に空いており、
せっかくなので左手パリィの練習だけでなく
右手でのパリィにも挑戦してみた。
が、失敗。
タイミングは合っているはずだが、
左手の時よりも遥かに受ける衝撃が大きく、
敵の体勢が崩れることもない。
まあ当然だろう。
コボルトは右手に剣を持っており、
隼斗から見て左側から攻撃が来るので
左手で受け流すのが自然な形である。
それを右手で受け流すにはどうすれば……?
隼斗は試行錯誤を重ねた。
振り下ろしが来る瞬間、左にサイドステップして
コボルトの剣を右へと受け流す。
だが、敵の側面へ回り込めた時点で
回避に成功しているのだ。
果たしてこれは意味のある行動だろうか?
一応コツは掴めた。
剣を振り抜く瞬間に上腕を強く押すと
コボルトの体勢が大きく崩れるので、
こちらにとって絶好の攻撃チャンスとなる。
まあパリィではないが受け流しの一種だ。
別の手法を試してみる。
攻撃が来る瞬間、右手でコボルトの右手首を掴み、
体を反転させながら踏み込んで敵の懐へと潜り込む。
すると敵の攻撃が外側に流れてゆくばかりか、
こちらの左手を自由に使うことができる。
更に右肘で相手の顔面を攻撃することも可能であり、
もしかしたらパリィより実用性が高いかもしれない。
ここである事実に気づく。
(あれ?
手を放す必要なんてあるか……?)
試しに手首を掴んだままにしてみる。
するとコボルトはブンブンと剣を振り回すのだが
体を密着させている隼斗に当たるはずもなく、
そこはもう完全に安全地帯となっていた。
隼斗はただ掴むだけでなく、下半身に力を込めて
しっかりと土台を安定させてから
コボルトの行動を力ずくで押さえ込もうと試みる。
が、これがなかなか難しい。
あまり攻撃力の高い魔物というわけでもないのに
行動を完了させるためのパワーだけは非常に高く、
まるで工業用の機械を相手にしているようである。
両手で掴んだ状態で踏ん張れば止められるのだが、
そうするとこちらも何もできなくなってしまう。
1対1の状況では意味の無い行動だ。
右手ではなく左手で掴んでみるのはどうか?
結果、安全地帯を確保することに成功したばかりか、
至近距離で右フックを打ち放題となった。
ナイフを忍ばせておけば刺し放題であり、
それは左右が反転しても同じことが言える。
これはただの防御技術ではない。
攻撃チャンスを作り出すための行動である。
パリィの練習をするのが本日の目的だったが、
思わぬ収穫を得ることができた。
魔物に対しても“掴み”は有効である、と。
帰還後、隼斗は資料室に立ち寄って
先駆者がいないかどうか確認した。
すると──いた。
が、それは甲斐晃がローパーの触手をキャッチして
ヌンチャク代わりにしたという眉唾物の記録であり、
他にも100kg以上ある馬人間を投げ飛ばしたとか、
ストーンナイトを剛腕で締め上げて粉砕したとか、
どれもこれも人類には実行不可能である。
それ以外の拳使いの生徒の記録を見ても
打撃と回避を主体とした者たちばかりであり、
たまに拳パリィの名手が何人かいるくらいで
掴みを有効活用させた者はどうやらいないようだ。
こうして掴みの可能性に目覚める隼斗であった。
基本情報
氏名:柿沼 美和子 (かきぬま みわこ)
性別:女
サイズ:D
年齢:15歳 (11月23日生まれ)
身長:155cm
体重:42kg
血液型:A型
アルカナ:節制
属性:炎
武器:紅夜叉 (薙刀)
防具:戦士の鎧 (軽鎧)
能力評価 (7段階)
P:4
S:4
T:3
F:4
C:5
登録魔法
・ファイヤーストーム
・エクリプス




